「課題先進国」とも呼ばれる日本。現在、事業そのもので社会課題の解決を目指すソーシャルビジネスに取り組む企業が増えている。今回は、障がい者などリードユーザーとの共創により新たな価値創出を行う「インクルーシブデザイン」の可能性に着目し、新たな世界のあり方を見据えるPLAYWORKS株式会社(以下、PLAYWORKS)のタキザワケイタ氏を取材。タキザワ氏が大事にする仕事への考え方や、その流儀を聞いた。


タキザワケイタ氏
PLAYWORKS株式会社 代表取締役 インクルーシブデザイナー
千葉工業大学を卒業後、建築設計事務所、企画会社、広告代理店を経て、2020年4月インクルーシブデザイン・コンサルティングファームPLAYWORKS株式会社を設立。

デジタル社会の今こそ「生の情報」を取りにいく

「活動の原点は、広告代理店に勤めていた時に、妻が妊娠したことでした。その時にマタニティマークのことを知って、その使い方やどこで手に入るのかを調べようと、Googleで検索したんです。そうしたら『マタニティマーク 嫌がらせ』『マタニティマーク 危険』など、筆舌に尽くし難いネガティブな関連ワードが提示されました。

『このままの日本では、自分の娘が妊婦になった時に恥ずかしい。この社会をどうにかしたい』と思ったのがきっかけでした」

インタビュー冒頭、タキザワさんはPLAYWORKSの成り立ちを話してくれた。上述のように、最初のきっかけはタキザワさんにとって愕然とする、社会の歪みだった。そのような原体験が、タキザワさんを突き動かした。

「最初に、マタニティマークの中に発信機を埋め込んで、 妊婦さんが電車で立っているのがつらい時にそれを押すと、近くの人のスマホにプッシュ通知が届いて、マッチングする『スマート・マタニティマーク』というアイデアを考えました。それがGoogle主催のコンテスト『Android Experiments OBJECT』でグランプリを獲得して、プロトタイプを発表しました。

そこで妊婦の方々から賛同していただいたとともに、障がいのある人からもたくさんの声が寄せられたんです。『この仕組みを障がいのある人にも役立ててほしい』と。それがきっかけで障がいのある方にインタビューをしたり、一緒にサービスをつくっていったりしたのが、インクルーシブデザインに取り組むようになったはじまりです」

そのようなきっかけから、タキザワさんは着実に歩みを進めた。当初は有志によるプロボノチームでブラッシュアップを進め、ついには「&HAND」というプロダクトを開発する。このサービスは妊婦や障がい者だけではなく、訪日外国人など外出時に手助けを必要とするすべての人を対象とし、LINEアプリで利用できるサービスとした。

「&HAND」は「LINE BOT AWARDS」でグランプリを受賞。賞金1,000万円を獲得し、それを元手に一般社団法人PLAYERSを設立。東京メトロやJR東日本、ANA、ソニー、ブラインドサッカー協会などと実証実験を行っていった。その一方で、コロナ禍に入った2020年4月、タキザワさんはインクルーシブデザインに特化した事業に取り組むため、PLAYWORKS株式会社を創業した。

「PLAYERSには現在もリーダーとして参画していて、社会課題の解決を目的とした活動を行っています。PLAYWORKSの創業は、活動を共にした当事者の存在があってこそのもの。事業としてより大きな社会的なインパクトを生み出したいと思ったからです。

今も大切にしていることは自ら『生の情報』を取りにいくこと。とにもかくにも当事者の話を聞くことや、現場に実際に行くことを大切にしています」

実際に問題が起きている現場に足を運び、体験し、観察し、当事者の声を聞く。そのような考えは、PLAYWORKSの地盤となっている。

「現代ではWebやChatGPTで得られる情報は多いですが、そこからは得られない一次情報を自ら取りにいき、そこから得られた情報や感じたことを大切にしています。

当社では大学生のインターンが5名いますが、若い世代に学びの機会を提供したいという思いと同時に、『Z世代が考えていることを知っておきたい』という目的もあります(笑)」

絶えない好奇心を持ちつつも、俯瞰で考え本質を見抜く

現在、「社会課題の解決」は巷で叫ばれる言葉だ。しかし、「社会課題」という言葉の裏には非常に複合的な意義がある。同社が支援するインクルーシブデザインは、視覚障がいや聴覚障がい、身体不自由などが対象となっている。事業を営む上で、考慮すべきものが山積しているように思えるが、タキザワさんはどのようなマインドを持っているのだろうか。

「私が大事にしていることの2つ目は、全体を捉えた上で本質を見抜くことですね。社会課題はすごく複雑で、一つの施策で解決することなんてありません。よかれと思ってやってみたことが、新たな課題を生んでしまうこともあり、 複雑に絡み合っているものです。加えて、社会の変化によって一挙に状況が変わったりもします。

だからこそ、一部の課題とかユーザーの困り事だけじゃなくて、社会全体を捉えた上で、今やるべきことは何なのかをトコトン考え抜きます」

その一方で、『一次情報と俯瞰とのバランスは重要だ』とタキザワさんは説く。ユーザーや当事者の生の声があり、その集積で生まれるのが全体でもあり、一次情報の解像度の高さも同時に求められるからだ。

「そのため、3つ目に大事にしていることは、好奇心を絶やさないこと。障がいがある方が様々な困難を抱えていることは事実です。ただ、私にとってリードユーザーは『新しい発見に気づかせてくれる大切な仲間』です。そういった好奇心というか、知らなかったことを知りたいという気持ち、好奇心は常に持ち続けたいと思っています」

障がい者向けだからこそ、クリエイティブにこだわる

クラウドファンディングで掲出された「ココテープ」のクリエイティブ(提供:PLAYWORKS)

インクルーシブデザインは、「デザイン」の名の通り、そこには創造性が求められる。しかし、そこにはリードユーザーの声から導き出される声も大きいという。

「PLAYWORKSには社員がおらず、プロジェクトに応じてアートディレクター、コピーライター、映像クリエイターなど業務委託のメンバーでチームをつくっています。そして、『常にクリエイティブに』こだわっています」

実際、「ココテープ」のクリエイティブは弱視の方でも認識しやすいパターンが採用されていたり、紙の印刷物には点字が打たれているなど、アクセシビリティとデザインが両立したクリエイティブだ。

「ビジュアルが『障がい者向け』にならないように意識しました。障がい者向けであることやアクセシビリティに配慮することを、表現の制約にしてしまうのではなく、リードユーザーと共にクリエイティブの可能性を探求したいと思っています」

よいクリエイティブを行い、よりよいインクルーシブデザインを世に出していく。これはPLAYWORKSの代表として、またインクルーシブデザインの普及のためにも重視していることだ。

「ココテープ」のビジュアル画像(提供:PLAYWORKS)

「社会実装という点は、非常に重視しています。実際、私が株式会社を創業したのは、より実効性が高く持続可能な展開ができると考えたからです。なので、社会実装のために儲けることも大切にしています。

そのためにも、PLAYWORKSの活動に共感していただける企業様に対し、リードユーザーと共に伴走支援をし続けていきたいです」

ここまで、タキザワさんにPLAYWORKSの代表取締役としてのあり方を聞いてきた。最後に、タキザワさん本人としての、仕事の流儀を聞いた。

「これはあらゆるビジネスに共通すると思いますが、最終的な決断にいたっては、自分の直感を信じるしかないと思います。直感を信じて最後までやり切る。このマインドは経営者として、ビジネスパーソンとして常に持ち続けています」

(取材/文/撮影:川島大雅

― presented by paiza

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