少し前までは話題の中心だったNFT。今年に入ってAIに取って代わられた感はありますが、NFTはまだこれから伸びていくという声もあり、NFT事業に参入する企業も増えています。
とくに、エンジニアやクリエイターは、NFTによって活躍の場が増えていく可能性は高いといわれます。実際にNFTを販売して利益を得ているというイラストレーターの登内(とのうち)けんじさんに「エンジニアやクリエイターにとっての『NFTの可能性』」について、くわしく伺いました。
NFTとは?
「Non-Fungible Token=非代替性トークン」の略。トークンは、ブロックチェーン技術を使用して発行した「暗号資産」の総称。「非代替性トークン」とは、替えがきかない、唯一無二の価値を持つ暗号資産という意味です。なお仮想通貨は、「FT(Fungible Token=代替性トークン)」と呼ばれます。
NFTとは、ブロックチェーン上に記録される、唯一無二の価値を持つデジタルコンテンツの所有権を証明するものです。デジタルコンテンツであれば、アートやゲーム、音楽など、さまざまなものをNFT化できます。
登内けんじさんプロフィール
アーティスト・イラストレーター・デザイナー
長野県出身・東京都在住
愛知工業大学 建築学科卒業
東京コミュニケーションアート専門学校 イラストレーションコース卒業
人物画、とくにアスリートや武士をモチーフにした作品を多数制作
雑誌・書籍などにてイラストレーションを提供
NFTコレクション
告知用Twitter
目次
個人クリエイターのNFTの販売について
――登内さんがNFTをはじめたきっかけは?
NFTをはじめたのは、2022年2月からです。1年3ヶ月ぐらい経ちますね。はじめたきっかけは、ほかのイラストレーターさんのNFT展示を見て、おもしろそうだと思ったからです。
――はじめてみて、NFTへの印象は変わりましたか?
NFTは、はじめるまではハードルが高いけど、はじめてしまえば楽しいし、実際やっている人は楽しんでいると思います。
はじまったばかりの世界ですが、欧米では日本とはだいぶ意識が違います。日本のようにNFTが「特別なもの」ではなく、すでに、ごく「普通にあるもの」という感覚で、NFTをおこなうことへのハードルや壁が少ないそうです。
聞いた話ですが、日本の画家が、NYで個展をしたときに、「NFTをやっていない」と言うと、ギャラリーのオーナーや来場者の方々に「なぜやらないの?」と尋ねられたそうなんです。むこうでは、アーティストはとくにデジタルに強くなくても「NFTを販売していてあたりまえ」という感覚なんですね。
――やはり気になるのは、「NFTは売れるのか?」です。実際のところ、売れていますか?
ありがたいことに売れています。
僕は現在、一点0.03ETH(イーサ)で販売しています。円換算すると、約7,800円です(2023/4/30のレート)。
少し前まではかなり下がっていました。円安の影響もあるかもしれませんが、イーサ自体も下がっていました。仮想通貨は円やドルより上下が激しく、買い時や売り時が難しいです。
――価格はどうやって決めるんですか?
価格は出す側が決められるので、いくらにするかは自由です。でも、買ってもらわないと意味がありませんので、バランスが難しいです。
僕の設定している0.03 ETHは、まだまだ安いほうですね。価値がつくと1 ETH(=約260,000円)(2023/4/30のレート)で販売するケースもあります。
――購入者は外国人が多いのですか?どのように購買に結びつけていますか?
僕の場合は、今のところ購入者はほぼ日本人です。武将などの日本的なイラストも描いているので、外国人ともつながっていきたいですね。TwitterではNFTをコレクションしている人と直接かかわれるので、日本語と英語の両方でつぶやいています。
NFTのビジネスモデルとは?
――クリエイターにとって、どのようなビジネスモデルで収益化ができるのでしょうか?
