テクノロジーと人の力、双方の最適化を目指す、安城市図書情報館(アンフォーレ)。「お酒も飲める、自由すぎる!?図書館」として、前編では主に、館内での独自の決まりやシステムについて書きました。

続く後編では、図書館の職員や関係機関などとの連携やコミュニケーションについて、引き続き、同館司書の神谷美恵子さん(元アンフォーレ課 課長補佐)にお話を伺いました。

安城市図書情報館とは

4Fから見たアンフォーレ。1F「エントランス」茶は大地、2F「子どもフロア」黄色は光、3F「暮らしのフロア」青は水、4F「学術・芸術のフロア」緑は森をイメージ。

愛知県安城市にある中心市街地拠点施設・アンフォーレ本館にある公共図書館。
2017年6月開館。図書館はアンフォーレ本館の2Fから4Fを占める。
2F「子どものフロア」3F「暮らしのフロア」4F「学術と芸術のフロア」

「Library of the Year2020」優秀賞・オーディエンス賞をダブル受賞
人口15万~20万人の自治体約50中、年間の本の貸出数が3年連続全国1位(2018~2020)
JR東海道本線安城駅南口から徒歩5分と交通の利便性も高い

安城市図書情報館 https://www.library.city.anjo.aichi.jp/

職員の役割分担とコミュニケーション方法

――職員の間では、どのようなコミュニケーションツールや方法を使用していますか?

安城市職員のみが利用できるチャットシステム(=ロゴチャット)があります。わたしは使っていませんが、若い職員は使用しています。

誰かが休みのときに、どうしてもその人でないとわからないことがあると、上司がそのシステムを使用して聞くことも。逆に、部下が緊急を要するとき相談することもありますよ。

――オンライン会議などは行っていますか?

コロナ禍ではZoomでの研修もありました。最近出版された当館についての書籍『アンフォーレのつくりかた』の執筆中、編者の岡部先生との打ち合わせやインタビューをおこなうときにも、何度か使用しました。

――職員はどのように仕事の分担をしていますか?

図書情報館の職員の数は、正規職員が10名、会計年度任用職員が4名の合計14名。システム関係の情報係が4名です。それとは別に、主にフロアを担当する会計年度任用職員(スタッフ)が66名います。(2023.4.現在)

スタッフは複数の仕事を受け持ちます。仕事の割り振りは、個人の能力や適性をわかっていないとできません。

――66名のスタッフの能力や適性を把握するのは大変なことではありませんか?

スタッフについては毎年1月に次年度の業務分担の参考とするためアンケートを取ります。各自に「どのような仕事をしたいか?」をいくつか上げてもらいました。すべて希望通りにするのは無理でも、1つ以上は希望の仕事を反映させるようにします。

いつ誰が何を担当したかをすべて記録して、可能な限り「やったことないこと」に挑戦させることが重要だと考えています。

といっても、高い能力がないと難しい仕事もあるので、熟練した人と慣れていない人を組み合わせるような工夫もおこないます。

子どもフロアでは、職員や登録ボランティアによる「おはなし会」を定期的に開催。
「もしかしたら日本一多いかも?」と神谷さん。

 

――図書館以外の市の行政組織とは、どのようなコミュニケーションをとっていますか?

市内部の連絡は、安城市役所全体のシステムがあり、メールも可能です。さまざまな情報を全員で共有します。市長や副市長の行動は公開されていて、市長に説明したいことがあると、秘書課に連絡して、市長に面談の予約を入れます。

ほかに業務上のすべての情報「食堂のメニュー」から「おとしもの」までライブラリで閲覧可能です。

――安城市役所で起きていることがすべてわかるのですね。ほかに、図書館と役所の連携にはどのようなものがありますか?

