2025年12月、シンクロ・フードの代表取締役に就任した大久保俊氏。そのキャリアの原点は、大学時代の「スニーカー好きが高じたサイト制作」でした。

営業職での泥臭い経験を経てエンジニアの道へ戻り、独学で技術を武器にしてきた大久保氏。AIが台頭し、誰でもコードが書けるようになった今、エンジニアが生き残るための「正解」はどこにあるのでしょうか。

「技術を目的化せず、事業を育てる楽しさを知ってほしい」と語る大久保氏。自身の不器用なまでの歩みから導き出した、これからの時代を生き抜くためのリアルな生存戦略を伺います。

大久保 俊(おおくぼ・しゅん) プロフィール

株式会社シンクロ・フード 代表取締役 兼 執行役員社長。大学時代、経営学部で起業に関心を持ちながら、趣味のウェブサイト制作を通じてプログラミングに没頭。2003年の創業時、インターンとして参画。卒業後、株式会社ミツカングループ本社での営業職を経て、2008年に同社へ復帰。エンジニアとして開発組織の礎を築き、執行役員開発部長、取締役を経て、2025年12月に代表取締役に就任。技術と事業の両輪を回し、全社の「AI推進プロジェクト」を牽引する。

「負けたくない」焦燥感と、スニーカーサイトから始まった探求

—— 大久保さんは経営学部のご出身だそうですね。エンジニアを目指したきっかけは何だったのでしょうか?

大久保: もともと、漠然と「30歳までに起業したい」という思いがあったんです。創業者の藤代が起業したのが31歳だったので、「自分もそれまでに何か成し遂げないと負けだ」みたいな、若さゆえの青臭い焦燥感がずっとありましたね。

ただ、その頃は趣味のウェブサイト制作にガッツリはまっていました。当時、アディダスのスニーカーを収集していて、それを紹介するサイトを作ったのが始まりです。でも、ただ自己紹介みたいに自分のコレクションを並べるだけのテキストサイトじゃ、つまらないなと思って。いろんな人が自分のスニーカーを投稿できるような機能を作っていくうちに、プログラミングの面白さにのめり込んでいきました。

—— それが2003年頃のこと。その後、一度はミツカングループ本社へ営業職として就職されています。

大久保: 実家が農家をやっていたりして、食の業界にはずっと関心があったんです。だから内定をもらっていた大手メーカーに予定通り進みました。でも、内定後にインターンとして参加していたシンクロ・フードで、代表の藤代からITの可能性を聞くうちに、「やっぱりウェブの世界はワクワクするな」と気づいたんです。

結局、メーカーでは、業務用食品の営業として泥臭く電話をかけたりしていました。実は僕、相手のことを考えすぎちゃうタイプで、営業マンとしては全然売れなかったんです(笑)。でも、そこで「売る人の気持ち」や、「お客さんのどうしようもない事情」を肌で学べたのは、今の意思決定にも確実に生きていますね。

技術を「義務」として学び抜いた3年間

—— 2008年にシンクロ・フードへ戻られたときは、まだ10人規模の組織だったそうですね。

大久保: そうです、戻ってきた段階で10人ちょいという規模でした。戻ってからは、本気でエンジニアとしての基盤を作らなきゃいけないという「義務感」に近い意識で勉強しました。それまでは「作りたいものがあるから、手段としてコードを書く」というアマチュアのスタンスでしたが、プロのエンジニアが組織に入ってくる中で、彼らからすごい影響を受けたんです。

そこから3年間くらいは、「1ヶ月でこの本を読む」と目標を決めて名著を全部読破したり、資格もちゃんと取ったりして。情報科学の基礎を徹底的に叩き込みました。この「不器用なまでに基礎と向き合った時期」があったからこそ、今、AIが台頭しても揺るがない「エンジニアとしての考え方の基本」ができたんだと思います。

—— 「事業視点からの技術選定」という大久保さんのスタイルは、その頃に確立されたのでしょうか。

大久保: ええ。エンジニアって、「自分が使いたい」という好みやエゴで技術を選びがちじゃないですか。でも僕は、あくまで事業から逆算して、一番相性がいい技術を選定すべきだと思っています。

例えば、うちが自社システムをほぼ全て自作しているのも理由があります。飲食業界って、個人事業主と法人の間みたいな、システムに当てはめにくいお客さんがめちゃくちゃ多いんですよね。だから、既存のパッケージをドーンと入れる方が楽な局面もありますが、カスタマイズを突き詰めることが、結果的に一番事業にフィットするんです。

「コードを書く」より「サービスを育てる」への自然なシフト

—— 組織が拡大し、プレイヤーからマネジメントや経営へと立場が変わる中で、エンジニアとしてのアイデンティティに葛藤はありませんでしたか?