絵を描く人の場合、以下の二つのやり方が考えられます。
- 描いた絵を販売し、気に入った人に買ってもらう「画家的」なビジネスモデル
- 依頼があって絵を描く「イラストレーター的」なビジネスモデル
②の場合、たとえば、「ジェネラティブNFT」があります。ジェネラティブNFTは、プログラムやアプリによって自動生成された大量のNFTアートのことで、ほかの人とかぶることがない一点もののため、価値を得やすいです。
具体的には、顔・目・鼻・口・手・アイテム・髪型などのパーツをたくさん作り、それを素材にしてプログラム上で一枚の絵を作り上げます。組み合わせの違いで、この世に同じものがない唯一無二の絵ができます。
NFTのすごいところは、一枚の絵をつくって終わりではなく、さらに多彩な楽しみ方ができることです。
たとえば、コレクション内のNFTアートを複数購入して組み合わせると、別のさらにスペシャルなものが作れたり、一度絵をバンする(消す)と全然違うものがもらえるシステムもあります。コレクター欲がくすぐられるんです。
ただ、そのようなNFTの楽しみ方を提供するためには、プログラムが必要です。だから、エンジニアの力が不可欠なんですよね。
――クリエイターだけでなく、エンジニアにも活躍の場があるのですね。具体的にはどのように活躍できるのでしょうか?
NFTの取引をおこなうブロックチェーン上で動くプログラムがスマートコントラクトです。現在エンジニア(ブロックチェーンエンジニア)は足りていないそうで、できる人は引っ張りだこです。
スマートコントラクトがわかると、NFTでできることの選択肢がぐんと広がるので、可能であればクリエイターも勉強するといいと思います。
プログラムが書けなくてもNFTの販売自体はもちろん可能です。通常は、プラットフォーム上の「共有コントラクト」を利用します。ただ、共有コントラクトでは、「絵を描いて売る」まではできますが、そこから先できることが限られてしまいます。
――スマートコントラクトを利用して、すでにプロジェクトは生まれているのでしょうか?
クリエイターの描いたイラストで「遊び方」の仕掛けをして楽しませるような大小のプロジェクトも増えています。そういったNFTのプロジェクトには企業も参入してきていますが、DAO(ダオ=分散型自律組織)形式のプロジェクトも盛んです。
DAO形式は、エンジニアやクリエイターやプロデューサーなど役割分担した個人が名を連ねて、プロジェクトを進めていく形式です。今後は、売れっ子のエンジニアやクリエイターが、さまざまなプロジェクトに関わっていくやり方が、ますます主流になっていくと思います。
NFTでトラブルにあわないための注意点
――NFT作成時のプラットフォームはどこがオススメですか?
OpenSeaは世界最大で利用者が一番多いので、初心者にはオススメです。
NFTを購入した人が転売すると、販売額の数%が著作者に入って来ます。でも現在では、転売のときにクリエイターに収益が入らないプラットフォームも増えています。利益を得るために、転売のときにクリエイターに収益を払う必要のないプラットフォームを選ぶ投資家が増えているからです。クリエイターより「投資家目線」なんですね。
OpenSeaは現状、転売時のクリエイター収益を最大10%まで設定できます。あまり収益のパーセンテージを高くして、二次流通が起きるかどうかはまた別の話ですが。ただ、OpenSeaもクリエイターの収益を失くす動きが出たこともあり、今後動向を見ていく必要があると考えています。
――仮想通貨ウォレットは何を使っていますか?
