DX人材の育成サービスや、AIに関するコンペティション事業を運営する株式会社SIGNATE。前身の企業から事業統合などを経て現在の形になった2018年、丹羽 悠斗さんは、初めてプロジェクトマネジメント職に就きました。2022年にはVPoEとなり、同社のエンジニアを束ねる存在となっています。

会員数約88,000人(2023年6月時点)、国内最大のAIコンペティション事業を預かるエンジニア部門において、どのようなキャリアを積み上げてきたのでしょうか。

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最初はIT業界で働きたいと思っていなかった

--新卒で前身の企業に就職されたそうですが、それまでの経緯を教えてください。

丹羽さん:

高校では理系のクラスにいて、そこから大学で何を学ぼうかな、と進路相談で先生に相談していました。

「これからはいろいろなものがコンピュータで自動化できる時代だから、プログラミングができるようになっているといいよ」

というアドバイスをもらって、プログラミングを学べる情報工学科に進んだんです。

大学ではC・Java・PHPなどを学んでいましたが、自分にはスクリプト言語であるPHPが向いていたようです。大学の研究室選びは成績順に配属が決まるため、人気の研究室はどこか成績の良い人たちはどの研究室を選んでいるのかがわかるように、簡易なアンケート機能をつくり、その結果をレポートにして見てもらうような仕組みをつくりました。それを喜んでもらえて、人に喜ばれるものをつくりたいと思うようになりました。

ちょうど大学に通っているときに『ブラック会社に勤めてるんだが、もう俺は限界かもしれない』(黒井勇人著、新潮社)という作品が流行していて、IT企業に就職したいという気持ちは起こりませんでした。高校中退でニートの主人公がプログラマの資格を取って就職するんですが、その会社がブラック企業でサービス残業や徹夜が当たり前、という作品だったんです。

自分が入った研究室でも3日連続で徹夜をしなければいけないようなこともあって、大学を卒業してすぐにIT系の企業に就職する気にもならず、北陸先端科学技術大学院大学(以下、JAIST)へ進学することにしました。

JAISTでは知識科学を専攻していました。「知識とは何か」「知識とはいかに形成されるか」を研究領域としているユニークな学問で、文理問わず様々なアプローチで、研究が行われています。自分は、ビッグデータや自然言語処理を専門にし、論文のデータから異分野の概念を上手に転用し、新たな知識を効率よく作り出していけないか、という研究をしていました。

 

--就職のきっかけは何でしょうか

丹羽さん:

JAISTでは、当時珍しかった逆求人という仕組みがあったんです。北陸の山奥にある大学で、就職活動のために都心部に出るのが大変だったからでしょうか。企業の人をお招きして学生がプレゼンをし、企業の担当者が気になる学生に声をかける、というシステムです。

そこで私の活動を評価してもらったのがきっかけで、2015年4月にSIGNATEの前身となる、株式会社オプトホールディング(現、株式会社デジタルホールディングス)のAI研究開発部門に就職することが決まりました。データサイエンティストとしての就職で、新設の部署に配属される見込みから、さまざまな経験を積めるのではないかと考えました。

入社数年でマネジメント志向に

ーー就職後、現在まではどのようなご経験をされましたか

丹羽さん:

入社当時は、グループ企業のデータアセット(それぞれの企業が持つ独自のデータ資産)に関する調査・整備業務や、データを活用するためのコンサル業務など、さまざまな業務をおこなっていました。

データアセットの調査・整備業務では、グループ企業各社がどのようなデータを保持しているのか、データを統合したらどんなことができるようになるのか、事業内容を伺い、実際のデータをもらい、Pythonを使ってデータ分析。そしてレポートを提出していました。

入社当初は研究開発部門の位置づけでしたが、経営方針の変化で売り上げも意識しなければならなくなりました。今もSIGNATEの主力業務である国内最大のデータサイエンティストプラットフォーム「SIGNATE」の前身となるサービスの、グロースをおこなうことになります。

このときからPHPを使ってWebサービスづくりに励むようになりました。

 

ーー2018年3月、SIGNATEの発足にともない、マネジメント寄りにキャリアが転換していきましたね。

丹羽さん:

はい。SIGNITEに事業統合されてから、既存サービスのグロースを引き続き担当するとともに、大小様々なプロジェクトを任されるようになりました。現在の主力サービスもそういった任されたプロジェクトの中の一つであり、サービスが成長するにつれ、プロジェクトマネージャからプロダクトマネージャへと役割も変わるようになりました。

