前回のインタビュー記事でご紹介したアグリテックのスタートアップ企業・株式会社Happy Quality(以下、ハッピークオリティー)のエンジニアとして、研究開発を主に任されているのが、古田祐樹(ふるたゆうき)さん(31歳)。一年半前に同社の農業体験を経て、大手医療機器メーカーから異業種のハッピークオリティーへ転職をされました。

お話を聞いていると、畑違いのハンディキャップすらも楽しんでいるようすがうかがえます。ラボのような雰囲気の中、熱中して取り組んでいるという仕事について詳しく伺いました。

可能性を感じて飛び込んだ農業×テクノロジー領域

──どのような経緯でハッピークオリティーに転職されたのでしょうか?

古田:
ハッピークオリティーの入社前、農業分野になんとなく興味を持っていました。求人サイトでみつけたハッピークオリティーの記事に興味が湧き、同社主催の農業体験に参加したのが入社のきっかけです。

農業体験自体もよい経験だったのですが、ハッピークオリティーはいわゆるアグリテック領域にも力を入れている企業。研究開発で取り組んでいる内容を聞いたり、農業の現場を自分自身で体験したりする中で、テクノロジーで解決や手助けできるような大きな可能性があると感じました。

「“農業×テクノロジー”という自分にとっての新しいフィールドで、自分の力を試してみたい」と実感したんです。

──転職にあたって、ご自身のどのような点が評価されたのだと思いますか?

古田:
前職の大手医療機器メーカーでの製造・検査ラインの立ち上げやプログラミングの実務経験、高専や大学院で習得した機械・電気の知識もあわせて即戦力として評価されたのだと思います。

それと、前職では自分が製造工程の構想、設計、構築で関わった製品が実際に国内外の医療現場で使われており、その貢献性やエンジニアリングの面白さにも魅力を感じていましたが、もっとエンジニアとして新しいことに挑戦していきたいとも思っていました。自身のキャリアパスとして挑戦していきたいという向上心のような意欲も買っていただけたのだと思います。

また、現場に実際に行って調査や開発することも多いため、転居を伴う異業種への転職にも抵抗がなかったところも大きいと思います。

──異業種へ転職されたことでの苦労はありますか?

古田:
異業種であることについては、あまり苦労を感じていませんね。勉強量は増えましたが (笑)。むしろ、新しい環境を楽しんでいる気がします

以前勤めていた医療業界では、業界特有の非常に厳格な規制や管理に基づいた業務プロセスが基本として定められていて、その状態に鍛えられていました。今はいい意味で裁量や自由度が高いので、そういったことも影響していると思います。

──アグリテックについての感想は?

古田:
最初は農業の現場をまったく知らなかったため、入社してから学ぶことや自分の中での新たな発見が多くありました。

農業の現場では、匠の農家の人しかわからないような感覚的な制御や、効率的とはいえないような作業など、改善するべき課題や隠れたニーズがたくさんあり、大きな可能性を感じています。ただし、その課題も深掘りしていくと解決することは単純ではなく、その場所特有の難しさも。農業の現場を知ることで得られることが多くあるんです。

そのため、実際の農業の現場を持っている、農業の現場と連携していることがアグリテックにとって大切だと感じています。ハッピークオリティーは、連携している農業法人や農家さんが多数あります。開発の現場に隣接している農場もあり、いつでも現場の声を聞いたり、開発品のテストをしたりできる環境が広がっているので、やろうと思えばいつでも“できる”面白い環境があることも特徴です。

また、スタートアップ企業ということもあり、フットワークが軽く自分の「やりたい」ことを形にしていける社風なので、会社環境としてもとても恵まれていると感じています。

自分がつくったものが動くことで感じるやりがい

AI灌水制御システム
(カメラで植物の状態を把握している様子)

──どのような瞬間にやりがいを感じますか?

