大企業を中心にDX支援を手がけるアルサーガパートナーズ(以下、アルサーガ社)。同社の強みは優れた技術力だけでなく、UX/UIの提案、実装力にある。その競合優位性はいかにしてつくられるのか。同社UX/UIコンサルティングチームを率いる、ヨハンナ・オーマンさんに聞いた。
イノベーション先進国のスウェーデン出身。デザイン・IT・国際コミュニケーションの大学院卒。海外のアイデアを持ちながら日本に特化した戦略をはじめ、マーケティングとUX/UIコンサルタントの両方の目を持って、企画のWebサイト・アプリだけではなく前と後のストーリーまで考え開発。UX/UI経験8年以上。2020年、アルサーガパートナーズに入社。現在はUX/UIコンサルティングを通し、サービスの企画戦略から改善拡大グロース戦略まで、企業と市場と顧客ニーズに合った戦略・設計を担当。
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アルサーガ社のUX/UIチームを1から立ち上げ
――まずは、ヨハンナさんのご経歴についてお聞きします。どのような経緯から日本で働くようになったのですか?
「なんで日本なの?」ってよく聞かれます。わたしは子どものときから日本が大好きで、小学生のときに図書館で日本のファッション雑誌を読んで「日本ではこんな素敵な格好で街を歩いているんだ!」と感激したのがきっかけでした。それから、いずれ日本に遊びに行きたいなとずっと思っていて、15歳で初めて日本に来ました。その感想は「もう最高!」(笑)。期待していたよりも2倍、3倍良かったんです。
それで、いずれは日本で仕事がしたいと思い、スウェーデンのストックホルム大学大学院から早稲田大学大学院に転入したタイミングで、駐日スウェーデン大使館で短期間フリーランスとして働きました。それから化粧品のグローバル企業でマーケティングマネージャの仕事を経て、日本でのキャリアが始まったという経緯です。
――かなり順調なキャリアのように思えますが、アルサーガ社に入ったきっかけについて教えてください。
マーケティングの仕事は楽しいものの、将来はマーケティングだけでなく、なるべく早くデジタル領域に進みたいと思っていました。まずは規模の小さいベンチャー企業に転職したのですが、もっと挑戦している会社で働き、わたし自身も成長したいと思いました。それで、アルサーガに入ることにしたのです。
――「挑戦的な企業で自分も成長したい」とお考えだったとのことですが、アルサーガ社に入社する決め手となったのはどのような点だったのでしょうか?
わたしにとって鍵になったのが、代表の小俣から「ストレートに話してほしい」や「外国人の意見がほしい」と言われたことでした。日本企業のスタンダードに頑張って馴染むのではなくて、外国人だからこその視点や個性を全面に出してほしい。そして、それを自分にも教えてほしいという意志を感じました。実際に入ってみて一番良かったのが、やはりアルサーガのオープンなコミュニティで、お互いに本当にストレートで意見を交わせるところでしたね。
もちろん、社外でのコミュニケーションにおいては日本の文化や慣習を尊重していますが、社内では「わたしはこうやりたいです」や「会社としてこう動いたほうがいい」と忌憚なく話し合える。そういった率直で前向きな環境であると感じています。
実際、入社当時はUX/UIを担当するチームが立ち上がっていなかったので、わたしから企業として注力すべきものだと提案しました。それから3年半が経ち、今ではそういったチームも構築でき、当社の競争優位性の1つとなっています。こうしたわたしの提案も「自由にやっていい」と裁量をもらえたことがきっかけでした。
――UX/UIチームを1から立ち上げたというのはすごいです! 現在はどのような業務領域や内容を担当しているのでしょうか?
わたしのスタンスとしては、手伝えるところを全部やりたいと思っているので「わたしはこれしかやりません」というのは全然なくて。入社当時は会社をつくる、そして、今と同じく成長していく段階でした。最初はUX/UIの考え方やニーズの定義を決めるところからのスタートで、領域横断的に仕事をしていました。いい意味で領域を定めない、グレーゾーンな感じですね(笑)。とにかく「できるところは全部やります!」という感じでした。
今では社内にも優秀な専門家が揃ってきたので、育成や教育といった領域は任せられるようになり、わたしは自身の専門であるUX/UIに注力しています。2年前からは自身のチームを持つようになり、メンバーのマネジメントやクライアントへのコンサルティングなどをおこなっています。
多国籍・多様な才能を持つ人材が集まるチームの力
――コンサルフェーズから企業へ提案していくのはアルサーガ社の特色ですね。ヨハンナさんから見て、日本企業のUX/UIデザインの捉え方はどのように映りますか?
とくにUXデザインについては、本腰を入れて取り組んでいるところはまだ少ないように思います。また、UXについて認識はしていても、デザインという枠組みで捉えているところも多いように感じます。UXとデザインはまったく違うものです。当社では、デザインチームがありつつも、UX/UIに特化したチームを独立して置いています。それはやはり、業務としてもまったく違うことをやっているからです。
エンドユーザーの目に見えるかたちにするデザインは、製品やサービスを「すごくほしいな」と思うように落とし込むものですが、 UXはその前段階の企画戦略からリリース後のグロース戦略までを担う戦略的な部分です。使っていただくユーザー像や、ユーザーにどのような体験をしてほしいのか、そのためにどのような方向性でいくべきか。このような考え方を踏まえたうえで製品やサービスを開発しなければ、つくっても使ってもらえない状態になりかねません。
だからこそ、当社では経営戦略やビジネス戦略の部分から、UX/UIを取り入れたコンサルティングに入ります。わたしたちは3Cを独自のフレームワークで捉えていて、当社の顧客(Client)、競合他社(Competitor)、顧客のお客様(Customer)の観点から調査したうえで、ビジネス戦略として製品/サービス開発を支援しています。まずデザインをおこなう前に、ターゲットや方向性などのスコープがクリアになることで、実装すべき機能や反対に不要な機能、デザイン設計のあり方などが明確化していくのです。
――経営やビジネス戦略の観点から支援をおこなっていくとなると、チームの人材にとっても精鋭であることが求められます。ヨハンナさんのチームは全員が外国人であると伺いましたが、それにはどのような狙いがあるのでしょうか?
