前編から続く

DeNAが掲げる「AIオールイン」戦略。前編では、ベイエリアのスタートアップが数名で超高速開発を行う姿に衝撃を受け「AIオールイン」へと舵を切った背景や、社内のリアルな反応を伺いました。

また、AIネイティブな事業開発において「紙の企画書」が失敗した経験から、企画者に「プロトタイプ必須」を課し、開発の手戻りを劇的に減らしたこと。一方で、そのプロトタイプはあくまでコンセプトと捉え、本番実装とは切り分けるという、DeNA流のものづくりプロセスの変革に迫りました。

後編では、AIの導入が現場にもたらすリアルな課題、特に「新卒がAIでコードを量産し、シニアがレビューで疲弊する」という現代的な問題に焦点を当てます。AI時代に求められるPdM(プロダクトマネージャー)の新たなスキルセット、「AIを使いこなす社員」をどう評価していくのかなどの観点も合わせて、DeNAの「人」と「役割」の変革について、深く掘り下げます。

片山住吉笑顔

住吉 政一郎さん プロフィール(写真左)

株式会社ディー・エヌ・エー AIイノベーション事業本部 本部長。2012年に新卒でDeNAに入社し、ゲームのサーバーサイドエンジニアとしてキャリアをスタート。ゲーム事業、新規事業、コミュニティ系の業務を経験後、ライブコミュニケーションアプリ「Pococha(ポコチャ)」の事業リーダーを約7年間務める。2025年4月より現職に就き、AIにフルコミット。新会社(DeNA AI Link)の立ち上げや、AIに特化した部隊、社内のプロダクト開発チームを統括している。

片山 良平 プロフィール(写真右)

インターネット黎明期より100を超える企業のWebデザイン、システム開発などに携わる。 その後、ITエンジニアとしてPHPとMySQLを使用したCMS、ASP型ECモールなどの自社開発を担当。 2007年より、ネットイヤーグループ株式会社にて大手通信企業のデジタルマーケティング戦略を統括。 2011年、新規事業開発の専門会社である株式会社エムアウトに入社。 2012年にエムアウトの社内新規事業としてギノ株式会社(現:paiza株式会社)を創業、代表取締役社長に就任。2025年11月、取締役会長に就任。

片山住吉ツーショット

 

AIは開発生産性を上げたか? DeNAのリアルな体感値

paiza 片山: 実際の開発現場で、AIの活用による生産性向上は見られますか?

DeNA 住吉: 正直な体感値ですが、とても優秀なエンジニアが使うと1.3倍から1.5倍ほどの効率かな、と。プロトタイプ作成や、体験が複雑でないプロダクト開発は早くなっています。

ただ、複雑なプロダクトで高いクオリティを出そうとすると、トータルではそんなに変わっていない印象です。一方で、既存コードのキャッチアップはAIに質問できるようになったことで、かなり楽になっていますね。

新卒がAIでコード量産 引き起こすシニアの疲弊

paiza 片山: 「キャッチアップが楽になる」という光の側面がある一方で、最近多くの現場で「新卒や若手がAIでコードを大量に生成し、ミドルやシニアがそのレビューに追われて疲弊する」という問題を聞きます。

実は、まさにそのお話を以前住吉さんから伺ったのがきっかけで、先日こちらの記事にまとめたところ、非常に大きな反響がありまして。やはり多くの現場で共通する課題なのだと実感しました。

DeNAさんでも、そうした課題はありますか?

住吉ワンショット

DeNA 住吉: 聞きますね(笑)。若手の育成方法は本当に悩ましいところです。把握すべきことは多いのに、昔ほど手を動かさなくてもよいケースも増えています。プルリクが大量に上がってきてシニアの負荷が上がる、というのは、生成AIによってむしろ出てきた課題だと感じます。

paiza 片山: エンジニアに限らず、ですか?

