マネジメント、採用、育成、意思決定……。エンジニアリング組織を率いるCTOやVPoEの方々は、日頃から大小さまざまな課題に向き合っています。このコーナーでは、エンジニアリング組織のお悩みを読者の皆さまから募集。UUUM株式会社の元CTO・尾藤正人さんがアドバイスします。

第3回のお悩みは情報システム部の必要性についてです。

お悩み:情シス(情報システム部)って必要?

弊社は現在情報システム部がなく、社内のエンジニアが兼任している状態です。致命的な問題があるわけではないのですが、組織も大きくなってきて無理が出てきているようにも感じます。情報システム部を立ち上げたほうがよいでしょうか。

尾藤さんからの回答

情シス不在は「みんなで負担を分け合っている」状態

会社規模が小さいうちは、エンジニアが情報システム部(以下、「情シス」)の役割を兼ねることがよくありますが、結論から言うと情シスは独立した部門として必要だと思います。

理由としては大きくふたつあります。ひとつは、情シスがないのは社員みんなで少しずつその仕事を負担している状態であること。もうひとつは、情シスの必要性を感じていない企業は経営陣のITに対する意識が低く発展が望めないことです。

はじめに、ひとつめの理由で挙げた「社員みんなで少しずつ仕事を負担している」について説明します。

情シスとよく似た立ち位置にあるのが経理部です。経理部は会社の売り上げや社員の給与管理、社会保険料や税金を適正に納めるなど、重要な役割を担っています。

ただ、少し横暴かもしれませんが、売り上げについては営業担当が頑張って管理してもなんとかできるでしょうし、税金なども社員ひとりひとりが管理することもできなくはありません。経理部がなかったとしても、企業としての活動ができないわけではないのです。しかし、明らかに非効率で面倒だと分かるため、みんな経理部は必要だと認識しています。

情シスも役割としては近いものがあります。情シスがある場合は、社内のITサポートはもちろん、PCなどの備品やソフトウェアのライセンス管理、セキュリティ対策などを一括して引き受けることができます。これら個々のことは、たしかに情シスがいなくてもできることです。ただ、多くの企業に経理部が存在しているのと同じように、情シスがなければそれを社員でIT周りの仕事を負担しあわなければなりません。

特にセキュリティに関しては、致命的な問題が起こっていないだけで危ない状態が放置されていることがよくあります。人によって知識やリテラシーの差がありますし、業務が多忙であることを理由に管理が雑になりがちです。経理部でいえば、会社のお金の管理を、まったく得意でない社員も含めてやらせている状態です。これは効率的ではありません。

「情シス不要」に現れる経営陣のIT理解の低さ

ただ、経理部と違い、情シスは経営陣や他の部署から何をしているのか分かりにくいため、情シスの設置について議論が起きてしまいます。また、情シスがある企業でも期が変わるたびに人を減らされたり、予算を減らされたりして、苦労している担当者の方は多いのではないでしょうか。

たとえば、セキュリティ面で危険な状態を健全にしたとしても、売り上げがあがった、利益を出せたといった成果につながることはなかなかありません。そのため経営的には何も変わらないと判断されてしまいがちです。また、メンバーとしても「何かを成し遂げた」という達成感を得るのが難しく、周りからも「きちんと仕事をしているのだろうか?」といった視線を向けられてしまう可能性もあります。

これは安定稼働や事故・障害を起こさないことが当たり前とされる保守・運用をメイン業務とするインフラエンジニアと近いものがあるかもしれません。管理のためにコストをかけるというのは、これまでかかっていなかったコストが余計にかかるようになるということです。経営陣から費用対効果を示すように言われても現実的な数値を示すのは非常に難しいです。

また、情シスの管理コストを下げるための費用も企業では通りにくいものです。たとえば、SSO(シングルサインオン)を利用したID・パスワードの一元管理は、業務で利用するさまざまなサービスを安全かつ快適に利用するために欠かせません。しかしSSOの導入には現状より費用がかかる場合が多く、予算獲得のために説明の労力が発生します。「SSOの導入でアカウントが一元管理できる」と言っても「情シスで管理すればいいじゃないか」と言われることもあるでしょう。そのため情シスを新たに設置するのと同じくらい、予算の確保や適切な運用が難しいのです。

これがふたつめの理由につながるのですが、ある程度の規模がある企業で情シスがないということは、経営陣のエンジニアリングに対する理解が乏しく、組織として未熟な状態です。

昨今、事業の拡大にIT技術を使わない企業はほぼありません。そういった状況の中で、エンジニア採用に力を入れている企業も多いかと思います。しかしこれまでの私の経験から、情シスがなくエンジニアが兼任している、または社員各自に任せている企業が「いいエンジニアを採用したい」「エンジニア組織を強化したい」といってうまくいった例を見たことがありません。

もしCTOかそれに相当する立場の人が社内にいるのであれば、各自の責任で管理させている状態は危険だと気づき改善に努めるはずです。それが放置されているということは、経営陣の中に理解のある人がいないという証明になってしまっています。

