われわれはスマートフォンがない時代に戻れるだろうか。逆戻りは嫌というより、もはやそれを想像できない。人類はテクノロジーの進化により、便利な未来を夢見たい生き物であるからだ。
そんなテクノロジーの進化によって、航空機の利用形態が変わってきている。「より使いやすく、より便利に」なることは、利用者にとってメリットがある。
ANAが進めるストレスのないスムーズな旅の提供「ANA Smart Travel」もそのひとつだ。
航空需要はコロナ禍からの回復が著しい。そんな2023年夏、「ANA Smart Travel」の真意と展望について、関係者に羽田空港で話を伺った。
話を伺ったのは3名。
左から、
・全日本空輸株式会社 CX推進室 近紘子氏
・全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター 高木沙椰子氏
・全日本空輸株式会社 オペレーションサポートセンター 片山太智氏
目次
「ANA Smart Travel」の捉え方
まず、この2023年に「ANA Smart Travel」を提供するきっかけとなった理由について伺った。

近紘子氏:「コロナの前から、われわれANAとしては、お客様のニーズに合ったサービスの提供を考えていました。その中で、スマートフォン1つで旅が完結する世界を描いておりました。コロナ禍により、その実現へのスピードが加速して今に至ります」
スマートフォンがない時代は、基本的には空港のチェックインカウンターに来て、荷物がなくても長く並ぶ必要があった。一方でANAにはSKiPサービスというICサービスも近年存在していた。顧客からはどういった声が多かったのだろうか。
近紘子氏:「おっしゃる通りで、数十年前は紙の航空券しかありませんでした。カウンターに並んで手荷物を預けて検査所に並んで、搭乗口も紙で、というのがずっと続いていました。
SKiPサービスという搭乗スタイルを提供していましたが、紙の搭乗券も存在し、お客様から結局どうやって搭乗したらよいのかというお声もありました。
そういったお声も集めながら、スマートフォン1つで搭乗できるスタイルを確立したいと思いました」
選択肢が複数あることは、一見すると多様な顧客のニーズに応えているように見える。しかし、逆にわかりにくいという声にもつながる。「何がスタンダードか」と考えた際にANAは「ANA Smart Travel」を軸としたと理解した。

高木沙椰子氏:「場所や時間にとらわれず、ご自宅やご移動中にもスマートフォン1つでチェックインできるのも、「ANA Smart Travel」の1つのメリットです。
チェックインしたあとに今まで紙でもらっていた搭乗券も、お客様のデバイス上で管理ができます。あとは搭乗券に書かれた搭乗口の番号なども、変更が反映されます。お客様に合った情報を最新でお伝えできるわけです。
航空機にご搭乗いただくまで、一連の体験価値を感じていただけると思います」
近紘子氏:「お客様のニーズによって使うツールを選んでいただくのが理想だと思っています。私たちは、お客様全員に絶対にアプリを、とは思っていません。お客様の好きなときに、お使いいただきたいツールを選んでいただくのが理想だと思います」
高木沙椰子氏:「最大のメリットは、デジタルを好む方にはデジタルを、引き続き有人のサービスを望む方にはそちらを提供することで、お客様はご自身のニーズに沿ったサービスを受けられるという点にあります。
一方で、有人カウンターでの手続きを希望される方有人カウンターなど空港での手続きをされる方は相対的に減りますので、係員がそちらに時間やおもてなしのサービス面で費やすことができます」
たしかに「ANA Smart Travel」を軸とすることで自然と空港カウンターの混雑は緩和される。預け入れ荷物のない国内線であれば一切カウンターに立ち寄る必要もない。デジタルを促進することで、有人業務を0にしなくとも双方のニーズが満たされメリットがあるのは間違いなさそうだ。
高木沙椰子氏:「デジタルの促進がより体験価値の向上につながるとご認識いただけるよう、工夫も凝らしています。
航空業界ですと、天候で少し便が遅れてしまったり欠航してしまったりというイレギュラーも避けて通れません。その際もお客様に然るべき情報を速やかにお伝えし、スムーズにご搭乗いただけるようにしています。
搭乗予定の便が欠航になった場合も、アプリで変更手続きを完了していただける状態になっています。その先でお客様へ補償が発生した際も、今後はご自身でお手続きいただける状態を目指し、改善を続けております。
一方で、イレギュラーのときのお声を見ると、意外と有人の手続きでの対応がよかったという声もあったりして。デジタルでの領域を増やすからこそ、有人領域とのバランスも引き続き工夫を凝らしていきたいです」
また「ANA Smart Travel」はスマートフォンで搭乗できるだけでなく、航空機利用全体をスムーズにするものであり、そのメリットは搭乗時に限らない。
近紘子氏:「機内でのWi-Fiサービスや、機内誌、雑誌、映画も見られる世界をすでに提供しています。旅前から旅後まで、スマートフォン1つで旅行していただける、機内も楽しんでいただけるというのが目指す姿です。
ラウンジサービスでも、スマートフォンを有効にご活用いただけるようにしています。羽田空港からの開始ですが、スイートラウンジの防音個室ブースの予約ができるようになりました。
今後も、こういった体験価値を広げていければと考えています」
世界と比較して改善に繋げる
航空業界を俯瞰してみた際に、独自のスタイルを確立するとしても、一種のグローバルスタンダードやグローバルトレンドが存在するはずだ。他社との比較もおこなった上で今の形になったと考えられるが、どういう過程を辿ったのだろうか。

