グローバルな経営コンサルティングファームとして、さまざまな企業の戦略課題を解決してきたボストン コンサルティング グループ(以下、BCG)。そのBCGにおいて、テクノロジーやデジタルを駆使したビジネス、およびプロダクトビルディングを担う専門家集団が「BCG X」だ。
そんなBCG Xのキーマンである、BCG マネージング・ディレクター & シニア・パートナー、BCG X 北東アジア地区リーダーの平井 陽一朗さんに話を聞いた。
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平井 陽一朗 さん プロフィール
BCGマネージング・ディレクター & シニア・パートナー
BCG X 北東アジア地区リーダー。
三菱商事を経て2000年にボストン コンサルティング グループ(BCG)に入社。その後、ウォルト・ディズニー・ジャパン、オリコンCOO、ザッパラス社長兼CEOを経て、2012年にBCGに再入社。キャリアを通し、一貫して事業開発に関わっており、とくにデジタルを活用した新規事業立ち上げやイノベーションの創出を多く主導。 2016年にBCGデジタルベンチャーズ東京センター(現BCG X)を立ち上げ、同年よりジャパン・ヘッド、2021年からはアジア・パシフィック地区のヘッドとして、組織をリードした。現在はBCG X北東アジア地区のリーダー。
目次
業界の常識とは異なる、野武士のような集団だった
BCG Xの前身であるBCGデジタルベンチャーズ(以下、BCGDV)の創設をリードし、現在はBCG Xの北東アジア地区リーダーを務めている平井さん。日本国内ではBCG Xと、デジタル戦略に特化したコンサルタントが集う「BCG テクノロジー&デジタルアドバンテッジ」(以下、TDA)の2組織が「DigitalBCG(デジタルBCG)」として密に連携する体制を敷いている。「デジタル」として扱うなかにはデータシステムやAIも含まれる。
BCGDVを創設した理由は、BCG自体のDX推進にあるという。
「コンサルティング業界は、以前にもデジタル化を推進しようとした時期がありました。それが2000年代初頭に起きたインターネットバブルの崩壊により、痛い目にあってしまったのです。ただ、世の中が急速に動いていくなか、アメリカでは2010年代に入るとデジタル関連のスタートアップが非常に大きくなりました。コンサルティング業界もそうしたところからの知見を取り入れていかなければ、と危機感を抱きました。
しかし、スタートアップとは毛色が異なります。そこで、完全に別のガバナンスでスタートアップやベンチャーキャピタルに近い考え方の集団があってもいいのでは、と当時のCEOリッチ・レッサー(現在は会長)が考えました。そしてアメリカの西海岸に拠点をおくBCGDVが創設され、日本拠点を私がリードしたという経緯です」
当時のBCGDVは、コンサルティング業界にとって異質な集団だったそうだ。
「コンサルティング業界の常識とは異なる、はっちゃけた『野武士』のような集団でした。スタートアップやベンチャーキャピタルの出身者が大半で、エンジニアやプロダクトマネージャー、デザイナーなどで構成されていました」
常識外の視点からイノベーションが生まれるケースは多い。野武士のような集団だからこそ、従来の考え方に縛られることなくイノベーションを起こせたのかもしれない。
「揺らぎ」を起こしていくことがビジネスには必要

2023年、BCGは4つあったデジタル関連組織のBCGDV、GAMMA、Platinion、Technology Advantageを統合。BCG XとTDAの2組織に再編した「DigitalBCG」が誕生した。
データアナリティクスのチームだったGAMMAはBCGのコンサルタントと連携することが多く、BCGから異動してきたコンサルタント出身者も多かった。コンサルタントからみれば異色の組織であるBCGDVとの統合は、難しいものだったそうだ。平井さんはカルチャーの違いから、統合に懸念をもってもいた。
「不安ではありましたが、統合しないとケーパビリティ(組織能力)が重複してしまうおそれがあったのです。現在は新しいプロダクトをつくる際、データサイエンスをまったく活用しないケースは少なくなりましたし、顧客もそこに期待しています。再編前は、BCGDVが自分たちでデータサイエンティストの採用をし、逆も然りでGAMMAも自らプロダクトマネージャーやデザイナーを採用している、という状況でした。これではお互いのリソースが分散し、顧客への価値提供が遅れる可能性があります。そのため、統合が最善だという結論に至りました。
統合の過程では困難なこともありましたが、つねに『揺らぎ』を起こしていくことは必要だと思っていますし、各自の専門性や役割を『越境する』きっかけにもなると感じます」
揺らぎを起こして統合されたDigitalBCG。それぞれの専門性をベースにしながら、チーム全体でシームレスにつながり、本質的な解決策を構築している。
「BCG Xはプロダクトビルディングの専門家集団です。戦略を実現するために必要なプロダクトを提案し、実際につくるところまでを担います。ダイナミックプライシングを導入したいというプロジェクトであれば、まずはどう導入すべきかという戦略の立案や、どの程度利益が出るかの見立てから入り、実際にアルゴリズムをつくって利益を実現させる、といったことをします。
TDAはデジタル戦略の設計を担っている組織です。どのようなシステム構成が最適なのか、どうしたらITコストをさらに削減できるのか、CTO(最高技術責任者)の役割をどのように定義するかなど、多面的な視点でクライアント企業をサポートします」
顧客の戦略から実行までを一貫して担えるようになったことで、スピーディーな顧客支援が可能になっている。
データサイエンスの力でジョイントベンチャーを成功に導く