「エンジニアに任せればいい」も間違い

情シスの仕事は総務・管理部に近いものがありながら、IT技術が分かる人でないと適切な運用ができません。そのためご相談にあったとおり、エンジニアが兼任するパターンは非常に多くあります。

一見「IT技術が分かる人」というとエンジニアが適任だと考える方もいらっしゃるかもしれませんが、本業がシステム開発のエンジニアの場合、情シスの仕事とはかなり性質が違います。

基本的にエンジニアは情シスの仕事を好みません。その点に気づかないと、もしくは気づいていながら放置をしていると、エンジニアの会社に対するエンゲージメントはしだいに下がっていきます。最終的には退職につながります。

エンジニアの採用に関わる方であれば実感されていると思いますが、現在エンジニアの中途採用は非常に難易度が高く、自社からエンジニアが退職してしまっても同レベルの方を再度採用することは困難を極めます。

情シスを設置することはいいエンジニアリング組織を作っていくためにもとても重要なことだというのを企業の経営陣は理解しなければなりません。

「現場でなんとかする」ことの弊害

情シスへの理解がなかなか進まない背景として、私は日本特有の事情が関係していると考えています。

まず、日本語という言語による外資参入の壁があります。また、市場規模が大きいため国内で閉じていても国内需要だけで企業活動がある程度成り立つことも理由として挙げられます。つまりわざわざコストをかけてIT化を進めなくても、営業努力で売り上げを伸ばせる環境にあるのです。よって、(徐々に変わってきてはいるものの)経営者も営業やマーケティング出身の人が多く、エンジニアリングが重視されない傾向にあります。

加えて、日本は教育水準が高く、メンバーの努力で仕事がなんとか回せてしまうため、ITによる仕組み化が遅れていても仕事が完全に止まることはほとんどありません。海外では教育を受ける機会の差がかなりあり、現場のメンバーが円滑に仕事をおこなうために仕組み化は必須です。「現場でなんとかしてくれるだろう」というのが通用しないからです。

しかし、なんとかなる日本なら情シスは不要なのかというと、決してそうではありません。もし経営陣が生産性の向上を掲げるのであれば、IT化なくしては実現できません。さらにセキュリティ対策を軽視した結果、機密情報や個人情報の流出が発生すれば、企業が失う信用は管理コストとは比べものにならないほど大きなものになるでしょう。

情シスは「開発部門」か「管理部門」か

次に、情シスを設置する際の注意点についてもお話しします。

会社の規模が大きくなると、情シスをとりあえず設けてみるという企業もあるでしょう。そのとき情シスを開発部門の下におくべきか、管理部門の下におくべきか悩む場合もあると思います。組織によって状況は異なるので一概にどちらが正解かを言うのは難しいですが、職種や役割的には管理部門が適切だと思います。

ただし、管理部門に所属する人がITに明るくないと、情シスをうまく管理できない可能性がありますので注意してください。以前情シスがうまく機能していない組織で立て直しを図ったときは、一度体制としては開発部門の下に置いて、私がレポートラインに入り、CTOとして適切に機能するよう整備しました。そしてしばらくようすを見たあとに管理部門に返しました。

その後も組織図としては離れていながら、アドバイザーとして必ずミーティングには参加するなど気を配るようにしていました。情シスを技術的な知識がない人がうまくマネジメントすることは難しく、また、情シスでのメンバーの働きを適切に評価することも難易度が高いと言えます。ここはエンジニアチームに対する課題と近いものがあります。

そのため情シスのトップにどんな人が来るかはとても重要です。理想的にはCIO(最高情報責任者)が望ましいと考えます。CIOは、経営戦略および情報活用戦略、そして業務プロセスの改善を検討・推進する役割のため、経営とITの両方の視点を持って組織をマネジメントでき適任です。ただ、CIOを有している企業はまだまだ少ないでしょう。現実にはCTOの立場の人がやる場合が多いと思います。

将来を見据えて情シスのあり方を考える

ここまでお伝えしてきた内容を読んで「これは大変だ……」と頭を抱えてしまったご担当者もいらっしゃるかもしれません。ただ、情シスをうまく機能させることで、社内のITに関する煩雑な処理を一元管理でき、そこに取られていたエンジニアのリソースを本来の業務に当てることも可能です。将来的にはエンジニア組織をよくしていきたい、優秀なエンジニアを採用したいという課題の解決にもつながります。

私の感覚では、社員50名規模で情シス専任を1名おくのがよいと思っています。企業規模が大きくなってくると増員が必要ですが、全員が社員でなくても構いません。ヘルプデスクなどと合わせて一部アウトソーシングしてもよいでしょう。

経営陣やビジネスサイドからなかなか理解を得るのが難しく、納得させるために地道な努力が必要になる場合もあります。情シスの立ち上げおよび適切な運用のためには、トップを務める人間が多少身を切ってでも覚悟してやり遂げるべき場面も出てくるでしょう。

大変な点はありますが、社内のIT資産の管理やITによる仕組み化の推進は、企業の成長には欠かせない重要なミッションです。ぜひ未来を見据えて情シスのあり方を考えてみてください。

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