本連載では、第一線でご活躍されているエンジニア組織のリーダーをお招きして、対談形式でこれまでのキャリア、組織のリーダーとして大切にしていること、組織課題などを語っていただきます。ナビゲーターは元DMM.comCTOで、現在は株式会社デジタルハーツでCTOを務める城倉和孝氏です。
第3回は、カメラとインターネットをつなぐだけで、いつでもどこでも映像を確認できるクラウド録画サービスの開発事業を手がけるセーフィー株式会社のCTO 森本数馬氏にお話を伺いました。
セーフィー株式会社 取締役 開発本部長 兼 CTO 森本数馬氏
2001年にソニー株式会社に入社。半導体デバイスのセールス&マーケティングに3年従事後、同社にて開発者に転身。半導体デバイスやテレビの開発を経て、2012年にグリー株式会社に入社。その後、ソニーの研究所からスピンアウトした会社モーションポートレート株式会社に入社し、CEOの佐渡島氏、エンジニアの下崎氏とともに2014年にセーフィー株式会社を創業。
クラウドベースのビデオプラットフォームを提供
城倉さん(以下、「城倉」):今日はよろしくお願いします。はじめに、セーフィー株式会社の事業内容について簡単に教えていただけますか。
森本さん(以下、「森本」):クラウド録画サービス「Safie」を運営しています。簡単に言うとさまざまなロケーションに設置されたIPカメラを制御しつつ、Liveや録画映像を必要に応じて配信するサービスです。アクセスは全てアカウントベースで制御するようになっており、他のユーザーへの共有や細かな権限設定も簡単に実現できるようになっています。また、簡易的なものですがモーション検知や異音検知も搭載しており、異常が疑われるポイントにフラグを立てたり、ユーザーに通知するような機能もサポートしています。
また、システムに絶えずアップロードされる映像データを分析したり、加工したりしながら、付加価値のある情報を抽出し、それらをアプリケーションや追加サービスを通じてお客様に提供していくこともやっています。
さらに今後はその情報を我々が利用するだけではなく、エンドユーザーやデベロッパーも好きなソリューションを作れるようにしていくことを考えています。新しいソリューションを作ってほかのエンドユーザーに提供できる、といったことを実現するためのプラットフォーム化を現在進めているところですね。
城倉:クライアントとしては、どのような業種がターゲットなんですか。
森本:多岐に渡ります。ただ現時点では特に多いのは、飲食や小売で多くの店舗を経営されているところですね。あとは建設系、さらに製造業や物流でも使っていただいています。
例えば建設系だと、当初は工事現場の進捗管理や防犯目的の監視カメラだけだったのですが、今ではウェアラブルカメラを使って、遠隔から現地で工事する人の動きの管理や指示出しをしたり、重機による事故を防ぐための安全管理ソリューションなどにまで広がっています。他の業界でも、そのような課題解決や効率化に幅広く貢献できるソリューションを広げていこうとしているところですね。
ずっとプラットフォームビジネスがやりたかった
城倉:おもしろい事業内容ですよね。次に森本さん自身のお話をお聞きしたいのですが、セーフィーでCTOになられるまでの経緯をお聞かせいただけますか。
森本:最初はソニーで半導体デバイスの営業をしていて、そこからハードウェアエンジニアをやったり、ウォークマンなどのミドルウェア、ソフトウェア開発なども一通りやりました。そのあと転職して、グリーでモバイルアプリの開発やSDK開発、インフラやサーバサイドの開発なども経験しました。
その次に入社したのがモーションポートレートで、ソニーからスピンアウトした会社なんですけど、そこが前職になりますね。前職での技術領域は大きく2つあって、ひとつはAIの先駆けみたいな機械学習系の技術。もうひとつは3Dモデリングのライブラリ開発や、その技術をもとにしたモバイルアプリやWebアプリの開発です。そんなことをしながら「次はどうしようかな」と考えていたときに、たまたま同じ会社にいた(代表の)佐渡島と新しいことをやっていきたいという話が盛り上がり、セーフィーを創立することになりました。
エンジニアとしてはハードからソフト、OSからミドルウェア、アプリケーション、サーバーと下から順番に上ってきた感じですね。
城倉:セーフィーの創業メンバーであるお三人(CTOの森本氏、代表の佐渡島隆平氏、企画本部長の下崎守朗氏)は、前職から同じ会社だったんですよね。
森本:そうですね。もともと全員ソニー出身なんですけど、ソニーにいたころはお互いの存在は全然知りませんでした。まず佐渡島がモーションポートレートに転職して、そこに下崎と私もたまたま同じようなタイミングで入社したという流れです。
城倉:すごく運命的ですね(笑)。3人で起業しようと思ったきっかけは、何かあったんですか。
