「自己成長や日々の仕事のヒントに!」とやる気満々で購入したビジネス本たち。それらをことごとく完読できなかったわたしが、一気に引き込まれた本があります。それは「コーチング」を専門とする馬場啓介さんが書かれた「『キングダム』で学ぶ最強のコミュニケーション力」。
コミックスを全巻持っている『キングダム』ファンのわたしにとって、愛すべき登場人物たちのコミュニケーション力が紐解かれている本書はとても興味深いものでした。
目次
「コミュニケーション」の教科書としても楽しめる『キングダム』
『キングダム』は中国の春秋戦国時代を舞台に、大将軍を目指す「信(しん)」を中心に描かれた熱き物語。『キングダム』の戦乱の世と現代におけるコミュニケーションの課題がどう結びつくのかが、個人的に疑問でした。
しかし本書の冒頭文を読んで、すとんと腑に落ちます。
“現代社会は、人工知能の進化により、猛烈な勢いで進化しています。数年前の「常識」は「非常識」になり、ビジネスも、教育も、キャリアも、誰も「正解」がわからない時代です。私たちは、『キングダム』の春秋戦国時代に匹敵するような乱世に生きています”
別世界だと思っていた信たちの戦国時代も、わたしたちが生きている世界も「乱世」という共通点があったのだと。
『キングダム』の世界も現代社会も、生き抜くためには「自分で正解を見つけ出す力」や「まわりと信頼関係を築くコミュニケーション能力」といった普遍的な力が求められていることに気づきました。
激しい戦いの中で、高いコミュニケーション能力を発揮する『キングダム』の登場人物たち。「『キングダム』は最良のコミュニケーションの教科書」だと著者が語る、具体的なポイントを見ていきましょう。
「大将軍がみる景色」に近づく秘けつ
『キングダム』といえば、主人公の「信」なしには語れません。
下僕の身分から天下の大将軍への道を駆けのぼる、信。カラッとした明るさとまっすぐな性格の信の姿に魅せられ、自然と彼を応援している読者は多いでしょう。
本書では、「信の応援したくなるキャラクター」がコミュニケーション能力を測る重要なバロメーターだと書かれています。
たとえどんなに高いスキルを持っていても、まわりから応援される人になれるとは限りません。では信のように「応援される人物」には、どんな特徴があるのでしょうか。本書には3つのポイントが書かれていました。
“一、「未来志向」であること
二、常に「正直」であること
三、どんな局面でも「自分と仲間を信じる」と決めていること”
文章だと簡単そうに見えるポイントも、日常生活ですべて実践しようと思うとなかなか難しそうです。
ですが、この3つのポイントが「信」には詰まっていると著者はいいます。特筆すべきは「信の自己紹介」です。
“信は初めて出会った相手に「お前は何者だ?」と聞かれた時にこう答えています。
「天下の大将軍になる男だ」”
自分がなりたい理想の未来像を簡潔かつ正直に述べ、また自分を信じているからこそ言える「大将軍になる」というフレーズの強さ。この自己紹介がもし「飛信隊の信だ!」「大将軍を”目指す”男だ」と言っていたら、王騎は自分の矛を信に授けていなかったのでは、と著者は推測しています。
自己紹介に取り入れるかは別として、信のように「未来への自分の道筋」を簡潔に相手に伝えることは日々意識したいポイントだと感じました。
ちょっと大袈裟かなと思っても、「どんな自分になりたいんだっけ?」「こんな世界を作りたいから、自分は◯◯をしている」と定期的に自問自答する癖をつけてみてもよいかもしれません。
それを、まわりに伝えることで協力者やチャンスに恵まれ、自分がなりたい理想の未来像に近づくのではないでしょうか?
そんな好循環を作れるようなコミュニケーションこそ、わたしたちが大将軍の景色に近づく一歩なのでは…と考えています。
最もコミュニケーション能力が高い将軍が持つ「ジャッジしない力」
「『キングダム』で最もコミュニケーション能力が高い将軍は?」と聞かれたら、誰の名前を挙げますか?
