“誰もが簡単に日程調整ができる”を強みに、2020年1⽉29⽇のサービス開始からあらゆるビジネスシーンにおいて愛され続ける⽇程調整⾃動化ツール「TimeRex」。約2年半で累計日程調整回数100万回を突破し、今やビジネスにおける日程調整には欠かせないツールとなった「TimeRex」だが、その軸にあるのは開発当初から変わらない徹底的なユーザー視点だった。
今回は、「TimeRex」を生み出したミクステンド株式会社でCTO(最高技術責任者)を担うRajesh Jayan(ラジェッシュ・ジャヤン)さんに話を聞いた。インド国籍を持ちながらシンガポールの大学を卒業し、来日に至ったというラジさん。これまでのグローバルなキャリアの歩みと「TimeRex」が完成するまでの過程を聞いた。
なお本稿は一部、当日同席していただいたミクステンド代表取締役・北野智大さんの回答を含む形式でインタビューを進行している。
※TimeRex
GoogleカレンダーやOutlook予定表とリアルタイムに連携し、日程候補のリストアップから予定登録、Web会議準備まで、面倒な日程調整タスクを自動化するサービス
目次
国境を超えて築いてきたキャリア
――ラジさんは、インド生まれ、ドバイ育ち、シンガポールの大学卒業……そして来日という環境で過ごされてきたと拝見しました。様々な経験をされてきたと思いますが、そもそもITエンジニアを目指したきっかけは何でしたか?
ラジ:
子どものころからITやパソコンが好きで、父のパソコンを借りて触っていました。当時、まだパソコンが今よりも高価だったのですが、うちには運よくパソコンがあったので。触りながら、動作を勉強しました。その経験が、ITエンジニアの仕事を目指したきっかけになっていると思います。
――その後の進路で16歳でシンガポールに行ったラジさんですが、なぜシンガポールだったのでしょうか?
ラジ:
そうですね。当時だと、グローバルな環境を見据えていた人は欧米への大学進学が一般的だったとは思いますが……。そこでシンガポールを選んだ理由は、飛行機で約7時間ほどの距離で、欧米のエリアに行くよりも家族の側にいられる環境だったことでしょうか。シンガポールはアジア圏ですが、実際に行ってみるとカルチャー的には国際的だなと感じる瞬間も多かったです。
シンガポールでは情報技術を専門に開発言語周りや基礎的な知識を学びつつ、約半年はインターンとして実際に企業に入って、チームでの仕事のやり方を学びました。シンガポールでは一つのビルにさまざまなスタートアップ企業が入っているケースも多く、そこで出会ったさまざまな人たちから刺激を受けましたね。
――奥様とのご結婚をきっかけに来日、北野さんとの出会いでミクステンドに入社されたと思います。「TimeRex」のアイデアに強い興味があったと別のインタビューで語られていましたが、正直なところ、新しい環境でスタートアップに飛び込むのは勇気が必要でしたか?
ラジ:
わたしの場合、日本に来る前にもシンガポールでスタートアップの企業で仕事をしていて。自分はその環境は好きだったのですが、いざ日本でとなると、もちろん知り合いや家族からの反対意見もゼロではありませんでした(笑)。でもリスクを考えても、「ちょっとチャレンジしてみたいな」と思ったんです。
⽇程調整⾃動化ツール「TimeRex」と「調整さん」
――開発組織を整えるにあたって、2019年当時のミクステンドで最初に課題に挙げられた要素は何でしたか?
ラジ:
エンジニアが足りなかった点は、大きな課題でした。それ以外だと、昔のエンジニアがつくったシステムがそのまま残っている形だったので、それを誰も理解できていない点が課題でしたね。
――本当にゼロに近い段階からの整備だったんですね。そこから2020年には、ミクステンドとしてビジネス向けの日程調整自動化サービス「TimeRex」をリリースされました。すでに同じ領域の日程調整サービス「調整さん」がある中で、「TimeRex」が生まれた経緯を教えてください。
北野:
こちらはわたしからお答えしますね。日程調整と一言に言っても、プライベートシーンの飲み会の日程調整からビジネスシーンのインタビュー、あとは人事の面談、セールスの商談……などたくさんの種類があるんですよね。
例えば飲み会だったら、(参加人数が)多ければ10人以上集まる場合もあるかもしれません。ところが、商談だったらそれは基本あり得ないですよね。他にも、スピード感が重要なのか、もう少しカジュアルさが重要なのかなど、性質の違いもあるなと思ってて。僕らが最初から今も継続しているスタンスとしては、ユーザーからの要望やフィードバックなどを受けて、次にどう活かすかを考えていく。
そうしたときに「調整さん」を始めとした、当時の僕らが持っていたプロダクトだとユーザーからの課題を解決できないよねという話になって。「TimeRex」によって同じ分野ではありながらも、0から新しい課題を解決するためのプロセスをつくった形です。
――「TimeRex」はオンラインミーティングのURLの発行然り、オンライン全盛期の今の痒いところに手が届くサービスですよね。特にコロナ禍は、サービスへの注目度がより上がったきっかけだったように思います。
北野:
ありがとうございます。緊急事態宣言をきっかけに“Zoom飲み”が流行った頃があったじゃないですか。その頃には、日程調整をより効率化するために「TimeRex」の運用がスタートしてたんですけど、別途Web会議のURLを送ってやり取りをしなきゃいけないところは、ユーザーさんだけでなく僕ら自身も課題に感じていて。
「日程調整と同時にZoomのURLもお互いに送れるように連携しよう」と、優先して対応するようにしたんです。Zoomの流行と一緒に、僕たちのツールを知ってもらったきっかけではありました。
――ラジさんは「TimeRex」と「調整さん」についてどのように考えていますか。
ラジ:
どちらも同じ日程調整のツールではありますが、サイトのヴィジュアルも「調整さん」の方がカジュアルですよね。「TimeRex」は、機能面はもちろん見た目としてもよりビジネスに特化したものになったと思います。
スタートアップの魅力は「ユーザーとの距離」
――ラジさんにとって充実したキャリアの状態とはどんな状態なのでしょうか?
ラジ:
世の中の問題が解決して、それが形として見える瞬間が好きです。大手だと良くも悪くもたくさんの人がプロジェクトに関わるので、ユーザーからのフィードバックに距離がある。でもスタートアップだとユーザーと同じ目線で考えられるから、そういう意味でも今の環境は楽しいですね。
――ユーザーからのフィードバックの中でも、印象的なフィードバックとその改善策があれば教えてください。
ラジ:
うーん、色々なフィードバックがありますね…(笑)。もちろんポジティブなものだけではありませんし。「ユーザーが怒っている」というのも、一つのフィードバックですから。
北野:ですよね。特に一つ印象的なもの、と改めて聞かれると難しいかもしれません。(笑)。僕らはユーザーからのフィードバックを一覧で見れるようにまとめて分類しているのですが、フィードバックはかなり日常的にあるものなので。
でも、それこそZoomの件然りネガティブフィードバックが、むしろ結果的には良かったりするケースは多くて。ネガティブなフィードバックがきっかけで課題が明確になったり、今後のプロダクトの成長に繋がるケースがこれまでにも多かった印象です。
――ありがとうございます。最後に、ラジさんが考える「優秀なエンジニア」とはどんな人材かを教えてください。
ラジ:
開発の技術の高さはもちろん、開発によって「何ができるのか」をちゃんと考えて動ける人材ですね。あとは先程のフィードバックの話に繋がりますが、ユーザーを大切にできる人こそが、優秀なエンジニアだと思います。
(取材/文:すなくじら、撮影:渡会春加)