デジタル領域で過去におこなった代表的な取り組みについて、スターバックスとBCGのジョイントベンチャー「Formation」(現在はBCGの子会社)の事例を挙げて話してくれた。
「データサイエンスの力を活用して、スターバックスのリワードプログラムを抜本的に刷新しました。使えば使うほど会員ランクが上がり、ロイヤルティの高さに応じてポイントがより貯まりやすくなる従来のプログラムに対し、会員ランクにかかわらず、顧客の状況にあわせてリワードがパーソナライズされるアプリを開発しました」
大きな利益創出にも貢献したというリワードプログラム。具体的には、どのような施策を実行したのだろうか。
「たとえば、天気が雨の場合、顧客は『店舗に行くか迷うが、割引クーポンがあれば行く』可能性が高まります。また、別のコーヒーショップに流れていきそうな人を、AIが行動データやGPSから判別し、割引クーポンを送ることもできます。リワードプログラムは、背中を押せば来店してくれそうな人にパーソナライズされているのです。そのため、クーポンの内容もケースバイケースで変わります。
ポイントの貯まり方も人によって変わります。データをもとに個別最適化し、その人に一番あったポイントプログラムを提供するのです」
さらにBCG Xは、このプロダクトの経験をプライシングにも活用しているという。
「空いていると安くなり、混んでいると高くなる『ダイナミックプライシング』を導入している施設がありますよね。その裏側では、私たちのチームが開発したアルゴリズムを活用している場合があります。また、小売店に対しても、価格弾力性(価格の変動に対する需給の変化)を分析して、ベストな価格をタイムリーに提案するアルゴリズムを提供しています。これをサプライチェーンでも実施していけば、利益の底上げが可能となります」
最近では、プロダクトに生成AIを活用するケースが増えてきている。顧客からの問い合わせも多いそうだ。
「はじめは生成AIに対して少し懐疑的でしたが、いまや進化の速さに驚かされています。生成AIの利用価格はすごい勢いで安くなっていますし、これから爆発的に活用が進むだろうと思っています。昨年も多くの引き合いがありましたが、今年はその倍ものお声がけをいただいている状態です。生成AIの実装はいろいろなところで進んでいて、コールセンターに生成AIを導入したり、toC(消費者向け)サービスに生成AIを活用したりするケースも増えています」
平井さんが話すように、生成AIの進化速度には驚かされる。今後も想像できないようなユースケースが生まれる可能性が高い。
求めるのは、役割を越える「越境人材」

BCG Xはデザインやデータ、テクノロジーの専門性を駆使し、戦略コンサルタントとともにクライアントや社会に経営インパクトをもたらしている。さまざまな強みをもつメンバーが集うが、組織の面では職種の統合を進めているという。
「もともとBCG Xでは職種を8~9種類に細分化していたのですが、現在はいくつかの職種を統合しようとしています。この流れは正しいと思っています。デザインしかできないデザイナーや、プロダクトマネジメントしかできないプロダクトマネージャーは、私たちの組織では活躍できません。ビジネス・テクノロジー・デザインの性質をよく理解し、それらの考えを柔軟に行き来できる人材、つまり『越境人材』になることを、全員に強く伝えています。
越境のなかにも、親和性の高い越境があります。たとえば、エンジニアはプロダクトマネージャーとの親和性が高いです。小規模なスタートアップ出身者だと、部署別に役割がはっきり分かれていないなか、エンドツーエンドでプロダクトをつくってきた経験があるという意味で、越境する適性のある方が比較的多い印象です」
これまでに多くのグローバル人材をみてきた平井さんは、日本と比べてアメリカの人材層が厚いと話す。
「アメリカでは、すごく優秀なエンジニアだと思ったら、じつはビジネスサイドの人間だったというケースがよくあります。こういう人が必要とされていますね。
日本では、多くの人がキャリアの不安を抱えていると思います。とくにデータサイエンティストやエンジニアは、自分の旬が何歳までなんだろうと考えてしまいます。コードを書けるのは何歳までなんだろう、最先端のものをつくれるのは何歳までなんだろう、という不安があるわけです。不安を払拭するためにも、越境していろいろなことができるようになっていたほうがいいに決まっていますよね。だからこそ、なるべく早いうちに越境人材になってもらいたいです。採用時にも、そこに対するアスピレーションや適性をみています」
エンジニアは、生成AIの影響も受けるだろう。生成AIがコーディングを担えるようになることで、役割が狭まる可能性もある。そのときに、越境してプロダクトマネジメントやプロジェクトマネジメントを担えるようになっていれば、活躍の幅が広がる。
若者や大企業にも、もっとチャレンジしてほしい

最後に、平井さんに今後実現したいことを聞いた。そこには、若者と大企業に向けたメッセージが込められている。
「さきほどお話しした『越境』について、今後もさらに強化していこうと思っています。越境人材と接することで若手の方や大企業の方々がインスピレーションを受け、チャレンジしていくきっかけになればいいですね。
あとは、BCGのプロダクトづくりを担う部隊としてサステナブル(持続可能)な型がまだ確立できていないので、ある程度まで構築したいです。いまのところ私たちはコンサルティング会社という組織のなかではマイナーな存在だと思いますので、多くの人に必要性を実感してもらえるようにしていきたいですね。そのためには、チームの一人ひとりが意義を世の中に発信し、顧客のニーズにしっかりと応えていく必要があると思っています」
若者や大企業が「越境」という姿勢に触発されれば、新規事業によるイノベーションが生まれる可能性も高まるだろう。長年にわたって新規事業開発をおこなってきた平井さんの言葉は、非常に鋭いものを感じた。