現在の主力サービスには、SIGNATEのコンペティションの仕組みが多く取り入れられています。コンペティションを運営してきた経験から生まれている実務に近い形でAI・データ分析のいろはを学べる「Quest講座」、Quest講座での学びを深めるものとしてコンペティションの仕組みをそのまま取り入れた「ChallengeMission」教材、自社内でイベント的にDX推進の素養を持つ人を発掘・育成することができる「PrivateCompetition」機能など、このサービスを通じてSIGNATEのコアとなる仕組みを深く理解することができます。

こういったコア技術や事業への理解、プロジェクトをうまく回してきた経験を買われ、VPoEに抜擢いただいたのだと思います。

エンジニアのキャリア選択

--エンジニアのキャリアアップには大きくゼネラリスト・スペシャリストにわかれますが、それぞれ、どのようにお考えになっていますか。

丹羽さん:

自分はゼネラリストを選んだ側です。スペシャリストはアスリート、野球のイチロー選手のように、コンスタントに成果を残し続けなければならないというイメージがあります。現代のような技術の移ろいが早く、新しい言語やフレームワーク、ライブラリなどをキャッチアップしつつ、深掘りして成果に結びつけていかなければならないスペシャリストのスタイルは、僕には合わないなと思いました。

飽きっぽい性格ですし、いろいろなものに手を出したい志向性もあります。こういった考えはゼロからプロダクトをつくり出した体験によるものが大きいです。自分たちのつくりたいものを世に出していく際に、エンジニアがものづくりに集中できる環境をつくっていくことこそ、ゼネラリストとして自分が力を発揮できると感じています。

 

ーー若いエンジニアに向けて、将来像の描き方や将来に悩んだときの指針など、アドバイスを頂けますか。

丹羽さん:

エンジニアのキャリアアップには大きく分けるとマネジメントとスペシャリストの2方面しかないのではないでしょうか。自分の興味・関心を言語化して、それを根拠に方向性を判断していくとよいキャリア形成の土台になると思います。

適切に判断するためには、ストレスを溜めないこと、仕事とは無関係の何かに没頭できることが大切だと思います。自分の場合、旅行や運動も好きなのですが、没頭できるものといえば、なんといっても書道です。

母の影響で小学校から始め、師範の資格を持っています。毎日書道展に選出・展示されることもあるんですよ。

作品を書くときは集中して没頭できるので、今流行っているマインドフルネスにつながるところもあるんじゃないかなと勝手に思っています。

ーー丹羽さんご自身も、2015年ごろに占いのチャットアプリをつくったこともあるそうですね。

丹羽さん:

お声がけをいただいて、今でいうところの副業的な感じで作りました。エンジニアとして、iOSのアプリやサーバサイドの開発周りをつくりました。UX・機能のデザインも行いましたよ。諸事情でサービスは終了しましたが、3,000人くらいの方に使っていただけたんです。

リリースには本当に苦労しました。インフラの勉強をしたり、サーバサイドエンジニアリングを理解したり、iOSを勉強したりと、覚えることがたくさんありました。運用にあたっても、さまざまな人の力を借りなければ実現できなかったでしょう。

ビジネスサイドの協力者もいました。収益をどう確保するか、占いをしてくれる占い師の方をどう見つけ、どう契約するかなどを考えてくれた人です。

この経験が自分の今のキャリアを考えるきっかけになっていると思います。

 

--キャリアを積み重ねるために、普段からやっておくこと、気をつけておくことは何でしょうか。

丹羽さん:

自分のつくったものをリリースする、世の中に公開する、という体験を必ず一度はやったほうがいいです。

会社で、組織で何かをしていると、チームでの成果を得られます。ですが、自分が具体的に、どこにどれだけ貢献したかはわかりにくいんです。また、得意な部分を任されがちになるので、キャリアを考える上での枠を狭めてしまう部分もあると思っています。

なんでもいいので自分でゼロから調べながらつくってみて、世の中に出して、情報発信して反響をもらう。この一連の体験を経ておくことがキャリアを積み重ねる上で大切だと考えています。

チームワークを重んじるエンジニアと働きたい

ーーVPoEとなって、採用にも力を入れていると聞きます。どのようなエンジニアなら一緒に働きたいと考えますか?

丹羽さん:

SIGNATEの事業に興味があって、プロダクトのグロースに技術的要素から貢献したい、と考えてくれるエンジニアですね。そのためには、人より早く技術を取り入れる姿勢があるとよいと思います。

その上で、チームワークを大切にしてくれる人と働けたら理想的ですね!

(取材/文:奥野 大児

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