本好きな人は皆、大好きな図書館。しかし「おしゃべり禁止」「飲食禁止」「本が探しにくい」「受付に並ぶのが面倒」「なんとなく堅苦しい」などの理由で少し苦手、という人もいるかもしれません。

この記事に登場する図書館は、従来のイメージをくつがえす、型破りな「自由過ぎる!?」図書館です。愛知県にあるこの図書館、日本に住む人なら誰でも本を借りられます。

テクノロジーと人の力、双方の最適化を目指す、安城市図書情報館の取り組みについて、同館司書の神谷美恵子さん(元アンフォーレ課 課長補佐)にお話を伺いました。

安城市図書情報館とは

愛知県安城市にある中心市街地拠点施設・アンフォーレ本館にある公共図書館。
2017年6月開館。図書館はアンフォーレ本館の2Fから4Fを占める。
2F「子どものフロア」3F「暮らしのフロア」4F「学術と芸術のフロア」

「Library of the Year2020」優秀賞・オーディエンス賞をダブル受賞
人口15万~20万人の自治体約50中、年間の本の貸出数が3年連続全国1位(2018~2020)
JR東海道本線安城駅南口から徒歩5分と交通の利便性も高い

安城市図書情報館 https://www.library.city.anjo.aichi.jp/

「飲食OK」「お酒もOK」の理由とは?

――安城市図書情報館(以下アンフォーレ)のさまざまな取り組みの中でも、一番驚いたのは、やはり「飲食自由」しかも「お酒もOK」です。「お酒もOK」は本当なのでしょうか?

飲食は自由です。お酒は、禁止はしていませんが、推奨しているわけでもありません。利用者が水筒で飲み物を持って来ていたら、中身が何かまではチェックしません、ていうかできませんよね、ということです。

――とはいえ、実際にお酒を飲んでいてもおとがめなしというのはスゴイことですよね。どういった経緯で決まったことなのでしょうか?

図書館の上層部から「お酒を飲みながら、外の夜景を眺めつつ本を読むような図書館があってもいいよね」という意見が出たんです。

――上層部からの意見だったのですね!

職員も意見を求められ、わたしは大賛成しましたが、反対の職員もいました。賛成した理由は「家では借りた本を、お酒飲みながら読む人もいるだろうから、同じなのでは?」です。

もちろん、酔っぱらってほかの利用者に迷惑をかけるような人にはお帰りいただきます。でも今まで、酔っぱらって本を汚した人は0なのです。

夜のアンフォーレ

YouTube「自由すぎる!?図書館」とLibrary of the Year優秀賞受賞

――2020年、先進的な活動をおこなう図書館に対して贈られる「Library of the Year」優秀賞・オーディエンス賞をダブル受賞されています。その理由はどのような点だと思われますか?

投票でオーディエンス賞に選ばれたのはうれしかったですね。いろいろな取り組みを評価していただけたと感じています。受賞できた理由の一つは、SNSやYouTubeでの発信だと考えています。

受賞を祝う垂れ幕(現在は撤去。写真は2021年秋に撮影)

――YouTubeは非常にうまくまとまっていて驚きました。ご自分たちで制作されたんですか?

YouTubeはライブラリーオブザイヤーへの発信のために作りました。シナリオやどのようなシーンを盛り込むかは司書が考えました。うまくまとめてくださったのは、業者さんの力です。

自由すぎる?!図書館(安城市アンフォーレ) アンフォーレ公式チャンネル

利用者目線での本の並べ方

――通常の図書館とは本の並べ方が違うとのことですが、どのような工夫をされていますか?

国内の図書館で採用されているのは、日本十進分類法(NDC)です。当館では、それに加えて、3Fに独自に設定した9つのジャンル別に並べるゾーンを作っています。

並べ方は「大型書店」のイメージです。

たとえば「ガーデニング」「庭づくり」は62、「植物学」47、「生け花」「フラワーアレンジメント」79と離れています。庭で育てた花について体系的に学んだり、自宅にキレイに飾りたいといった場合に本を探すのに不便です。

そこで、3Fのゾーンに、NDCの分類とは別に植物・動物=Aというコーナーをつくって、植物(や動物)に関する本をすべて並べています。

名古屋本は、NDCでは「地理」291、「中部」5で分類は「291.5」となり、3Fでは旅行=Tに入っている。Tには「世界遺産」「地域の歴史」「温泉」「山登り」なども入り、旅の可能性を広げてくれる。

――なるほど、それは利用者にとって、とても便利です。ゾーンづくりで苦労されていることはありますか?

3Fのゾーンづくりは、分類の継続が大変です。現在国内では年間約7万冊の本が出版され、当館では約3万5千冊受け入れています。単純に毎週700冊以上入ってくる計算になります。

――1日当たり100冊以上になりますね。すべて分類するのは大変な作業量なのでは?

そうですね、それだけでも大変です。

出版には流行や時代性があり、入ってくる本は、その時によって偏りがあります。同じ分類の本がどんどん入って来て、一部の棚がいっぱいになってしまうこともあるので、微調整は常に行っています。

常に手を入れてあげないと、すぐに荒れてしまうんです。

――まるで庭みたいですね?

たしかに、「本の庭」ですね。

――書店勤務の知人に聞いた話なのですが、(実用書担当、コミック担当などの)担当者にとって「自分が選書した棚は自分の作品」という感覚なのだそうです。スタイリスト的な役割というか。図書館の司書にもそのような感覚はありますか?

図書館は公共性が大切ではありますが、それでも司書の「読んでほしい」という想いは、やはり反映されます。

ICT機器と人との役割分担

――ICT機器と人との役割分担を徹底して、利用者との時間を増やした、とのことですが、具体的にはどのようにおこなっていますか?

