マネジメント、採用、育成、意思決定……。エンジニアリング組織を率いるCTOやVPoEの方々は、日頃から大小さまざまな課題に向き合っています。このコーナーでは、エンジニアリング組織のお悩みを読者の皆さまから募集。UUUM株式会社の元CTO・尾藤正人さんがアドバイスします。

第4回のお悩みはCTOの採用についてです。

お悩み:はじめてのCTO採用がうまくいかない

現在経営サイドに技術知識のある人がおらず、開発チームのリーダーがそれに近しい役割を担っている状態です。CTO候補となる人材を採用したいと考えているのですが、当然ながらメンバークラスのエンジニア以上に難易度が高く難航しています。どうするとよいでしょうか。

尾藤さんからの回答

なぜCTOの採用は難しいのか

ご相談にもあるとおり、エンジニア経験者の採用以上に難しいのがCTOの採用です。なぜそれほど難易度が高いかというと、そもそもCTO経験のある人材、もしくはCTO候補となる人材が転職市場にはほとんど存在しないからです。その数少ない人たちを多くの企業がとりあっています。

企業としては「うちに来たらCTOとしてこのように活躍できる場がありますよ」と自社の魅力をしっかり伝え、彼らに選んでもらわなければなりません。

また、すでに企業規模がある程度大きい企業がCTOを採用する場合は、求められる要件も高くなります。CTOを設置するからには、早いうちから役職に見合う成果を出してもらう必要があります。そうなると通常のメンバークラスの採用と同じようにはいきません。それなりに実績のある人が求められるでしょう。

一方、スタートアップであれば、互いに未熟な状態から「失敗しながら一緒に組織を作っていく」と割り切って、CTO候補となる人材の採用を進めるのもひとつの手です。

経営陣のIT理解の低さはCTO採用にも影響する

候補者が市場に少ないこと以上に採用が難航する原因があります。

前回、「情シスは必要か」というテーマでお話をした際、情シスを適切に機能させるためには、経営陣のエンジニアリングへの理解が欠かせないとお伝えしました。実はCTOの設置も同様です。

エンジニアリングに理解のない経営陣は「技術のことは分からない」「とにかく全部任せるから」とCTOに丸投げしようとします。しかし、エンジニアからすれば、そのような組織に飛び込むのはギャンブルであり、リスクでしかありません。リスクを取ってでもぜひやってみたいと思わせるほどの魅力的な事業やプロダクトでもない限り、まずそういった企業が選ばれることはありません。

また、仮にCTOを採用できたとしても、経営陣がエンジニアリングへの理解が乏しいと、CTOの働きを正当に評価できません。

人が会社で働く際に、努力の過程を見てもらえるか、成果を認められるかどうかは役職に関係なく大切です。評価されない環境では、やり甲斐がなく頑張り続けることができません。結果的に経営陣とうまくいかずに退任を選択する人も実際に見てきました。

CTOを採用したいのであれば、経営陣のエンジニアリングに対する歩み寄りが絶対的に必要です。

メンバーからの「CTOが欲しい」が実現できないわけ

「CTOを採用したい」という相談は、経営陣からくる場合と、メンバーもしくは開発組織のリーダーからくる場合とがあります。

メンバーやリーダーから相談をいただくときは、根底に経営陣がエンジニアリングに対して理解がないという悩みを抱えていることが多いです。しかしこういった場合は、残念ながらメンバーがどれだけ熱心でもCTOの採用や、課題の解決には至りません。

それは組織課題の性質上、ボトムアップではなく、必ずトップダウンでなければ解決できないためです。特に比較的年収(報酬)が高額になるCTOを採用するにあたって、経営陣が必要だと思っていない状態では実現が難しいことは容易に想像がつくのではないでしょうか。

現場のメンバーに意思決定の権限はないので、提案までしかできません。経営陣に課題意識がなければ説得は難しいでしょう。そういった状況では改善が見込めないため、組織を離れるしかありません。中でもCTOが不在のまま成長した組織は、スタートアップ以上に経営陣のエンジニアへの理解が乏しく、奇跡的にCTOを採用できたとしても根本から変えていくのは非常に難しいと思います。

