長い歴史と豊富な経験を有するJTグループ。グローバルな事業基盤を構築しており、たばこの販売数量では世界第3位を誇る。2023年には、新たなグループパーパス「心の豊かさを、もっと。」を発表し、実現に向けて取り組みを続けている。

売上収益2兆8,411億円(2023年度)にもおよぶJTグループ全体のIT部門を統括しているのが、執行役員の下林 央さんだ。JTグループのパーパスやテクノロジー戦略について、下林さんに話を聞いた。

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下林 央さん 日本たばこ産業株式会社 執行役員 IT担当

下林 央さん プロフィール
日本たばこ産業株式会社 執行役員 IT担当。
1995年に山之内製薬株式会社(現アステラス製薬株式会社)に入社し、20年以上にわたり国内外でさまざまなIT業務に従事。2012年、アステラス製薬株式会社 情報システム部 部長 戦略企画グループリーダー。2017年、武田薬品工業株式会社にグローバルIT リージョナルCIOアジア&MSCQHオフィスヘッドとして入社、2019年に同 グローバルIT ストラテジー&オペレーティングモデル グローバルヘッド。そのほか、米国デジタルセキュリティ関連NPO非常勤取締役、グローバルSaaSスタートアップ創業にCFOとして関与。2023年1月、日本たばこ産業株式会社 IT担当執行役員に就任、JTグループ全体のITを管掌、現在に至る。

JTグループ全体のITを統括する「ITグループ」が担う役割

下林 央さん 日本たばこ産業株式会社 執行役員 IT担当

JTグループには、「たばこ事業」「医薬事業」「加工食品事業」と3つの主要事業がある。それぞれの事業にIT部門があるなか、下林さんはコーポレート部門にてグループ全体のITを統括している。

「グループ全体のテクノロジー戦略の策定と推進、実行をするためにITグループがあります。ITグループは『IT部』と『グループテクノロジー戦略室』の2つに分かれており、トータルで約50名規模の組織です。グループ全体では、たばこ事業が非常に大きな組織です。たばこ事業内にあるIT部門にはグローバルで1,100~1,200名ほどが在籍し、医薬事業と加工食品事業のIT部門には10~30名ほどがそれぞれ在籍しています」

JTグループの売上収益構成比(2023年度)は、たばこが91.2%を占めているため、たばこ事業の組織も大きくなっている。そのなかでグループ全体の将来像を考えながらテクノロジーを活用し、いまなにを実行するべきか計画する機能をITグループが担っている。

2023年に発表されたJTグループの新たなパーパスが、テクノロジー戦略をつくる際にも大きなインプットの1つになっている、と下林さんは話す。

「パーパス実現に向けたわれわれの理想の将来像に加え、事業やファンクションごとの目指す姿があります。それらに対して、テクノロジーやデータをどう活用していくのか。最終的な顧客であるカスタマーの『心の豊かさ』にどうつながっていくのか。このような長期的な視点の問いからはじまっています。

それをバックキャストしながら、現在のテクノロジー戦略をつくりました。数年先ではなく10~15年といった中長期視点で考えているため、少し抽象的で掴みにくいところがあると思いますが、やらなければならないことはわかっています」

下林 央さん 日本たばこ産業株式会社 執行役員 IT担当

掲げたテクノロジー戦略方針は3つある。1つ目が「デジタルトラストの実現」、2つ目が「テックファーストカンパニー」、3つ目が「新たなレベニューピラーの創出」だ。

「JTグループはこれまでの長い歴史のなかで、社会から一定の信頼をいただいていると思います。それがデジタル経済においても続くことを、『デジタルトラストの実現』として目指しています。たとえば、個人情報のようなデータの取り扱いや、テクノロジー活用の方法が倫理的であるかなどが大事です。

『テックファーストカンパニー』については、テクノロジーを事業と業務にうまく適用している会社になるという意味合いを込めて、一番近いイメージを持つ言葉として使っています。JTグループはテックファーストカンパニーの一社である、という社会的認知を得ていきたいと考えているところです。グループ内でのテクノロジーの活用についての社内外の発信を少しずつ始めていますが、さらなる具体的なブランディング施策を検討していきます。

私がJTに転職を検討していた当時は、インターネット上にJTでのITやテクノロジー活用に関する記事はほとんど存在していませんでした。JTやJTグループで働くことに興味を持ってくれた方のために、少しでも多くの情報を提供して理解の助けになる方法を考えています。こうした取材を受けて発信することも1つの手段です。

グループには現在3つの事業がありますが、パーパス実現に向けて新規事業にも取り組んでいます。会社全体としては『D-LAB』というコーポレートR&D組織があります。パーパス具現化に向けた取り組みとして、D-LABを設置しており、『心の豊かさ』を中心概念とした、研究や未来の事業シーズの探索・創出を実施しているところです。

