筆者はフリーランス17年目のライター&イラストレーター。現在はライター業がメインですが、数年前まではイラストが仕事の中心でした。同じフリーランスでも、ライターとイラストレーターとでは、仕事の獲得方法や業務上の注意点などはかなり異なります。

イラストレーターというと、好きな絵を描くだけでよく、面倒な人付き合いは必要ない印象があるかもしれません。しかし、それは大きな間違いです。イラストレーターは「コミュニケーション能力」が必要な仕事です。

なぜなら、イラストレーターとは「絵を描く仕事」というよりは、相手の「頭の中のイメージを形にして見せる仕事」だから。相手によっては、本人ですらはっきりとわかっていない、頭の中のモヤモヤを、イラストレーションの形に落とし込むのがイラストレーターの仕事なのです。

イラストレーターとインタビュアーは少し似ています。どちらも「聴く力」が重要。そして、「聴く力」を持つことは、どんなビジネスパーソンにとっても決して無駄にはならないスキルなのでは?と感じるのです。

筆者が10年以上イラストレーターとして心がけて来た7つのルールは、どんな仕事にも応用が効くスキルになりうると考えています。

Rule1:唯一無二の個性を持つ

イラストレーターの中でも意見が分かれるのが、「何でも描ける」と「タッチをひとつに絞る」のどちらがよいかということ。いろいろな意見があってよいと思いますが、筆者は「自分の目指す先はどこにあるか」で決めるとよいと考えています。

ひとくちにイラストレーターといっても、仕事をするステージには幅があります。

近隣の店舗や知人などから仕事をもらうのであれば、「何でも描ける」は武器になります。描く媒体に合わせて、かゆいところに手が届くようにピッタリとマッチしたイラストを描ければ、引く手あまたになれるでしょう。

しかし、出版社や広告代理店などの大きなメディアや、行く行くは全世界から仕事がほしいと考えるなら「唯一無二の個性」は必須です。

ライバルは全世界に数多いる星の数ほどのイラストレーターです。その中では、いくつものタッチを持つと、結局どんなイラストを描く人なのか、印象がぼやけてしまいます。パッと見てすぐに「自分の絵」だと判断できるような個性がなければ、埋もれてしまうのです。

また、ある程度タッチが絞られていることで、クライアントは「この人に依頼すれば、だいたいこんな感じの作品になるだろう」と成果物の予測を立てられます。そして、唯一無二の「あなたに描いてほしい」と指名されれば、おのずと単価も上がります。

Rule2:個性 + 幅広い仕事に対応

個性は重要ですが、あまりにも対応範囲が狭すぎると、あとが続きません。メインの仕事以外にプラスアルファで幅を持たせると、獲得したクライアントからリピートされやすくなります。

同じ媒体であれば、毎回同じテイストで受注することが大半です。しかし、たとえば同じ出版社でも姉妹誌や単行本などは、ターゲットが異なるため、少しだけテイストを変えてほしいと注文が入ることがあります。

おしゃれな女性イラストが一番得意だとしても、「それだけしか描けない」では、来る仕事量が圧倒的に少なくなります。たとえば、タッチはそのままで、ビジネス系に寄せてスーツの人物をカッチリ目に描いたり、児童書に合わせて子どもをかわいらしく描いたりできれば、仕事の幅はグッと広がります。

「これが一番得意です」と個性を出すのは重要ですが、「これしかできません」と自分の仕事の可能性を狭めてしまうのは、おススメしません。

Rule3:修正スキルを身につける

イラストの仕事の流れは、ラフを描いてOKが出たら本番です。

ラフは、下絵というよりは「アイデアスケッチ」や「提案」に近く、ここでレスポンスを繰り返しながら、相手のイメージに近づけていきます。慣れた相手や相性のよい場合は一発OKのときもありますが、数回のやり取りをおこなうことも普通にあります。

重要なことは、ラフの段階で、イメージをキッチリ決めること。次の本番で彩色したものが、相手のイメージ通りになっていることがゴールです。逆に言えば、本番で修正しなくていいように、ラフでイメージをすり合わせるのです。

基本的には「彩色後の修正はNG」です。これはイラストレーターの当然の権利でした。しかし、これが適用されるには、イラストレーター側というより、発注側の意識にゆだねられる部分が大きいのです。

残念ながら、彩色後の修正はNGという常識は崩れつつあります。

理由としては、デジタルイラストの台頭が上げられます。デジタルイラストは、線と色がレイヤーで分かれています。そのため、アナログよりは彩色後の修正がしやすいです。イラストレーター側で対応できてしまうことが、この流れに拍車をかけているのだと思われます。

この問題の影響は小さくなく、アナログからデジタルに切り替えるイラストレーターは増えています。もちろん、デジタルでも彩色後の修正は簡単なことではありません。彩色後の修正は極力無くしてほしい、とほとんどのイラストレーターは心の中では思っています。

この流れはおそらく止まりません。それでも仕事を続けていきたいと思うなら、アナログとデジタルのいずれを選ぶにしろ、「修正スキル」を身につけるしかありません。それがたくさんの仕事を獲得し、自分自身の身を守る最大の方法なのです。

