株式会社BuySell Technologies(以下、バイセルテクノロジーズ)で取締役CTOを務める今村雅幸さん。バイセルテクノロジーズ以外にも、日本最大級のイベント情報サービス「イベンターノート」代表や日本CTO協会理事など、幅広く活動されています。
今村さんは新卒3年目のときに株式会社VASILYを共同創業し、取締役CTOに就任。VASILYが開発・運営したファッション系SNSのサービス「IQON」は、ユーザー数が200万人を超え、大きなサービスに成長しました。
創業から8年後、2017年にVASILYをスタートトゥデイ(現:ZOZO)に売却。会社統合と同時にZOZOテクノロジーズ執行役員CTOに就任し、プロダクト開発やエンジニアの組織づくりをおこないました。
それから3年後の2021年3月、バイセルテクノロジーズに取締役CTOとしてジョインしています。
CTOとして長年活躍し続ける今村さんに、仕事の流儀を聞きました。
Rule1.中長期のテクノロジー戦略を考える
CTOの役割として一番大事なことは、会社における中長期のテクノロジー戦略を考えることです。
CTOには大きく分けると3つの役割があると思っています。1つめが「中長期のテクノロジー戦略を考える役割」、2つめが「プロダクト開発がうまくできる仕組みをつくる役割」、3つめが「エンジニア組織をつくる役割」です。
このなかでCTOにしかできないことは、「中長期のテクノロジー戦略を考える役割」だと思います。ほかの役割は、テックリードやVPoEなどもできるはずです。
マーケット全体のトレンドや技術トレンドを把握してより高い視座でどういうテクノロジーを武器にして、会社をどこに進めるべきかを考える。それはCTOがやらないといけない仕事だと思いますし、一番大事だと思っています。
ZOZOテクノロジーズ時代にCTOとしてやったことで大きかったのは、ZOZOTOWNのリプレイスを意思決定できたことです。リプレイスには時間も費用もかかりますし、実行する判断を下すのは簡単ではありませんが、アーキテクチャと組織体制を組んで経営陣に必要性を説明しました。
あのときにリプレイスをしていなかったら、おそらくZOZOTOWNはいまよりもシステムエラーや障害が大量発生していたと思います。
バイセルテクノロジーズでは、入った当時、出張買取自体はうまくいっているものの、その先どこに向かっているのかはふんわりしていました。
わたしたちの強みや今後の向かう先を考えた結果、買取から販売までのデータを一気通貫して取り扱い、活用できる基盤を作ることが中長期的には重要な戦略になると考え、現在「バイセルリユースプラットフォーム Cosmos」の開発を進めています。

会社がどこに向かうか、それを支えるテクノロジーはなにか、どこに投資すべきなのかを考えることは、CTOとして一番重要な仕事です。
CTOは、経営者です。もちろん、よいプロダクトをつくる、よいエンジニア組織をつくるのは大事ですが、最も重要なのは会社を成長させることです。それを考えて実行することがCTOには求められます。
Rule2.コードを書く場所をつくる
会社とは別で、個人で「イベンターノート」という日本最大級のイベント情報サービスを開発しています。このサービスは、完全に趣味の延長です。
開発当時、声優関連の情報が集約される場がなく情報収集が大変だったことから、誰もがイベント情報を投稿できるようなWEBサービスを目指してつくりました。そこから10年の時を経て、サービスの利用者数も日本最大級になり、現在でもユーザーが最新情報を日々投稿してくれています。
CTOになるとコードを書く時間は基本的に少なくなる傾向があると思います。しかしテックリードなどと対等に会話できるレベルはキープしておく必要があります。
そのためこのイベンターノートは、自分がコードを書く場所としても大事にしています。
やはりエンジニアなので、コードを書いている時間は楽しいですし、ワクワクしますね。
Rule3.HRTを大事にする
HRTは、「Humility(謙虚)」「Respect(尊敬)」「Trust(信頼)」の頭文字を取ったものです。HRTについては、『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』(オライリー・ジャパン)で紹介されています。
どのような人に対しても 謙虚・尊敬・信頼を持って接することを心がけています。これは、組織をつくるうえでも重要ですし、何かしら問題が起きるときはこのどれかが欠けていることが多いです。 新卒たちにもマネジャーたちにも日々言い続けていますし、自分自身も気をつけています。