わたしは「李牧…?」と思いながら、本書を読み進めていました。すると、少々意外な名前が答えとして書かれていました。
『キングダム』で最もコミュニケーション能力が高い人物は、王騎をずっと支え続けた「騰」だと著者はいいます。「こんなに高度なやりとりを繰り広げていたのか」と騰のコミュニケーション力に驚いた部分を本書から紹介します。
まずは、「ジャッジをせずに話を聞く」点です。
圧倒的な武力と知力を持つ王騎将軍と軽妙なやりとりをしている印象が強い騰。王騎軍時代の騰はNo.2というポジションで、常に王騎を支えていました。王騎が話しかけるたびに「ハ!」と答える、単純に見えるやりとりこそがコミュニケーションの極致だと本書にはあります。
“「ねぇ、騰?」と話しかけるとき、王騎は決して騰の意見を聞こうとしているのではありません。自問自答をするなかで、自分の声を自分で聴いて確認したいときに「ねぇ、騰?」と言っているのです。
騰も、自然とそれを承知して「ハ!」と返しています。へたなNo.2なら、ここで自分の意見を主張しがちです。しかし、No.1が求めているのは、ジャッジせずに話を聴いてくれる人。それができるほど優秀なNo.2であり、コミュニケーション力が高い人物といえるのです。”
騰が「ハ!」と答えるだけのイエスマンでないことは『キングダム』ファンなら、すでにご存じでしょう。王騎将軍と目線をひとつにしている騰だからこそできる、深いコミュニケーション方法だと著者はいいます。
思いついたらすぐに意見を口にする自分にとっては、なんとも耳が痛い話です。しかし「ジャッジをしないで人の話を聞く」という点は、日常生活でも取り入れられるポイントなのでは…と思いました。
家族や友人など身近な人に対して「それは〇〇でしょ」と決めつけたり、話を遮ったりしそうなときに、王騎と騰の姿を思い出してみようと思います。
騰のように常に相手と横に並び、同じ景色を見ながらしっかり話を受け止めたいものです。
最もコミュニケーション能力が高い将軍が持つ「謙虚さ」
騰のコミュニケーション力が秀でているポイントの中でも、とくに見習わねば…と思った点は「謙虚さ」です。
自身が大将軍級の実力を持っていながら、王騎を支え続けたことはもちろん、セリフの端々からも騰の謙虚さが垣間見えると本書にはあります。
“騰は臨武君に向かって「王騎を傍らで支え続けた”自負がある”」と言いますが、この言い方にこそ彼の謙虚さが表れています。「自負」とは「自らの才能に自信や誇りを持っている」という意味で使う言葉ですが、”自分では”そう思っているという一歩引いたニュアンスがあり、謙譲語に近い表現です。「王騎を傍らで支え続けた、自信がある」と言うのとでは、印象に大きく開きがあることはお分かりでしょう。”
「人間の本性は土壇場でわかる」と、よく聞きますが、騰は将軍同士の一騎討ちの際に上記の発言をしています。騰の本質的な謙虚さや王騎へのリスペクトが戦地でも表れているのです。
騰のように謙虚な人は、地上に立っている自分を高い場所から眺める「俯瞰の視点」を持っているとのこと。
『キングダム』の将軍たちは、俯瞰の視点で自軍だけでなく「国」「世界」「未来」などあらゆることを広い視野でとらえているのでしょう。その高い地点から見て、自分の存在の小ささを認識したときに「謙虚になれる」と著者はいいます。
日々のなかで、横柄な人や理不尽な物言いをする人に出会った経験は、誰しもあるのではないでしょうか?
こうした人と対峙した際、どうしても自分が置かれた場所を中心に考えがちです。視野が狭まり、グチりたくなることもあると思います。
しかし、そうしたときこそ「俯瞰の視点」を意識し、謙虚さを持ち合わせていたいものです。騰のように高い位置から自分を見つめることで、冷静に次の一手を打つことができるのではないでしょうか。
将軍たちの「究極の視点」を意識することで日々が変わる
最後に、本書の中で一番印象的だった『キングダム』を『キングダム』たらしめる究極の視点を紹介します。
“人と継続的に良好な関係を築くためには、相手への気遣いが欠かせませんが、その気持ちが最高に高まると、相手だけでなく、相手の大事にしている人やものにも自然と「想い」が及びます。それが「敬意の視点」なのです。”
敵や味方、身分に関係なく、「敬意の視点」で溢れているのが『キングダム』の魅力のひとつです。
激しい戦闘シーンの中でもお互いに「敬意の視点」を持ち、信頼関係が築かれる場面は読んでいると思わず胸が熱くなります。
この「お互いに敬意を払う」という部分を、現代の生活や仕事に当てはめるとどうでしょうか?
目先のスケジュールや条件などに気を取られ、コミュニケーションの土台である「相手への敬意」を忘れていませんか?
前述した「謙虚さ」にも通じることですが、自分が「敬意の視点」を持ってコミュニケーションをできているかどうか、本書や『キングダム』を読みながら振り返ってみてもよいかもしれません。わたしは本書を読んでから、「〇〇将軍になったつもりで…」と意識してコミュニケーションを取ることが増えました。
本書には信や騰以外にも、多くの将軍のコミュニケーションの極意が書かれています。自分の好きな将軍のコミュニケーション方法を取り入れて、この乱世に立ち向かってみると、自分がなりたい理想の未来に近づけるかもしれません。
(文:ふじい)