誰にでも、その人にしかない「仕事の流儀」がある―― 

今回の記事では、水野貴明(みずの たかあき)さんに、これまでのキャリアや働き方など、仕事に関することをうかがいました。

水野さんはソフトウェア開発者として、百度(バイドゥ)やDeNAを経て2013年に独立。現在は英AI企業Nexus FrontierTechを共同創業し、CTOとして多国籍開発チームを率いています。並行してスタートアップを中心に開発支援や開発チーム構築などの支援や、書籍の執筆、翻訳などもおこなっています。

記事の最後に、水野さんにお聞きした内容を「仕事の流儀7選」としてまとめました。 

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スタートアップに技術を投資する「技術投資家」

――水野さんは百度やDeNAを経て2013年に独立し、ソフトウェア開発者の他に技術投資家としてスタートアップのサポートもされています。なぜこのような活動を始めようと思ったのでしょうか?

水野:
何かを作りたいスタートアップの助けになりたいと思ったんです。なぜそう思ったのかというと、自分もスタートアップ的なマインドセットを持っているからです。ただ、ビジネスよりも技術のほうに知識が寄っていたので、自分でできる気もしないし、やりたい気もあまりしませんでした。

技術投資家については、スタートアップにはお金がないことが多いので、「お金だけではなくて株を一部もらう形でやるのはおもしろいんじゃないか?」と思って始めました。報酬を受け取るだけではなく、参加する企業に自分で投資をすることもあります。当事者となることで、自分自身のやる気も高まります。

スタートアップには強い意志を持っていて、やりたいけど技術がわからないという方がたくさんいます。創業期から手伝うことで、自分のやる気も高まります。

会社のサイズによってCTOに必要なスキルは変わる

――水野さんは現在、Nexus FrontierTechのCTOを務めています。CTOにはどのようなスキルが必要だと考えますか?

水野:
会社のサイズによってCTOの役割はまったく違うので、必要なスキルも変わっていきます。会社のサイズが小さいうちは、一番コードを書く人だったり、アーキテクト的な役割だったりが求められます。少し大きくなっていくと、CEOや役員との橋渡しの役割もありますね。技術や知識に加えて、ビジネスと経営に対する勘所を持っていることが大事です。

さらに大きくなると株主や投資家に対しての説明など、対外的にやることが増えていきます。上場した場合は一般投資家も入ってくるので、技術に対してどう捉えていて、どう進めていくのかといった説明が多くなっていくと思います。

――水野さんは本業に加えて『プログラマー脳 ~優れたプログラマーになるための認知科学に基づくアプローチ』(秀和システム)の翻訳も担当されました。とてもお忙しそうですが、ご自身のワークライフバランスはどうなっていますか?

水野:
ワークライフバランスはよくないです。ワークが多くて、いつ寝ているんだと言われますが、睡眠時間はなるべく確保するようにしています。寝ていないと仕事に集中できませんから。子どもが小さかったころは、20時に寝て朝の4時に起きる生活でした。いまも徹夜はしないで、なるべく早寝早起きを心がけていますね。

思考を止めずに考え続ける

――ご自身が開発をする際に考えることと、他の開発者と仕事するうえで意識していることを教えてください。

水野:
技術的にできないとされていることを、どうすればできるようになるかを考えます。思考を止めないようにしています。もちろん、どうしてもできないことはあるのですが、「できない」で終わりたくありません。

昔はよく、他の開発者と仕事していると「怖い」と言われていました。いまも言われているかもしれませんが(笑)。「どうしてこうなったの?」と詰める感じがあったのだと思います。でも最近はレビューや指摘をするときに、理由をしっかりと説明し、理解してもらうことを心がけています。

昔はレビューや指摘をするときに、内容の言語化ができていませんでした。そうすると、指摘した内容は修正されるんですけど、次に似たようなことがあっても指摘した相手は気づかないので、もとのままなんですよね。そうすると、また指摘しなければなりません。

相手に理解してもらえれば、同じようなミスは起こらなくなります。

――今後どのようなことをしていきたいと考えていますか?

水野:
僕は3か月先くらいまでしか考えていません。

世の中の変化スピードが速いので、先を見越しても意味がありません。それよりも変化に対応する敏捷性を高めることに意味があると思っています。

いま興味があるのは、多国籍のチーム作りです。なぜかというと、ソフトウェア開発における人材獲得競争が激化しすぎていて、1か所だけにこだわってチームをつくるのが難しいと思っているからです。Nexus FrontierTechでは、さまざまな国籍の人を採用しています。やはり国によって文化も違えば、期待するものも違います。

今後も世界中からいろいろな人を集めて、いいチームを作っていきたいと思っています。

最近、少し不景気になってきていて、物は作りたいんだけどお金がなくて作れないケースが増えてきました。そうすると、いかに安く、いかに早く、いかによいものをつくるかがカギになります。それこそ大規模言語モデルは、プロジェクトを大きく変える可能性があります。

――どのような事業を、どのような方とやりたいですか?

水野:
これまで開発をしてきて、自分の中に「これを作りたい」というポリシーは持っていません。プロダクトのアイデアを出すことよりも、誰かの信念やアイデアを実現するほうが得意なので、開発自体をうまく進めていきたいです。信念はあるけど開発技術はわからない。そういう人と一緒にやっていきたいです。

ビジネスと技術の両輪がないと、テックビジネスはうまくいきません。技術側はサポートできるのですが、物を宣伝したり売ったりするビジネス側は、あまり得意ではないです。そういうのが得意な人と組んで一緒にやっています。

自分が持っていないスキルを持っている人と組む。それが一番いいパターンだと思っています。

これまで参画する会社を決める際には、ビジネスとしてマネタイズがしっかりできているかどうかを見ています。マネタイズできるロジックがあれば、そこを技術でサポートできますから。これはDeNA時代の経験が大きいかもしれません。DeNAは開発者も数字に対して責任を負う組織でした。どんなに技術力が高くても、プロジェクトがマネタイズできていないと評価が低いこともあります。

企業というのは、お金を稼いでなんぼなところがあるので、自分の技術をお金に変えられるのは大事なことです。

水野さんにとっての「仕事」とは

――最後にお聞きします。水野さんにとって「仕事」とは何でしょうか?

水野:
「趣味の延長」です。遊びという意味ではなく、技術や開発が好きなんです。好きだからこそ本気でやっています。放っておくと休日でも仕事をしてしまいます。

有名な漫画家の方が「漫画を描くのに疲れたら別の漫画を描いてリフレッシュする」とおっしゃっていました。すごく共感できるんです。

僕もコードを書くのに疲れたら、別のコードを書いてリフレッシュしています。コードを書くのが好きで好きで仕方がないので、それを仕事にできているのは最高だなと思います。本当はマネジメントするよりもコードを書いていたいですね。でも、コードを書くのと同時に、作ったものが評価されて、人の役に立つことも好きなんです。「生きがい」ともいえます。

なので、コードを書いて役に立つのがベストですが、マネジメントしたり問題整理をしたりして、物事を前に進めることも楽しいです。

9歳のころにプログラミングを始めてから40年経ちますが、飽きていないんです。これだけやっていて飽きないんだから、おそらく、もう一生飽きないと思います。

Professional 7rules

(取材/文:川崎博則

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