ビジョンは「世界のラストワンマイルを最適化する」。

名古屋市に本社をおき、東京・大阪にも拠点を持つ株式会社オプティマインドは、ラストワンマイルに特化したルート最適化サービス「Loogia」を開発・提供する名古屋大学発スタートアップです。組合せ最適化アルゴリズムとデータ解析をコア技術としています。

「AIによる最適化というと、感情を無視した、無機質な印象を持つかもしれません。しかし、私たちは現場の人の心に寄り添い、一番よい解を模索し続けたいと考えて、最適化(オプティマイゼーション)と心(マインド)をあわせた造語を社名としました」

そう語るのは、代表取締役社長の松下健さんです。最先端のテクノロジーで社会課題に挑み、ほしいときにものが届くという当たり前を守り、人々の幸せな生活を下支えすることを目指す松下さんにお話を聞きました。

技術力で物流クライシスという社会課題に挑む


ーー学生ベンチャーとして起業されたそうですが、大学では何を研究をされていたのですか?

松下健(以下、松下):
私は名古屋大学の情報文化学部(現 情報学部)でアルゴリズムを学びました。研究テーマは「組合せ最適化」。列車のダイヤや看護師さんの勤務シフトをどう組むといいのか、1枚の鉄板に自動車部品をどう割り当てると最も廃棄が最小化するか、などを数学で解く問題です。

選べる組合せの中から一番よいものをなるべく短時間で探し出すためにはどうすればいいかという研究のテーマのひとつに、「ルート最適化」がありました。

その後、名古屋大学大学院に進み、大学院1年のとき(2015年)に、学生ベンチャーとして「合同会社オプティマインド」を設立。私の学生起業家としてのキャリアが始まりました。

ーー組合せ最適化は、いろいろな分野に役立てられそうですが、その中であえて物流を選んだ理由を教えてください。

松下:
最初から物流一本に絞っていたわけではなく、創業時はアルゴリズムを広く産業に活かせればいいな、と考えていたんです。しかし、その2年後、2017年に東洋経済のニュースを皮切りに「物流クライシス」が社会課題となりました。

物流クライシスとは、eコマース(EC)の普及によって物流量が増えているのに人が足りず、物流が機能不全に陥ってしまうこと。ものが運べなくなることに加え、長時間労働が慢性化してドライバーさんの労働環境が過酷化することも大きな問題です。

そのころ、研究室の先輩だった凄腕エンジニアがオプティマインドにジョインしてくれました。彼が最も得意としていたのが物流の最適化であり、世の中で物流クライシスが深刻化していたので、強い技術と社会課題がマッチする物流に注力することを決めました。

ーーオプティマインドの掲げる「世界のラストワンマイルを最適化する」というビジョンにはどんな想いが込められているのか教えてください。

松下:
ラストワンマイルとは、物流の最終拠点からエンドユーザーまでの配送の最終区間を指す言葉です。エンドユーザーは個人宅とは限りません。身の回りにあるものにはすべて物流が関係していて、コンビニにお弁当が並んでいるのも、薬局に薬が並んでいるのも、店舗までのラストワンマイルを届けている人がいるからです。

私たちは「世界のラストワンマイルを最適化する」というビジョンを掲げています。物流業界は、ドラッカーが「最後の暗黒大陸」と名付けた非常に難しい領域です。社会課題が深刻で、そこに対してさまざまな立場のステークホルダーがいることで不合理性が発生しています。

荷物を出す側(発荷主)にとってよいことでも物流会社からすると大変なことだったり、物流会社にとってよいことでもドライバーさんからするとハードだったり、ドライバーさんにとってやりやすくても荷物を受け取る側(着荷主)からすると不便なことだったり……。

誰かの課題を解決すれば済むものではなく、ステークホルダーがトレードオフの関係にあり、ものすごい不合理性があるんです。「世界のラストワンマイルを最適化する」のビジョンには、「絶対的な答えのない中でも一番よい解を模索し続ける」という想いを込めています。

自動配車クラウド「Loogia(ルージア)」

画像提供:オプティマインド

ーー自動配車クラウド「Loogia(ルージア)」について教えてください。

松下:
Loogia(ルージア)」はラストワンマイルに特化したルート最適化クラウドサービスです。AIが組み込まれたバーティカルSaaS(業界・業種に特化したSaaS)で、現場制約や収集したGPSデータの解析によって得られた情報を加味して「どの車両が、どの訪問先を、どの順に回るか」という配送計画を提案します。

荷主・運送会社、自社物流・委託物流を問わず、幅広い配送業態で簡単に高精度な配車計画・配送ルートを作成でき、配送業務を効率化(稼働車両の削減、配車時間の短縮)ができるのが特長です。佐川急便社や日本郵便社など、のべ180社以上にサービスを展開しています。

ーー従来の配車システムとどう差別化を図ったのでしょうか?

