お金の支払い方法が多様化する現代、財布を持ち歩かず、キャッシュレスで生活する人も増えています。それと同時に、目に見えないところでお金が流れ、お金を管理することが難しくなっているのも事実です。
そんななか、支出をリアルタイムで管理できる「家計簿プリカB/43(ビーヨンサン)」のプロダクトをリリースし、成長を遂げているのが、株式会社スマートバンクです。
常にユーザーに寄り添い、世の中に求められているものづくりを続けてきたスマートバンクのCTO・堀井雄太氏にインタビューを実施。
FinTech(以下フィンテック)という未知の領域への挑戦や、組織を立ち上げてから今までを振り返り感じたことを赤裸々に語っていただきました。
目次
ユーザーの課題解決のために、未知の領域に挑戦
──スマートバンクが誕生した経緯について、お伺いしたいです。
堀井:
スマートバンクは、わたしを含めた3人で立ち上げました。実は、1つ前の会社も同じ3人で立ち上げているんです。前の会社では日本初のフリマアプリの開発・運用をしていたのですが、その会社を楽天さんとのM&A後に退任して、2019年にスマートバンクを設立しました。ECの業界から、まったく未知の世界であるフィンテックの業界に飛び込んで、起業することを決めたんです。
──なぜ、新しい領域にチャレンジすることに決めたのでしょうか?
堀井:
わたしたちの解きたかった課題がフィンテック業界にあったからです。キャッシュレス化が進む現代は、お金を管理したり収支の把握をすることが難しくなっていると感じていました。よりわかりやすく、ユーザーの求めているお金の管理システムを生み出すために、スマートバンクを創業したんです。
──「お金の管理が難しくなっている」という課題は、どのようにして見出したのでしょうか?
堀井:
新しいプロダクトを考える前に、ユーザーインタビューを積み重ねるなかで見出しました。ただこの課題は、フリマアプリを運用していたころから感じていました。当時は、サービス内で現金の取引が行われていることもあったんです。お金のコントロールをできていないがゆえに、違法な手段で現金を得たり、貯金ができなかったりしている人をたくさん目の当たりにしてきたので、この問題を解決できるものをつくりたいと感じました。
フィンテック業界への挑戦と、立ちはだかる壁
──スマートバンクがリリースしている「B/43(ビーヨンサン)」というサービスは、具体的にどういったものなのでしょうか?
堀井:
わたしたちの会社で発行しているプリペイドカードを使用してもらい、アプリを通して収支をリアルタイムで管理できるというサービスです。自社が発行しているカードを使って支払いをするだけで、家計簿を自動的に作成し、お金の流れを見える化するという特徴があります。
──開発した当時は、家計簿アプリというのはあまり世に出ていなかったのでしょうか?
堀井:
家計簿アプリはほかにもあったのですが、ユーザーの声を聞くと、銀行口座と紐つけるのが難しかったり、レシートの内容を家計簿アプリに手入力するのが面倒だったり、カードの支払い情報の反映が遅いなどの意見があがりました。そういったユーザーに、もっとマッチするような機能を搭載した新しい家計管理サービスにしたかったんです。
ユーザーインタビューで、家計簿アプリを利用している人たちのなかでも、資産管理ではなく、支出をリアルタイムに把握して、自身のキャッシュフローを改善したいと思って利用している人が多かったんです。だから、アプリを開いたら『今月はあといくらで生活しましょう』という表示が出たりするような、わかりやすい管理システムが必要とされていると感じました。
──プロダクトを実現するにあたって、カードを自社で発行するのはかなり難しかったのではないでしょうか?
堀井:
「B/43(ビーヨンサン)」は構想期間を含めると、リリースするまでに1年半かかりました。フィンテックのプロダクトをつくるのはとても難しいし、大変な道のりでした。まず技術面ですが、カードを発行したり、ユーザーのお金を預かったりするプロダクトは、セキュリティにかなり気をつけてつくらなければいけません。PCI DSSという国際的な基準に準拠して堅牢なシステムを作る必要があり、ドキュメントだけでも400-500ページあるほどです。また、Visaやアクワイアラなど外部パートナーさんと一緒に、システムの連携をとることも難しかったですね。
あとは、法的な規制を遵守することも大変でした。フィンテックのプロダクトをはじめるには、免許の取得が必須となります。この免許を取ることがまず、かなりのハードルの高さだったんです。申請すれば通る、というものではなく、社内の体制を整える必要がありました。また、外部の組織とディスカッションを重ねて、システムの立てつけを理解してもらうなど、クリアしなければいけない壁がいくつもありました。
──どのようにして、それらの壁を突破していったのでしょうか。
堀井:
人数も少なかったので、システムづくりは少し工夫をして行いました。巨大な1つのシステムをつくるのではなく、カード発行、決済といったカードデータに関連するシステムとモバイルアプリが使うユーザー用の基盤システムと大きく2つに分けて、開発を進めたんです。うまく開発ドメインを分けられたことが、今までプロダクトを保守できている要因かなと感じています。開発言語や、フレームワークもそれぞれのシステムの特性や開発メンバーの得意な領域にあったものを選ぶことで開発効率を高められたと思っています。
──少数精鋭で、工夫しながら開発を進めたのですね。
堀井:
当時は10人くらいでシステムを開発したのですが、わたしたちは自分たちのことを「日本で一番小さなカード会社」とよく表現しています。少ない人数で、初めての領域のものづくりにトライしているということは、ほかの会社にはない特徴なのではないかと感じていますね。
「ユーザーに求められているもの」を追い続けて
──組織づくりに関しては、どのようなことを重要視していますか?
堀井:
メンバーとの関係性に、オープンさや透明さがあるように意識しています。できるだけ情報をオープンにすることによって、社内全体の意思決定がブレないようにしていますね。最近ではリモートの機会も増えてきましたが、オンラインでもテキストベースでのやりとりではなく、ミーティングを開いて顔を合わせて話し合ったりしています。
──具体的に、組織づくりのために行っている取り組みなどがあればお伺いしたいです。
堀井:
『推奨出社デー』というのを、週に1回用意しています。ほかの部署のメンバーとのコミュニケーションなどは、そのタイミングで取れるようにしています。あとは、朝会を毎朝11時からオンラインで行っています。まだ社内全体だと、創業者とメンバーくらいの階層しかないのですが、自分たちが思っていることを同じ粒度で話せるような環境づくりを意識していますね。
──現在、スマートバンクの組織形態はどのようなものになっているのでしょうか?
堀井:
正社員が30名いるのですが、そのうちエンジニアが13名です。開発組織のメンバーは、今のところサーバーサイドエンジニア、アプリエンジニア、SREなどのメンバーで構成されています。
──スマートバンクが軸としているコアバリューとは、どのようなものでしょうか。
堀井:
「人々が本当に欲しかったものをつくる」というのがすべての原点であり、会社の礎です。メンバーの性質を見ても、ものづくりを好きな人材が集まっている会社かなと感じますね。ただものづくりをするというだけではなく、つくったものを通してユーザーの体験をよくしていきたいという意志が強いので、世の中へフィードバックができているのかを常に重要視しています。
──これからの展望について、教えてください。
堀井:
これからもフィンテックの業界で、引き続きプロダクトのビジョンに向けてロードマップを敷いて開発を進めていく予定です。お金の流れを可視化するところから、さらに「貯める」「増やす」といった構造へチャレンジしていければと思っています。ユーザーにもっと便利に使っていただけるサービスを目指していきたいなと思っています。
(取材/文:はるまきもえ、撮影:渡会春加)