Rule4:ポートフォリオはWeb上に持つ

筆者がこの仕事を始めた17年ほど前、営業スタイルの中心は、作品ファイルの直接持ち込みでした。当時東京に住んでいた筆者は、出版社の編集者に知り合うと、すぐにアポを取って持ち込みしていました。

当時ももちろん、編集者は忙しく、会ってもらえるとは限りませんでした。仲間とよく話していたのが「会ってもらえたら仕事が来るけど、ファイルを送るだけだと来ない」。

おそらく編集者への持ち込みは、われわれが想像するよりずっと多いのだと思われます。その中で仕事が来る来ないを分けるのは「印象に残る」かどうか。

作品ファイルだけでも、強烈な印象を残せば仕事は来るかもしれません。しかし、「印象」という意味では「会って話す」ことに優位性はあります。そこそこの作品ファイルを送っても、印象に残らなければ忘れられてしまう・・・そういうものなのでしょう。

この「会ってもらえれば仕事が来る」セオリーが崩れ始めたのは、10年ほど前でしょうか。現在筆者の住む名古屋から上京して営業しても、仕事につながらないことが増えました。その代わりに、まったく知らない媒体からWeb経由で仕事が来るようになったのです。

現在は持ち込みを一切していません。自分のサイトやSNSなどを見たという問い合わせがほとんどです。またイラストレーターの登録サイトはたくさんあり、その多くは無料です。Web上に作品を充実させることは、今後もっと重要になると思います。

Rule5:最も重要な「コミュニケーション能力」

最初に書きましたが、イラストレーターの仕事は、ただ「絵を描く」というより、依頼相手の「頭の中のイメージを、形にして見せる」こと。仕事をする中で、相手のイメージをうまく聞き出す「高いコミュニケーション能力」がないと苦労する、と感じるシーンがたくさんありました。

たとえば「リンゴを描いてください」と言われたら、大抵の人は「赤いリンゴ」を描きます。でも、それが正解とは限りません。リンゴといえば「緑」と考える人もいるのです。そして、その人にとって「緑」が常識であれば、わざわざ「緑のリンゴを描いてください」とは言ってくれません。

これは極端な例ですが、「リンゴですね?赤でいいですか?芯から出た木に葉はつけますか?」などと細かいヒアリングをすることで、より相手のイメージに近づけられるのです。(もちろん、実際にはリンゴを描くだけで、ここまで細かくヒアリングはしませんが)

イラストは、実は発注する側にもスキルが必要です。慣れてない人ほど「お任せ」と言ってくるケースが多いのです。お任せと言われて「好きに描いていいのね!」とぬか喜びしてはいけません。大抵の場合、描いた後に「ちょっと違う」と、ズルズルと修正が入ることも多いです。

「お任せ」という人は、「プロのイラストレーターなら、何も伝えなくても自分の思い通りのイラストを仕上げてくれるに違いない」となぜか思い込んでいます。でもそんなことができるのは、エスパーだけです。イラストレーターに相手の心の中まではわかりません。だからヒアリングするのです。

Rule6:ラフは2案以上提出

ラフはアイデアを形にするものです。ヒアリングで聞き出した相手の要望に沿ったアイデアをできるだけ2案以上出します。

1案だけでは、先方もイメージを図りかねることが多いのです。いくつか案を出すことで「人物はAがいいけど、背景はBがいい。建物はこの中間で」など、比較することでよりよいものに近づけます。

はじめて一緒に仕事をする場合はとくに、相手の感覚をつかむためにも、考えられる限りのパターンでラフを提出するべし、です。慣れてくると、その中で媒体に一番合いそうなものがわかるようになります。

慣れてからでも数案送ってみると、「いつもはAだけど、今回はB」と言われることもあります。よほど「これしかない!」と思えるケース以外は、2案以上提出を心がけています。

Rule7:スピードはときに質を上回る

イラストは、ほとんどの場合、文章に添える役割です。そのため、大抵は文章が入った後、工程の最後になります。作家の原稿が予定通りに届けばよいのですが、遅れることはよくあることです。

ということはつまり、押して死ぬほどタイトなスケジュールになることも、少なくないということ。納期まで2週間と聞いていたのに、実際には1週間程度のスケジュールで数十点描く、などということは珍しい話ではありません。

ここで肝に銘じたいのは、受けてから「できない」は許されないということ。とくにイラストの仕事は、誰かに変わってもらうことはできません。文章は、編集者が修正することもありますが、イラストは、修正するのは常にイラストレーター自身です。

どんなに初心者であろうと、「代わりの効かない仕事」をしている自覚を持つ。それがプロであるということ。

そのようなときに心がけるのは、無理に100点を目指さないこと。100点の出来を目指すより、締切りに遅れないことのほうが大切です。50点ではダメですが、80点で締切りに間に合うのがプロの仕事。筆者はそう考えています。

Professional 7rules

ここまで、イラストレーターにとって大切だと筆者の考える7つのルールをご紹介しました。
どれも、ほかの仕事にも応用が効くことばかりです。

わたしの経験からの7つのルールが、多くのビジネスパーソンの役に立てたらうれしいです。

(文:陽菜ひよ子

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