※本記事は2023年3月20日取材したもので、村井英樹官房副長官の当時の役職は「内閣総理大臣補佐官」でした。その当時の発言となります。

今の社会を発展させていくためには、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進が不可欠です。デジタル技術を始めとするリスキリング(新しい知識やスキルを学ぶこと)の推進は、デジタル人材の増加とDXの浸透をもたらすでしょう。(※DXの詳細説明に関しては末尾に記載

岸田政権がDXをどのように捉えているのか。内閣総理大臣補佐官(国内経済その他特命事項担当)の村井英樹衆議院議員に、お話を伺いました。

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村井内閣総理大臣補佐官プロフィール

1980年さいたま市生まれ。2003年東京大学卒業後、財務省入省。2010年、ハーバード大学院修了。2012年、衆議院議員。以降、自民党副幹事長、内閣府大臣政務官(金融担当)、国会対策副委員長等を歴任し、現在は内閣総理大臣補佐官(自民党史上歴代最年少)として政権の主要課題に取り組む。42歳3児の父。

※2023年3月現在の情報

DXの進捗

――現在(2023年3月時点)のDXの進捗をどのように捉えられていますか。

村井英樹 内閣総理大臣補佐官(以下、村井):

遅れていると感じています。なぜなかなか進捗しないのか、と考えたとき、直感的には大きな組織と小さな組織の課題に違いがある、と感じます。

中小企業のDXの進捗は、経営者によるところが大きいです。DXに取り組んでいる中小企業は全体の1割(「デジタル・トランスフォーメーションによる経済へのインパクトに関する調査研究の請負」 41ページ参照)というデータがあります。本当に1割かどうかはさておき、低水準であることは間違いありませんが、その一方で目端の利く経営者はデジタル化・IT化を進めていると思います。

わたしは仕事上、地元の中小企業経営者と接することが多いですが、お話を伺っていると、問題意識を持ち、実際にDXに取り組まれている方も相当数います。他方、「デジタルってうちは関係ないから」という経営者もいます。

わたしの実感としては、中小企業のDXは、問題意識を持っている経営者かそうでない経営者で大きな差が生じていると感じています。

一方、大企業では4割がDXに取り組んでいるそうです(同41ページ参照)。ただ、その4割という数字には濃淡があるのではないでしょうか。

DXの本当の意味は、単なるITの利用ではないと思います。組織や意思決定・教育のプロセスをいかにデジタルに合わせて改革できるか、だと思います。

ある組織がコロナ禍において、テレワークを推進することになったと伺いました。その組織の幹部は「うちはデジタル化を進めてスタッフも半分しか出社していない」と胸をはるんです。2020年・21年ごろの話です。

ところが若い人からは、テレワークを止めてほしいという声が聞こえてきたんです。何が問題だったかというと、大きな業務フローは変えずに部分的にテレワークを導入しているんですね。

その組織はものすごい縦構造で、稟議などは下からひとつずつ上げていくような構造です。その中の、たとえば係長と課長がテレワークをしている状況では、担当者が係長に書類をメールする。そして電話して確認を依頼して直されて、またメール、というやり方をしているんです。

そうするとそのうち「デジタル化って何のためだっけ?」という話になってしまって。であれば、空気感を共有しているメンバーが大部屋に居て作業しているほうがまだ効率的だったじゃん、となりますよね。

ここまでの事例はそうそうないかもしれませけれど、大企業って往々にしてこうしたことが起きているんだと思います。

ですから、本当の意味でのDX化は、組織をフラットにして意思決定のやり方を変えること。さらに、IT人材をどこで育てるか、という話が大切になると思います。

独立行政法人情報処理推進機構の調査によると、日本でIT人材の数は、事業会社のシステム部門などより、ITの技術や製品を提供するベンダー企業に多いんですよ。

(出典:独立行政法人情報処理推進機構「IT人材白書2017」より)

また、別の調査では、日本は攻めのIT投資ではなく、守りのIT投資をしているという結果があります。これは端的にいうと、「何のためにDXを行なうのですか」という問いに対して、経営者が「業務効率化です」と答えている、ということです。

仕事の無駄を無くすためにIT化します、という「守り」の感覚なんですよね。FAXや電話でしていた連絡をメールにしよう、資料の整理を紙ではなくクラウドに保管しよう。であればそれはベンダーに依頼して進めて、となって、外部企業の人が環境を作り、中の人はよくわからないまま外の人が作ったものを使うことになってしまいます。それではベンダーロックイン(情報システムに特定の企業が入り込んだ結果、他者の製品やサービスへの切り替えが難しくなってしまうこと)になってしまいますよね。何か変更しようとしても社内の人は分からず、発注先に作業依頼をして、どんどんコストがかかることになっていると思うんです。

