これまでにベンチャー企業やAWSなどのキャリアを経て、2021年3月に弥生株式会社へ入社した佐々木さん。現在はCTOとして、新プロダクトやサービスの開発を進めています。
弥生株式会社には、スモールビジネスの立ち上げと発展の過程で生まれるあらゆるニーズにお応えする「事業コンシェルジュ」というビジョンがあります。 このビジョンを実現するためにも、新プロダクトやサービスの開発は欠かせません。
新プロダクトやサービスをゼロから開発するために意識している7つのルールについて、佐々木さんにお話をうかがいました。
佐々木 淳志さん
2000年に大学卒業後、ベンチャーへ入社。アドバンスト・メディアへ転職し、システム開発部部長、応用技術開発部 開発部長などを務める。約16年間務めたのち、AWS(アマゾンウェブサービス) Japanで約2年間、プロフェッショナルサービスにてクラウドインフラストラクチャーアーキテクトとしてコンサルティング業務に従事。2021年、弥生株式会社に入社。CTOとして新製品開発や全社的な技術方針検討に従事。
目次
Rule1.思い立ったが吉日

新プロダクトやサービスの開発などの新しいことをはじめる際には、完全に検討が終わってから進める方法だと間に合いません。その場の意思決定によって物事を決めていく必要が出てきます。ただ、このやり方をすると、以前の意思決定を後悔することがあるんですよ。
でも、後悔してしまうと前に進めなくなってしまいます。「あのときにやっておけばよかったな」と思わずに、やろうと決断したタイミング、つまり”今”がベストタイミングだと思って始めるようにしましょう。そのほうが物事はうまく進みます。
2023年7月に「次世代本部」ができ、わたしはCTOとして開発本部、次世代本部の研究や開発に携わります。弊社が扱う製品には、「弥生シリーズ」の中に「弥生 オンライン」と「弥生 23 シリーズ」があります。この2つのシリーズに加えて新サービスの開発を進めており、その担当をしている部署が次世代本部です。
新しい事をやり始めると色々と紆余曲折もあれば手戻りもあります。「今やっているこの取り組みは、あの時にやっていれば…」と思う事もあるかもしれませんが、過去を悔やむよりも今からでもやったほうが良いと思い、プロジェクトを進めています。。
Rule2.初期衝動と焦燥感
初期衝動という言葉は、音楽をやっている人にはなじみがあるかもしれません。
初期衝動はなにかをはじめた日の気持ちを忘れないという意味合い、焦燥感は自分はこのままでいいのかという気持ちです。どうして自分はいまここにいるのかを忘れずに、いつでも物事をはじめた日の気持ちでいることを意識しています。
わたしの場合、エンジニアリングの仕事をしようと思ったのは、大学生のときです。大学卒業後、新卒入社した会社でエンジニアとしてキャリアをスタートしました。ただ、私が社会人としてのキャリアをスタートした当時のIT業界の働き方は過酷で、私が入社した会社も例外ではありませんでした。「どうにかしなくては」「本当にこれで良いのだろうか」を考えていく中で、その会社の中に納まる問題というよりも、日本で働く人々はこれで良いのだろうか、というところまで思いが至ったほどです。
将来、自分の子どもの世代にこの働き方を引き継いでほしくないと思い、もう少し世の中をよくできないかなと考えるようになりました。
このときに感じた初期衝動と「今のやり方で子供が社会に出るまでに間に合うのだろうか」という焦燥感を忘れずにいようと心がけています。
Rule3.お客さまが北極星

北極星はいつも同じ場所で光っています。昔は海に出たときに、北極星を見て自分の居場所を推測していました。
仕事のなかで物事を決断するにあたって、どういう軸で考えればいいんだろう? と迷うことがあるんですよね。
社内政治的にはこれが正解で、技術的にはこれが正解というケースがあります。いろいろな視点からの考え方があり、正解は一つとは限りません。
そんなときは、お客さまを北極星に見立てます。自分たちの居場所や進む道に迷ったときに、お客さまの方向を見るんです。
以前、新サービスの仕様を考えている中で、「技術的にはこれが一般的」「利用者から見るとこれが一番わかりやすい」という2つの正解がある課題に遭遇しました。どちらも間違いではないので議論がなかなか収束しなかったのですが、「利用者であるお客様にとってはどちらが良い?」と聞いたところすんなりと「利用者がわかりやすいほうが良いですね」と決まりました。
判断軸としてお客様に重きを置く、と宣言しているので、「技術的正解」を提案してきたチームもすんなりと納得してくれました。
物事の判断軸として「お客様よりも売上と利益」になってしまうと、お客様もコンプライアンスもどこ吹く風という会社になってしまう恐れすらあるのではないでしょうか。
Rule4.1つの100点よりも5つの80点
お客さまに提供する価値として、1つのものを100点で出しても合計は100点です。5つのものを80点で出せば合計は400点になり、そこには300点の差が出てきます。
もちろん赤点を取ってしまうのはダメですけど、完璧を目指すよりもトータルでよくなる選択が大事です。
プロダクト開発をしていると、限られた時間のなかで成果を最大化させなければならない状況が生まれます。そこで100点を目指すと、時間が足りなくなってしまいますよね。ある程度の点数を超えると、お客さまとしては品質に差を感じなくなります。
それなのに100点を目指すことは、お客さまのためではなくてエンジニアの自己満足になりがちです。もちろん、100点を目指すことが重要なプロダクトもあると思うので否定はしません。
ただ、プロダクトのスタート地点では、できるだけいろいろなところで点数を上げていく。そして全体の総得点を高くしたほうが、お客さまに提供できる価値は高いと考えます。
このことは、プロダクト開発の視点でも意識していますし、自分自身のキャリアとしても意識しています。全部の事で100点を目指すのではなく、100点に近い領域を1個2個とそれ以外は80点くらいを複数のような状況を目指しています。
Rule5.謎は誰が解いてもいい

