名古屋駅近くの開発目覚ましい「ささしま地区」を拠点に躍進を続ける、2016年設立のIT企業、株式会社スタメン。「一人でも多くの人に、感動を届け、幸せを広める」を理念に掲げます。
スタメンを代表するプロダクト、エンゲージメントプラットフォーム「TUNAG(ツナグ)」には、そうそうたる企業が続々参入しています。
スタメンの急成長の影にはどのような取り組みがあったのでしょうか?
プログラミング未経験でスタメンに入社し、4年後には26歳で最年少・執行役員CTO(最高技術責任者)に就任、という異色の経歴を持つ松谷勇史朗CTOにお話を伺いました。
松谷 勇史朗CTOのプロフィール
松谷 勇史朗(まつたに ゆうしろう)。株式会社スタメンの取締役執行役員CTO
1994年生まれ、愛知県出身
名古屋工業大学大学院で研究職に没頭中、創業間もないスタメンに出会い、人生が変わる
2016年夏にプログラミング未経験で同社でインターンを経験
2017年1月、大学院を中退し、スタメンの正社員となる
TUNAGの立ち上げにゼロから関わり、システム開発における技術リードを務める。
2020年3月、執行役員CTOに就任し、2022年3月より現職。
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エンゲージメント経営プラットフォーム「TUNAG」について
――「TUNAG」はどのようなアプリで、どのような顧客ニーズにこたえていますか?
社内の「信頼関係を構築するためのコミュニケーション」をサポートするアプリです。企業の「核となる価値観」で、従業員の自社へのエンゲージメント(共感・愛着)を向上させることで、従業員の行動を変えられる。こういった点に顧客ニーズがあると考えています。
――会社や経営者の理念に共感したり、会社への愛着や親しみを持つことで、社員が自ら行動を変化させる、ということですね?
福利厚生や給料などのハード面も重要ですが、社員との「信頼関係」といったソフト面も大切です。たとえば、コロナ禍などでピンチのとき、給与などのハード面は縮小せざるを得ません。
そういったときに、経営者側としては、「ピンチのときこそ支えてくれるもの」に投資したいと考えます。それが「エンゲージメント」への投資で、それを支えるのがTUNAGです。
――ソフト面での結びつきが強ければ、一緒に乗り越えられる、「頑張ろう」と思える、といったところでしょうか?
なかなかそこまで一足飛びには行かないと思いますが、そこへたどり着けるためには、どういった道筋をたどるか、と考えます。
たとえば、組織には前向きな人と後ろ向きな人がいて、2:6:2の法則(意欲的に働く20%、普通に働く60%、怠け者20%)と呼ばれています。その「後ろ向き」な人は、単純に「知らない」ために、不安でネガティブになっているだけかもしれません。なので、「知ってもらう」ことが大切です。
TUNAGの活用例を挙げると、トップの想いをTUNAG上の「コンテンツ」とすることで、その想いに触れる接点を増やす仕掛けが「TUNAG」の中に用意されています。
――開発にあたって、工夫している点などはありますか?
弊社では、ドッグフーティング(自社製品・サービスを社員が日常的に利用し改善に役立てること)を積極的におこなっています。実際に使用することで、ユーザー目線をもって、高い解像度で開発やリニューアルをおこなえると考えています。
――「TUNAG」の実際の活用法には、どのようなものがありますか?
たとえば、トップのメッセージだけを伝えるだけでなく、社員も自分という個人を知ってもらうために発信することができます。
企業規模が大きくなるにつれ、現場単位での伝達や連携がうまくいかなくなるケースもあります。そのような中で、各現場が何をしているか、人となりやチームの色、ミッションを発信していくことの重要性は高まっています。
ただ、やみくもに全従業員が情報を垂れ流している状態では、本当に必要なことが伝わりにくくなってしまいます。
その会社にとって「ココは大事」な部分を絞って、会社ごとの情報の切り口を最適化をすることは非常に重要です。その切り口やデザインをお客様ごとにカスタマイズできる柔軟性があることが「TUNAG」の強みです。
スタートアップ企業が競うコンテストでグランプリを受賞
――「AWS Summit Startup Architecture of the year 2019」でグランプリを受賞されましたが、これはどういったコンテストですか?
AWSは「Amazon Web Services」の略称で、Amazonが提供するクラウドサービスです。創業3年以内のスタートアップがエントリーできる「AWSを活用したソフトウェアの設」計を競うコンテストです。
――グランプリを受賞できた要因はどのようなことだと考えておられますか?
「TUNAG」の事業価値を評価いただいいただけた結果だと思いますが、特に評価いただいたポイントは「変化への適応力」です。ご存知のように、Generative AIなどのテクノロジーが世の中を大きく変えていますが、今後も大きな変化が予想されます。スタメンがエントリーしたシステムはデータ分析基盤だったのですが、シンプルな構成で特に複雑なことはしていません。その分クラウドの強みをちゃんと活かし、かつ今後のデータ分析における試行錯誤がしやすい変化に強い基盤にしました。この変化への適応力というポイントを特に評価頂きました。
スタメンが求める人材
――御社ではどのような人材を求めていますか?
