私はこれまで5,000人以上のキャリア相談に乗ってきました。
5,000人というとその道を極めたように聞こえるかもしれませんが、実際、それ以前の私は転職は8社にものぼり、人見知りな性格もありしくじることも多くありました。その中で常々感じてきたのは、個人を起点とした「自分に合う仕事」ってどうやって見つければいいのだろう?ということ。
当時はまだ、求職者個人のことだけを考えて100%向き合ってくれるサービスはなく、私自身も転職活動に苦戦しました。そこで、求職者自身が自分のことを考えられる場を提供したいと思い、企業でのキャリアコンサルを経て、現在はフリーのキャリアコンサルタントとして活動しています。
キャリアコンサルタントの仕事は実に幅広く、求職者の自己理解支援から定着支援まで多岐に渡ります。コンサルを通して、その人の職業人生を左右する大事な局面に伴走する、大切なお仕事だと実感しました。
そうした経験を経た今、自己理解支援に特化してサービスを提供しています。
求職者の相談に乗る際に気をつけていることは、弱点克服を目指すのではなく、強みに焦点を当てて話を聴くことです。そうすることで、出ている求人に自分を合わせるのではなく、自分を活かした仕事を探すという主体的な発想に変わっていくのです。
強みに焦点を当てて話を聴くと人はどう変わるのか。延べ5,000人以上のキャリア相談に乗ってきた経験と、自身の経験からお伝えしていきたいと思います。
セカンドキャリアを考えている人の「強み」に注目して話を聴いたら、自分らしいライフワークが見つかった
大手電機メーカーの部門閉鎖により、早期退職制度を活用し、再就職支援サービスを受けていた50代男性。
早期退職者として彼を受け入れた再就職支援会社の方針では、同じような仕事で、他の退職者とあわせて部署ごと受け入れてくれる求人先を面で探すようにとの指示でした。しかしご本人の意向を伺うと、それは希望しないと言います。
「会社に入ったら一生安泰と信じ、家族を養うため、仕事に人生を捧げてきた。それなのに、こういう目に遭ってしまった。同じことは繰り返したくない」と決意は固い様子でした。
よくお話を聴くと、趣味であるDIYを仕事に活かせたら、第二の人生を楽しめそうだと考えているようです。ご自分で「ここで働きたい」というホームセンターを見つけてきて、面接後すぐに採用になりました。
私がしたことといえば、話を聴いて、ご本人の意向を尊重し、背中を押したこと。面接に当たっては、希望のホームセンターに連絡し、人事採用担当者との面接をセッティングしただけでした。信用のある会社の人間が間に入るということは、信頼関係を構築する上では少なからず影響したのだとは思いますが、それでもご本人が主体的に行動したことが一番の勝因だと思っています。
転職を考えている人の「強み」に注目して話を聴いたら、自分らしさを活かせる職場が見つかった
絵を描くことが好きな20代事務職の女性。いつも小さなスケッチブックを持ち歩いて、自分の夢や目標をかわいらしいイラストや文字で描き込んでいました。
専門学校に通ったものの、イラストレーターになる夢は、狭き門ゆえ一時はあきらめたという彼女。それでももう一度挑戦したいと、仕事帰りに毎日のようにカウンセリングに通ってきました。
他職種でも職務経験を積んできたからこそ応用して活かせると思うことは、応募書類でアピールするようアドバイスしました。イラストレーターの求人を探し、いくつか応募していきました。すると、温厚な人柄もあってか、すぐに内定が出ました。ある遊戯機器メーカーのWebデザイナーの職務でした。
しかし、将来を考えたときに悩みが出てきました。自分の持ち味を活かせる仕事なのかどうか、ライフスタイルに合っているかどうか。一緒に考えたところ、結局未来を描けないという理由で辞退することになりました。
自分らしさを活かせる仕事という切り口でもう一度求人を探し直したところ、幼稚園で教材作成をするお仕事が見つかりました。子ども好きだという彼女の描くイラストは、とてもかわいらしい作風。その持ち味が活かせ、大好きな子どもと関われるぴったりなお仕事だと思います。
チームに関わる際、自分の「強み」に注目したら、自分らしいリーダーシップを見出せた
「向いてないのに、リーダー役を任された」という経験を持つ方は、学校生活まで含めると意外に多いのではないでしょうか。
私自身も学生時代、学級委員や生徒会役員を先生から勧められて立候補しましたが、人見知りで声が小さく、リーダーシップとは程遠い性格でしたので、正直なところ、苦手意識を感じながら取り組んでいました。
みんなをうまくまとめたり、ぐいぐい引っ張っていくような強い統率力や人望といった影響力は自分にはない。だから自分にはリーダーシップはない、適任ではないと尻込みしているケースは多いと思います。
でも、自分にリーダーシップがないと感じている人の多くは、聞き上手だったり、人の良いところを見つけて伝えられたり、人間関係を構築する力に強みがあるもの。こういうリーダーの下で働けたら、意思疎通がしやすく自分らしさを発揮できるだろうと思える資質を持ち合わせているのです。
私は現在コミュニティの中で、ある部活の副部長として部長を支えるポジションです。部長代行のときは、メンバーが心地よく活動できるように目配り気配りをすることで、自分なりのリーダーシップをとっています。
前職では、課のリーダーで非常に仕事ができる上司がいましたが、コピーなどの雑務も「自分のことは自分でやる」謙虚な姿勢の持ち主でした。仕事を頼まれないとかえってその人のために何かできることはないかと考えるようになり、その上司から何か頼まれたときには最優先で取り組もうと常々思っていました。結局一度も仕事を頼まれたことはないのですが、課の仕事に取り組むことは上司のためにもなるのでがんばろう、と主体的な姿勢になっていった記憶があります。
このように、リーダーシップはこうあるべきという固定観念を捨て、自分の持ち味を活かした関わり方を意識すれば、自然と強みを発揮し、人はついてくるのだと思います。
以上、私自身の経験談も交えて、キャリアコンサルタントのお仕事の一部についてお伝えしました。
自身の強みに注目することが、自分らしく生きることにつながったケースを知ることで、主体的に人生を歩むための一助になれば幸いです。
(文:さつき うみ)