マヂカルラブリーの野田クリスタルさんが総監督を務める、Nintendo Switch用ソフト『スーパー野田ゲーWORLD』が2022年7月28日に配信された。

本作は前作の『スーパー野田ゲーPARTY』の続編で、今回は“世界進出”をテーマに、最大20人での対戦が可能オンラインプレイにも対応。野田さんの独特なセンスが光る、多彩なゲームが収録されている。またクラウドファンディングの支援総額は4,245万3,000円となり、目標金額から300%オーバーの支援が集まった。

本記事では、野田氏に『スーパー野田ゲーWORLD』の制作秘話や、気になる第3弾への展望についてお話を伺った。

思いのほか“イケる感”があったゲーム制作

 ──改めて『スーパー野田ゲー』シリーズが生まれるまでの経緯を教えてください。

野田クリスタル(以下・野田):
元々プログラミングで作っていたゲームを「Switchで出せたらいいな」と思っていました。そうしたら『R-1グランプリ』で優勝したタイミングで、「カヤックの後藤さんという方が何か(野田と)一緒にやりたいと声をかけてくださっている」と耳にしまして。じゃあ早速何をしようか、ってなったときに「自分がつくったゲームをswitchで出せたらすごいですよね」と話したら、後藤さんが「やれるんじゃないすかね」って言うんですよ(笑)。

そのときは、そもそもSwitchでゲームを出すまでの仕組みを理解できていなかったんです。ただ漠然と「たくさんの審査を通って、さらに多くの人に動いていただいて、それでようやく出せるに違いない」と思っていました。だから、内心きっと無理だろうな…とも感じていたんです。でも、思いのほか“イケる感”があって、話を聞けば聞くほど、出せそうな気がしてきたんですよね。

──“ユーザーとつくるところから一緒に楽しむ共創型ゲーム”というゲームコンセプトは、すでに最初の段階から決まっていたものだったのでしょうか?

野田:
そうですね。これに関してはクラウドファンディングの要素が大きいと思っていて。進みはじめたゲーム制作だったんですけど、予算に関しては、誰も一銭も出す気がなかったっていう……吉本興業さんも、自分も、カヤックさんも(笑)。だから、何も計画できなかったんです。なにせ初の試みだったので、本当に達成できるかどうかもわからない。クラウドファンディングをしたとして、いくら集まるかめどすらつかないんですよ。

だから、集まった額によってつくるゲームを変えなきゃいけない。結果的には「400万としておいて、集まったら出しましょう」という形に収まりました。「いやいや、400万なんて集まるか!」とは思ったんですけどね(笑)。不安になって、一応聞いたんです。「400万あれば、どのぐらいできますか」って。そうしたら、ガワしかできないってことが発覚して。つまり、パーティゲームとして出してるのに「開けてみたら1本しかゲームが入ってません」という状況でさえ、400万かかる。

それだと、まさに「宣言通り(ゲーム1本を)出したぞ!」としか言えない。でももう出すって言っちゃったし、クラウドファンディングでお金を集めた以上は、つくらないといけない。そこがまず、最初の壁でした。

──でも、結果としては大成功のクラウドファンディングでしたよね?

野田:
約1,300万…予想の3倍以上集まりました(※「スーパー野田ゲーPARTY」の場合)。もちろん、非常にありがたかったんですけど、今度は“クラファンで集めた全部の素材を使わなきゃいけない”という課題が生まれまして。完全に自分の首を締めました。リターンのアイデア出しは、みんなでやったんですけど、途中でだんだんよくわかんなくなってきて(笑)。最終的に、あんな感じにまとまりました。

──お金の面で言えば、“野田ゲー”は『スーパー野田ゲーPARTY』が1,000円、『スーパー野田ゲーWORLD』が1,600円と値段も良心的です。

野田:
クラウドファンディングで資金が見える形でお金を集めてる時点で、赤字ではないというのと、ダウンロードコンテンツだから在庫不要で、維持費が安いんです。ただ価格が低いって、ある意味ずるい方法じゃないですか。高いものが悪い、とは自分はあまり思っていなくて。でもこれに関しては、「安くてもいいだろう」みたいな雰囲気がありました。

──出待ちの対応がかなり良くなる権など、ユニークなリターンが目白押しでした。ゲーム20本の内容の構想は、どのように練っていったのでしょうか?

