ERP事業に特化したコンサルティングカンパニーの株式会社エヌティ・ソリューションズでは、クラウド型の基幹システムを活用してクライアント企業の業務を支えています。DX時代に企業がどのように事業改革をおこなうかを念頭に、導入コストから業務効率化まで、さまざまなサポートを行います。
同社の執行役員 ERPソリューション事業部 事業部長である南雲 暢之(のぶゆき)さんはERP畑一筋。企業が基幹システムを運用する姿を、さまざまなERPを通して目の当たりにしてきました。
1つの領域に携わり続けたエンジニア・南雲さんの、技術者としてキャリアアップを目指す7つのルールを伺いました。
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目次
Rule1:息の長い技術を身につけろ
--現職に至るまでの経緯をお聞かせください
南雲さん:
学生時代はプログラミングを勉強して監査法人の子会社に就職しました。主な業務はCOBOLで会計システムの開発をして導入していました。
監査人と一緒に客先訪問をするので、企業の経営の実態ですとか、なかなか表に出ない部分を勉強できたのは後々大きかったですね。
まず勉強したのは企業会計と、基幹システムの構築についてです。プログラミングだけではなく、簿記の勉強もさせられましたよ。「それぐらいやっておけ」って先輩に言われて。
当時の構築は、ほぼスクラッチ(システム開発のパッケージなどを用いず、一からシステムを開発すること)なんですよ。現代はテンプレートが重視されますけれど、ほぼ一から作っていましたね。
クライアントは監査対応をしなければならないので、セキュリティ面やデータの整合性がきちんととれているかを確認しながら作らなければなりません。今思うとよくやっていたなと思いますよ。
昔の監査は現代ほど厳しくなかったのかもしれませんが、どのユーザーが何をできるといった権限設定も、現代のシステムなら簡単に設定できることを手作りでやっていたので、だからこそ当時は大変でした。
その反面、身をもって理解できたのは大きかったですね。
クライアントの業務理解もそうなのですが、監査側からどのようなことを指摘するのか、クリアすべきハードルが何なのかを学べたのはよかったです。
簿記の勉強も、後々ERPの仕事をするのにとても役立ちましたよ。あとになっても役立ちましたし、会計学や簿記は世界共通なので。
Rule2:息の長い業界を探し出せ
ーーその後、ERP、とりわけSAPに出会うことになったわけですね。
南雲:
そのころ、海外でERPが流行し始めました。主にSAPのシステムが使われていました。
監査法人の代表が、ERPに向かっていくべきだという指針を示してくれて、SAPに触れる機会のある企業の担当に異動できたんです。
それまではスクラッチの会計システムしか知りませんでした。最初の印象はパッケージの会計システムはすごいな、という印象でしたね。
開発から着手することになったのですが、データベースがアプリと一体化していることに驚きました。アプリケーションを作っている会社がデータベースも管理しているってどういうことなんだろう、と。
システム監査で大変な苦労をしたスクラッチ開発ですが、SAPを導入するだけでOK、という評価になったんですよね。セキュリティも内部統制もできていることになるので、とても運用が楽になりました。クライアントも楽になるだけでなく、監査をする側の人も「SAP入ってるの?あ、そう」で半分以上クリアすることがあったくらいですから。
つまり、システムで自動処理されているところは細かく確認しないんですよね。手入力している仕訳だけをチェックするイメージですね。カルチャーショックを受けました。
導入するだけで業務が回る、導入するだけですべて整う。国内だけでも50万社の企業があるそうです。すべての企業で業務と会計のニーズがあるのですから、だからこそ売れ続けるし、この業界でこの仕事でいいのだな、と思いました。
先輩方には感謝です。
ーー「この仕事でいいのだ」というお言葉は、お客さまのためになっているという意味合いでしょうか。
南雲:
自分の生業としても、ですよ。お客さまのためになるのは当然必要ですが、自分が生涯を通して社会に貢献する領域として、これでいいんだなという思いです。
お客さまにとっても多くのよい変化が生まれましたし、ITの主流になっていくだろうなと予感させるものがありました。最近ではDXのど真ん中に位置づけられていますね。
Rule3:大きなプロジェクトに参加できると得るものも大きい
スクラッチで開発するのと、売り方が変わって来ます。
