「あなたの仕事における7つの流儀を教えてください」
今回お話を伺ったのは、国内最大の音楽YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」、NHKの音楽ドキュメンタリー番組「おかえり音楽室」などのクリエイティブディレクターとして、企画、アートディレクションやグラフィックデザイン、映像監督を担当する清水恵介(しみずけいすけ)さん。
映像監督としてのキャリアだけでなく、過去にはUNIQLOやSHISEIDOなどさまざまなブランドのキャンペーンを担当してきた清水さんに、人生を豊かにする7つの仕事の流儀を聞いた。
―「THE FIRST TAKE」クリエイティブディレクター清水さんの記事一覧
清水恵介さんプロフィール
1980年生まれ。クリエイティブディレクター/アートディレクター。Netflix Japan、UNIQLO、 SHISEIDO、UNITED ARROWS、NISSAN、AIG、MUJIなど、数多くのキャンペーンやコンテンツを手がける。’19年YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」、’22年NHKの音楽ドキュメンタリー「おかえり音楽室」の企画・クリエイティブディレクション・アートディレクション・映像監督を担当。クリエイターオブザイヤー’18メダリスト、Campaign誌クリエイティブパーソンオブザイヤー’19、カンヌ金賞、NYADCグランプリ、ACCグランプリなど受賞多数。
目次
Rule1.仕事も人生も、ぜんぶ一回性
仕事をある程度続けていると、同じことを繰り返しているように感じる瞬間ってあるじゃないですか。でも本当は、同じ瞬間は二度とないんですよね。すべての仕事が人生で最後のもの。いつもと同じ繰り返しだと思っても、よくみれば、新しいことがみつかるわけです。
同じ瞬間は二度とないことにさえ気づければ、意外とずっとわくわくした気持ちで仕事に向き合えることもあったり。全部が一回しかない仕事で、多分二度と来ない仕事だと思っています。
Rule2.失敗しても成功しても、これでいいのだ
失敗も成功もそんなに変わらないなって思っていて。どちらかというと、大切なのは限られた時間と能力の中で、ベストを尽くせたかどうか。あとは、チャレンジはできたのか、が大事だと思います。たとえ失敗だったとしても、そこに一喜一憂せずにいきたい気持ちがあります。だからこそ、失敗しても成功しても、一喜一憂しない。
実は失敗している姿の方が魅力的だったり、失敗って意外と他の人から見たら失敗じゃなかったりするパターンもありますしね。ちゃんと前進していれば、ただの失敗じゃない。失敗も成功と同じぐらい価値があるので、受け入れて前に進むことが大事だなと思います。
Rule3.わかりそうで、わからないのがいいじゃない
仕事の中でわからないことがあると、「駄目なんじゃないかな」と自信をなくしてしまう経験って誰にでもあると思います。
でもそんなときこそ、無理にわかろうとして答えを求めない。わからないことがあるから、仕事も人生も楽しいんだと思います。大事なのは、わからないときに、楽しみながら、わかろうと思えるか。みんながわかることはつまらない。わかりそうで、わからないというのが、一番脳が能動的になる瞬間なんです。
広告でも、わかりやすすぎる打ち出し方をすると、実は誰も見ないんです。ただ今度は逆に、わからなさすぎると、それはそれでスルーされちゃうっていう(笑)。だから最近のアーティストが顔を出しすぎない風潮も理にかなっているような気がして。
「わからない部分が生まれてラッキー!」くらいの心構えだといいかもしれません。
Rule4.テーブルのキワッキワにコップを置く
仕事って、「こうすれば予定調和に進むんでしょう」でやり過ごすと、あんまりいいことがないんですよ。どんな仕事でも“ちょっと不安”というところを攻めた方が、結果的に面白くなるなと思っていて。