これは意図しているわけではありません。しかし、さきほどの「日本でまだUXの考え方が浸透しきっていないこと」と同じ話になるのですが、UX/UIコンサルタントとして応募をいただくと、デザインのほうがメインになっている場合が多いんです。わたしたちの専門はユーザーのニーズを認識したうえで、デザインを設計することなので、顧客と直接話をしながらワークショップやユーザーテスト、インタビューをおこなうことが求められます。
また、わたしたちは最新のUX/UIを日本の企業に提供したいと考えています。最先端の情報は海外で提供されているので、英語でいろいろと情報をキャッチアップする能力も求められます。なので、結果的に多国籍かつ多様な才能をもった人材が集まっているという状況です。
――最先端のUX/UIが提供されるのも、アルサーガ社にとって大きな強みです。顧客への提案も直接おこなうのでしょうか?
そうですね。PMと一緒に提案をおこなうこともありますし、UX/UIチームだけで入ることもあります。一般的にデザイナーという名称がつくと前に出ないイメージだと思いますが、わたしたちは全面的に顧客と向き合います。だからこそ「コンサルタント」という名前、ワードを使っているのです。
わたしたちはステークホルダーと一緒に仕事を進めていきたいと考えています。だからこそ、さきほど話した「クライアントが持つ3C」のすべてを認識した上で、最適なUX/UIの提案を志向しています。
そのため、わたしたちのチームでは高い水準の日本語レベルが必要です。チーム内では英語で話すこともありますが、社内で話しているときはもちろん日本語で話します。なによりもユーザーニーズを洗い出すときには、日本語かつ日本の感覚でそれを見極める力がないといけませんから。
―― 一方で、日本独特の商慣習や決裁プロセスなどで苦労することがあるのではないでしょうか?
そうですね(笑)。しかし、わたしたちのチームは全員が外国人であり、異文化の人材が集まっている。それが大きなメリットになっていることも事実です。外国人のプロフェッショナルだからこそ、ストレートに提案ができる。もう1つのメリットとして挙げられるのは、異文化の視点を持っているからこそ「当たり前」という観点がないことです。
ユーザーニーズの洗い出しをおこなう際に、これまでの前例から「日本人だから、こういうニーズがある」とバイアスがかかっていることもあります。当たり前と思っているから、検討から抜け落ちていることもある。だからこそ、そういった点をピックアップできることは大きなメリットです。
また、わたしたちは基本的にグローバルの視点に立って考えます。競合他社の分析は日本ではなく海外の動向にも注視しています。アメリカやヨーロッパなどの先行事例を参照しつつ、今後日本ではどのような動きをするか、予測がおこなえることも強みです。
「バグを否定しない。」だからこそ挑戦できる
――ヨハンナさんは自身のチームの採用にも携わっていると聞きました。採用で重視している点について教えてください。
現在の状況でいうと、アルサーガというブランドがかなり強くなっていると感じています。全社の求人に対して、毎月400件以上の応募があります。わたしたちのチームにも毎日のように応募をいただいているので、チームに必要な人材を洗い出すことが非常に重要です。
わたしが一番大切に思っていることは「姿勢」です。採用時点でまだチームにほしい人材でなくても、挑戦する姿勢があれば、絶対に成長すると思っています。わたしたちはやはり顧客とユーザーの思いを認識しなければならないので、やはりそこを追い求めることや学びつづける姿勢が必要です。そういった点は必ず確認するようにしています。
今のところは外国人だけのチームになっていますが、もちろん日本人のUX/UIコンサルタントも歓迎しています。現在社内のデザインチームにもUX/UIをやりたいと考えているメンバーは多いです。デザイナーの次のステップを考えると、やはりコンサルティングという側面になりますので、そういった点も含めて新しい人材がチームに入ってくることを楽しみにしています。
――優秀な外国人の人材を採用したい企業は多いと思います。そのためにはどういったことが重要だと思いますか?
まず、オープンに考えてほしいという点がありますね。こちらからのフィードバックに対して、頭ごなしにNOを突きつけることや、「日本だから」「そういう仕組みだから」といった考え方はやめたほうがいいと思います。始まる前から否定的になることはよくありません。まずは、相手の意見を聞いてみる。それからどうするかを考えていくマインドが重要です。
――最後に、アルサーガ社で働くことの魅力を教えてください。
当社の魅力は、チャレンジングな自分でいられることだと思います。少しずつ会社の規模は大きくなっていますが、「挑戦しつづけるベンチャー精神」は残していきたい。そんな気持ちがあるからこそ、若く優秀な人材が集まる要因にもなっていると思います。
当社のミッションには「バグを否定しない。」という言葉があります。これは日々CEOである小俣自身が話していることです。だからこそ心理的安全性が担保されて、メンバー一人ひとりが挑戦できるマインドになっているんだと思います。
(取材/文/撮影:川島大雅)