DeNA 住吉: はい。ビジネスサイドでも、企画のドキュメント量が明らかに増えて「こんなに読めない」という話はあります。「網羅的に考えました」と来ても、「で、結論は?」となってしまう。

AIレビュー疲弊の処方箋:「お客さんの面からスタートせよ」

paiza 片山: その「レビュー疲弊問題」と「育成のジレンマ」、どうすればいいとお考えですか。

片山ワンショット

 

DeNA 住吉: これ、僕に1個解があって。「『お客さんの面(アウトプット)からスタートすること』です」

paiza 片山: アウトプットから、ですか。

DeNA 住吉: はい。出先(アウトプット)が先にないと、説明から入ろうとすると、チャットGPTは無敵です。「前提は?」「マーケットは?」といった問いからスタートするリサーチタスクは、若手に任せる意味が逆になくなっています。

彼らからAIを使って「まとめました」という報告をもらうアクション自体に、あまり意味がない。率直に言って「(上司である)自分でリサーチした方が早い」わけですから。

paiza 片山: では、「出先」や「アウトプット」というのは具体的にどういうことでしょう。

DeNA 住吉: ユーザーに実際に提供するものをどう作るか、どう成果にするか、というところから話します。小さなキャンペーン施策でもいいので、まず作ってユーザーに届けてみる。事業的なアウトプットから先にやらせて、「肌感」を得てもらうんです。そうすれば、「こねくり回した議論は意味がない」と本人も気づけます。

paiza 片山: その「肌感」というのがポイントですよね。AIは知識は豊富ですが、それを「どう現場に適用・応用するか」は弱いですし、特に「人」が介在する部分はAIでは学べません。 例えば、実際にお客さんと商談してみて、AIが生成したロジックを投げかけた時にどういう反応が返ってくるか、という生々しい感覚はAIには予測できません。

DeNA 住吉: そうなんです。

paiza 片山: 加えて、実際にプロダクトやキャンペーンを出してみると、AIが予測したロジック通りにはいかない「現実の壁」に必ずぶつかる。

AIはネットにない情報、つまり「非公開・未テキスト化のナレッジ」「暗黙的な文化や現場感覚」「情報化される前の最新の動き」には極めて弱い。 AIが持っている「知識」を、目の前の「現場」に適用・応用する部分こそが人間の価値であり、そこはアウトプットを通じてしか学べない。

新卒には、まずその「AIでは代替できない部分」を経験させるべきだ、ということですよね。

DeNA 住吉: まさに。その原体験があるからこそ、「AIに何をやらせて、自分は何をやるべきか」の切り分けが本人の中でできていく。社内のディスカッションのためにAIを使うのはあまり意味がなく、最初からAIとのロジックの壁打ちだけしていると、結局「こねくり回した議論」にしかならないんです。

paiza 片山: となると、マネージャー側の意識改革も必要になりますよね。

DeNA 住吉: そうです。社内のやり取りで、「これ絶対AIを使って出してきたんだな」というものを見たら、マネージャーは「このタスクお願いしちゃダメだ」と切り替えるべき。 逆にそれが上がってきちゃうということは、

自分がそのプロンプトとして、新卒に投げても LLMに 投げても同じだったな、と(マネージャーが)反省すべきなんです。それなら自分が(LLMに)投げる方が早い。そうした場合は、タスクの渡し方を変えなければいけません。

社内のディスカッションのためにAIを使うのはあまり意味がない。それよりも、お客さんに届けるという「出先」を先に決めて、そこから逆算してAIを使う順番にしないと、議論のための議論になってしまいますから。

「体験が勝手に変わる」AI時代のPdMに必須のスキルとは

paiza 片山: 前編で伺った「プロトタイプ必須」化によって、PdMの役割も大きく変わりそうですね。

DeNA 住吉: まさに激変しました。「プロンプトエンジニアリング」が、とてつもなく大きな新しい役割として出てきています。

paiza 片山: その領域は、企画(PdM)とエンジニア、どちらが担うのでしょう。

</p> <h2><b>「体験が勝手に変わる」AI時代のPdMに必須のスキルとは</b></h2> <p>

DeNA 住吉: DeNAでは、まず企画者が触れるようにし、それをAIエンジニアとセットでチェックするサイクルを回しています。そのため、PdMにも「トランスフォーマーとは」といったアルゴリズムの根本を理解してもらう研修を丸1日かけて実施しています。