キーワードは「自律」です。自ら会社の成長のために必要なことを考え、意思を持って主導できる人を求めています。環境を自らの意思や力で変えていくような覚悟を持った人が合うと思います。
正直、誰にでも合う環境ではありません。人から指示されて動きたい人や自発的に考えたくない人には向かないと思います。
――若くても経験が少なくても、重要なポジションや業務を受け持たせる仕組みができているということでしょうか?
必ずしも業務経験だけが強みではありません。技術革新が起きている今の時代は、新しいルールを理解し、自らの手を動かして試行錯誤をするスピードやアンラーニングする力など、業務経験が少なくても土俵に立てる機会がたくさんあります。
「プロダクトカンパニー」としての今後の目標
――御社は今後どのような展望や目標を持っていますか?
「TUNAG」においては、プロダクトの改善によって事業が伸びる手ごたえを感じています。今年(2023年)1月には東京にも新規拠点を作りました。今後のTUNAGのミッションは、プロダクト組織をスケールさせていき「プロダクトの価値」で事業を成長させることです。
プロダクトの価値で事業を大きく成長させていく会社を「プロダクトカンパニー」と呼んでおり、スタメンはそれを目指しています。まずはスタメンの創業事業である「TUNAG」を世の中で働く人々に愛されるプロダクトにしていきたいです。そしてTUNAGだけでなく、ヒットプロダクトををいくつも生み出していきたいと考えています。
――「プロダクトカンパニー」には何が必要になりますか?
プロダクトカンパニーを目指す上で、プロダクト組織をスケールさせていきますが、大事なポイントが2点あります。
第一に、ソフトウェア開発は「コミュニケーションが命」でソフトウェア技術は進化のスピードが速く、また1つのプロダクトを作るために多くの専門性が必要となります。結果、多くの人とのやり取りが発生します。人が増えると当然コミュニケーション効率は低下していきます。プロダクト組織のスケールとセットで、コミュニケーション効率を維持する必要があるのです。
プロダクトそのものの品質だけでなく、プロダクトが生み出されるために必要なコミュニケーションを生み出す、「開発プロセス」や「チーム」を磨き込んでいくことが重要です。
第二に、プロダクト組織のスケールを目指していく中で、DX(デベロッパーエクスペリエンス)が重要で、弊社もこれに本格的に投資していくことを決定しました。
DXといえば、通常は「デジタルトランスフォーメーション」(=定義はさまざまだが、デジタルテクノロジーを利用してビジネス上の優位性を確立すること)を想起することが多いと思いますが、ここでは「デベロッパーエクスペリエンス」(=エンジニアが業務やチームの中で経験する体験)を指しています。
デベロッパーエクスペリエンスは「開発者体験」と訳します。プロダクト組織の生産性を維持するためには、新しい技術の進化を取り込み、プロダクトの磨き込みに集中できる快適な環境づくりをして、開発者体験の質を上げることが不可欠です。
――生産性を上げるためには、開発者が力を十分に発揮できる環境にすることが大切だということでしょうか?
簡単にいうと「内部品質を高めることが大事」ということなんですね。プログラムは、外からは正常に動いているように見えても、実は今後の機能拡張に対応できなかったり、不具合が発生しやすい状態になっていることがあります。今後エンジニアを増やしていくからこそ、内部品質を高めて、一人あたりの生産性を高く保つ必要があります。
そうでないと、5年後には増築できない複雑な建物のようなプログラムになってしまい、エンジニアを2倍に増やしてもアウトプットは全然増えていない、という状況になってしまいます。
――たしかに、システムが複雑になってしまって、誰にも直せなくなることはありますよね。人の書いたプログラムを解読するのはそもそも難しいものですし。そういった理解でよろしいでしょうか?
本当にそうなんですよ。あとは、弊社の事業はBtoBでありながら、モバイルアプリとしての品質が求められる点に課題と今後の伸びしろがあると考えています。
世に出てるBtoB系のサービスの多くは業務上パソコンで使われることが前提になってることがほとんどです。一方で、「TUNAG」は、ノンデスクワーカーと呼ばれるサービス業などの方々がメインターゲットです。パソコンではなく、スマートフォンで利用いただくことが前提なので、モバイルでの最適化を目指すことが必須だと考えています。WEBメインの事業運営をしてきたTUNAGにとって、モバイルファーストなプロダクトに生まれ変わることは、これまでのTUNAGの歴史の中で特に大きな変化です。
「プロダクトカンパニー」としてのさらなる飛躍を目指す
エンゲージメント経営プラットフォーム「TUNAG」の成功で、スタートアップ企業として大躍進を遂げた株式会社スタメン。
「TUNAG」の目的は、社内のコミュニケーションやエンゲージメントを高め、結果として事業成長につなげること。同様にスタメンでは、エンジニアの現場でも、コミュニケーションや環境が重要だと考えています。
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(取材・文:陽菜ひよ子 / 撮影:宮田雄平)