総合商社・丸紅はグループ全体の従業員が約50,000人。そのDXを推進するのがデジタル・イノベーション部(DI部)だ。2017年に6人で発足し、2024年時点では社内に40人、外部の人材を含めると75人の組織に成長している。
総合商社のDX部門としては珍しく、部門内でアプリの開発やサービスの構築などを行う。変化が激しくスピードが求められる現代において、部門内でサービスを実装できる機動力は大きな武器だ。
大倉耕之介部長は、どのような信条を持って指揮を執っているのか。7つのルールを伺った。
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大倉 耕之介 氏
丸紅株式会社 デジタル・イノベーション部長。1998年丸紅入社。ブラウン管、液晶、半導体材料等の取扱いや事業運営を行う傍ら、ブルーレイディスク・リチウムイオン電池用材料の開発・販売、鉱物資源開発など成功事例を作る。その後5年間のドイツ駐在を経験、太陽光パネル関連事業や欧州における排出権取引などを手がける。2017年丸紅初のデジタル専門組織、IoT・ビッグデータ戦略室に異動。2019年デジタル・イノベーション室副室長。デジタルのエキスパート集団を率いてDX戦略を支援し、丸紅のDX戦略策定・実行を牽引している。
目次
Rule1. 「感性」と「問いかけ」で本質を見抜く

「DXの現場で『とりあえずデジタルツールを導入してみればOK』という形で進めてしまっていることはありませんか? また、顧客の認知獲得や接点が重要ということで安易にSNSを始めたりECサイトをたちあげたりしていませんか?
課題に対して、無難な解決策を見つけてそれに合わせるだけでは本質を見据えたことにはなりません。
上司から指示された案件をどう進めるかについても、事業を推進するためなのか、上司に良い印象を与えるためなのか、といった何を目的にするかをしっかりと理解しておく必要があります。
言葉で言うのは簡単ですが、実際にプロジェクトを進めているときには周囲が見えなくなることもあり、難しいものです。周囲の人とコミュニケーションを取り、よく話を聞き、客観性やバランスを保つことも大切です」
ーー何かに直面した際、本質を見抜くコツはありますか?
「二つあります。一つは感性です。感性を鍛えるのは難しいですが、これがまったくない人は少し難しいかもしれません。
もう一つは問いかけです。この事業のゴールは何か、そもそも何のためにやっているのか、を繰り返すことで本質に近づいていけるのではないでしょうか。以下のルールにも関連しますが、自問するだけでなく、仲間とそうした話をすることでも本質に近づけると思いますよ」
Rule2. 根本的な価値観を共有する。そのための環境を維持できるよう努力する

「デジタルイノベーション部は6人でスタートしました。現在では社内に40人、全体で75人ほどの組織ですが、大企業としては珍しく仲間を選べる組織なんです。これは本当にラッキーでした。
とくに新規案件を行う場合、何が正しいかが曖昧模糊としているケースが多いと思います。それぞれのバックグラウンドや得意とするスキルが異なっても、根本的な価値観を共有できてさえいれば、皆でポジティブにゴールを目指していくことができます。
一方で、価値観を共有できないと、根本的に議論がかみ合わないといった事態がおこり、議論が停滞したり、不要な言い争いが発生したり、妥協する決定に流されがちです。
悪貨は良貨を駆逐する、ではありませんが、価値観を共有できるメンバーとの環境を維持していく努力を続けたいと思っています」
ーー人事権がなく「上司ガチャ」「同僚ガチャ」に恵まれない環境の人もいると思います。そうした状況で、少しでも良い人と時間をともにできるコツはありますか?
「難しいですね……。基本的に自分は、その人の得意な部分を見つけ出して、そこにフォーカスを当てるようにしています。自分の得意分野を活かせないと、その人も周囲も不幸になってしまうので、それをどれだけ早く見つけられるかに注意しています」
Rule3. 同僚の自主性を尊重する

「繰り返しになりますが、DX関連の分野は、これまでの仕事とは異なり、何が正解かわからないことが多いです。『こうしたら失敗する』というのはわかっていることもありますが(笑)。
正解の定義がないので、何かに取り組むときには意欲的にやろうとしている同僚をフォローする方が良いと思います。
新しい事業はしんどく、途中で挫けそうになることがたくさんあります。そのときを乗り越えるには、自分のパッションしかありません。
そのパッションが方向性を間違えていて、『そんなことやっても利益に結びつかないよ、ビジネスとして成功しないよ』という部分は止めますが、それ以外はできるだけ自主性に任せて進めてもらいます。
自動運転の車でも、安全に運行できるレベル5の車でないと、完全に運転を任せるのは難しいですが、できる限りその機能を使っていく、というような意味で自主性に任せたいと思っています」
Rule4. スピードを重視する。そのために内製できる組織をつくる