IT技術の重要性が理解されないまま時間が経ったということは、経営陣からすると「CTOがいなくても事業は継続できる」という考えになっているでしょうし、これまでに大小さまざまな課題が蓄積している可能性が高いからです。

経営陣の意識改革は「身を持って痛みを知る」

エンジニアリングへの理解が低い経営陣の意識を改革するにはどうするとよいでしょうか。

できれば自発的にIT技術やCTOの採用、エンジニア組織のマネジメントの重要性に気づいていただきたいところですが、簡単ではありません。実際の現場がどれだけ疲弊していても、傍から見たときにスケジュール遅延や大きな障害などもなく安定して開発の現場が回っている状態を「当たり前」だと思っている経営陣は少なくありません。

現実的には開発組織がどんどん悪化していって、組織崩壊が起こるまで気づかないことがよくあります。そうなってからでは遅いのですが、そこまで悪化しないと意識改革につながらないことは多いでしょう。

エンジニアリングを理解する姿勢が大切

他の職種と違い、エンジニアリングやエンジニアの業務内容は、かなり本気で向き合わなければ、簡単には理解できない専門性の高いものです。

そのため経営陣がエンジニアリングをできるようになるべきとは言いません。中途半端にあれこれと口を出されるよりは、一任してくれたほうがCTOとしてはやりやすいでしょう。丸投げと一任の違いは、エンジニアリングを理解する姿勢、そして行動が伴っているかです。

「技術のことはよく分からない」といって丸投げするのではなく、分からないなりにエンジニアリングの領域に興味を示して、知ろうと努力をすることが大切です。

たとえば、あるマーケティング企業では、ITの基本知識を得るためIPAの基本情報技術者試験を受けたと伺いました。専門外の人が合格するには難しい試験ですが、まずは試験範囲の勉強をするだけでもよいと思います。

このように経営陣自らがエンジニアリングを理解をするための行動を起こせるかどうかがCTOの採用にも影響してきます。

外部CTOを有効活用する

一方で、経営陣にある程度技術への理解があっても、CTOの採用をはじめエンジニア組織づくりがなかなか進まないケースもあります。

そういった状況では外部CTOを活用するのが有効です。ただし、外部CTOが価値を出すには、あらかじめ以下の条件がそろっている必要があります。

  • エンジニアチームにトップ(技術部長のようなポジションの社員)が存在し、その人にCTOの素質がある
  • 会社としてトップが組織づくりを推進するためのコストを割ける状態である
  • 外部CTOのアドバイスを受けて実践できる体制である

CTOというポジションを初めて置く場合は、そもそも社内にエンジニアのキャリアパスが整っていないという課題があると思います。そのため社内でCTO候補となりそうな人材がいても、誰も昇格の判断ができません。

そういった場合には、外部CTOが社内のCTO候補に伴走する形でキャリアパスを作り、エンジニア組織づくりにも関わるようにするといいでしょう。

ただし、外部CTOはあくまで一時的なアドバイザーとしての役割です。そのためいくらアドバイスをしても実践できる人がいない状態では意味がありません。チームに自走力があり、自分たちで組織づくりに取り組めてはじめて外部CTOが生きてきます。

目の前だけでなく未来も見据えて取り組みを

今回のテーマである「CTOの採用がうまくいかない」と、第3回の「情シスは必要か?」は一見無関係に見えるかもしれません。しかし、根本は「経営陣のエンジニアリングへの理解が必要」という共通点があります。

特にIT系のベンチャー企業では、テクノロジーやプロダクトに理解のある人が経営に携わることは、よいサービスの提供、そして利益を生み出すために必須と言ってもよいでしょう。

CTO採用に苦戦している原因が経営陣のエンジニアリングへの理解不足であれば、まずは内部の意識改革が先です。そのあとに外部のCTOを入れて組織づくりのアドバイスを受けるか、再度自社でCTOもしくはCTO候補の採用に取り組んでみてください。

最初はコストもかかりますし、簡単ではありませんが、組織はもちろん事業成長のためにも抜本的な改革に乗り出してみていただければと思います。

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