作ってからシステムを検証してもらうのではなく、いきなりシステムを見せられるんです。そう考えると、スクラッチには細かいニーズに応えられるメリットもありますが、機動力に劣る制限もやはりありますね。
ERPを使うと、企業は欲張りになります。基幹業務(販購買・在庫・生産・会計)だけではなく、たとえば、人事のシステムも対応させよう、などと考えるようになっていくんです。効率良く業務を回せるのと、システムを一つに統合できるとセキュリティにもよいし、管理が大幅に楽にもなりますからね。
システム導入者側としては、業務対象や範囲が増えていくので、大変さは増します。限られた期間でとてつもなく大きく高度なシステムをプロジェクトメンバー全員で力を合わせ構築する必要があります。チームワークの形成など、技術力だけではない、一つ上のレベルの業務を経験することになります。
ERPを扱うと業務の領域がどんどん広くなるので、相対的に、自分が扱う領域が狭くなります。システム全体を把握するためにも、もっと俯瞰的に見ていかなければならない、という発想にかわっていきました。
ーーシステムが大規模になっていくのですね
南雲:
一流企業のERP導入の場合は、数十億から数百億円、エンジニアは数十名から数百名になることもあります。技術力だけではなく、チームワークやコミュニケーションなども重要となってきます。さらに、お客様の事業に直結するシステムなので、業務視点や、経営視点で向き合い、システムを構築するといった経験もできます。大きなプロジェクトでは、顧客の気持ち、納期、品質、技術力、チームワークなど、バランスがとても大事だなと、大きなプロジェクトを体感できたのはとてもよい経験になっています。
Rule4:チェックは慎重に
ーー大規模の仕事をされる中で得られた知見は何かありますか?
南雲:
若いころ、ある量販店のシステム導入の仕事をしていたことがあります。ERPの連携に絡んだ部分だったので大切な商品在庫の処理を任されていて、在庫管理の自動仕訳処理を任されたことがあったんです。
そこで、在庫分をゼロにクリアしなければいけない処理を怠ってしまって、在庫がどんどん増幅されるような状態を起こしてしまったことがあるんです。量販店のあるアイテムの在庫が1億円を超えることになってしまいました。本番データですよ。
最初は入庫しすぎたのでは?とユーザーの運用面を疑う自分がいたのですが、実はわたしのプログラムのゼロクリアされていないバグが原因でした。まあ、テストが甘かったのですね。
お客さまのプロマネに呼び出されて指摘されました。もう、正直に謝るしかなく、暗く神妙な面持ちでご説明したのですが、そのプロマネの器がとても大きくて、
「ドンマイ!」
背中バーン!
って感じで許していただいたんです。債権や債務ではなかったためか、大きな額だったものの、始末書で済みまして。ただ、とても大きな失敗でしたので、内心落ち込みましたが、二度と同じ間違いは起さないと、頑張ろうと心に誓ったのは、よい思い出です。
それからはもう、プログラムのテストをするときは、本番データでの大きなミスを思い出しながら、念には念を入れてチェックをするようになりましたよ。今でもときどき背中バーンの軽い痛みを、感謝の気持ちとともに思い出しますね。
Rule5:ゼネラリストはスペシャリストの集合系
ーーエンジニアのキャリアにはゼネラリスト・スペシャリストの志向があると思います。南雲さんはどのように考えられていますか。
南雲:
今のわたしはゼネラリストです。でも若いときはスペシャリストでしたよ。目指していた先もそうでした。
スペシャリストの経験がいくつも詰まっていくうちに、自然にゼネラリストのようになっていくのが理想的なのかな、と思ってはいます。
リスキリングという観点で考えたとき、一つひとうのリスキリングはスペシャリストを目指す方向でよいと思うんですね。あまりやり過ぎずに、次のリスキリングに移ればよいのではないでしょうか。
ーー1つのスキルを「これで収めた」と判断できるタイミングは何だと思いますか。
南雲:
難しいですが……。
まず、仕組みが理解できて実行できることが第一ですね。
第二に応用できるかどうかだと思っています。もし、過去に習得したスキルと比較できる要素があるのであれば、比べながら身に着け、納得いくレベルまでいけばよいのではないでしょうか。
最近はとくに、新しい技術が入れ替わり立ち代わりで、出現しては消えていきますね。一つのことに熱中するのは間違いではないのですが、あるところで俯瞰的に見て、次に有効なスキルの情報を集めて考え、ローテーションして行くことが重要になってきていると考えます。