本の貸し出しや返却などの単純作業は機器にお任せしています。機器はあっても使えなければ宝の持ち腐れですから、機器を使える職員の育成は重要です。

館内には自動貸出機と自動返却機が完備。

機器に業務を任せた分時間が空くため、利用者との時間を増やしました。具体的には、利用者の「調べたい」に、徹底的に答えるようにしています。

利用者に「知りたい」と言われれば「草の根を分けても探し出す」という姿勢でサービスに努めています。

国立国会図書館から9年連続でお礼状をいただきました。これは利用者の方の調べものをお手伝いして、その経過や内容を国立国会図書館に提供した件数が多かったということです。

――図書館は「サービス業」と捉えておいでなのですね?

もちろん、図書館はサービス業です。当館はありがたいことに、職員へのクレームはほとんどありませんが、利用者の意見はいつも真摯に受け止めています。

――利用者から問い合わせがあったとき、どのように対応されていますか?

本の背表紙に貼ってある「分類シール」の情報でさがした本を、ただ渡すだけではなく、利用者の知りたいことを、くわしくお聞きして、本の内容を確認しながら一緒に探します。

職員はインカムを付けているので、その場で対応が可能です。事務所にいても、スピーカーからインカムの声が流れてきます。

――なるほど、内線電話まで走って呼び出すことがないのですね?

利用者をたらいまわしにしたり、何度も同じことを説明させたりすることのないようにと配慮しています。

たとえば3Fで利用者から問い合わせがあり、2Fにご案内する際は、2Fのスタッフに利用者の服装などの特徴と問い合わせの内容をインカムで伝えます。2Fのスタッフはさり気なく利用者にお声がけして書棚までご案内するといった感じです。

――すばらしい。本当にサービス業ですね?

郷土の歴史を調べていらっしゃる利用者の方が、日露戦争で亡くなった理由を調べたいと言われたのですが、当館だけでは調べ切れませんでした。国会図書館のアーカイブでは電子化した本が閲覧できます。各戦闘の記録がすべて残されていて、いつ誰がどのように亡くなったかも記載されているのです。調べたい方の亡くなられた理由にもたどり着けました。

――紙の本のままでは難しいけれども、電子だからこそ可能なのですね。

日本初・閉館時も受け取れる「予約本受取機」

――アンフォーレの先進的な取り組みの中でも、珍しいと感じたのが「予約本受取機」です。これはどういった機能ですか?

インターネットで予約した本を、休館日や閉館後でも受け取れる機能です。

――館外に設置した機器で予約した本を受け取れるんですね。外のポストに「返却できる」図書館は多いですが、本を「受け取れる」のは、あまりない機能なのではないでしょうか?

日本初です。現在は他の図書館も取り入れているようですが。

――それはスゴイ!ということで、さっそく体験させていただくことにします。

館外にある予約本受取機。

雨の日でも濡れずに本を受け取れる。

 

予約情報は貸出カードに入っているので、カードを差し込むだけ。

パスワードなどの入力がないので、ハードルが低い。

本のタイトルが画面に表示される。

選択すると、右の口から本が出てくる。

 

無事受け取り!簡単操作で、一人でも迷わずできる。

――すごいシステムですね。アンフォーレオリジナルなのですか?

TRC(図書館流通センター)のご提案で製作しました。最初のころは不都合もあって、バックヤードから本を入れるときに、うまく行かないことが何度かありました。でも今まで、利用者が本を受け取れなかったことは一度もないんですよ。

今後の展望や課題、書籍「アンフォーレのつくりかた」

――今後の課題などはありますか?

利用者を増やしたいですね。現状は、市民の中の実利用者(年に一度でも借りた人)の割合が2割に満たないのです。もう何年もずっとこの割合で推移してきています。これを上げていきたいです。

――最後になりましたが、アンフォーレの本ができたそうですね。どのような本ですか?

ちょうどこの2月に発売されたところです。元愛知淑徳大学講師で、博士(図書情報館学)の岡部晋典(ゆきのり)先生がまとめてくださいました。

『アンフォーレのつくりかた』(岡部晋典・編 / 樹村房)

古き良き図書館とハイテクの絶妙なバランス

「アンフォーレのつくりかた」、さっそく読ませていただきました。冒頭の岡部先生の言葉を一部引用させていただきます。

「アンフォーレは、これまでの図書館の伝統を尊重しながら革新的な試みもいくつか行っている。つまり、高度なバランスが見える。ここでいうバランスとは妥協のことではなく、複数の相反する要求を高次元で調和させることだ。これはなぜ実現できたのか」

そうなのです。アンフォーレはテクノロジーを利用した、多くの革新的な活動を行ってはいるけれど、基本の「昔ながらの図書館のあり方」も、決して忘れてはいないのです。

本には今回インタビューに答えてくださった神谷さんも寄稿されています。上記本文「利用者目線での本の並べ方」は、神谷さんの発案だとのこと。(第3章「運用」の「排架計画とラベルの変更、 『らBooks』の創設」にくわしく書かれています)。

そこにあるのは「徹底した利用者目線」。

「利用者のためにテクノロジーを最大限に利用する」が、アンフォーレの考え方の根底にはあります。テクノロジーに人類の存在そのものが脅かされる危機さえささやかれる昨今、今一度「誰のためのテクノロジーか」を考える一助になるように思えます。

この前編では主に、アンフォーレの館内のシステムについて伺いました。続く後編では、アンフォーレの職員同士や外部との連携やコミュニケーションについて伺います。

(取材/文:陽菜ひよ子 、 撮影:宮田雄平)

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