さくらインターネット株式会社(以下、さくらインターネット)。「さくらのレンタルサーバ」や「さくらのクラウド」をはじめとする日本最大級のサーバホスティングサービスやクラウドサービスを提供する国内大手企業だ。同社の特徴は、ITインフラという分野におけるユーザーニーズを敏感に拾い上げ、サービスに落とし込む高い技術力にある。その裏側にはどのような人材が活躍しているのだろうか。同社エンジニアに話を聞いた。
さくらインターネット(画像左から)
クラウド事業本部 SRE室 室長 長野 雅広さん
2021 年 1 月にさくらインターネットへ入社。大学在学中から京都でスタートアップ企業に参加。2006 年に株式会社ミクシィに入社し、2010 年に株式会社ライブドアに転職。Web サービスのチューニングコンテスト「ISUCON」の創設に関わる。2015 年に株式会社メルカリに入社し、SRE 組織の立ち上げに携わる。
クラウド事業本部 副本部長 大久保 修一さん
さくらインターネット クラウド事業本部 副本部長。2003年にさくらインターネットへ新卒入社。ネットワークの運用担当、さくらインターネット研究所を経て現職。
関連記事
さくらインターネット× paiza AIを企業はいかに活用するか
インフラ”開発”エンジニアとSREが生み出す使いやすく信頼できるサービス
――御社でのクラウドサービスの提供には「インフラ”開発”エンジニア」が非常に重要な存在であると伺いました。インフラエンジニアとはどのような違いがあるのでしょうか?
(以下、敬称略)
大久保:当社の「インフラ開発エンジニア」は、その名の通りクラウドやデータセンターのインフラサービスをつくる領域です。しかし、従来のようなオンプレミスの環境をつくるのではなく、ソフトウェアのエッセンスを取り入れ、よりお客さまが使いやすい形にして提供する役割を担っています。つまり、サーバやネットワークといったハードウェア、そしてソフトウェアを組み合わせてインフラを作りあげ、お客さまに提供するのが当社のインフラ開発エンジニアの役割です。
――おふたりのポジションや業務内容について教えてください。
大久保:当社のクラウド事業全般を管轄するクラウド事業本部という部門で副本部長を担当しています。私はもともとエンジニア出身で、ずっとクラウドサービスの開発を担当していました。3年ほど前に新しい部門の立ち上げをする段階で、マネジメント側になりました。現在では人材の採用や当社サービスの技術面全般を統括しています。
長野:私も同じくクラウド事業本部の所属で、当社のSRE(Site Reliability Engineering)を掌管している、SRE室の室長をしています。具体的には、サービス開発にあたって、一緒に開発チームに入りながら。運用面としてそのサービスをより良くしていくための支援をしたり、「SRE as a Service」というところで仕組みづくりをしています。
――それでは、長野さんに伺います。長野さんはライブドアやメルカリなどの大規模サービスを提供する会社で活躍されてきました。さくらインターネットにはどのような点に魅力を感じて入社されたのでしょうか。
長野:個人、法人を含めて、幅広いお客さまがいる点は魅力でした。前職のフリーマーケットアプリでは数百万のユーザーがいて、そこでの仕事も非常に魅力的でした。しかし、さくらインターネットの場合はインフラとしてのサービスです。お客さまのさらに先にいるエンドユーザーのことも考慮しながら、サービスの運用を考えなくてはならない。そういった広がりが魅力に感じて入社を決めました。
――長野さん入社のタイミングは、御社内でもSREに対しての必要性が議論されていたと伺いました。
大久保:さきほどのとおり、当社はインフラ開発によりハードとソフトの両面からお客さまの利便性を向上させています。そのため、高頻度の機能変更やサービス向上をおこなうと同時に、信頼性を担保していかなければなりません。安定稼働とオブザーバリティの確保が課題としてあがるなかで、長野が入社し、SRE室を立ち上げることになりました。
――開発の際にはどのようなことを意識して取り組んでいるのでしょうか。