DX化してデータを集めて、そのデータを活用して、これまでとまったく違う方法で顧客を取りに行きましょう、といった「攻め」のチャンスがあるはずなのに、ただの「守り」の業務効率化になってしまっています。

DX化と一口にいっても、それをただの業務効率化にしないで、

(1)経営戦略の中枢にDXを据えることで、新たな商品・サービスを生み出す環境を整える

(2)人事制度改革も含めてDX化を活かした組織づくりを進める

(3)DXに対応できる人材育成を進める

といったことを進め、本当の意味でDX化のチャンスを活かしている大企業は限られていると思います。

DXで日本企業は利益を伸ばせるのか

--DXを推進するためにはITの活用が肝との考え方もありますが、クラウド利用で利益を上げるのは海外クラウドサービス事業者であるという事実もあります。ITの活用はすなわち外国企業の利益に結び付いているような印象もあり、「デジタル赤字」という言葉でも報道されているようです。その状況で日本企業が浮上するシナリオは見えてくるものでしょうか。

村井:

よく「デジタル赤字が5兆円になってしまった」と言われます(「日本経済新聞」参照)。確かにクラウドサービスについては、国内で頑張っている企業もありますが、それがAmazonやGoogle・マイクロソフトを脅かすかといえばそこまでの雰囲気は感じられないのは事実です。

一般論でいうと、DX化の第一ステージとして仕組み作りの部分で、我が国は後れを取りました。プラットフォーム型ビジネスで、日本は厳しい立場に置かれていると思います。

今後の活路で言えば、コンテンツ作り・ものづくり・サービス作りの強みを活かすことです。たとえば「キャプテン翼」や「ONE PIECE」は今でもどこの国でも読まれています。

そういう作品の価値をちゃんと評価してもらえるような仕組み作りがまず必要かなと思います。例えば、我が国には、魅力的なアプリ事業者が様々います。しかし、外国企業のアプリケーションストアが、独占的とも言える状態の中で、高い手数料を取られたり、顧客情報が十分に得られなかったり、アプリストア側がアプリ事業について自社優遇しているのではという指摘もされています。

モバイルエコシステム全体を考えた際、Apple・Googleなどが強みを持つ、OS領域に食い込むことは出来ませんが、アプリストアやアプリ事業者のレイヤーでは、適切な競争環境が整備されれば、日本も十分に勝負できる、といった話も伺います。

そもそも、これまでのインターネットの世界では、せっかく作ったコンテンツが海賊版として流れてしまうこともありました。それが、Web3・ブロックチェーンなどの世界ではトレーザビリティが効いて、コミュニティの中でしっかり対価が取れるような仕組み作りが可能になってきています。これまで以上にものづくり・サービス作りに正当な対価が生まれると信じていていますし、そうした中で高いコンテンツ力を持つ日本の存在感が高まると思っています。

岸田政権では、スタートアップを推進していますが、付加価値を適切に評価する仕組み作りも広くいうと「スタートアップ政策」なんだと思います。

デジタル赤字の状態を一朝一夕には解決できないんです。しかし、今言った通り、大きな流れは、付加価値が適切に評価されるようになっていくはずです。そうすると、最後は日本国内でどれだけ魅力的な商品・サービスが提供されるか、生まれていくかに尽きると思います。

環境作りとものづくりの役割を考えたい

中小企業のDX推進の肝は経営者にある。政府は環境や場を作るという役割の違いがよく伝わってきました。DXにおいても全面的に勝ちにいくのではなく、事業革新の結果、得意領域を更に伸ばしていけるような仕組み作りが大切なようです。

制作したものが国際的な競争力を持てるようなものづくりを、ITエンジニアとして取り組んでいきたいものですね。

(取材・文:奥野大児 / 撮影:つるたま

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DXについて

インターネットモールの流行から店舗での小売りや百貨店は苦境に陥り、動画や音楽の視聴サービスの流行でCDやDVDのレンタルビジネスは縮小しました。このようなビジネス変革を余儀なくされるきっかけとなる破壊的・革新的サービスを行なう企業を「デジタル・ディスラプター」と呼びます。企業がこれらに対抗しうる力をつけることを目的に、デジタル技術を活用して業務・ビジネスの変革を目指すことを「DX」と言います。DXはDigital Transfotmation=X-formationの略語です。

経産省が2018年9月に公表した「DXレポート」では、2025年の崖が報告されました。2022年7月に発表した「DXレポート2.2」でも、2025年の崖問題の克服状況は順調でないと記されています。

 

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