Rule4.期待値を1%でも上回る
仕事において100%を期待されているとしたら、1%でもいいから驚きのエッセンスというか、自分なりの期待値超えの要素を入れて返します。
その1%の積み重ねによって、自分に対する期待値や信頼を獲得し、より大きな仕事を任せてもらえるようになると思っています。
あとは、技術的な挑戦を必ずしますね。これも重要な要素です。エンジニアはある程度のスキルが身につくと、自分の知識だけで仕事をするようになると思います。
たとえば、いまこの瞬間に「ホームページをつくってください」と言ったら、おそらく知っている知識でつくりはじめるはずです。
でも、もしかしたら今朝にとんでもないサービスが出ていて、今までよりももっと簡単にクオリティの高いホームページをつくれるようになっているかもしれない。エンジニアの世界は、昨日までのやり方が今日には 非効率になっているかもしれない世界です。
新しく何かに取り組むときには、最新のやり方を必ず調べます。かつその中で、自分自身がこれまでやったことがないような、技術的な挑戦をするんです。
それ自体が、エンジニアとしての成長につながるので、メンバーたちにもそうやってくれと言っていますし、エンジニア達の評価軸にも技術的な挑戦がどれだけできたか、という要素を入れています。
Rule5.インプットすることを習慣に
インプットすることは習慣になっていて、IT系の記事は、毎日100本以上は見ていると思います。出社したときに、なにか新しい技術トレンドについて語り合うところから朝が始まる。それくらいのインプット量を心がけていますね。
わたしの場合、常にPCの右上に最新の技術系の記事が表示されるように設定していて、会議の合間の1~2分の隙間時間も無駄にせず、インプットの時間に充てています。
最近でいうと、ChatGPTをはじめとして、毎日本当にすごいアップデートがあるので、記事に目を通すだけでなく、実際に自分でもコードを書いて試していますね。
Rule6.因数分解して考える
ビジネスへの貢献を紐解いていくと、売上や利益が当然必要です。その売上を支えているものはなにかを因数分解して考えます。どこにテクノロジーのレバレッジをかけると、最も売上や利益に貢献できるのか。そのキーポイントを間違えないことが重要です。
結局どれほど優秀なエンジニアや、どれほどすごいものをつくれる人たちがいても、活用方法を間違ったら、会社は伸ばせません。
ビジネスモデルをしっかり考えて、どこにどのようなレバレッジをかけると一番伸ばせるのかを間違えない。これが大事です。
自分たちでスタートアップをやってきましたし、消えていったスタートアップもたくさん見てきました。そのなかで、結局一番重要なのはビジネスモデルなんですよ。ほぼすべてと言ってもいいと思っています。
バイセルテクノロジーズの場合は、ビジネスモデルがしっかりしています。テクノロジーがなくても成立するビジネスです。テクノロジーがなくても成立するビジネスに、テクノロジーによるレバレッジをかけるのが最適だと 思います。
テクノロジーは、掛け算なんです。もとがゼロだったらゼロになります。レバレッジをかける場所が間違っていたら、所属しているエンジニア全員がどれほど優秀だとしても不幸になってしまいます。
Rule7.ワクワクを大事にする
わたしにとって仕事はワクワクするものです。一番ワクワクできる瞬間って、仕事にまつわるものがほとんどですし、そういうものがあるから人生が豊かになっていると思います。生活のためにやっているというよりは、本当に好きなことをひたすらやっている感覚です。仕事も自分の趣味のサイトをつくることも純粋な興味、関心、好奇心でやっています。
大学を卒業するときに、未来の自分に対してのビデオレターを撮りました。そのビデオレターで、「将来、ITの仕事をしていると思うけど、必ずITで世の中を便利にすることにワクワクしていてほしい」と未来の自分に対して言っているんですよ。
この想いはいまも変わりません。ワクワクがベースにあるから続けられていると思います。ZOZOテクノロジーズに入ったのもバイセルテクノロジーズに入ったのも、ワクワクしたからです。
これからも見たことのない景色を見てワクワクしたいですし、それを自分と仲間たちでつくっていくのが楽しいし、やりがいです。
Professional 7rules
(取材/文:川崎博則)
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