古田:
自分の関わっているプロジェクトが形になった瞬間は、特にやりがいを感じます。たとえば、匠の農家さんがおこなう水やりの自動化に着目したAI灌水(かんすい)制御システムの開発。わたしは途中からの参画でしたが、プロジェクトの大部分に大きな裁量をもって関わり、「ハピトマ(ハッピークオリティーの独自ブランドトマト)」ベースのAI灌水制御システムとして販売を開始できたことはやりがいを感じたポイントでした。

ちなみに、AI灌水というのは、トマトの健康状態を専用のカメラやセンサで監視し、AIが葉の状態や環境値(温度など)を分析して最適な水分量を学習、養分を含んだ水を自動で与える灌水制御システムです。

また、植物のモニタリングのために、農業用自動走行車(UGV:Unmanned Ground Vehicle)の研究開発もしています。設計から実際に動かすまでの一連のプロセスが一つの形になってきました。実際に自分のつくったものが動いたり、機能したりするというところはやりがいを感じますね

植物モニタリング用の無人走行が可能なUGV

他にも開発テーマはたくさんあるのと、収益性があれば自分でテーマをつくることもできるので、日々新しいテーマ的なものはないかと考えています。その過程も面白みの一つです。

新しく開発中のUGV

──UGVは、どのような目的で開発されているのですか?

古田:
植物の状態を把握していないと病気にかかってしまったり、収穫量が激減したり、最悪の場合枯れてしまうなどの問題が起こることがあります。主にその予防や原因解析のために、農業用ビニールハウスの中を自動走行し、植物の状態のモニタリングに特化したUGVの研究開発をしています。

──どのような仕組みになっているのですか?

古田:
小型の車があって、その上部に植物観察用の複数のカメラやセンサがついている構成になっています。主にカメラを使用して植物の状態や病気の発生状況をモニタリングし、収量把握、病気の早期発見や病害虫の予防に貢献するという仕組みです。

ハウス内を自動走行しながら撮影しているUGV

少数精鋭だからこその雰囲気と苦労

──社内のチームワークを向上させるために、どのような取り組みをされていますか?

古田:
個人の実力に加え、チームワークも大切だと考えています。各プロジェクトに関わっている人数も少数ではあるので、その点では話したいときに話せる雰囲気です。また、定期的に技術に関するミーティングを行います。エンジニアはもちろん社長まで参加。AI灌水でも協力いただいている静岡大学の峰野博史先生をはじめ、外部の多忙な方も出席してくださるなど、非常に強力なバックアップ体制があります。

「何か自分で言いたいことや提案したいことがあれば、いつでも自由に言ってください」というフランクな雰囲気があります。思いついたことはすぐに話し合い、社内のチャットツールでも積極的に共有。新しいテーマのプレゼンや提案なども自由に行え、即日でゴーサインがもらえたこともあります

──スタートアップ企業ならではの苦労はありますか?

古田:
少数精鋭で複数のプロジェクトを兼務しています。苦労する点といえば、仕事を自分自身でマネジメントする必要が常にあることです。今やっていることが正しいのか、または適切な方向に進んでいるのかを客観的に感じ取らないといけません。

自分一人でやっていると、確認をおこなうのも主体的に動かなければならないので、責任感が必要になってきます。

たとえば、一般的な企業だと、部署のトップが指示し、OJTとして先輩社員が常に面倒をみてくれたりもします。現在は自分自身で常に仕事をマネジメントしなければならないという点において、裁量の大きさと引き換えに大変さがある気がするんです。

──なかなかタフな毎日のようですが、休日はどのように過ごされていますか?

古田:
ランニングをしていて、それが一つのストレス解消方法なのかなと思っています。学生時代はずっと陸上部で長距離ランナーとして長年走ることを楽しんできました。今は頻度こそ減りましたが定期的に行なっています。毎回違うところをランニングするよりかは、ある意味つまらないんですけど、毎回同じコースを走ることで、そのときどきのタイムの違いから自身の体調を把握しています。

また、何かあっても寝て起きたら翌朝にはケロッと忘れているようなところがあります(笑)。あまり深く考えすぎないのも自己マネジメントの一つかもしれません。

Professional 7rules
1.積極的にアプローチする柔軟性
2.新環境を楽しむ好奇心
3.自らの手で創造する達成感
4.課題解決への試行錯誤
5.主体的なコミュニケーションによるチームワークづくり
6.自由裁量への責任感
7.ストレス解消と自己マネジメントの強化

(取材・文:さつき うみ)

― presented by paiza

 

 

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