野田:
カヤックさんからもアイデアをもらいながら、少なからずジャンル被りは避けようって話になりまして。そこから、各ジャンルを網羅する形でゲームの制作を進めていきました。

ゲーム制作は「M-1と同じぐらい忙しかった」

──1人でのプログラミングとチーム制のゲーム制作では、作業の難易度が大きく変わりそうです。

野田:
とにかく、打ち合わせが多かった記憶はあります。『スーパー野田ゲーWORLD』は、『M-1グランプリ』で優勝した年に制作が始まっていて。M-1で優勝した年って基本引くぐらい忙しいのに、なぜかM-1と同じぐらい忙しいものがもう1個入ってる。過去のM-1チャンピオンの2倍は忙しかったと勝手に思ってます(笑)。

劇場と劇場の合間に、全部(ゲーム制作の)打ち合わせが入るんですよ。ネタが終わったら、すぐ飛び出して打ち合わせ。それでまた、次の出番になって…というのを繰り返しました。

──当時コロナ禍でしたが、お打ち合わせはオンライン形式のものも多かったのでしょうか。

野田:
オンラインもありました。でも後半は、デバッグがメインだったので実際につくったゲームをやんなきゃいけなくて、もう直接会うしかなかったです。カヤックさんが、わざわざこっちに来てくれたこともあったり。スケジュール的にもかなりハードでした。

──デバッグの工程で修正を重ねていく中で、特に苦労した部分を教えてください。

野田:
無限にあります。今回の『スーパー野田ゲーWORLD』に関してはオンライン対戦があったので、そこは本当に難しかった。デバッグって、ものすごいお金がかかる作業なんです。でも俺たちは、これも自分たちでやるしかない。お金ないんで(笑)。

オンライン対戦で20人対戦を可能にするってことは、20人分の開発機(ゲームを動かしてみるための専用の機械)が必要になるんです。しかも、開発機ってレンタルしちゃいけないんですよ。しかもそれが、馬鹿みたいに高い。だから、1回の対戦でどれだけのバグを見つけられるかにすべてを賭けていました。そこで(バグが)全部見つからなかったら、どんどん数百万のお金がかかっていくわけです。そもそも、20人のデバッグも本当は良くない。それこそ、最初は「100人体制にしましょう!」と意気込んでいたのですが、「そんなのもうカクカクなんてもんじゃない」と反対されまして。

意識したのは「実況動画」の作りやすさ

──通常のゲームでは“世界観”の一貫性が重視されると思いますが、本ゲームは「ゲームのジャンルも世界観や絵のタッチもバラバラです。ゲームコンテンツとして“統一すること”へのこだわり以上に大切にしていた点があれば教えてください。

野田:
まとめる以前に「ルールがわからないゲームを入れない」ようにしようと。説明文が一つで済むような、誰かがゲームをやってるのを観たら持ち主と遊ベるようなゲームにしようと思ってました。「こんなゲームをどっかで1回やったことあるよね」みたいな、言葉もいらないレベル感のイメージ。

ちょうどゲームをつくっていたころ、『桃太郎電鉄 ~昭和 平成 令和も定番!~』(以下、桃鉄)が発売されまして。桃鉄の中の「3年モード」にとても魅力を感じたんです。3年モードの場合は、毎月イベントが発生するんですよ。「もう絶対これ、ゲーム実況やってもらうようにつくってるな」と思って、参考にしたいなと思ったんです。だから、ゲーム実況をしてもらうことを想定して作りました。

──ゲーム実況をしてもらいやすいゲームをつくる、というのは具体的にどういう要素を大切にする形になるのでしょうか?

野田:
そうですね。どちらかといえば、「実況しにくいゲームにならないようにする」のほうが近いかもしれません。

例えば、ゲームをはじめるとき、ルール説明の表があるとしましょうか。ただ、その表の文字が多いと実況者は声を出して読まないといけない。だったら、プロローグは映像にしよう、とか。文章にすると手間をかけさせてしまうところを、映像でつくれば飛ばせもしますよね。

──確かに、視覚を共有できるアプローチは動画実況ならではの強みでもあります。最近では自分ではゲームをしないけれど、「ゲーム実況を観るのは好き」という方も増えていますよね。

野田:
俺も、元々格闘ゲームとかはそうでした。実況動画を観るのが好きで、プレイ動画をきっかけに実際にやってみたケースもあったり。「観る」評価が新しくできた時代なので、そこは本当に意識しました。

今までと全くジャンルが異なる「第3弾」を制作予定

──野田さんの考える、プレイヤーではなくクリエイターとしてのゲーム制作の醍醐味や面白さとは何でしょうか?

