マネジメント、採用、育成、意思決定……。エンジニアリング組織を率いるCTOやVPoEの方々は、日頃から大小さまざまな課題に向き合っています。このコーナーでは、エンジニアリング組織のお悩みを読者の皆さまから募集。UUUM株式会社の元CTO・尾藤正人さんがアドバイスします。
第1回のお悩みはエンジニアの採用についてです。
お悩み:エンジニアの採用がうまくいかない!
エンジニア求人に応募は一定数あるのですが、要件に合わなかったり途中で辞退されてしまったりとなかなか採用に至らない状況が続いています。見直すべきポイントなどありますでしょうか。
尾藤さんからの回答
エンジニア側も面接で企業を選んでいる
「応募は一定数あるのに、なかなか思うような人を採用できない」というのは企業の採用担当者からよくお聞きする悩みです。世の中には「エンジニア」と名乗る人は大勢います。しかし、企業が求めるいわゆる「優秀なエンジニア」というのは希少で、よっぽどあなたの会社に魅力を感じてもらわないと、採用までたどり着けません。
それは企業がエンジニアを選ぶのと同時に、エンジニアも企業を選んでいるからです。
厳しい言い方かもしれませんが、「エンジニアの採用ができない」というのは、「エンジニアに選ばれる企業ではない」と言い換えることができます。まずここを理解できていない企業が多いですね。そもそもエンジニアという職種は、数年で転職を考える人が多く、在籍した企業と一生をともにすると考える方はそう多くないと思っていただいたほうがよいかと思います。そのため採用において「この人は自社に尽くしてくれるか・貢献してくれるか」という考えを強く持っているのであれば根本から意識を変える必要があります。
エンジニア個人にとっていちばん大切なのは自身のキャリアであり、もっと言えば自身の人生です。そのことを念頭に置いて、「この企業でエンジニアとして働くことがあなたの人生にとってプラスになります」と示すことができなければ、エンジニアから選ばれるのは難しいでしょう。
では、エンジニアが企業のどこを見て自分の人生にプラスになると判断するかというと、「その企業に入ってエンジニアとしてキャリアアップできるか」です。ぜひ応募者になったつもりで、あなたの会社が「転職先で自身のスキルを伸ばせるか」「経験したことが次の転職でさらなるキャリアアップにつながるか」といった希望に応えられるか、改めて考えてみてください。
もしくは十分にそういった環境だとしても、その自社の魅力を応募者に正確にアピールができていない場合もあります。採用ポジションによって伝える内容が異なる部分もありますが、エンジニア採用がうまい会社は、「うちに入れば技術が学べて、エンジニアとして成長できる」ということをきちんと応募者に知ってもらうためのアプローチをしています。
企業は採用する側なので、応募者に入社してもらって何をしてもらうかにフォーカスしがちですが、応募者にとってのメリットを伝えることはとても大切です。
エンジニアのことが分かるのはエンジニアだけ
そもそも応募が来ないのであれば、採用要件や求人票に掲載している情報から見直す必要があります。その際、必ず採用要件を決める段階から社内のエンジニアの意見を取り入れてください。人事担当者だけで書いた求人票は、エンジニアが見ると違和感があり、すぐに分かります。
一方で、現場のエンジニアが本当に欲しい人をストレートに書くと、転職市場にほとんどいないようなハイスキル人材となってしまいがちです。必須要件は最低限に抑え、それ以外は歓迎要件に記載するようにするのがいいでしょう。メンバーの採用であれば、足りないところは勉強して身につけてもらい、素養があるかどうかを見極めることを重視しましょう。
ある程度応募が来るということであれば、求人票に関してはそれほど問題がないと思いますので、面接の質を高めるほうに注力してください。いい候補者は面接で少し話しただけでピンとくると思います。そういった方は他社でも同様に高く評価されており、取り合いになります。有望な応募者に入社してもらえるかは、面接でいかに相手のエンゲージメントを高められるかにかかっています。
そのためには、応募者と技術的な話をする必要があり、エンジニアを面接官に入れるのはマストです。エンジニア職の面接で、面接官がエンジニアでなければ、その時点で応募者から選ばれることはないと言ってもよいでしょう。