特に、LLMを組み込んだプロダクトのUX(ユーザー体験)は、結局LLMが返してくるテキストや、そのやり取り自体が体験の中心になります。

加えて、プロダクトのUIは変わらないのに、裏側のAIが学習することで「使い続けると勝手に体験が変わっていく」という側面もあります。

こうした体験設計(=プロンプティング)を企画側、つまりPdMが深く理解し、事前にその「感触」を掴んでおく必要があります。この能力は非常に難しいですが、もともとコンシューマー向けの体験設計をやってきたPdMは、キャッチアップが早く、LLMと相性がいい印象です。

DeNAが導入するAI スキル評価「DARS」とは何か

</p> <h2><b>DeNAが導入する「AIビジネススコア」とは何か</b></h2> <p>

paiza 片山: そうした新しい役割やスキルを、会社としてはどう評価していくのでしょうか。

DeNA 住吉: まさに社内で今やっています。DeNA AI Readiness Score(DARS)という全社の AI スキルを評価する指標の導入を進めていて、ちょうど上期が終わったタイミングで評価をつけているところです。

paiza 片山:DARS!それはどういったものなんですか。

DeNA 住吉: エンジニア向けとビジネス向けを作り、レベル別に今どのくらいの人がいるのかを可視化するものです。「今こういうレベル感ですよ」と現状を把握している段階です。

例えば、レベル3や4になると「事業に対してAIを使える」とか、「メンバーとAIを一緒にマネージできる」といった設定をしています。

paiza 片山: そのスコアは、人事評価に直接つながるのでしょうか。

</p> <h2><b>DeNAが導入する「AIビジネススコア」とは何か</b></h2> <p>

DeNA 住吉: これが低いから給料を減らしますとか、悪い評価にしますとかは、今はまだないです。まずは可視化が目的です。ただこれから、実際の事業の成果との紐付き方が見えてくると思うので、そうなった時には次の議論かな、と思います。

「2ヶ月前が遥か昔」AI時代の変化を乗りこなす思考法

paiza 片山: ありがとうございます。AI時代のリアルな課題と、それに対する具体的な打ち手が見えてきました。AIの情報を追っていると、最近、1ヶ月前のことが遥か昔に感じられるんですよね。この変化のスピード感はインターネットが来た時に似ていると感じています。楽しいですよね。

DeNA 住吉: その時代を知っている人は皆さんそういいますよね。比較的最近のことが、かなり前に感じるくらいの時間軸で動いていますよね。生成AIも、「こんなの一生勝てないだろう」と思っていたものが、2ヶ月後にはそれよりも遥かにクオリティが高いものが出たりしますし。

常にアンテナを張ることが重要ですよね。一方で、「その波に乗る方向の事業の作り方とか時間の使い方」をしていないと、全部無駄になってしまう可能性もあるフェーズです。だからこそ、波に乗れるのかと考えながら時間を使うのは、すごく大事だなと思っています。

paiza 片山: 本日は非常に示唆に富むお話でした。ありがとうございました。

DeNA 住吉: ありがとうございました。

</p> <h2><b>「2ヶ月前が遥か昔」AI時代の変化を乗りこなす思考法</b></h2> <p>

本記事で語られた「AI時代の人材論」の原点ともいえる、DeNAの「ものづくりプロセス変革」について、前編で詳しく特集しています。

DeNAが「AIオールイン」に至った背景、そして「紙の企画書」を廃止し「プロトタイプ必須」ルールを導入した経緯とは何だったのか。企画者が作ったプロトタイプと、本番実装をあえて切り分ける独自の開発体制についても深く掘り下げています。

DeNAの変革の核心にご興味のある方は、ぜひ前編も併せてご覧ください。<前編URL>

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