森本:モーションポートレートの技術は面白いのですが、なかなかスケールしないなと思うところがありました。社内でも「何か別のスケールできそうなビジネスを考えよう」みたいな活動があったんです。当時は3人とも別のチームでいろいろなアイディアを出してやっていたのですが、佐渡島が今のセーフィーのベースとなるようなアイディアを出してきたんです。佐渡島が家を建てたときに防犯カメラを導入しようとしたら、機能が低いわりに高価なものばかりだったので「安価で高機能なカメラは作れないのか?」と考えたのがきっかけですね。それを聞いて「じゃあ自分も一緒にやろうか」となりました。
私は昔からずっと「プラットフォームビジネスがやりたい」と思っていましたし、下崎はロボット系のことをやりたかったみたいです。それぞれやりたいことは違ったのですが、方向性が一致したから一緒に始めたという感じですね。
ロードマップを定めて組織づくりを進めていく
編集部:以前のpaiza転職のインタビュー記事では、セーフィーは森本さんと下崎さんのお二人がともにCTOという体制をとられていました。今は森本さんがCTO、下崎さんが企画本部長となっていますが、どういう理由からでしょうか。
森本:これは今では良くないところがあったかなと反省するところもあります。
当時は担当領域が異なっていたのでそれぞれその領域においてということで設置していたのですが、やはり混乱を招くところもあったかなと。ですので途中から役割を分けまして、現在は私がCTOをやっており下崎は商品企画の責任者をやっています。
城倉:CTOが2人いると、意思決定が分かれてしまうといったことですか。
森本:意思決定が分かれるというより社内で「どっちがチーフなの」となってしまうところが問題だったかなと。少人数で何でも直接みんなで話しながらやっている分には問題ないのですが、人が増えて組織が大きくなってくると、やはり「誰が責任者なんだ」ということも重要になってきますので。
編集部:当時「肩書きはCTOだけど実際はマネジメントもするエンジニアという感じで、まだまだ開発もやっています」というお話をされていましたが、現在はCTOとしてどんなことをされているのでしょうか。
森本:現在やっている仕事は大きく分けて2つあります。ひとつはロードマップの策定と、それをちゃんと進捗させていくこと。もうひとつは、それに合わせた組織づくりや採用活動の実施です。もう少し追加するなら、先々の技術戦略みたいな部分にももっと時間をさかないといけないんですけど、正直まだちょっと手薄な状況ですね。
城倉:ここまでのお話をお聞きしていると、技術スタックはかなり広範囲に渡るのではないかと思います。いろいろなユースケースに合わせて、最適な技術選定が必要なシーンが多いと思うのですが、それは現場の方がされているのですか。
森本:それはもともと現場の人間でやっていたので、細かいところは口を出さないようにしているんですけど、CTOとして方針は提示するようにしています。「技術選定はこういう基準でやりましょう」とは言うし、最終的なチェックもします。
城倉:現場で技術選定ができるのは楽しそうですね。
森本:ただ、ドラスティックに変えるところはやっぱり方針を出さないといけないので、そこはちゃんと組織として決めるようにしています。
今はリーダー人材の育成・採用に注力
城倉:組織的なお話が出てきたのでお伺いしたいのですが、現在組織づくりではどんな課題がありますか。
森本:それはもう、本当にたくさんあります(笑)。
たとえば、セーフィーは技術の範囲が非常に広いのですが、何かを作るときはある程度全体を把握しながらやっていく必要があります。あとは「一箇所を変更したらすべてに影響が及んじゃいました」というのではダメで、常に全体への知識の共有をしたり、属人化を排除したりして、モノリシックなところは細かく分けて管理していかないといけません。このようなみんなが俯瞰して全体を把握できるような組織をつくるためには、まだまだ不足がたくさんあると感じます。
さらに、細かく分けたときにいろいろなチームができてくると、それぞれをリーディングする人が必要になってきますが、そういうリーダー人材も増やしていかなければいけません。そもそも、リーダー人材を育成するための教育の仕組みも足りていない状況だと思います。
会社としてやりたいことはまだまだたくさんあって、今全体で45人くらいの組織を今年中に70人くらいまで増やしたいと思っています。もちろんその先は、何百人という規模にもしていきたい。そうなってくると、今お話しした課題は早めに解決していかなければ、もっと大きな問題になってしまうと思っています。
城倉:ある程度細かく作って疎結合して、みたいな話なのかもしれないですけど、その方針は森本さんが考えているんですか。
森本:そうですね、「疎結合にしよう」みたいな話は以前から現場にもしていました。結構みんな主導してやってくれていると思います、報告もちゃんと受けていますし。最初は本当に超モノリシックな組織だったのですが…(笑)。