松下:
配車システム自体は1990年ぐらいから存在しました。一昔前はオンプレミスといって、お客様側でサーバを立てて、そこにソフトウェアを納品する方法がスタンダードでした。でも、当時はアルゴリズムの精度も未熟でしたし、サーバの維持費も高く、実用的でないと判断されて現場ではあまり使われていなかったんです。

2015年ころからAIブームが始まり、テクノロジーが進化してクラウドで業務用ソフトウェアが使われるようになりました。私たちがLoogiaをリリースしたのは2018年。配車システムを扱う競合他社は多く、レッドオーシャン化していましたが、現実的に活用されていないという意味ではブルーオーシャンといえるのではないかと考えたのです。

最先端の最適化アルゴリズムを自社開発してクラウドをかけあわせたら、従来の配車システムとは一線を画す高度なサービスが実現でき、普及するのではないかと仮説を立てました。

ーーリリース後のお客様からの評価はいかがでしたか?

松下:
最初からうまくいったわけではありません。リリースしてから2〜3年は、契約していただいても現場で使えなかったり、お客様が求める機能が揃ってなかったりして、厳しかったですね。

お客様が「こういう性能がほしいんだけど」といったものを一つひとつ数式に落とし込んで、検証してプログラムにしていくには半年ほどの研究開発が必要になります。それを10人ほどのエンジニアでひたすら繰り返し、しだいにお客様に認められるサービスになっていきました。

資金調達をして10億円を投資し、エンジニアチームが精力的に開発を進めたことで、Loogiaがより「使えるもの」になり、導入してくださるお客様が増えていったと思っています。

ーーお客様が求める機能を盛り込むにあたって、工夫していることがあれば教えてください。

松下:
私たちは現場にこそ解決の糸口が隠されていると考え、「現場百遍(げんばひゃっぺん)」という文化を大切にしています。弊社には物流会社出身のメンバーがいるわけでもなく、空調の効いた部屋でコードを書いているだけでは、なかなかお客様の真意はわかりません。

足しげくお客様のところに通い、ドライバーさんの横に乗せてもらって、一日の配送を一緒におこないながら、話を聞いたり、目線を追ったりすることで、改善を繰り返しました。誰でも直感的に使えるシンプルなUIが望ましいので、ドライバーさんが操作に迷うところがあれば、それも改善ポイントです。

お客様の配送業務の形態によって、求める機能はかなり違います。配送だけをしているのか、あるいは集荷もあるのか。配送先にはトラックを必ず左付けにしなくてはならないかどうか。徹底的にヒアリングして、個別の開発を積極的におこなっています。

それが功を奏し、最近は「そうそう、こういう機能が欲しかったんだよ」「すごい痒いところに目が届くね」と言っていただけることが増え、認められてきたと感じています。

最先端テクノロジーによる「ズレない」自動配車

ーー現実問題として「計画通りに走れない」といった悩みは発生しないのでしょうか?

松下:
私たちは、あらかじめ精度の高い計画を作れるからこそ、配送現場が運行・配送に集中できると考えています。事実、一日の配送計画と実走行とのズレは、わずか十数分以内です。

立てた計画通りに運べるのは、すべての道路ネットワーク上で数十万台のGPS データ(実際の走行車両から収集したビッグデータ)を使って統計解析をおこない、 全国の道路の特徴を抽出して速度推定をかけ、実際のデータをもとに速度を試算しているためです。

Loogiaは、いかに高速に効率のよい配送ルートを組むかという「配送計画問題」に対して、「メタヒューリスティクス」という手法を活用しています。

組合せ最適化問題は、スーパーコンピュータを使っても数百年かかるといわれる「解けない問題」です。しかし、メタヒューリスティクスを用いれば、限られた時間内で、一番いい解とは言い切れないけれど、そこそこいい解を出すことができます。

ーー「そこそこいい解」が、たとえば85点なら有益だと思うのですが、もしも40点だったら、あまり役に立たないことになりませんか?