安城市の市政に役立つ本、たとえば、福祉や子ども、議会に関する本などは入荷したら知らせます。少しでも図書館を利用してほしいので、個人でカードをつくらなくても、部署ごとのカードで簡単に借りられるようになっています。

市役所に貸し出した図書の価格を記録しているのですが、2022年度は50万円以上の図書を貸し出しました。これは行政支援サービスの一環で、安城市の未来を決める大切なサービスと位置付けています。

介護や福祉などの各書棚横には、カテゴリに合う役所のパンフレットを用意。
悩みを調べに来た人がそのまま役所へ相談に行ける導線になっている

関係機関との連携方法、目的と効果

――学校図書館とは、どのように連携していますか?

小中学校の先生が「読み聞かせ」や「授業」のために予約した本を用意したり、朝の読書や学級文庫用にアンフォーレで選んだ本を自動配本したりします。

市内の小中学校に各校週2回のペースで巡回。自動配本の学校用ストックは、図書館に出ている本とは別で、バックヤードに約3万冊準備しています。

2023年度中には市内にある高校への本の配本も始まります。

――ますます忙しくなりそうですね。学校以外ではどのような活動をされていますか?

学校に来られない子どものための「ふれあい学級」にも1か月に一回、スタッフが本を持っていきます。

――フリースクールのような活動でしょうか?

そうですね。北・南・中央の3か所があり、元校長先生などの教員が在籍しています。図書館から本を持って行って、読み聞かせをしたり、子どもたちと一緒に遊ぶ活動は「アンフォーレがやってくる」という名前です。

――「サンタクロースがやってくる」みたいでワクワクしますね。ほかにはどのような活動がありますか?

「アンフォーレに行ってくる」という活動もあります。ふれあい学級から月に1回、バスでアンフォーレまで連れて来てもらい、子どもたちは図書館で1時間半くらい過ごします。

大人も子どもも「読書好き」になる仕組みづくり

――アンフォーレは、子どもが自由に過ごせることも特徴のひとつですね。具体的にはどのような方針を掲げておられますか?

通常の図書館のように「静かにしなくてはダメ」ということはありません。家族で読み聞かせをしたり、友達と一緒に本を探したり、勉強することもできます。利用者の交流で生まれるにぎやかさやなごやかさは大歓迎です。

――YouTube動画には、畳で寝転びながら本を読む子も登場しますね。大人も寝転んでもいいのですか?

2F子どもフロア「なんきちさんのへや」ですね。大人も寝ころんでいただいでもダメではありませんが、いびきをかいて寝るのだけは・・・

安城市は、半田市生まれの童話作家・新美南吉が青春時代を過ごした第二の故郷。
南吉さんの下宿を模した畳のコーナーでは、自由に過ごせる

 

――全体的に明るくて、色合いもかわいらしいですね。何かこだわった点はありますか?

2F子どもフロアは子ども目線で低く設計されています。本棚はスチール製の多い中、子どもフロアは木製を採用しています。スツールなどの色合いは、建物設計時にトータルで決めたものです。

借りれば借りるほどお金持ちになれる?「読書通帳」

――アンフォーレでは本を借りるとお金持ちになれるそうですが?

「読書通帳」ですね。当館で読書通帳(300円※)をつくると、借りた本の価格分の「貯金」ができるというものです。もちろん、実際に貯金できるわけではありませんが・・・通常であれば本のタイトルの他は著者名などを印字するのですが、当館では「価格」を印字しています。

※市内の中学生以下は無料

――というわけで、実際に体験してみました

コチラが読書通帳機。通帳は窓口で作成。

最初だけ登録が必要。次回からは画面で「印刷する」を選んで、通帳を差し込むだけ。

無事貯金完了!もちろん本物の貯金ではないが、読むモチベはかなり上がる。

安城ビジネスコンシェルジュ(通称ABC)による「ビジネス支援サービス」について

――図書館内には珍しいと感じる施設が、ビジネス支援サービスです。どのようなサービスでしょうか?

正確には商工課に属する施設で、図書館の施設ではありません。中小企業診断士などのプロにアドバイスを館内で受けられます。非常に人気でいつも盛況です。

――図書館の中にあることで「本を借りる体で相談できる」のが、ハードルを下げている気がしますが、いかがでしょうか?