城倉:いや、それはあるあるだと思いますよ(笑)。最初はどうしてもスピード優先になりますから。
森本:最初は1人、2人で全部を把握していたんですけど、新しい人がどんどん増えてくる中で、全部把握するのは現実的に無理ですからね。全体を俯瞰的に見て、あとはそれぞれが疎結合してやっていく感じにしていかないと、もう無理だなと思っています。
城倉:ちょうどいいサイズのコンポーネントがどんなものなのかと、そこを見ていくリーダー人材の育成・採用がこれからのテーマという感じですね。そのための施策として何か実施されていることってあるんでしょうか。
森本:いろいろな開発プロジェクトを回しているんですけど、そこに開発PMを明確に配置して、開発PMが全体を調整する役割を担うようにしています。デザインやデバイス、サーバサイドやフロントエンドなど、プロジェクトのすべてを俯瞰的に見つつ、責任を持ってコントロールしていってもらいたいと考えています。もちろん最初からすべてをコントロールするのは無理なので、開発PMとしてちゃんとワークしているか、スキルが上がっているかといった点をチェックできる仕組みを準備しつつ進める必要があると考えています。
組織が大きくなるにつれて、ビジョンマッチがより大切になる
城倉:チームに関するお話が出てきましたが、森本さんはCTOとして、エンジニアのみなさんにどんな働き方をしてほしいとお考えなんでしょうか。
森本:基本的には、やっぱり仕事は楽しくないといけないと思っています。そのために「自分が何をやっていて、それが実際にどこで役に立っているか」をちゃんと理解してもらいたい。それこそ創業当時は自分たちで直接営業に行ったりしていたんですけど、組織が大きくなってくると、そういうことはどうしても難しくなってきますよね。そうするとお客様の声が届きづらくなってしまう。これはエンジニアに限らず、会社全体の課題としてちゃんと改めていきたいと思っています。「これはどういうところで役に立っています」ということを、ダイレクトに見たり知ったりして、「自分の仕事がどんな効果を生むか」がわかる環境にしたいし、そういう情報を積極的に取り入れながら開発をしてほしいですね。
編集部:以前は「セーフィーは選考時のテストが難しい」という話をよくお聞きしたんですが、現在も同じような基準で選考をされているんですか。
森本:いえ、以前とは採用基準が明確に変わりました。
城倉:そうなんですか。具体的にはどう変わったんですか。
森本:以前の採用基準は、完全に技術偏重でした。今はどちらかというと、「セーフィーが目指すものにどれくらい共感してくれているか」を見ていて、コーディングテストも必ず実施しているわけではないですね。応募者の方によって、やったりやらなかったりしています。
あとは、開発はひとりではできないので、チームの中でやっていけそうかどうか。技術的には、現時点で多少未熟だったとしても、成長できそうな意思があるかどうかですね。
城倉:以前に比べると、応募者のビジョンやポテンシャルも見るようになったということですね。
森本:そうですね。ビジョンに共感してくれて、サービスを通じてビジネスを大きくしていきたいとか、社会に貢献していきたいとか、そういう意思があるかどうかを見ています。その上で、チームの一員としてメンバーと一緒にひとつのゴールを目指していける、情報を共有していける人がいいですね。あと、技術はどんどん取り入れて自分を高めていってほしいですが、あくまで技術は手段なので、「目的が何か」を忘れず、目的に合った技術を追求してもらいたいと考えています。
まだまだCTOとして道なかば
城倉:メンバーに求める要素をお聞きしましたが、最後に、CTOにとって大事な要素についてはどうお考えかをお伺いできますか。
森本:個人に対しても組織に対しても、ゴールを明確に設置して、それについてきちんと説明した上で、達成のためのアクションが実施できることだと思います。自分で言うと、できている部分も多少はありますが、まだまだ全然足りていないと感じています。
城倉:なるほど。そのCTO像に近づくために努力されていることや、気をつけていることは何かありますか。
森本:「どこを目指しているか」を説明するということは、ひたすらやっているところですね。CTOとして、きちんと説明をして、組織としての方向性を示す。最初はふわっとしたまま進めてしまうこともありましたが、そういった進め方は行わないよう心がけるようにしています。
城倉:「まだまだ全然足りていない」とおっしゃっていましたけど、森本さんのお人柄や、たどってきたキャリアなど、きっと社内のエンジニアからはいいロールモデルとして見られているのだろうなと感じました。本日はありがとうございました。
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