仮にテーブルがここにあるとしたら、落ちてしまうかどうかのキワッキワの場所にコップを置きたくて。そうすると、議論が活発に起きる。みんなが興味を持てるようなところに仕事を持っていきたいんです。特にものづくりには正解がない分、(議論の支点となるコップを)変なところに置きたい気持ちがすごくあります。ただの真実よりも、予定調和にならない真実っぽさが好きですね。
Rule5.迷ったら、チグってる方へ
全ての仕事は、先人のつづきをやっていることでもあります。だからその大筋の文脈みたいなものはもちろん感じつつも、自分のところで少しアップデートしていきたい。そんなときに、どこにチグハグをつくりアップデートできるかを考えるわけです。
みんなが白色の靴下を履いているからといって、同じ色のものを履かなくてもいい。常識を壊すには、違和感をチグハグに感じるくらいがちょうどいいと思っています。だからこそ、うまく進み過ぎているプロジェクトはちょっと怪しいとすら思っていて。議論が活発になっていい結果に、アップデートされていくための違和感の必要性を感じます。
Rule6.遠足のおやつ500円以内という制限
子供のときの「遠足のおやつは500円以内にしましょう」っていうルール、わくわくしますよね。「バナナはおやつに入りますか」なんて聞いている人もいれば「自分は一点豪華主義でこれ買おう」ってタイプの人もいますし。500円以内っていう制限があるから、その中で何が自分にできるのかを考える。なんでもありだと逆に難しかったりもするんです。 一つだけフレームがあったら、意外とみんな考えやすくなって、いいアイディアが出てきたりする。独自の制限をつくってみて、みんなに投げかけてみること。それが、ディレクションであり企画であると思うんです。
Rule7.ミクロとマクロ視点で、ちっぽけなことを知る
大それた考えをもつよりも、地に足をつけて考える。ミクロの視点とマクロの視点を行き来して、ミクロからスタートして、スケールを広くしていく。
どんな仕事であれ、最初は大それた考えをもつよりも地に足がついたことを考えていくべきだなと思ってて。いきなり「世の中を変えよう!」とか、「宇宙規模の視点で〜」とかってなると、あまり良くない結果になるケースが多いかもしれない。でも、1人の個人としての自分の感情が少し動いた瞬間をきっかけを仕事にしてみると、結果的にそれはいろんな人に共感されて、どんどんスケールが広がっていっていく気がしているんです。
ミクロとマクロの視点を行き来しながら、自分がものすごくちっぽけな存在だということと、どうやったらそのスケールが広げられるのかを想像しながら仕事をしていきたいと思っています。
ーー7つのルールをお伺いしましたが、清水さんが1番大事にしているルールは?
清水:
一つ選ぶのであれば、「仕事も人生も、ぜんぶ一回性」かもしれません。僕自身はすっかり忘れていたのですが、前に後輩が過去に自分が言っていたことを逆に教えてくれた機会があって(笑)。内容としては「どんな仕事でも、なぜそれを自分がやるかを考える」。つまりやりがいがどこにあるかを考えていく、ということですね。
例えば僕自身が過去に携わっていたドアのカタログのデザイン制作を例に挙げると、流れ作業として取り組むか、それとも一軒家でこのドアが素敵な家のなかで映える想像をしてるかで、やっぱり違うなと。どんな仕事でも、自分なりに想像してストーリーにして考えてみる。それはやっぱり、「仕事も人生も、ぜんぶ一回性」だからこその取り組み方だと思うんです。
ーー清水さんにとって充実したキャリアの状態とはどのような状態でしょうか?
清水:
他者を喜ばせられるものをつくることができたら、幸せだなと思います。でもまずは、やっぱり自分が楽しんでいないと意味はないのかなと。自分が楽しんでやっていることで、人が喜んでくれるというのは幸せですよね。
清水さんの7ルールは以下の通りだ。あらゆるシチュエーションに通じる7つの流儀として、人生に迷ったときに立ち止まって思い出したい。
―「THE FIRST TAKE」クリエイティブディレクター清水さんの記事一覧
(取材/文:すなくじら、撮影:原田義治/Yoshiharu Harada)