選考で、エンジニア経験がない人がエンジニアの実力を見極めるのは非常に難しいです。経験年数を見る採用担当の方が多いですが、長くエンジニアをしているからといって、スキルの高さに直結しているわけではありません。また、自身のスキルや経験を誇張して語るのが上手な人も中にはいます。
面接官にエンジニアを入れないと、自社が採用したいエンジニアから選ばれないだけでなく、そういった人を見抜くことができずミスマッチな採用につながります。
面接では応募者に寄り添いキャリアプランを描く
面接では応募者に入社後のキャリアパスを具体的にイメージしてもらえるように心がけましょう。面接の中で応募者のキャリアパスについて考えた結果、時には応募があったのとは別のポジションで採用することになる場合もありえます。
ひとつ私が実際に面接をした具体例をお話しします。
その方が応募してきたのはWebエンジニア職でしたが、Web開発の実務経験はほぼないということでした。これまでの経歴をお聞きしたところ、「Salesforceのエンジニアをやっていたが、技術的にあまり面白みを感じられなくなっており、キャリアチェンジをしたいと思っている」と話していました。
本人はこれまでとは違う領域で活躍したいので、また1からのスタートになってもよいということでしたが、お話をしながら、その方の今後のキャリアについて一緒に考えていきました。
最終的にこちらから提案したのはやめたいと思っていたSalesforceエンジニアとしての入社です。Salesforceはたしかに開発内容としては退屈に感じる方も多いかもしれませんが、ビジネス的な需要が非常に高く、将来CIOなども目指せる領域です。その方のキャリアを考えたとき、この経験を伸ばしてキャリアを構築していくほうがプラスになるだろうと判断しました。
また、ご存知の通り、Webエンジニアはなり手が多く非常に競争が激しい職種です。今からそこに飛び込むよりは、専門性および需要の高さという利点を生かして、もとの領域のエンジニアを続けてみることを提案し、ご本人も納得したうえで入社してくれました。
このように、採用面接は、相手の人生に寄り添ってキャリアプランやキャリアパスを描いてあげる時間だと言っても言い過ぎではないと思います。さきほども書いた通り、技術を踏まえてキャリアの話ができる人が面接官にいないと、具体例で挙げたような柔軟な対応もできず、スキルのある応募者を逃すことになります。
面接という場でほとんど初めてに近い状態で顔を会わせた者同士が、対等な立場でじっくり話をするためには、企業側から相手に歩み寄り、警戒を解いて本音を引き出す姿勢が必要です。
他社と迷っている応募者には、積極的に面談の機会を作って心をつかむ
転職活動では、複数社を並行して選考を進める方がほとんどです。たとえ自社の魅力を伝えることができるようになったとしても、他社も同様に魅力的であれば、応募者は迷い、結果的に入社してくれないかもしれません。内定をお伝えして「他社と迷っている」という方がいたら、積極的にフィードバック面談を実施しましょう。「ぜひ入社してほしい」と感じるような方であれば絶対に実施するべきです。面談の中で、改めて自社でエンジニアとして働くことのメリットや将来のキャリアを具体的に描けるトークをして、しっかり心をつかみましょう。
私はそういったときは、「この採用ポジションだからこうです」という話し方をするよりも、個人にフォーカスして「この会社に入社したらあなたの経験を生かしてこういうことができますよ」というトークをするよう心がけています。
さきほど述べた通り、自身のキャリアにプラスになるかが判断軸ですので、いかに目の前の応募者その人に訴えかけられるかにかかっています。
ここまで話してきた内容から、企業側が応募者を見極めることはもちろんですが、応募者に選ばれる企業であるために企業として何をすればよいかが見えてきたと思います。
エンジニア、特にスキル・経験のあるエンジニアの中途採用は、このような社会情勢下においても難易度が高く、売り手優位の市場です。それでも自社の求めるエンジニアをうまく採用している企業もあります。
相談者さまが今回お伝えした内容から何かヒントを得て、エンジニア採用に生かしていただければ幸いです。
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