株式会社BuySell Technologies(以下、バイセルテクノロジーズ)は、「バイセル」を中心に総合リユースビジネスを展開しています。リユースビジネスと聞くとアナログなイメージを持つかもしれませんが、バイセルテクノロジーズはテクノロジーとデータを活用し、急成長をとげています。

リユースのあらゆる課題をテクノロジーで解決する取り組みを進めているのが取締役CTOを務める今村 雅幸さんです。今村さんがCTOに就任した翌年末には、テクノロジー組織の社員数は約2倍に拡大。エンジニア組織の生産性指標が高い企業として、「Findy Team+ Award 2022」を受賞しています。

今村さんに、これまでのキャリアや強いエンジニア組織をつくるために意識していることなどをうかがいました。

起業を決断し、200万ユーザーを超えるサービスを生み出す

――今村さんのこれまでのキャリアについて教えてください。

今村:
2006年にヤフー株式会社に新卒入社し、ソフトウェアエンジニアとしてのキャリアをスタートしました。もともとは文系ですが、中学から大学までプログラミングが好きでずっとやっていたんです。プログラミングを好きになったのは、実家の影響が大きいです。

実家が街の電気屋さんでPCがお店にあり、興味を持って触りはじめたのが、プログラミングに興味を持ったきっかけです。

ヤフーではライフスタイル系のメディアを運営している部署に配属され、サービス開発に携わっていました。入社して2年くらい経ったときに、プロジェクトマネジャーをしていた方から会議室に呼び出されました。

ブラウザの画面上で、いろいろな服をドラッグ&ドロップして購入するようなサイトを見せられて「これつくれる?」と聞かれたんです。「つくれますよ」と答えたら「じゃあ一緒にやろう」と言われ、その場で「いいですね」と返事をして起業が決まりました。1秒くらいで決断しましたね。

――決断のスピードがはやいですね。なぜ、その場で決断したのでしょうか?

今村:
入社2年目の段階である程度システムをつくれるようになっていたので、これなら仕事を失うことはないと思っていました。ヤフーでもサービスの開発を任されるようになっていて、自分たちだけでもやっていけると思いはじめていた時期でした。

創業したVASILYでは、「IQON」というファッション系SNSのサービスをつくっていました。日本中のファッションECサイトの画像を集めてきて、それをユーザーがコラージュできます。ユーザー自身でコーディネート画像をつくれて、投稿できて、見た人はそこから服を買えるサービスです。

最終的にIQONのユーザー数は200万人を超え、大きなサービスに成長しました。

ZOZOテクノロジーズのCTOからバイセルテクノロジーズのCTOへ

――VASILYは、2017年にスタートトゥデイ(現:ZOZO)のグループ入りをしています。どのような経緯でそうなったのでしょうか?

今村:
事業をはじめて8年ほど経ったときに、前澤さん(スタートトゥデイ創業者)とお話しする機会がありました。ZOZOは当時ZOZOSUITなどの開発に着手しはじめていた時期で、テクノロジーやエンジニア組織を強化していきたい、わたしたちは、より大きなことがしたいと考えていたタイミングでした。お互いの利害が一致して、一緒にやっていくことになったんです。

VASILYの全社員がZOZO にジョインする形で2018年4月に吸収合併され、1つの会社となりました。会社統合とともに、わたしはZOZOテクノロジーズの執行役員 CTOに就任しました。

――ZOZOテクノロジーズの執行役員 CTOを経て、2021年3月にバイセルテクノロジーズへ転職されています。転職した理由を教えてください。

今村:
一言でいうとワクワクしたからです。

VASILYでは、スタートアップとして強いエンジニア組織をつくりました。「これって再現性はあるのかな?」と思い、ZOZOテクノロジーズでは、より大きな規模で強いエンジニア組織をつくる検証をしました。結果、エンジニア組織は100名から400名くらいまで増え、大きく変えられたと思います。

わたしは新卒で入ったヤフーの時代から、ずっと「ファッション ✕ IT」の仕事をしていました。次のチャレンジとして、ファッション業界以外でエンジニア組織作りの再現性がどれだけあるのかを試してみたいと考えていました。

ただ、ZOZOテクノロジーズを辞めようとは、まったく思っていなかったんです。

そんなとき、バイセルテクノロジーズ会長の吉村に会う機会があり、会社やリユース業界の話を聞いて、テクノロジーを活用できれば、さらに伸ばせる可能性があると考え、チャレンジしようと決めました。

エンジニア採用で意識していること

――今村さんはCTO歴が長く、エンジニアの採用、教育、評価などもされてきたと思います。エンジニアを採用するときに、意識していることがあれば教えてください。

今村:
大きく分けて「カルチャーフィット」と「スキルセット」を見ています。

カルチャーフィットでは、組織に合いそうかと同時に、会社やプロダクトなどへの想いを重要視しています。

スキルセットでは技術力はもちろんですがエンジニアとしての伸びしろ、主に「素直さ」と「好奇心」を見ていますね。

素直さは、ただ言われたことをやるという意味ではありません。やる意義や自分の考えを、素直に考えたり述べたりできることが重要です。

素直な人と素直ではない人では、素直な人のほうが圧倒的に成長機会が多いし、チームでのコラボレーションもしやすいです。

好奇心は、いろいろな新しい技術やサービスにどれぐらい興味をもっているかどうかですね。エンジニアは、常に学ぶ必要のある職業だと思うので、そもそもインターネットやテクノロジーが好きでないと、なかなか成長しません。