近紘子氏:「世界を見た際に、ルフトハンザドイツ航空やユナイテッド航空などのアプリが限りなく便利という声は、社内認識に限らずお客様からもいただいておりました。
ANAのアプリと比較して、他社はこんなに便利だという声です。ですので、ANAのアプリをいかに便利にしていくかを検討して今にいたっています」

片山太智氏:「弊社内でANAアプリをもっと便利にしていこうという動きが本格化したのが、コロナ前の2018年くらいです。
デジタル面での対応が充実していた外航他社のアプリをベンチマークに、弊社のアプリと機能やユーザビリティの比較をおこない、どのような点を改善する必要があるのか洗い出しました。
お客様にとってより便利にご利用いただけるアプリにしていかなければならない。これが現在進めているANA Smart Travelにもつながっています」
たしかに私自身、デルタ航空など海外の航空会社を利用した際に、モバイル搭乗券を自然と使用していた。それを使ってみようと思ったわけではなく、当たり前のように利用した記憶だ。
それを踏まえて「ANA Smart Travel」が生まれた格好だ。
では、「ANA Smart Travel」は2023年7月現在、どの程度の利用率なのだろうか。

高木沙椰子氏:「ANA Smart Travel」の中でもチェックインのシーンを切り取ると、オンラインチェックインの利用率は60%~70%の間で推移しています。現在その他のチェックイン方法には有人カウンターと自動チェックイン機の2つがあり、それに加えて3月末まではSKiPサービスがございましたので、SKiPサービスご利用のお客様が4月以降、オンラインチェックインに徐々に移行いただいている状況です。
「ANA Smart Travel」という一連の流れで見た際に、チェックインだけではなく、旅の計画段階から予約、到着したあとや機内も含めてサービスを体感していただく。これを伝えていくのがわれわれのミッションだと思っています」
会社側が、ちゃんと変化を受け入れる
「ANA Smart Travel」という大きなプロジェクトは、当然社内の部署横断の巨大なプロジェクトであったはずだ。
顧客の体験が変わるということは、ANA側の対応も変わるということ。社員の「ANA Smart Travel」に対する理解は必須となる。
この辺り、プロジェクトに携わる人間とそうでない人間と、それぞれどんな苦労があったのだろうか。
近紘子氏:「今日同席している2人とは2年目になりますかね。今の「ANA Smart Travel」の構想自体は2020年下期くらいからありました。ネーミングやキャッチフレーズ、どうしていくかを徐々に詰めていきました。
週に1回のミーティングで、「ANA Smart Travel」やオンラインチェックインをどうお客様にアピールしていくか議論しています。
また、ANAのWebサイトを制作している部やアプリチームも連携しています」