仮想通貨ウォレットは、仮想通貨やNFTを入れておく「お財布」のことで、さまざまな種類があります。僕はソフトウェアウォレットのMetaMaskを使用しています。セキュリティを考えると、MetaMaskだけというのは、あまりオススメはしません。
少しネガティブな話をすると、MetaMaskだけでは詐欺に遭ったときの被害が最大化してしまうんです。MetaMaskに仮想通貨やNFTを全部入れたまま取引すると、詐欺にあって、すべての資産を失う危険性があります。具体的には、サイトに誘導して、購入ボタンに見せかけて「サイフを自由に使用OK」のボタンを押させる手口です。
なので、オフラインで管理できるハードウェアウォレットに、仮想通貨や購入したNFTを保管することをオススメします。取引のたびに必要なものだけをMetaMaskに移動して使用することで、危険を最小限に押さえられます。ただし、移動するたびにガス代(手数料)がかかる点だけは注意が必要です。
――NFTの問題点のひとつは、法整備が追いついておらず、後追いになっている点だといわれます。トラブルに巻き込まれないために気を付けている点はありますか?
法整備が追いついていないといっても、無法地帯ではなく、日本は海外と比較しても厳しめなので、よし悪しなのだと思います。融通がきかないと感じるくらいですが、反対にいえば守られているともいえますよね。
自分で調べて「知る」こと以外に、自分を守る方法はないと、僕自身は考えています。販売・購入方法は、調べて納得した上でおこなってほしいし、納得できないならやめたほうがいいです。「大丈夫だろう」とタカをくくると詐欺にあいます。
Twitterから危険なページに誘導されることもあります。調べれば販売元の公式リンクがあるので、うかつにリンクを踏まないことは大切です。
普段の生活でも、危険なところに行けば危険な目にあうのは当たり前のこと。詐欺にあわないためには、キチンと調べた上で、怪しいところには手を出さないようにするしかありません。

著者:堂場瞬一 装丁:welle design
NFTの所有権や著作権におけるルール
――所有権、著作権におけるNFT特有のルールはあるのでしょうか?
ほとんどは現実世界と一緒です。現実世界との違いは、二次創作の販売が、アウト(罪)でないケースもあること。NFT独自の文化的なところで、ファンアートも作品の権利者がルール付けした範囲内であれば、販売OKなところが多いです。
たとえば、ジェネラティブNFTのBAYC(Bored Ape Yacht Club:ベイシー)というコレクションは、所有しているNFTアートに限り、自由に商用にも利用可能です。
NFTにはクリエイターファーストの文化があり、イラストレーターの著作権は、基本的には通常と同様に守られています。ジェネラティブNFTではパーツごとにイラストを制作しますが、パーツ全体のアートワーク制作者として、イラストレーターの名前を出して販売されます。
――ほかに、NFTならではの著作権的な注意点はありますか?
僕は主にアナログで制作しているイラストレーターなので、最初はアナログで描いた絵を撮影し、デジタル化してNFT化していました。その場合、現物とデジタルの両方の絵があるので、どちらに価値があるのか?が悩ましくて。
極端な話、アナログをデジタル化しNFTとして販売して、アナログの絵も別で販売するのは、違法ではないのか? と悩みます。これは法律的にはOUTではないんです。法的には、アナログの絵とNFTは別のものと扱われるんですね。
でも、買ってくれた人の気持ちを考えると、自分の中では納得できないものがあります。それで、NFT用にデジタルで描くようになりました。おかげで画風も広がったので、結果的にはよかったです。
NFTはエンジニアにとってこそ「大きなチャンス」
登内さんのお話を伺って、NFTはクリエイター以上に、エンジニアにとって大きなビジネスチャンスなのだと感じました。スマートコントラクトが書けるエンジニアは、気に入ったクリエイターと一緒に、おもしろいプロジェクトを次々仕掛けて行けるのです。
この未来、ものすごく楽しそうではありませんか?
実は、お話を伺う前までは「なんとなくNFTは怖い」と逃げていた筆者。インタビューが進むごとに、反省で首がうなだれていきました。とくに「『知る』こと以外に、自分を守る方法はない」は胸に突き刺さりました。何も知らず、調べようとせず、やみくもに怖がって手を出さないのは、もったいなさすぎます。
まずはやってみるべし!やってみなければ、何もはじまらないということですね。
(文/取材:陽菜ひよ子)