「謎」と題しましたが、わたしが謎解きとか脱出ゲームが好きなのであえて「謎」と書いてみただけでして、実際には「課題」と読み変えてていただいて大丈夫です。
新しいことにチャレンジしていると、「これって誰の仕事だっけ? 誰が解くべき課題だっけ?」と言うことがたくさん見つかります。このような課題は誰が対応しても良いと思っています。
あまり自分の仕事に線を引きすぎて、業務範囲を狭めてしまうのはもったいないです。できることは、どんどんやってください。
これはプロダクトやサービスの開発だけの話ではなく、社内の業務改善にも当てはまります。社内の業務改善も、担当が決まっているわけではなく、誰がおこなっても(おこなわなくても)良い業務です。しかし、業務改善されることで、社内の開発スピードにも影響が出ます。そしてそれによりお客さまへの提供価値も上がると思います。
お客さまにとって良いことにつながることを、判断基準にすればおのずと普段の行動が変わるはずです。そんなふうに自律的に行動してほしいですね。
Rule6.連続性と非連続性
同じやり方で業務を続けていると、どんどん改善されていきます。でも、その改善は本当にベストなのでしょうか。
機械学習でもよくあるのですが、同じデータを使って学習していると過学習状態になって局所解におちいることがあります。そうならないために、ほかのデータを使って学習することがあります。
人間の仕事も同じです。いまやっていないことの勉強をしてみると、いまやっている業務にも活かせることがあります。わたし自身も、意図的に連続性のないことに取り組むようにしています。たとえば最近だと、プロファイリングの本や地政学の本を読みました。
実際、テクノロジーに直接関係する内容ではない勉強がエンジニアとしての仕事に役立ったこともあります。20代中盤のころ、上司に「お前はビジネスがわかっていない」と言われたことをきっかけに、テクノロジーだけではなく、ビジネスの勉強をしたり、ピーター・ドラッカーの本や、『東洋経済』や『週刊ダイヤモンド』、『プレジデント』などのビジネス誌を読んでいました。ほかにも経済学の本を読むこともありましたね。
テクノロジーとは全然関係ないように思われるのですが、じつは使える要素が多くあります。
このような勉強をしてきたからこそ、経営的な視点など、幅広い観点から物事を判断できるようになり、いまCTOになっているのかもしれません。とくにCTOを目指していたわけではありませんが、勉強していたらいつの間にかなっていました。
スティーブ・ジョブズの言葉にある「connecting the dots」のように、世の中に活かせないものは、ほとんどありません。あとから考えると、いろいろとつながっています。
Rule7.シンプルに考える

プロダクト開発をしていて新しい機能をつくりたいときに、既存の仕様だと難しいことがあります。それをどうにか頑張って実装することもありますが、こうしてつくった機能はあまり役に立たなかったり、メンテナンスが大変だったりするんです。
このようなケースを避けるために、シンプルに考えるようにしています。
システムや組織、意思決定のロジックも極力シンプルなほうがいいです。あまりに複雑になってしまったものは、運用性に問題があるのではないかと疑うようにしています。
次世代本部で新プロダクトやサービスを開発する際、お客さまの使いやすさといった観点でシンプルに考えることを意識しています。
チーム間で相談しなければ決まらないことがありますが、そこはシンプルに考えて各チームの自己判断でうまく回る組織にしていきたいです。

どのような経験も無駄ではない
佐々木さんの話を聞いて「どのような経験も無駄ではない」と感じました。新卒入社したベンチャー企業で経験した働き方やテクノロジーとは関係ない分野の勉強が、現在の仕事に活きています。
「自分はこんなことをしていていいのだろうか」「こんな経験は無駄ではないのか」。
現在そう感じている人にとって、佐々木さんのキャリアは北極星のような存在になるのではないでしょうか。
(取材/文/撮影:川崎博則)