松下:
少し説明が難しいのですが、前提として、計算している私たちも、その解が何点なのかわかっていません。その判断は「NP困難」といって、数学上の未解決問題なんです。

10分なら10分という時間内に、一番いいと思われる解を出します。でも、それが何点なのかを振り返れないのがこの技術の難しいところです。「40点の解だったら役に立たないのでは?」という疑問については、基本的にお客様からの評価を見るようにしています。

評価がいまいちなら出した解が適切でないということなので、フィードバックをもとにアルゴリズムを改善したり、計算時間を少し長く設定したり、より高速化したりといった工夫をして、ひたすらお客様に「どうですか?」と聞くわけです。最後はそのお客様がよいと思うかどうかなので、よいと言ってもらえるまで改善を繰り返します。

たとえば、レストランのシェフが自分の料理の味を判断できないとして、お客様が不満そうだったり二度と来てくれなかったりしたら「おいしくない」、すごく喜んでリピーターになってくれるなら「おいしい」、と推測できるのに似ているかもしれません。

料理でいうところの塩加減のように、パラメーターが出せないままチューニングをし続けて、どんどんズレない自動配車に近づけることができています。さらに、近々「お客様が何を最大化したいのか」という目的関数をフレキシブルに変更できる新機能をリリースする予定です。

人々の幸せな生活をテクノロジーで下支えしたい


ーー最初に不合理性について話してくれましたが、Loogiaを導入したい運送会社とドライバーさんの間で意識の違いはありますか?

松下:
経営者は導入したいけれどドライバーは入れたくない、といったケースは珍しくありません。
私たちのお客様は大企業が多く、意思決定者が経営者ではなく、物流本部長・取締役・執行役の場合もありますが、彼らはP/L上のコストを下げたいと思っています。

さらに、Loogiaを導入すれば業務が属人化しないので、人材育成コストや高齢化するベテランドライバーさんへの依存リスクを減らせるのもメリットです。

しかし、ドライバーさんは、同じ給料なのにより厳しい条件で運ばなくてはならなかったり、自分なりに工夫して運んでいたのにAIに決められた通りに運ばなくてはいけないと言われたりしたら、面白くはないでしょう。

オプティマインドの「マインド」は「現場の心」を表していますが、経営者も経営という現場であり、ドライバーさんも配送という現場です。一方を無視すればいいというものではなく、私たちは両方を見る必要があります。

有名な倫理的ジレンマ「トロッコ問題」と同じで、どちらが正解でもないんです。「世界のラストワンマイルを最適化する」ために、経営者にも喜んでもらえて、ドライバーさんの気持ちにも寄り添えるような最適解を、いまだに悩みながら探し続けています。

ーー現在、松下さんが感じている大変さや面白さがあれば教えてください。

松下:
業種に関係なく特定の業務に使われる会計クラウドサービスや人事クラウドサービスといったホリゾンタルSaaSは、かなり世の中に普及してきました。

しかし、私たちが挑んでいる物流業界は、実際に人がいて、品物が動いて、トラックが動いています。そうしたリアルな産業は、Web上では解決できないことが多く、課題が深いです。

お客様も今までずっと「カン・コツ・経験」でやってきたので、属人化から脱却するためには「カン・コツ・経験」を紐解いて、課題を洗い出すところからやらなくてはいけません。

開発者は、お客様自身も言語化できていない「カン・コツ・経験」をどんなプログラミングにしたら解けるのか考え、課題に対してアルゴリズムやデータ解析などのディープテックを応用していく必要があります。

課題はどこまでも深く、技術は難しい。だからこそ、社会課題に真っ向から挑んでいるという面白さがあると思っています。

ーー最後に、オプティマインドが目指す未来を教えてください。

松下:
物流クライシスは年々深刻化しており、2030年には30%以上の荷物を運べなくなるといわれています。そうなると、地方に住んでいる人が通販で買い物をしたとき都心に比べて2倍の配送料がかかる、コンビニは夕方以降棚がガラガラになる、といったことも起こりうるでしょう。

どんなにデジタル化が進んでも、私たちの生活からものがなくなることはありません。ものが届くという当たり前を守り、人々の幸せな生活をテクノロジーで下支えしたい。それが私たちの使命だと思っています。

今後、物流業界に限らず、介護施設への送迎やタクシーのように人・もの・サービスが街中で複雑に動いていくでしょう。私たちは「ラストワンマイル車両にはLoogiaが当たり前」となる世界をつくり、街全体の最適化をグローバルで実現することを目指します。

テクノロジーで多様化し複雑化する輸配送ニーズを満たし続けることができれば、誰もがそれぞれの価値観に基づいた生活を持続できる未来がきっと訪れるはずです。

オプティマインド
https://www.optimind.tech/
Loogia
https://loogia.jp/

(取材/文/撮影:ayan

presented by paiza

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