マネジメント、採用、育成、意思決定……。エンジニアリング組織を率いるCTOやVPoEの方々は、日頃から大小さまざまな課題に向き合っています。このコーナーでは、エンジニアリング組織のお悩みを読者の皆さまから募集。UUUM株式会社の元CTO・尾藤正人さんがアドバイスします。
第2回のお悩みはエンジニアの評価方法についてです。
お悩み:エンジニアの評価方法や給与体系を改善したい!
主戦力のエンジニアが続けて辞めてしまい、エンジニアの評価方法や給与体系を見直す必要があるのではと考えています。それらについてセオリーとなるものがあれば教えてください。
尾藤さんからの回答
エンジニアは転職によってキャリアアップしようとする
エンジニアは他の職種に比べ採用が難しく、開発チームの主力だったエンジニアの退職は企業にとって非常に痛手であろうと思います。多くの場合、次の仕事を見つけてから退職を切り出すので、「辞めます」と言われてしまったタイミングではもはや引き止めるのも難しいでしょう。退職の要因はさまざまとはいえ、おっしゃるとおり評価や給与に納得がいかないからという場合もよくあります。社内制度の見直しによって離職率は改善できるでしょう。
そもそもエンジニアは自身のキャリアアップを考えるとき、社内で昇進する道を選ばずに転職でかなえようとする傾向が強いです。社内で正当な評価や報酬を得られていないと感じる人が多く、その結果気持ちが転職に傾いていきます。
正当な評価や報酬が得られていないと感じる理由は、大きく分けると2つあると考えています。1つは、多くの企業が採用している業績と連動する形での評価方法がエンジニアと相性が悪い点。もう1つは、何よりエンジニアのスキルを正しく評価することそのものが難しい点。これら2つを解決できるような制度を考えていかなければなりません。
いいシステムが必ずしも利益を生まないというジレンマ
企業では多くの場合、自社の事業・利益にどれだけ貢献したかで社員の評価を下すものかと思います。しかし、この評価軸でエンジニアを評価するのは非常に難しいでしょう。
よいシステムを作れば必ずしもその事業が成功するわけではありません。たとえばどれほどアーキテクチャが美しく、設計に無駄がなく、処理が速いものを開発しても、実はそれが利益と直結しないことのほうが多いのです。逆に言えば(極端な話ではありますが)お粗末なシステムであってもビジネスモデルが優れていれば利益を生み出す事業になる可能性もあります。
高いスキルを持ったエンジニアがいかんなくその能力を発揮してすばらしいシステムを開発したとしても、その評価は業績に委ねられてしまう。そして本来持っているスキルに対して見合わない評価になってしまう。これではエンジニアにとって納得がいかないのは当然です。転職を考えるのも仕方がないでしょう。
この「エンジニアの評価と業績連動との相性が悪い点」はエンジニアにとって不満の種となる大きな理由の1つです。
それでは、この問題を解決するにはどうすればいいでしょうか。まず大前提として、エンジニアの評価はエンジニアにしかできないと考えたほうがいいです。そのうえで私は、エンジニアは業績連動ではなくスキルで評価すべきだと考えています。営業職など働きが業績に直結する職種とエンジニアとを同じ制度で評価するのは無理があります。制度自体を分けて運用したほうがうまくいくはずです。
もちろん、企業として社員を評価するにあたり、業績を一切考慮しないのも難しいでしょう。また、いきなり完全にスキル(=エンジニアとしての市場価値)だけで評価を決めるのもなかなか難しいかと思います。よってまずはエンジニアの評価時に業績に連動する部分の割合を減らすよう取り組んでみてください。
スキルを評価する仕組みが導入できなければエンジニアは逃げる
エンジニアの評価制度だけを他の職種と分けることが簡単でない企業もあると思います。業績連動の割合を減らしたエンジニア評価制度を導入しようとすれば、ビジネスサイドから「事業貢献したくないということか?」と反発を受けるかもしれません。特にエンジニア以外の部門が強い会社であれば、社内で理解してもらうのに苦労するでしょう。ただ、たとえそういった中でもエンジニア向けの評価制度の必要性は訴え続けていくべきです。
もちろん会社員である以上、事業へ貢献しなくていいと言うつもりはありません。エンジニアが積極的にビジネスサイドへの理解を深めていくのはよいことだと思います。一方で、エンジニア全員がそうなるべきだとは思っていません。ビジネスサイドに入っていかないからといってそのエンジニアが不利益を被るような制度や、成果より業績に左右されて評価が決まる制度を続けていると、間違いなく優秀なエンジニアからどんどん逃げていってしまいます。
エンジニアに長く会社に留まってほしいと考えるのであれば、スキルで評価する制度を整えていくことはマストといえます。
「正確なスキル評価」はまだ誰も正解を知らない難題
スキルで評価することができるように社内制度を変えることができたら、それだけでも大きな前進と言えますが、それで終わりではありません。最初に書いたもう1つの理由である「エンジニアのスキルを正しく評価するのが難しい」問題をクリアしていかなければなりません。
エンジニアはスキルで評価するべきだと言っておきながら申し訳ないのですが、「スキルを正確に評価すること」は非常に難しいです。エンジニア採用や評価制度に長く携わってきた私も、まだ絶対の正解は見つけられていません。むしろまだ誰も知らないのではないかと思うくらいです。
私がスキルを評価する際に大切だと感じているのは、多面的に見ることです。たとえばリーダーからの評価だけでは、リーダーの得意なフィールドについての判断しか正確にできません。360度評価をすべきだとは言わないまでも、同僚のエンジニアなど複数の目による評価方法を推奨します。他者からの評価をどのくらいの割合で給与に反映するかは別途検討が必要ですが、評価制度を変えるための試みとしてはよいと思います。
本当にエンジニアの評価は難しく、うまくやれている企業はそう多くはありません。エンジニア用の評価制度を開始したあとも、常に改善を続けていくくらいの気持ちで運用していくことが大切です。
退職者をゼロにはできないが減らすことはできる!
エンジニアが辞めてしまう理由は一概に給与や評価によるものだけとは言えません。しかし、評価や給与に納得がいっておらず「別の環境であればもっと適正な評価をしてもらえるのでは」と感じれば、そのエンジニアが転職するのは当然です。
特にスペシャリストとして突き抜けたスキルを持つエンジニアに対して、将来目指すキャリアパスが用意できていない場合、そういった人を留めておくのは困難でしょう。スペシャリストのためのキャリアパスを作るのもエンジニアチームを率いるリーダーやCTOの大事な役目です。
退職者をゼロにはできないものの、評価そして給与が成果に見合ったものになり「自分の働きがきちんと評価されている」「この会社でキャリアを積んでいきたい」と納得してもらえれば、自社から出ていってしまうエンジニアは絶対に減らせます。
エンジニアの評価制度はどの企業も悩みながら作っているかと思います。人事部門だけの課題とせず、全社的に取り組んで、よりよい方向に進めることを願っています。
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