「マネージャーは私の天職なの」。そう笑顔で語る、日本アイ・ビー・エム株式会社(以下、日本IBM) 執行役員の大久保 そのみさん。

近年、若い世代を中心にマネージメント職に就きたがらない人が増えている。しかし、大久保さんは明るく楽しそうにマネージメントの仕事を紹介してくれた。大久保さんが考えるテックチームマネージメントの最適解について、話を聞いた。

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大久保 そのみさん プロフィール
日本アイ・ビー・エム株式会社 執行役員。 テクノロジー事業本部 テクニカル・リーダーシップ事業統括部長。

3度の打診から受けたマネージャーが「天職」に

もともとは、データベースの技術者として身を立てていこうと思っていた大久保さん。マネージメントの仕事に携わることになったのは、2006年からのこと。産休と育休を経て、お子さんが3歳になったころ、テクニカルマネージャーに就任した。ただ、当初はマネージャー就任の誘いを断ったという。

「当時のマネージャーから『マネージャーをやってみないか』と打診されたのですが、2度断りました。技術者としてのキャリアを極めていこうと考えていたからです。でも、その方は『あなたならマネージャーになれると思って薦めている』と、3度目も誘ってくださったんですよ。それでお受けしました。2度も断ったのに、1年後には『マネージャーは私の天職』と言って笑っていましたね」

以前のマネージャー職は、管理・指導・指示など、役割が決まっていた。しかし、現在は環境も変わり、「道を定めてリードする」ような抽象的な役割が求められている。コーチングをしてフィードバックをおこない、動機づけをていねいに伝えることが重要になってきた。また、マネージャーとしてのフェーズによっても役割は変わってくる。

「IBMでは、課長レベルのことを『ファーストライン』と呼んでいます。自分がファーストラインのときは、技術者1人ひとりの持ち味とスキル、経験をよく見ていました。そして、成長を促して組み合わせ、小さな成功を日々重ねていくことを考えていました。執行役員の立場になってからは、部門の活動に加速度をつけることや継続的にできる仕組みにすることを考えています。さらに、それらをカルチャーにまで高めることが現在の役割です」

テックチームをマネージメントする際に意識していることを大久保さんに聞くと、「敬意」という言葉が返ってきた。

「私はメンバーのことを部下とは呼びません。なぜかというと、技術系の部門を統括するマネージャーとして、技術者に対する敬意があるからです。メンバーのなかには、私よりもキャリアの長い先輩もいらっしゃいますし、社歴が短くても私がしたことのない経験をされてきた方がたくさんいます。若手のメンバーでも、新しい技術にくわしい専門家もいます。メンバー全員が技術者としてプロフェッショナルです。そうした人たちの集まるチームをマネージメントするうえで、技術者に敬意を持って接することは重要だと考えています」

メンバーにとっても、相手が敬意を持って接してくれることで、プロフェッショナルとしての自覚を再認識できるのかもしれない。

組織運営に欠かせない「フラットなコミュニケーション」

多様な技術スキルを持つメンバーからの意見を大事にしている大久保さん。そのための環境づくりも意識しているという。

「メンバーが意見を率直に言えることが大事なので、心理的安全性を意識しています。安全に発言できる環境づくりは欠かせません。そのために、フラットなコミュニケーションを促進しています。全員が役職に関わらずに『さん付け』で名前を呼ぶのは、企業文化の表れではないでしょうか。

また、フラットなコミュニケーションはリスク管理の意味でも重要です。緊張感のある関係だと、リスクになるような情報を共有しづらくなってしまう可能性があります。組織運営をするうえで、いい情報も悪い情報も早い段階で相談できる環境づくりは欠かせませんね」

フラットなコミュニケーションにより、気軽に相談できる関係性がつくられる。結果的に悪い情報も早い段階で耳に入り、適切に判断できるというわけだ。

育成の観点でも、社内コミュニティ活動が重要

チームメンバーの育成も、マネージャーにとって重要な仕事の1つだ。大久保さんがメンバーとキャリアの話をする際に伝えていることがある。

「『これ、一緒にやってみない?』と声のかかる技術者であってほしい、と伝えています。当社は技術者のコミュニティ活動が非常に盛んで、1年間に4、50程度の研究会が並行して動いています。そうしたコミュニティで勉強したり、なにかをつくってみたりするんです。学んだことを試せる場や仲間がいることで、新しいキャリアのきっかけが起きることもあるので、コミュニティをとても大切にしています」

コミュニティ活動により、業務以外で好きな技術に携われる。育成するうえでも、コミュニティには大きな意味がある。ただ、コミュニティ活動を継続することは、さまざまな理由から難しい。日本IBMが、長年にわたってコミュニティ活動を継続できている理由について聞いた。