野田:
「その要素で勝てるんだ」みたいな、自分の想像を超えてくるプレーヤーがいるところは特に面白いですね。思いのほかつくる側も、完全に全部把握してるわけじゃないんだなって。

「ノブ」というゲームを、打ち合わせの段階では最低でも2、3ヶ月は(クリアまでに)かかるようにするために、めちゃくちゃな仕様にしてるんですよ。なのに、1週間ぐらいでクリアしてる人が結構いる。「その秒数でクリアできるようなつくりではないんだけど、どういうこと?」と思って(笑)。でも、プレイヤーはいとも簡単に想像を超えてくるんですよね。そのやり合いが、また面白い。

──ゲームタイトルについて、他に候補になったものや最後まで残ったタイトルがあれば教えてください。

野田:
そうですね。「みんなのゴルフ」は、「みんゴル」って略され方をしているじゃないですか。自分的には「もっとニッチなスポーツがないかな」と思って、さらば青春の光の森田がやってた「モルック」というスポーツに目をつけたりもしました。棒に目掛けて、棒を投げるっていうゲームです。つまり、“みんモル”ですよね。当時は、ほぼ誰にも知られてなかったのに、最近知名度が上がってきてニッチじゃなくなってしまったのですが(笑)。

 ──モルックのゲームを、完全に再現できたら面白そうですね。『スーパー野田ゲーWORLD』は発売から約1年経ちますが、実際の反響はいかがでしょうか。

野田:
芸人がつくったゲームとしてだんだん“野田ゲー”が広がっていったときに、俺のことを知らないけど、“野田ゲー”は知っているという声があがるとすごく嬉しいです。

──オンライン対戦要素を強みとして出された第2弾ですが、次を出すとしたら第2弾からどんなブラッシュアップを想定していますか?

野田:
ちょうどいま、第3弾のクラウドファンディングを構想していまして。今回はまた〇〇さんのキャラクターゲームからインスピレーションを受けている…という説明にさせていただきます(笑)。今回はもっと根本的なものにしようと思っていて、今までと全くジャンルが違います。

──なぜ今までとは違うものにしてみようと思ったのでしょうか?

野田:
ミニゲーム詰め合わせの作品でも、出せなくはないのですが……。ただ、もう『スーパー野田ゲーWORLD』でそれを出し切ったつもりだったので、第3弾はもっと規模が大きな、自分の中での最終地点に向けて、ステップアップしたいと思いました。本当にざっくり言うと、「みんなそれやってたよね」っていうゲームをつくりたいですね。

「ミニゲームつくりました」「バグが見つかりました」「修正しました」をぐるぐる繰り返すという、俺の趣味にみなさんを付き合わせてしまう状態になっちゃうので(笑)。第3弾は、もう少しゴールにより近いゲームにしたいと思っています。

技術の高さよりも「面白さ」を守れるゲームに

──前半のインタビューで「芸人という枠は外れないように」という言葉がありましたが、ゲーム制作の中に生きている、野田さんご自身の“笑い”へのこだわりについて語ってください。

野田:
ゲームをつくるときって、俺もゲームが好きだからこそ、ゲームシステムにすごくこだわっちゃうんですよ。「もっとこういう要素を入れたい」とか、プログラミングをしてても「このシステムを入れたらゲーム性が磨かれるな」とか。どんどんゲーム性に対して、深入りしてしまって。

でもそれはゲーム性が広がってるだけで、成立しすぎちゃうと逆に面白さが減っていくんです。だから、ある程度丸投げにすることによって、ゲーム性の高さよりも、面白さを守れるようにしています。

例えば「デッカチャン」というゲームは、2回当たるともう動かせなくなって、いわゆる無駄な時間が発生するんですけども。これに、でかくなった状態でも生き残る術を入れたらゲーム性としては高くなる。ある操作で上手くやるとちっちゃくなりますよ、とか。でも結果的に、つまんなくなるんですよ。「何もできない時間」が面白さを生んだりする。俺自身もこの「何もできない時間」が生む面白さが、結構好きなので。

──ありがとうございます。反対にゲーム性の高さで最低限守っているラインはありますか?

野田:
ゲーム性で言えば、「クリアできればOK」だと思っていて。だからこそ、クリアできないゲームは作らないようにしています。例えば「つり革」とかも、要素を入れること自体はいくらでもできる。でも要素を増やしていくことで、最初の「誰にでもわかるゲーム」からはどんどん離れていくんですよね。

──最後に野田さんがゲーム制作を経て、今後のキャリアの中でやりたいことや目標を教えてください。

野田:
プログラミングを始めようと思ったきっかけと同じぐらい、元々今回の制作において考えていたのは、「なんでまだ芸人のゲームがないんだろう?」ということです。

野球選手、サッカー選手、アイドル、ラップバトルまであるのに、芸人のゲームはない。“芸人が作ったゲーム”はいくつかあっても“芸人をテーマにしたゲーム”はずっとないんですよね。だからプログラミングを勉強してたらいつかそういうのを出せるんじゃないかと思って始めたんだけど、1人じゃ無理な訳で。コツコツつくっていくうちに、いつかチームでできたらいいなとは思っていたのですが……。本当に実現しようとすると、向き合えば向き合うほど、大変さを痛感しました。

自分の中でみんなそれぞれ理想のゲームがあると思うんです。だから、次は自分にとっての本当に理想のゲームをつくって「面白い」って言ってもらえたら最高ですよね。

(取材/文:すなくじら、撮影:渡会春加)

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