大久保: よくある「現場を離れたくない」みたいな悩みですよね。でも僕の場合、あんまり葛藤はなかったんです。もともと「もっといいサービスを作りたい」という気持ちが根底にあったので。

サービスを大きくするには人を増やさなきゃいけないし、人が増えればマネジメントや人事制度が必要になる。自分のやりたいことを実現するためのプロセスとして、ごく自然に受け入れていました。会社が成長する階段と、自分のやりたいことがうまく合致していたんだと思います。

—— 飲食業界のDXは、古い慣習も多く一筋縄ではいかない印象があります。

大久保: ぶっちゃけた話をすると、飲食業界ってIT企業からすると「あまり旨みがない業界」なんです。1社から大きな売上が取れるわけじゃないから、大手のITベンダーがなかなか入ってこない。

じゃあ僕らがどうやって生き残っているかというと、少人数で高い生産性を出し、大手がやらないような細かな改善をものすごいスピードで繰り返すこと。この泥臭い試行錯誤こそが、僕らの最大の強みになっています。

AI時代、エンジニアは「書く人」から「考える人」へ

—— 2024年から2025年にかけて、開発の現場は劇的に変わりました。御社では非エンジニアもコードを書いているとか。

大久保: 本当に、この1年間の変化はすごかったですね。当社ではAI推進プロジェクトを立ち上げ、今ではエンジニアじゃない現場のメンバーも、AIを使って自分で画面の見た目をいじったり、業務改善のツールを作ったりしています。

そうなると、エンジニアの役割は必然的に「コードを書くこと」から「何を作るかを一緒に考えること」へシフトしていく。これまでは「これを作ってくれ」と言われたものを形にするのが仕事でしたが、これからはもっと上流の「課題解決」にフォーカスしなきゃいけないんです。

—— AIによって技術的な問題の多くが解決できるようになる中、エンジニアが向き合うべき「人間的な課題」とはどんなものでしょうか?

大久保: 技術的な問題は、時間をかければぶっちゃけ「絶対に解決できる」フェーズに入りつつあります。でも、新規事業のように「正解がない人間的な課題」は、いくらLLMが優秀でも解けません。

例えば、僕が手がけてきたショート動画のアルバイト紹介サービス。技術的な仕組みは作れても、「撮影当日に大学生の出演者が寝坊した」とか「今日はメイクがいまいちだから出たくないと言い出した」とか、想像もしてなかったような泥臭い対人トラブルが次々と起こるんです。そういう「理屈じゃない部分」のトラブルを1個1個潰していくのがめちゃくちゃ大変で。

—— なるほど。そういったカオスな状況において、エンジニア出身である強みはどう活きるのでしょうか?

大久保: エンジニアって、全工程において「細部までどう実現するか」が見えていないと気持ち悪い生き物なんですよね。だから、経営陣が「これをドーンとやろう!」と曖昧な意思決定をしたときにも、「いや、こういう異常な使われ方をした時は大丈夫か?」とリスクを想像できる。

AIに対しても同じです。AIがもっともらしいコードを出してきても、「これ、ロジックがないじゃん」「セキュリティなどの非機能要件が抜けているじゃん」と冷徹に突っ込める。この「細部への執着」と「全体最適を視る力」は、AI時代にこそ強力な武器になるはずです。

若者よ、おじさん世代の「常識」をバカにしろ

—— これからの時代を生き抜く若手エンジニアへ、アドバイスをお願いします。

大久保: まずは「自分で完結する小さなプロダクト」を作ってみてほしいですね。横に座っている同僚向けでもいいので、誰かの不便を解決するツールを自分で考えて作って、実際に使ってもらう。

そこで「なぜか使われない」というショックをダイレクトに受けて、「なんで使われなかったんだろう」とユーザーの行動に思いを巡らせる。この経験を積むことが、AIに丸投げできない「課題解決への想像力」を鍛えてくれます。

例えば、Paizaさんのスキルチェックで高いランクを取ることは、素晴らしい基礎力の証明になります。でも、テストが通って『正解』をもらうことと、実社会で『価値』を届けることは全くの別物です。何百時間もかけて書いたコードが、誰にも使われずに終わる。そんな『正解のないショック』を一度でも受けてみると、エンジニアとしての視座はガラッと変わります。なぜ使われなかったのか、本当の課題は何だったのか。それを考えることこそが、AIには代替できない、人間ならではのクリエイティビティの源泉なんです。

—— 基礎力と想像力を磨け、ということですね。

大久保: はい。だからこそ、僕らシンクロ・フードでは、エンジニアが単なる『作業者』ではなく、サービスの主役としてそうした挑戦と失敗を繰り返せる環境を大切にしています。プロとして技術を磨くのは当たり前。その上で、ユーザーの喜びに直接触れ、時には手痛い失敗もしながら、本当の意味で『価値』を作れるチャンスを、どんどん提供していきたいと思っています。

でも最後に1つだけ言わせてください。僕みたいな「おじさん世代」の言うことを、絶対に鵜呑みにしすぎないでください(笑)。

—— えっ、ここまで語っていただいたのに!?

大久保: 僕らはどうしても「40代、50代のウェブ黎明期に成功した視点」でAIを語ってしまいます。でも、今20代の皆さんが肌で感じている「AIへの感覚」こそが、一番正しいはずなんですよ。

僕が「セキュリティの基礎が大事だ」と言っても、皆さんの感覚で「いや、そこはもうAIに任せて大丈夫だ」と思うなら、それがきっと正解なんです。かつて僕らの世代が、上の世代から「ウェブなんておもちゃだ」とバカにされながらも、全振りして突き進んだように。今の皆さんも、自分たちの最先端の感覚を信じてほしい。

今は数十年に一回の、すっごいいいタイミングの節目です。だから、上の世代の常識なんて笑い飛ばして、AIというツールを使って新しい価値を作っていってください。「多様な飲食体験から生まれるしあわせ」を、一緒に広げていってくれる熱いチャレンジャーを待っています。

 

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