長野:開発に際しては「なにかおもしろいことをやろう」と意識していますね。ちょっと変わったことをやろうとか、発表して自慢ができることをやろうといった気持ちもありますが、やはり1人のエンジニアとして、またはチームとしても楽しくやれる、挑戦しがいのあるものを選んで取り組んでいます。
大久保:複数の方法論や選択肢があるときに、おもしろいほうでやりたいと思うのは私も同じです。 それに加えて、ビジネスのフェーズにもよりますが、当社の特性として、開発したサービスは10年や20年という長いスパンで維持していく必要があります。そういった意味では長続きするようなやり方が望ましいです。最短で進めるよりも、サービスとともに遠くに行けるようなやり方をしなければなりません。
具体的には、チームで共有しながら技術的負債を抱え込まないようにすること。あるいは技術やアーキテクチャの選定についても同じようなことがいえます。そういったことは日々意識しつつ、ときには悩みながら開発しています。
『「やりたいこと」を「できる」に変える』を体現する人材育成
――お話を伺っていると、御社のエンジニアには広範なスキルが求められるように思えます。エンジニア採用の際に重視しているのはどのような点なのでしょうか。
長野:基本的に重視しているのは、 チームとして一緒に働けるかという観点です。このメンバーでは2次面接の対応をすることが多いのですが、そのチームに入ることを前提として、円滑に業務を遂行できるかを考慮しています。
また、さくらインターネットは「長く働いてほしい」という思いを持っています。そのため、違う部署へ異動する可能性も考慮して、面接で話を聞くこともあります。たとえば Tellus(テルース)という衛星データプラットフォームを扱う分野に行けるか、直接ハードウェアを扱うようなデータセンター業務に行けるか。反対にデータセンターからソフトウェアの開発を学び他の領域もやり始める、そういったことができるかは重要だと思います。
大久保:長野が話した通りですが、当社では人間性や指向性について重視する傾向にあります。もちろん必要最小限のテクニカルスキルを求めていますが、それを満たしていればよいというわけではありません。
以前、Qiitaで当社の技術スタック一覧をまとめて公開したことがありますが、当社の性質上、非常に広い技術を活用しています。そのため、近年の業界の変化が著しいことも加味すると、特定の技術を使えるよりも、基礎力があって応用が利きやすいか。そして、広い意味で新しい道具を使いこなせるかに重きを置いていますね。
――御社では「さぶりこ」という独自の制度を設け、働き方や入社後のスキル向上に手厚い支援をおこなっています。そのなかでもエンジニアの人材育成にはどのように取り組まれているのでしょうか。
長野:当社の企業理念は「『やりたいこと』を『できる』に変える」。エンジニアの人材育成についてもそれは共通していると思います。そのため当社ではエンジニアを含め、基本的には業務のなかで「やりたいこと」がある人が挑戦できる環境づくりをしています。
――最後に、おふたりがエンジニアチームをマネジメントする際に心がけていることや、チームビルディングで意識していることについてお聞かせください。
大久保:最近ではリモートワークが主体の企業も多いので、チームとして一体感を出していくことに苦労されている方も多いのではないかと思います。それでも、やはり話しやすい雰囲気、コミュニケーションが取りやすい環境をつくっていくことが重要だと考えています。やはりチームで動く以上は、次につながるモチベーションをつくっていきたい。そういった意味では、振り返りをおこなうことはとても大切だと思っています。
長野:私のチームには5名いますが、そのうち3名は関東で、残りの2名は関西と九州にいます。そのため、全員がリアルで一度に顔を合わせたことがありません。その中でどうやってチームを作っていくかは非常に難しいです。振り返りも大切ですが、私はその前段階として、朝会のようなかたちで、オンライン上でも顔を合わせる時間を設けることを意識しています。1度同じタイミングでコミュニケーションを取ることで、それぞれの現況などを共有し、1日、あるいは1週間のリズムを作っていく。そうすることで、リモートでも動きやすいチームを醸成しています。
関連記事
さくらインターネット× paiza AIを企業はいかに活用するか
(取材/文:川島大雅、撮影:ナカムラヨシノーブ)