スキルが経験を生み、経験がスキルを磨くことになる。リスキリングを通じて、人間としての成長が深まるのではないでしょうか。
Rule6:プロジェクト貢献しながらスキルアップすることが重要
ーー非ITの人材がプログラミングを学んだときに「Hello World」を出力できたらOK、というわけにはいきませんよね。
南雲:
現代はスキルが多様化しています。ここまで乱立しているのであれば重要なところから効率的にスキルアップしていかないといけないでしょう。
ただITの世界では、プログラミングの基礎がなければ応用は利かないと思います。応用が利く程度のスキルを何か1つ、身につけることは大切でしょう。
「Hello World」はプログラミングの第一歩ですよね。
人材育成のソリューションを持つわれわれがそういう指針を出していかないといけないことだとは思います。ただ一般的に、プログラミングスキルでどこまで行けば次行っていいよ。という判断は目標目的によるでしょうね。
企業人材のリスキリングでは、お金と時間の制限は必ずあるんです。その中で何を選択しなければならないかを状況に応じて意志決定しなければなりません。
ただ、結局日々本業であるプロジェクトを担当しながら、リスキリングを平行しておこなうのがIT人財育成の現実だと思います。
もちろん、本業のプロジェクト貢献が、最も優先すべき事となりますので、自分のスキルアップよりもプロジェクトに貢献することを優先する事になります。
そのプロジェクトの中で常にスキルアップのアンテナを張り、積極的に経験を積むことが重要となりますね。
プロジェクトに貢献できることが知識となり、そのために習得したものがスキルとなる。
このような前提でリスキリングを考えるのがよいと思います。
Rule7:マインド面のスキルが大切
ーーこれまで学ばれた知識の中で、今も役立っている知識・経験はなにかありますか。
南雲:
現在の事業の拡大も、これまでの過去のERPの知識を覚えてやってきたやり方を、現代のシステムに合わせることでできたことがたくさんありますよ。経験が生きるんです。
たとえば、最近はMicrosoftのCloudERP「Dynamics365FO」を主軸にしているのですが、これまでのオンプレミスERPの経験を比べて考えることができています。仮に古いサービスがダメになったとしても、代替となる最新のサービスがあれば、そのパッケージに合わせる形で同じノウハウを使って事業展開しています。
ーー業務やシステムの根本・基本を学ばれた経験が大きいのですね。
南雲:
自分で開発もコンサルも経験してから管理者になれているので、お客さまのことからメンバーのことまで、ある程度把握してできているとは思いますよ。
ーー今の若いエンジニアに基本から学んでおいたほうがよいと思われるものは何ですか。
南雲:
AIの登場により必要ないんじゃないの?という感覚になられる方もいるかもしれませんが、プログラミングのスキルが重要だと思います。AIに指示を出したり、その生成されたプログラムが、期待したものになっているのかをチェックするのは、結局人間の判断となりますので、アーキテクチャ面の理解がやっぱり重要です。
新しい技術で行くと、今はAIですね。大学生のわたしの子どももAIを使って勉強していますけれど、PCやスマホが普及したのと同じくらいのインパクトで、誰もが使うことになりますからね。もうすぐに、当たり前の世界になるでしょう。われわれも今一番注力している事業はAIです。
技術以外のスキルでいえば、マインド面が多くあります。
意外と忘れられているのが、相手の気持ちを理解するスキルだと思います。
お客様や上司や先輩、コンサルや開発者、ビジネスパートナーなど、ステークホルダーの気持ちが分かれば、間違いも減り、効率よく業務を進められると思います。ITの前に押さえておきたいスキルです。
また、壁が立ち塞がって、二進も三進も行かない場面もあるかもしれません。
そのときは、悩みすぎないことと、俯瞰的な視点を持つことが大切ですね。両方とも視野を狭くしないことに繋がります。木を見て森を見ず、という言葉がありますが、木も森も両方見て考えたほうがよいですからね。
最近では、気持ちの面でいっぱいいっぱいの人が結構多いですが、心に少し余裕を持てるスキルも重要だと思います。心に余裕のある状態が、人間として一番パフォーマンスを発揮するのだと考えています。少し余裕を持って、効率よくスキルアップして行けば、よりよい結果につながることと思います。
南雲 暢之さんの【エンジニアのキャリアアップ術7選】
(取材/文:奥野 大児)
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