あらゆるスペースを時間単位で貸し借りできる、日本最大のレンタルスペース予約サイトを運営するスペースマーケット。2014年の会社設立以来、右肩上がりに成長し、それにともない組織も拡大。設立からわずか5年後の2019年には株式上場を果たしました。

シェアリングエコノミー界のリーディングカンパニーの組織運営とは?今年1月にスペースマーケットのVPoEに就任した成原聡一朗氏に、エンジニア目線での組織運営論をお聞きしました。

成原 聡一朗(なりはら・そういちろう)プロフィール

1988年、札幌市出身。
23歳のとき、WEBの世界に魅了され、独学でデザインなどを学習しWEBデザイナーとしてキャリアをスタート。
受託制作会社で数年キャリアを積んだのち、WEBにおけるJavaScriptの可能性に魅了され、フロントエンドエンジニアに転向。
スペースマーケットに入社後、テックリードとして経験を積んだのち、マネージャー職を拝命。
エンジニアリング領域でのマネージメントの面白さ、奥深さに気がつき、本格的にマネージメント領域に没頭。
2023年1月より、エンジニア組織全体を統括するVPoEに就任。

3つの軸で探した新しい転職先

――スペースマーケットの事業に出会った経緯、インスピレーションを感じたときのエピソードをお聞かせください。

成原聡一朗氏(以下、成原):前職を退職しようと、新しい仕事を探していたときにスカウトを受けたのが始まりです。そのときは、3つの軸を重視して仕事を探していました。一つ目は経済的なところ。私には子どもが2人いるので、年収を極端に下げるわけにはいきません。二つ目が技術的な環境です。前職では技術的な面でいうとレガシーなところがありました。今後の自身の生存戦略として、モダンな技術に触れる環境を選びたいと考えていました。

三つめは人です。次に行く会社は長く働きたい、より会社の事業にコミットしていきたいと考えていました。そうしたときに、一緒に働くメンバーが自分と合わないようだと長く働けないなと感じていました。この3つの軸を観点に、いろいろな会社とお話しさせていただきましたが、その中で自分の考えと一番マッチしたのがスペースマーケットでした。

――三つ目の人という部分で一番の決め手となったのはどのあたりだったのでしょうか。

成原:スペースマーケットで特徴的なのは、フラットコミュニケーションというカルチャーで、相手のことを気遣って話すというものです。私が会社に入って良かったなと思ったのは、社内のドキュメントに「クソコードと言わないように」という書き込みがあったときですね(笑)。「こういう設計だと良くないです」と言えばいいのに、幼稚な言い方で「クソコード」とか言いがちなんですよ。そういうことを言う、ブリリアントジャーク(Brilliant Jerk)的な人は組織のパフォーマンスを落とすと思うんです。このドキュメントを書いたのが、元CPOの三重野(三重野政幸執行役員)なのですが、こうした考え方が経営トップから徹底されているのが魅力でしたね。

――成原さんがスペースマーケットに参画したのは2020年。前年に上場を果たしており、組織の基盤はすでにでき上がっていたと思います。そんな中でスムーズに入っていけたのは、コミュニケーションがフラットにできるカルチャーがベースにあったことはやはり大きいのでしょうか。

成原:そうですね。大きかったと思います。スペースマーケットでは、良い意味でネゴシエーションは必要としません。たとえば大きな組織の場合、ミーティング前のミーティングとかやりがちですよね。スペースマーケットはそういったことはなくて、「ちゃんと筋道が通っているならやっていいよ」と言われていたので、やりやすいなと思っていました。私も今、メンバーから提案を受けるポジションなのですが、「筋道が通っていればやっていいよ」と言っています。こういったカルチャーは続けていきたいと思っています。

「マネージャーなんか絶対になりたくない」からの転機

――今、成原さんのチームの体制はどのようになっていて、部下は何人くらいいるのでしょうか。

成原:エンジニア組織だけで、約20人です。

――転職活動をする際に、規模の大きさは重視していたのでしょうか。

成原:次の会社でも自分が手を動かしたいと思っていましたので、意思決定のスピードが速い会社が良いと思っていました。組織の規模としては10名から20名ですね。

――前職ではマネージメントの経験はあったのでしょうか。

成原:マネージメントの経験はまったくありませんでした。私はもともと完全なプレイヤー気質の人間です。コードを書くのが好きで、マネージメントがメインとなった今でも書きます。参画した当初は、自分の力を妄信していたところがあって、「マネージャーなんか絶対にはなりたくない」と思っていましたね。

――どんな職業にも言えることだと思うのですが、プレイヤーからマネージャーに意識を変えるのは大変なことだと思います。転機のようなものはあったのでしょうか。

成原:はじめてプロジェクトマネージャーをやったときに、プロジェクトの進行が遅れてしまったんですね。そのプロジェクトは結果的には成功したと言われているのですが、プロジェクトマネージメントの観点からは失敗なんですよね、1か月半くらい進行が遅れてしまいましたので。その直後に、第2子の産休に入ったのですが、その時期にすごく反省しました。「なぜ、メンバーにあんなに負荷をかけてしまったのだろう」と考えたときに、バイアスがかかった思考に陥っていたことに気づいたんです。

たとえば、「自分だったらこれくらいでできるだろう」「ここはこう判断しなければならないのは分かるでしょう」といったように、希望的見積もりをメンバーに押し付ける思考になっていたんですね。そのとき、自分ひとりではどうにもならない、一緒に働く人たちの成長にどう寄与していけるかという考え方に変えようと思いました。

