シンガポール政府とApple社が提携して開発したアプリ「LumiHealth」(ルミヘルス)。まだ日本では知名度が低いが、シンガポール在住者の健康状態の改善を目的としたこのアプリは、健康のために指定されたチャレンジをこなすとコインがもらえて、それがクーポン券となり実生活でも使えるという特徴がある。

ヘルステック分野において、日本などシンガポール以外の国でも参考になるアプリであることは間違いない。この「LumiHealth」にどのような特徴があり、シンガポール在住者のヘルスケアに繋がっているのかを解説したい。

「LumiHealth」が開発された背景

新型コロナウイルスの流行は、世界中に影響を及ぼした。シンガポールでも在住者が在宅勤務や自宅でのオンライン学習を余儀なくされたという。世界中の人たちが、外で行動できないことによって健康面での不安を抱えていた時期だった。

そんななか、シンガポール政府のとった対策は早く、デジタル化が進む時代に即したものだった。アプリで国民のヘルスケアを促進しようとしたのだ。それはApple社の、自社製品の購買意欲を高めたいという狙いとも繋がり、シンガポール政府とApple社が提携するヘルスケアアプリ「LumiHealth」の開発に繋がった。コロナ禍の2020年9月に発表、10月末からシンガポール在住者の使用が可能になった。

このアプリを使うのに必要なのはiPhoneとApple watch、Singpassアカウント(※シンガポール居住者が政府機関や民間企業のサービスをオンラインおよび直接利用できるデジタルID)の3点である。Apple製品を買うことができる平均賃金の高い国ならではのアイデアとも言えるが、非常に斬新である。

以下、ポイントを3つまとめたい。

ポイント1:目的ごとに活動内容が表示される

一言で「健康」と言っても、人によって目標は異なる。

集中力やエネルギーを高めること、継続して良質な睡眠をとること、糖分を適量にとることなどがあげられる。

これらは“guided health quests”(ガイド付き健康クエスト)と呼ばれ、ひとつのクエストを始めると複数のチャレンジ内容が表示される。

チャレンジの内容は仕事や学校の休憩時間に5分ほど歩く、朝食にたんぱく質をとる、睡眠時間を30分長くする、糖分をおさえるなど様々だ。中には毎日数分瞑想をするといったApple Wacthと連携したチャレンジも存在している。

ひとつのクエストにかかる日数は3週間だ。長すぎず短すぎない時間設定なので、気軽に始められ、なおかつクエスト達成後の効果も期待できる。

ポイント2:ゲーム感覚で健康のための活動ができる

どのクエストもiPhoneやApple watchと連携している「Close Your Rings」があり、アプリから日ごと、週ごとに消費したカロリーやエクササイズに費やした時間がわかるようになっていて、貯めていくとコインがもらえるようになる。

面白いのはクエストリングと呼ばれる円グラフだ。1週間ごとに達成したチャレンジに応じたコインがもらえるので、クエストリングは毎日の進捗状況を追跡してくれる。たとえ1日の目標を達成できなかった場合でも、次の日に巻き返すことができ、今の自分に足りていないものが何なのかがすぐにわかるところも嬉しいポイントだ。


「健康」と一言で言っても、それは体の健康に限ったことではない。健康的な食事がとれているかどうかやメンタルヘルスに不安を感じている人も、自分の目的に合ったクエストを選べば今の自分の日常生活を見直すことができる。

ポイント3:貯めたコインはクーポン券として使える

「LumiHealth」の大きな特徴のひとつは、健康のために活動をしながら貯めたコインがインセンティブとなり、オンラインのクーポン券としてシンガポールで使えることだ。有当然のことながらコインを貯めたユーザーは、「LumiHealth」を使うモチベーションがますます上がる。

国の政府がApple社と手を組み、アプリとApple社の商品(iPhoneやApple Watchなど)を連携して、その国の在住者の健康促進に繋げようとするのは新しい試みだ。クーポン券は紙ではなくオンラインなので、ユーザーや運営側の手間も省ける。

利点はそれだけではない。クーポンの取得を目指してヘルスケアのためのチャレンジを続けていくと、自分の健康に関する目標を再認識することができ、そのためにはどのような頻度で何の活動をすれば良いのかがわかるのだ。

LumiHealthが生み出すヘルステックの新たな可能性

日本は身体の健康や医療に力を入れている国だが、寿命と健康寿命は異なる。たとえ生きていても、死ぬまで健康でいられるとは限らない。日本在住者それぞれの健康に対する意識を向上させることが、高齢化の進むこの国の大きな課題となっている。

また、以前よりは改善されたとはいえ、メンタルヘルスについての知識は広まっていない。そのため精神科病院を未だに敷居が高いところだと考えている人も数多くいる。

そういった事情もあり、今後ヘルステックの需要が高まっていくことは間違いない。それに伴い、「LumiHealth」を参考にすることは大きな意義があるのではないだろうか。

(文:若林理央

― presented by paiza

参考記事
アップル、政府と健康管理サービスを提供

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