エンジニアの教育ではコードを書く以外のことも教える

――新卒エンジニアの教育は、どのようにされているのでしょうか。

今村:
メンター制度があり、新卒社員全員にメンターがつきます。ピープルマネジメント的なメンターに加え、技術的な意味でテックリードもメンターにつきます。困ったときに何でも聞ける体制です。

新卒は日報を書いていて、その内容に対してメンターがコメントしたり、困っていることがあれば助けたりしています。

研修では、プロダクト開発に必要な要件定義の仕方や企画の立て方などを学びます。その後、少人数のチームで実際の社内の課題を解決するプロダクトを開発する「プロダクト開発研修」などを行います。

エンジニアの仕事はコードを書くだけではありません。ヒアリングや要件定義、ステークホルダーとの調整など、コードを書く以外のこともしっかり覚える必要があるので、このような研修をしています。

――中途で入社してくるエンジニアの教育はどのようにされていますか?

今村:
中途入社の場合、教育というよりは成長できるような評価制度や成長に繋がる仕組みをつくっています。成長に必要なものには、すべて投資する方針です。

書籍購入やAWSやGCPなどのインフラを学ぶための費用、社内外の勉強会にかかる費用、IT系の資格取得にかかる費用も補助します。カンファレンスの参加費用も補助していますね。遠方で開催される場合、交通費もすべて出します。

ほかにも、スポンサーとしてカンファレンスにも投資してメンバーに登壇してもらったり、ブースを出展してもらったりしています。そういう場に行くこと自体が学びにつながりますから。

この方針は、わたしが入社してから決めました。それだけでなく、評価制度や給与テーブルなどもよりエンジニアの成長に繋がるような形に大幅に変えています。

評価はみんなを成長させるための羅針盤

――評価制度も変えたのですね。評価制度をどうすればいいかと悩む会社は多いと思います。今村さんの評価制度への考え方を教えてください。

今村:
まず、エンジニアたちには「評価制度というのは、給与を決めるためのものではないです」と宣言しています。評価とは、みんなを成長させるための羅針盤です。エンジニアの成長を測るのは難しいので、自分の成長を実感しやすくするために大事なのが「可視化」と「定量化」です。

会社ごとに優秀なエンジニアの定義は違うので、当社では自分たちの考える理想のエンジニア像を定義しています。

大前提として、当社には「ホスピタリティ(献身性)」「プロフェッショナル(専門性)」「クリエイティブ(創造性)」という3つのバリューがあります。これらのバリューをエンジニアから見た軸として、因数分解していくんです。10個くらいの軸に分解したなかで、その人のグレードに合った期待値をマトリクス上に設定します。「このグレードなら、ホスピタリティではこういう行動をしてほしい」と、すべて定義されているんです。

評価を他人と比較しても、あまり意味はないと思っています。過去の自分と比べてどれくらい成長したかは、少なくとも自分でわかるじゃないですか。なので、そこを唯一の評価軸としていますし、評価する側もそういう意識です。

強いエンジニア組織をつくるうえで大事なこと

――御社ではエンジニアの数が1年で約2倍に増え、生産性も向上しています。強いエンジニア組織をつくるうえで、大事なことはなんでしょうか?

今村:
強いエンジニア組織とは、事業貢献でき組織だと思います。

プロダクトをつくるだけでは足りません。「自分の開発が売上・利益を支えるビジネスKPIの、どこにどれくらい効果的かを説明できるように」と、当社のエンジニアには伝えています。

エンジニアは、何のために開発するのかをどうしても忘れがちです。つくって満足するケースが結構あると思います。

そうならないように、しっかりとビジネス側と成果に対して、すり合わせることを強く意識していますね。

今村さんが今後取り組みたいこと

――今村さん個人として、今後取り組みたいことを教えてください。

今村:
世の中にCTOを増やしたいです。日本全体、いろいろな産業でDXしていく必要性があると思いますが、DXを推進するためには、ステークホルダーを巻き込んで交渉したりと、技術力だけあれば良いという訳ではありません。

世の中をさらに便利にしたいと思ったときに、それを推進できる人が圧倒的に少ないんですよ。CTOを増やすためにできることがあれば、すべてやっていきたいと思っています。そのためにCTO協会で活動をしています。

――今村さんがバイセルテクノロジーズで現在取り組んでいること、今後取り組みたいことを教えてください。

今村:
メインで取り組んでいるのは、エンジニアの組織づくりと、リユースプラットフォーム「Cosmos」の開発です。

リユースプラットフォーム「Cosmos」の概念図

今村:
いままでのバイセルは、出張買取をメインにやってきましたが、最近ではM&Aを進め、百貨店に買取店舗を展開したりBtoBのオークションを持ったりしている会社や全国に200店舗以上のFC展開している会社がバイセルグループに加わりました。これによって、買取も販売もチャネルが大きく広がりました。

今後は増えていくチャネルに対して、しっかりと効率化していけるものをつくらないと、ビジネススピードに追いつけません。

あらゆる買取販売チャネルに対応し、データも一気通貫で利用できるリユースプラットフォームをつくろうと考え、Cosmosの開発を推進しています。Cosmosを用いてバイセルグループのDXを推進していくだけではなく、今後はリユース業界全体のDXも大きく推進していきたいなと考えています。

(取材/文:川崎博則

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