――育休が明けて復帰するわけですが、どのような部分を変えていったのでしょうか。

成原:まず、1on1での話し方を意識して変えました。たとえばメンバーから相談を受けたときに、メンバーの疑問に対して「それはこういうことだよ」とは言えるんですよね。こちらは経験則があるので、答えを出すことはできます。だけど、それでは彼らの知識に定着しないのでは、と思うようになりました。メンバーのラバーダッキング相手のように話を傾聴することを意識するようになりました。

――成原さんは、自分のスキルアップとマネージメント力を高めることの両立に悩むようなことはありましたか? いろいろなタスクを作っていく中で、自分が作業をする時間をあえて設けるということはあるのでしょうか。

成原:すごく太ってるパーソナルトレーナーみたいになるのが嫌で、それに少しでも抗うために新たな技術を身につけるための社内勉強会などには参加しています。ただ、自分で作業をするということでは失敗を経験しています。以前、自分で手を動かしたくなったからスポットのタスクをやったことがあったのですが、結局できなかったんですね。というのも、コードを書くときは、3~4時間は集中する時間が必要なんです。その時間に細切れでミーティングが入っていると、集中できない。それで、そういったスポット的なタスクはやらないと決めました。「コードを書きたい」というのは自分の欲求であって、組織として見るとそれは決して良いことではない。ということで、メンバーにどんどん作業を渡していくということを意識しています。

組織づくりでめざす理想のカタチとは?

――成原さんが参画したこの3年ほどで、スペースマーケットは大きく組織編成を変えています。チーム編成の経緯を教えてください。

成原:最初は、職能横断型のチームがあって、マネージャーが施策に対して自分の持っているチームメンバーを派遣するというプロジェクトアサイン制をと取っていました。ただ、プロジェクトアサイン制には、やっとチームが回り始めてもすぐに解散になったりだとか、チームとしての経験値を貯めるのが難しかったりという課題があります。その課題を克服するために、プロダクトチーム制に移行しました。このときは、プロダクトチーム制と職能区切りのチームが混在していて、横串でフロントエンド、バックエンド、モバイル、縦串でプロダクトチーム制という編成でした。

ただこうなると、たとえば朝会を2回しなければならないといった別の課題が見えてくるんですね。それで現在は、プロダクトチーム制に完全に一本化しました。職能単位のつながりは、チャプターという制度を導入しています。チャプターでは、毎週金曜日に集まって技術的負債の返却やメンバー育成を行うなど、学びの場を設けています。

――チャプターを導入しなければならないなと思ったきっかけはあったのでしょうか?

成原:メンバーから相談を受けているうちに、「そもそも足りていない知識やスキルがあって、それもっと教育していかなければならない」ということに気が付きました。もう一つが技術的負債の返済が進んでいないという課題。この2つの課題を合わせて解決するために、チャプターを導入しました。私はメンバーに「もっと良いキャリアプランを歩んでいってほしい。転職するなら年収を200万円くらい上げてね」とよく言っているのですが、そのためには学習が必要です。メンバーが学習することはメンバー個人にとってももちろんですが、組織のためにもなることです。

――スペースマーケットでは、個人のキャリアプランやスキルアップをかなり重視しているんですね。

成原:組織の成長と個人の成長が合わさっているのが、理想的です。組織の成長に合わせて個人が成長する、個人が成長すると売り上げが上がって、組織が成長する。この好循環が実現できればと考えています。この体制に移って1年ほどですが、一人ひとりのレベルが上がったことで、組織全体のレベルが上がった実感がありますね。

技術力を組織の成長に生かせるリーダーとは

――成原さんは1月からVPoEに就任されました。どういった役回りなのでしょうか?

成原:自分の役割はエンジニア組織のDevOps(デブオプス)だと思っています。具体的には、事業計画から見たときの各チームの目標設定のサポートやチームメンバーの採用・育成、チーム方針の検討などです。メンバーが最高のパフォーマンスを発揮できるようなレールを敷いて、地ならしをしていくのが自分の役割ですね。

――成原さんから見て、技術力を組織の成長に生かせるリーダーとはどのような人でしょうか? リーダーはどういった資質を持つ必要がありますか?

成原:会社にはいろいろな部署があり、いろいろな人種がいます。たとえば、管理部門の人間とエンジニアでは、同じ日本語で話していても違う言語で話しているんですね。そんな中、共通言語となるのが数字だと思うんです。私もVPoEになってから、事業を数値で語れるように意識しています。経営トップの方にも、数字でロジカルに考えられる力、伝えられる力が求められるのではないでしょうか。

あとは、バイアスに基づいて要求をしないことも重要だと思います。自分が考えて自分が実行して成功体験積んできた方の中には、生存バイアスに基づいて要求する方も少なくありません。自分のバイアスに基づいた要求ではなく、数字でロジカルに考えて導き出した要求をしてくれるトップだと働きやすいと思います。「これ絶対に当たるから」とトップから言われて、「何でですか?」と聞いたときに「俺がそうしてきたから」というのは絶対にNGだと思っています。

――今後のご自身の目標やVPoEとして目指していることを教えてください。

成原:マネージメントの言語化を目指しています。持続していける組織になっていく必要性を感じていて、たとえば、私が病気などでいなくなっても、ほかの人である程度回していけるのが理想的です。また、事業のオーダーに合わせて最大のパフォーマンスが発揮できるエンジニア組織に育てていきたいと考えています。(了)

(取材:新田哲史、文:箕輪健伸、撮影:武藤裕也)

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