おっしゃるとおりです。ABCの人によると「ココで相談して起業した人の会社はつぶれていない」とのことです。

この日もABCは大人気。

AIよりIoTより最後は「人間の力」

館内の電子新聞の一面トップもタイムリーに「ChatGPT」

 

――昨今話題のAIですが、アンフォーレではどのように認識されていますか?

ChatGPTは、うまく利用できれば、レファレンス(調べ物の相談)に使えるのでは?と思います。でも現状では利用していませんし、まだ話も出ていません。

――AIは「脅威」ではなく「味方」と捉えているということでよろしいでしょうか?

アンフォーレでは、棚卸しをロボットによって自動化できないかと模索したことがあります。

本は紛失したり利用者によって違う本棚に置かれたりすることもあるため、年に一度、棚卸しをして、きちんとそろっているかを調査するのです。

やり方としては、10冊ごとにICチップの付いた下敷きのようなものを挟んで人の手でチェックします。なかなか大変で、12月に5日間休館しておこないます。

この棚卸し作業を、夜中にロボットができないかと考えたのです。結果として、本の場合は無理だとわかりました。大きさや厚さがさまざまで、画一的ではないためです。

――今後ロボットにすべての仕事を奪われるとも言われますが、まだまだ人間にしかできないことはあるということですね。ほかにそう感じることはありますか?

ほかにも「最後に頼れるのは人間」と感じることはあります。当館の出勤管理は以前にシステム化しようとして、あきらめた経緯があります。

複雑すぎるんです。出勤時間だけでも、8:30、9:00、9:30、10:00、11:30、12:00、17:00とバラバラ、出勤の曜日もバラバラ。休館日の火曜日にも出勤する職員が2人いますし、第4金曜日は来ない職員もいます。

担当業務のシフトも毎日、時間ごとに複雑に変わり、パターン化することができないのです。そのため、すべて人力でおこなっています。

――あらためて「人間の力」ってすごいです。希望がわく話ですね?

最後は「人間の力」です。それはこの先も変わる事はないと思います。

アンフォーレでは数多くの講演も開催。チラシは職員の手によるもの。
なんと文書用ソフトの「Word」で制作されているとのこと!(驚愕)
アンフォーレ、館内システムだけでなく、人もハイテク(ハイテクニック)である

テクノロジーは「人のため」にある

今回お話を伺って印象的だったのは、テクノロジーを利用する理由を「作業の効率化」や「コスト意識」ではなく、「利用者との時間をつくるため」とハッキリ定義している点です。

「当館と同様にIoTを活用している図書館の中には、機械だけが並んで人の姿が見当たらない図書館もあります。機械で全部できた方が楽だと感じる利用者も、もちろんいらっしゃるとは思います。

しかし、公共図書館には赤ちゃんから高齢者の方、障害をお持ちの方も多くいらっしゃいます。そのような方も気軽に気持ちよく利用していただくには、やっぱり人間の笑顔、声かけがいちばんではないでしょうか。

当館のスタンスは、機械を利用したい方もスタッフとお話ししながら利用したい方も『どちらも大歓迎』です」

66名のスタッフが「気持ちよく楽しく仕事できるよう気を配るのも、自分の仕事のうち」という神谷さん。利用者も職員・スタッフも含め、「人」のためにどうテクノロジーを活用していくのが正解なのか、常に最適解を模索しています。

「人と人をつなぐためのテクノロジー」をバランスよく実現しているアンフォーレ。現代の公共施設に求められる「ひとつの理想形」なのではないか?と感じます。

《書籍「アンフォーレのつくりかた」》

『アンフォーレのつくりかた』(岡部晋典(ゆきのり)・編 / 樹村房)
博士(図書情報館学)。株式会社図書館総合研究所主任研究員。

アンフォーレの構想から運用に至るまでの経緯と成果などの記録。求められる機能が変わりゆく時代の図書館。市長、建築家、デザイナー、行政職員、図書館員、利用者など、さまざまな立場からの記述をまとめ、アンフォーレの多層性を描き出す。

(取材/文:陽菜ひよ子 、 撮影:宮田雄平)

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