「丸紅のデジタル・イノベーション部は、総合商社としては珍しく、外部に頼らずアプリやサービスを構築できます。内製できる組織にしている理由は、時間をかけずにビジネスを推進するためです。今の時代、時間をかけるのは『悪』だと言っても過言ではありません。
物事の変化が激しく、競合も多い中で、ときにはスタートアップに勝たなければならないこともあります。だからこそ、スピードは非常に重要です。
サンクコストという言葉がありますが、過去に投資した時間や資金、労力を惜しむあまり、今後の意思決定に余計な影響を及ぼすことを指します。意思決定に時間がかかれば、その分サンクコストも増大します。とくに大企業は方向転換が難しい。
DI部では、決裁はその日中に行っています。また、問い合わせがあった際、私が回答できるものであれば、担当に任せず私が直接回答しています。
担当者に回答を考えさせて、それを上司や自分が確認し、また担当に戻す、という時間を省いてスピードを上げる必要があります。待っている方もその分ストレスが溜まりますからね」
Rule5. 行動こそが知性。考えと行動のバランスを取る

「新しい領域でビジネスをする際には、やはり『やってみないとわからない』ことばかりです。DI部はどちらかというと管理系の組織ですが、不確実なものに取り組む際には理屈で進めてもなかなか解決しません。ですから、
知性=行動
と考えています。ただし、その行動には自主性や本質の理解が含まれていなければなりません。
もちろん、考えなしに行動するのは良くありません。考え過ぎて動けないのと、考えずに動き過ぎるのと、そのバランスをどう取るかは常に考えています。
バランスを取るためには、その取り組みの本質をどれだけ把握し、理解しているかが大切です」
Rule6. 組織としてのアウトプットを最大化する

「小さい組織なので、いかに成果を大きくするかを常に考えています。独自のアイディアをゼロから自分たちだけでやろうとすれば、できるプロジェクト数は極めて限定されてしまいます。また、新しいことに取り組むという組織の特性上、それが全てうまくいくとも限りません。
なので、できるだけ他人の力を借り、今あるものを最大限利用すること、すなわち、営業部が取り組もうとしていることを支援して実現させることで、結果をレバレッジできるようにしています。
具体的には、既存の事業の拡張を実現させたり、各営業組織がコミットしている新領域のビジネス実現を加速させたり、ということに重点を絞っています。こうした成果を効率よく出すためにはどうすればいいかは、今も試行錯誤しています。
基本的には、メンバーそれぞれの強みをきちんと理解し、その強みを活かせる領域でアサインするのが最良だと思っています。しかし、短期的にはそれで良くても、中長期的には不得意な分野やまったく新しい分野にチャレンジできる環境も作らなければなりません。
6人の組織から始まりましたが、組織が大きくなり、長く働く人も増えてきた中で、それぞれのキャリアプランも考えていかなければなりません。組織の力と個人の成長のバランスは難しいです」
Rule7. 一芸に秀でた人間の集まりだからこそ、コミュニケーションを大切に

「DI部は一芸に秀でた人間の集まりです。しかし、事業を進める中では個々の一芸だけでは解決できません。必要とされる周辺領域について、知識や経験を持つ同僚たちときちんとコミュニケーションを取り、最終的な統合されたアウトプットにつなげていくことが大切です。
コロナ禍以降、DI部では出社が自由で座席もフリーアドレスですが、できるだけ誰かの近くに座ってもらい、仕事の合間に雑談できる機会をつくるようにしています。普段のコミュニケーションで同僚の強みを理解し、必要なときに適切な人にすぐ声をかけられる状態にしておくことが大切です」
ーー大倉さんからメンバーへはどのような発信をしていますか?
「6人でスタートしたころは個々と密に会話する時間がありましたが、規模が大きくなり、それぞれの方とシェアできる時間は短くなりました。コミュニケーションが短くなると、互いに何を考えているのかがわかりにくくなります。
その解消法の一つとして、私は毎週、部や関係する組織が何をしているかがわかるような週報を作って共有しています。その際、自分の考えをブログのように挟み込み、普段考えていることをできるだけ伝えるようにしています」
取材後記
7つのルール全体を通じて浮かび上がるのは「本質」という言葉です。大倉さんが最も重視しているキーワードであり、本質を理解していることを前提に他のルールが存在するほど重要であることが伝わってきました。
どのような行動・決断をするにしても、その根底に流れる本質の理解。まずここを肝に銘じておくべきだと強く感じました。