高木沙椰子氏:「導入に当たる部分の社員エピソードになりますが、お客さま体験を変えていくということは、社員側もその変化に順応する必要があります。空港係員のみなさんに「ANA Smart Travel」で描く構想をお見せする中で、変化を受け入れていただくのはなかなか大変でした。
理解はしたとしても、お客さまにご満足いただける対応を今まで通りできるか不安、という声も中にはありました。
その中で、お客様視点で良くなる点や、空港や空港係員に期待される新たな役割を前向きに理解してもらうことで納得感を高めて参りました」

片山太智氏:「いかに意識面と行動面を変えていくかが、大きなチャレンジでした。
特に、近年では「新型コロナウイルスの感染拡大」という極めて大きな環境変化があり、お客様のニーズの変化を見極めながら、いかに価値提供をおこなっていくか。
併せて、社内での意識や行動の変化をどのように進めていくか、ということは難しさもありましたが、大きなやりがいも感じています」
ここからどうより良くしていくか
現在「ANA Smart Travel」が走っている中で、PDCAに沿って出てくる課題を改善したり、アプリのアップデートをしたり、仕組みを変えたりするだろう。どのような形で進めているのだろうか。

近紘子氏:「引き続き連携をとっていますが、やはりデジタルを推進していくと、どうしてもアプリやANAのWebサイトなどを更新していく必要があるので、そこはデジタルの部に依頼を、お2人からもしていただいて。
全体最適を見ながら、アプリがこう変わるなら、お客様にはどういうアピールをしようか、といったところは、広報のみなさんなどとも適宜連携をとりながら進めていくフェーズになります」

片山太智氏:「弊社は日本の航空会社として、いかにデジタル面でも「あたたかみ」や「おもてなし」を表現し、人的サービスとの融合を図るかという点が重要だと考えています。
その実現に向けてはチャレンジも多くありますが、日々頂戴するお客様からの貴重なお声や、フロントラインスタッフからの気づきなどをもとに、部門横断で課題解決と価値創造をおこない、ANA Smart Travelに磨きをかけていければと思います」
利用者からの声を胸に
最後に「ANA Smart Travel」の形になって、印象に残っている現場でのエピソードを伺った。
近紘子氏:「お客様にご搭乗後のアンケートをとっていまして、そのデータが集まっています。一つありがたいお声としては、オンラインチェックインが便利だった、ANAアプリが便利だったという声があります。
われわれのアピールが少しでもお客様に伝わっていると確認できて、すごくありがたいです。現場でも、係員がおじいちゃん、おばあちゃんにアプリの使い方を教えているんです。それに対しても、ていねいに教えてくれてありがとうと声が届いており、とてもありがたいです」
高木沙椰子氏:「新しい搭乗スタイルへの過渡期においては、お客様がスマートフォンでのご搭乗を試みてくださり、時にはそれを係員がフォローする、そんな様子を空港でもよく見かけます。
特に4月にSKiPサービスが終了した直後は、弊社としても万全の備えとして様々な部門のスタッフが空港をフォローする体制を敷いておりました。そんな中大きな混乱なく、お客様にスムーズな移動を体験いただけたことは、やはり印象に残っています」
終始笑顔で和やかな取材となった今回の現場。羽田空港での取材となったこともあり、目の前の搭乗客たちがまさに「ANA Smart Travel」を利用しているんだなと思うと、一取材者としても感慨深いものがあった。
テクノロジーの進化により世界はこれからも変わっていく。その変化に人の気持ちが宿ると素敵な体験が生まれることは間違いない。
ANAだからこそできる、これからの未来にも期待をしていきたい。