「コミュニティは、日本IBMにおけるコアシステムの1つになっています。なんのためにおこなっているのかを、上位マネージメント層も含めて共有しています。だからこそ、継続できているのだと思いますね。私自身も『cosmos』という女性技術者コミュニティに長年携わっていて、いまはエグゼクティブアドバイザーとして活動しています。

肩書だけみると、アドバイスだけしていればいいように感じるかもしれませんが、なんでもやるんです(笑)。汗をかいて、手を動かして、コミュニティと女性技術者のために力を尽くしています。コミュニティを通じて仲間ができることは、とても力になっているんです」

コミュニティに加え、日本IBMでは社外向けイベントにも力を入れている。2024年11月27日には、「IBM TechXchange Japan 2024」を開催したばかりだ。

「『IBM TechXchange Japan 2024』は、技術者向けのイベントです。基調講演では1人が登壇するのではなく、いろいろな分野の技術者が登壇して話をしました。夜には『Technology Happy Hour』を開催し、双方向でコミュニケーションできる場になりました。このイベントは、昨年からはじめました。お客さまやパートナーさま、技術に興味のある方が集まって、お互いの知見を交換し、交流する場です。来年も開催しますので、ぜひお越しください」

「IBM TechXchange Japan 2024」には多くの技術者が参加し、会場には約1,400人の参加者が集まった。

多様な人材が集まるチームで一体感を高める方法

日本IBMには、多様なバックグラウンドを持つ人材が数多く集まっている。組織としてどのようにして一体感を高め、連携しているのだろうか。

「なにを目指すのか、全員の歩く方向を一緒にすることが大事です。そのためのコミュニケーションをていねいにしています。1回伝えたくらいでは同じ方向に歩けないので、何度も伝えています。それぞれの持ち味を大事にしながら、方向を決めて一緒に歩いていく。そして、歩いた方向が違っていたら方向転換して歩き直します」

コロナ禍をきっかけに、リモートワークやハイブリッド勤務が増えた。ていねいなコミュニケーションを心がけている大久保さんは、いまの時代にどのような工夫をしているのだろうか。

「Slackのようなコミュニケーションツールでの、小さな反応を大切にしています。たとえば、私宛てにメンションが飛んできた場合には、スタンプでいいから反応するようにしています。 それだけで読んでいることが相手に伝わるので、不安度が全然違いますよね。メンバーにもしっかりと反応してね、と伝えています。

あとは、顔を合わせる機会を意識的につくっています。日にちを決めて対面で会議することもありますし、『ウォッチパーティー』という、みんなで集まって研修を一緒に受ける試みもあります。コーヒーやお茶、軽食が出て楽しく過ごせます」

オンラインコミュニケーションではしっかりと反応をし、対面で話をする機会も意識的につくる。そうすることで、ていねいなコミュニケーションを重ねている。

大切なのは、メンバーが自律的に動けること

マネージメントする立場の人間にとって、人事評価は悩みの種だろう。メンバーの評価やフィードバックをする際にも工夫していることがある、と大久保さんは教えてくれた。

「年初に『チェックポイント』というプロセスがあります。そこで、マネージャーとメンバーが『今年はなにを実行するのか』『なにを期待しているのか』を話します。求めるアウトプットについて、明確に伝えて合意するんです。それにより、メンバーはなにをすればいいのかがわかりますし、管理しなくても自律的に動けるようになります。

もちろん、職位によって求める期待は異なるので、個人ごとに難易度は異なります。期中に何度かフィードバックをし、年末に成果を振り返り、評価をするというサイクルを回しているんです」

テクノロジー事業本部では、売上評価に加えてスキルに関する評価項目がある。その年にどのようなスキルを高め、そのスキルを使ってどう仲間に貢献するかも技術者にとって重要な要素だという。

また、評価に関連して、フィードバックする際にも工夫している点があるそうだ。

「当社ではフィードバックを大切にしています。そのなかでも褒めることは重要で、大事なのは具体的に褒めることです。当社には、どのようなことに感謝しているか、具体的な内容をコメントして、『ありがとう!』をシステム上に残す仕組みがあるんです。そのログは本人だけではなくて、その上司にも送られる仕組みになっています。上司はログを読んで、メンバーがどのようなことをしたのかがわかるんです。ほかにも、感謝を表すデジタル通貨を送り合うシステムも導入しています」

システムによる工夫もおこなっているのは、IT企業ならではのことだろう。感謝を伝えることで、相手も感謝を伝えてくれる。感謝を伝えることがサイクルとして回り、職場の雰囲気もよくなりそうだ。

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(取材/文:川崎博則撮影:野田涼

― presented by paiza

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