わたしは物心がついたときからお笑いが大好きです。芸人さんはもちろん、お笑いに関する仕事をしている方に対しても尊敬の念に堪えません。

「お笑いの世界をさまざまな角度からのぞいてみたい」と思い、昨年からフリーランスの編集者・お笑い大好きライターとして活動しています(ちなみに会社員時代は出版社で編集の仕事や、メディアの運営・プロモーションなどに携わっていました)。

会社員でもフリーランスでも、悩みはつきない仕事への取り組み方。特にフリーランスは「こうしたら良いのでは?」と常にアドバイスをいただけるような同僚・上司はいません。

そのようなとき、好きな芸人さんがツイートしていた本に目を奪われました。

その名も『「芸人の墓場」と言われた事務所から「お笑い三冠王者」を生んだ弱者の戦略』

錦鯉・バイきんぐ・ハリウッドザコシショウといったお笑い賞レースの王者たちを輩出している事務所SMA(ソニー・ミュージックアーティスツ)。実はお笑い事務所としての歴史は19年ほどで、芸人マネージメントに関しては後発といえます。「SMAのお笑い部門」を創設したマネージャー・平井精一さんが書かれた本書には、芸人だけでなくあらゆるビジネスパーソンに通じる戦略がたくさん書かれていました。本書から抜粋して紹介します。

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目先の利益や欲望で動かない

平井さんが芸人に強く伝え続けていることのひとつに「新ネタを作り続ける大切さ」があります。

浮き沈みの激しい芸能界。『ネタを作り続けている芸人は、一度沈んだとしてもチャンスを見逃さず、再ブレイクを果たすことも可能だ』と平井さんは言います。また、ネタを作らない芸人に対してこのような警鐘を鳴らしています。

『芸人に限らず、多くの人間は目先の利益や欲望で動いてしまいます。苦労してネタを作るより、テレビでちやほやされるほうが楽しいのは間違いありません。でも、それは芸人としての寿命を縮めることにほかなりません』

この言葉を読んで、自分はこれまでの仕事で芸人でいう「新ネタ」を作り続けているだろうか…と思わず自問自答してしまいました。

地道なリサーチや準備、資料作成、スキル・資格の習得など、仕事の本質から逃げないこと、また継続させることが、どのような業界であっても活躍し続けるための秘訣なのかもしれません。

先輩・後輩関係なくダメ出しをしあえる文化

「この案、どう思う?」と先輩や上司に聞かれた際、提示されたプランの内容より、相手が言ってほしいであろう言葉を返してしまったことはありませんか?

いわゆる「忖度」はどの業界でも往々にしてあると思います。ですがSMAは忖度を排除し、先輩・後輩関係なくダメ出しをし合う文化を作り上げました。それに加え、「芸人たちが協力してネタを作る」という他の事務所にはない伝統も。

『複数の脳でアイデアを出してネタを作ったほうが、人に受け入れられる面白いものが作れるのです』

平井さんが立案した戦略が浸透しているSMAでは、多くの芸人のアイデアによって勝負ネタが練られています。大手事務所も息をのむ、チーム戦こそがSMAの強さです。強固なチームを作る上で、まずはどんな立場でも意見を言い合える環境こそが大切だと実感する事例ではないでしょうか。

自分を型にはめない

「売れたい!」と考える芸人さんから「キャラを付けたほうが良いですか?」という質問をマネージャーとしてよく受けるそう。

しかし、この質問に至る考え方に平井さんはNOを唱えます。

『こうやって「売れるための型」にハマろうとする芸人は、売れないと私は考えています。「最初から型にハメようとするのではなく、まずは好きなこと、自分が面白いと思うことをしてみようよ」と私は言います』

意外にも『お笑い賞レースの三冠獲得をこれまで意識したことはなく、あくまで頑張り続けていたらついてきた結果に過ぎない』と語る平井さん。

芸人さんに限らず、人気が出ると二番煎じのような商品やサービスを見かけるものです。

しかし、どのような業界であっても「売れるための型」「活躍するための手っ取り早いマネ」は短期的に成果を出すことはあっても、長期的なヒットは望めないのではないでしょうか。

後発で弱者だからこそ、愚直にキャリアを積む「急がば回れ」を体現する戦略だといえるでしょう。

具体的かつ達成できる目標を立てる

新年度に壮大な目標を立てるも結局達成できず…挫折してしまったという経験は多くの方にあるのではないでしょうか?

大きすぎる目標を立てた場合、人は諦めてしまう傾向にあると、平井さんは分析します。

そして芸人さんのモチベーションを上げるために、以下の2つを心がけているそう。

  • 具体的な話をすること
  • 手の届く目標を与えること

「先輩芸人のバイきんぐは、常日頃こういうことをしていた」と伝えることで、言われた芸人さん側は自分がやるべきこと・足りない点が明確になるでしょう。

大きな目標ではなく自分の努力しだいで達成できる、ギリギリの目標を設定することがポイント。それが達成できたら少しずつ目標のレベルを上げていく。それが、いつか頂点に立つための秘訣なのです。

チームメンバーに無謀な目標を設定していませんか?

理想が先行している目標になっていませんか?

時折、意識的に振り返りたい心がけです。

行き詰まったときの切り替え力が大切

行き詰まると粘ってしまいがちな自分には耳の痛い言葉ですが、「すぐに切り替えることが大切」であると平井さんは語ります。

『私が諦められず粘ってしまうときは「情報収集不足」であることが多いから。(中略)正しく情報収集できていれば「あ、これがダメなんだ」と理由を見つけて切り替えることができるのです』

芸人さんの切り替え力の高さの事例として,「R-1出場者は芸歴10年以下」の条件が加わったときのことが書かれていました。「R-1」のために頑張ってきた芸歴10年以上の芸人の多くは、年数制限の発表により目標を喪失。

そこでいち早く気持ちを切り替えた芸人(マツモトクラブ)は即席ユニットを結成し、キングオブコントに照準を合わせ、戦いの準備を始めました。結果は見事、準決勝進出。

嘆いてばかりではなく、自ら変化を作り動き出す大切さが分かります。

諦めるのではなく、現状を受け入れた上でどんな選択をするか

この他にも自ら率先して「アホな話」をする大切さや、錦鯉が売れた3つの理由など、興味深い話が本書にはいっぱいです。そして、本書を読んでからSMAの芸人さんの活躍を見るたびに「自分も頑張らねば…」と、よく思うようになった気がします。

本書に書かれたさまざまな話に共通しているのは「ウチは後発だから、弱者だから」と諦めるのはもったいないということ。

諦めるのではなく、自分の現状を受け止め、日々積み上げることが快進撃につながることを教えてくれる一冊です。

(文:ふじい

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