『新たなレベニューピラー』ではITグループ内にTech-Labを設け、テクノロジーとデータが事業を問わず、中長期的に新たな利益の源泉として直接的に貢献することを構想していきます。もし、テクノロジーが中心となった新しいビジネスができれば最高ですよね。

また、戦略の実現を通じて、従業員の目線でも外部パートナー視点でもJTの魅力が増えてほしいです。将来的にはこれまで私を育ててくれた会社がそうであったように、外からも必要とされるテクノロジー人材を多く有している組織になっていることも、成果の1つにならないかと思っています」

3つの方針を掲げ、ITグループがJTグループの利益に貢献することを目指している。そのために、各メンバーの意識改革も含めてチャレンジしている段階だ。

これからは「ヒト・モノ・カネ・情報・AI」の時代

下林 央さん 日本たばこ産業株式会社 執行役員 IT担当

以前からJTグループでは、画像や自然言語処理などの多岐にわたるAIを活用してきた。製造やマーケティング、カスタマーサポートや法務など、各部門でJTグループへの価値創出を目的に取り入れている。今後もAIの活用については積極的に投資をおこなっていくと下林さんは話す。

「JTグループでは、年始に各執行役員がメッセージを出しています。2024年の始まりにあたり、私は『AIを経営資源として考えなければ、競争優位性の維持ができない』というメッセージを発信しました。

経営資源として一般的に言われているのは『ヒト・モノ・カネ・情報』ですが、これからはプラスしてAIが必須になってくるという意識改革の思いを込めました。生成AIが登場したときの衝撃とその後の発展スピードやユーザー数の増加率を見ると、単純なブームで終わる感じがしませんでした。積極的に取り入れねばならないと思い、社内でイベントを開催し、リスク対策を施したうえで利用促進をしましたね」

現在JTグループでは、マルチモーダルを含む最先端の機能検証可能なプラットフォームを社員に提供し、業務効率化や価値創出の検討を部門でおこなっている。具体的には、文書作成や翻訳などの業務効率化やRAGによる社内文書の知識ベース化、自動情報集約と音声読み上げによるラジオコンテンツの作成などを実施している。

4つの規範を満たす「Futurist」が理想の人物像

下林 央さん 日本たばこ産業株式会社 執行役員 IT担当

下林さんはJTグループのパーパスを実現するため、テクノロジーを活用して行動できる理想の人物像を「Futurist(フューチャリスト)」と定義している。それは、4つあるコーポレート部門の行動規範からきている。

1つ目の行動規範は「ありたい姿を描き、行動に移す」。高い視座と広い視野を持ち、未来の変化を見据えながら社会・組織・自分自身の「ありたい姿」を描き、日々の取り組みに意味付けし、行動に移す。

2つ目は「新たな物事と出会い、枠を広げる」。好奇心をもとに行動し、新たな物事と出会い、貢献することを通じて、自らの枠をさらに広げる。

3つ目は「共創し、高め合う」。多様な価値観を持つ他者との相互理解を深め、信頼関係を築きながら協働・共同し高め合う。

4つ目は「本質を見極め、理想を追求する」。一般的・表面的な理解・解決や先例にのみ終始するのではなく、俯瞰したうえで1つひとつの物事の本質を見極め、理想を追求するというものだ。

「4つの行動規範をすべて同時に満たさなくても問題ありません。さらに、個人ごとの想いや解釈を加えてもいいこととしています。私は自分なりの解釈として、4つを統合した『Futurist』を掲げました。未来は必ず訪れますが、その未来は自分たちの意思によるものがある程度関係すると思います。理想の未来は自分たちで積極的に創造していこう、という考えで定義しました。

未来は現在の延長上にあり、それを自分たちで積極的につくっていくためには、日ごろから情報や世の中の動きを意識し、それらがもたらすかもしれない将来へのインパクトを想像してみる習慣をつけることが重要です。こうした未来につながる要素を拾い集め、それをパズルのように少しずつ組み合わせていきます。

それでも、多くの場合にすべては埋まらないはずです。そこは、自分たちの想いやパッションでつなぎあわせてほしいと思います。そうすると、100パーセントではないかもしれませんが、ある程度のイメージはできてくると思います。その未来が必ず来るものではありませんが、このような積極的な課題設定は必ず役に立ちます」

アンテナを張り、世の中の動きを意識して情報収集することで、未来をつくるためのパズルを手に入れる。それこそが、テクノロジーを活用してJTグループのパーパスを実現するために必要なことなのかもしれない。

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(取材/文:川崎博則撮影:野田涼

― presented by paiza

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