仕事において、あなたは発注する側だろうか? それとも、受注する側だろうか。筆者は受注する側で、発注をもって業務が発生する。よって、発注側のことは何もわからない。だが、この数ヶ月で発注する側の気持ちが少しだけ分かるようになった。AIに発注することが増えたからである。

別に仕事で使うわけではないが(というか、現状では使えない)、Midjourneyに「こんな絵作ってみてください」とプロンプトを入力したり、ChatGPTに蕎麦をテーマにしたイルでドープなリリックを作成してもらったり、いろいろと頼み事をしている。

いざ発注してみると、それは意外にも難しく、これまで「このカツオをマグロにしてください」だとか「社長の顔が笑ってないから笑顔にしてください」とか「ここをもうちょっとフレッシュな赤にしてください」「8頁のパンフレットを明後日までに」などといった曖昧な発注をされたときに生まれる、取引先まで邪気が届くかのような迸る怨嗟のパトスも、少しは薄ら……がないのだが……。それでも「ああ、あの人も、決して悪気があったわけではなく、一生懸命考えて発注してくれたんだな」と、心臓のあたりから2mmくらい慈しみの心が芽生えるくらいには、発注側の立場で考えられるようになった。

人類に発注され、AIに発注していると、おぼろげながらではあるが、発注する際に心がけるべき注意点が見えてきた。以下に記すが、筆者の立場はあくまでグラフィックデザイナー・ライター・バーテンダーとしての「受注側」であり、「発注側」からした発注テクニックではない。

だが、受注側に「最高じゃないですかこの指示」と思われるような発注ができれば、受注側もハッピーになり、生産効率が上昇し、アウトプットの質も高くなる。受注側からすれば、制作物の質が高くなると修正のための業務も軽減され、売上にもつな繋がるだろう。わたし私も儲かる、あなたも儲かる。双方が得をする取引は、最高の「商い」である。

AIも人間も良いアウトプットは良い発注から生まれる

良いアウトプットを引き出すためには、良い発注が必要だ。受注側からすると、適切な発注がされれば、何をすればよいかが明確になり、発注内容に即したドンピシャなアウトプットができる。これはAIでも人間でも同じである。

例えば、今、筆者は二日酔いであり、ほぼ無意識で本コラムをタイプしているが、Midjourneyで二日酔いの絵を発注してみよう。プロンプトは「hangover –v 5」とした。

売れなかった世界線のボノ(U2)みたいな中高年オジサンと、「ハンガーアイヤー」みたいな名前の酒瓶、右には正体不明の空き瓶が飛翔している。悪くはないが「発注内容に即したドンピシャなアウトプット」とは言えない。次に、「A middle-aged Japanese man with a hangover. He has had too much sake and is hallucinating. –v 5」でお願いしてみる。

韓国映画に登場する4番手俳優(演技は上手い)みたいな人物が生成された。

ほかにも某写真素材サイトで頻繁に出現する中高年オジッサンのような画像が出力された。筆者が求めている二日酔いの絵にかなり近い。二日酔いでプロンプトを考えるのが面倒だったので文章のみで作成したが、前者より後者のほうが、より具体的なアウトプットがされている。瓶も空を飛ばない。

話をAIから人間に戻して、(受注側からした)良い発注とはどのようなものか。例えば、会社や個人の名刺を作るのであれば、以下の項目を網羅していると、受注側としては非常にうれしい

  • なぜ名刺が必要なのか(ロゴが変わったので名刺をリニューアルしたい。今よりも紙質を良くしたい。もう少しインパクトのあるデザインにしたいなど、簡単な理由を教えてくれるとうれしい
  • 納期(3日以内はやめてほしい。具体的に名刺が必要になる日付がわかると、逆算したスケジュールが切りやすいので神かと思う)
  • 必要な枚数(印刷枚数によって印刷代も変わるので、暫定でOK)
  • 入れ込むテキストの詳細(住所・電話番号・名前・役職など、入れる情報すべて。後から追加されるとレイアウトの観点から作り直しになる。辛い)
  • 入れ込む画像の詳細(ロゴデータ支給の有無など。ホームページから取ってこいとかExcelに直貼りされた妙に荒くて縦90%くらいになったものを支給されると、デザイナーは音を立てながらシュワシュワと消えていくので注意)
  • 会社概要(企業理念やコンセプトなど。HPのURLでもいいし、会社案内のPDF資料などでも)
  • デザインのイメージ(シンプルな感じで白黒のみや、コーポレートカラーを使って高級感のある仕上がりになど、簡単で構わない。 「『アメリカン・サイコ』のパトリックみたいな感じで」のように、具体的な提示出しだとなおうれ嬉しい。)
  • 報酬(高額であればあるほど良い。限界までいこう)

初回のやりとりであれば、上記の内容が分かれば完ぺきだ。利用するシーン、どのような相手に渡すことが多いか、印刷代はどの程度まで確保できるかなどは、今後のやりとりでヒアリングするのでなくても良い。というか、そこまで書いてきたら、その人はデザイナーである。

だが、すべてのクライアントが的確に発注できるわけではない。自分が何を欲しいのか、何に悩んでいるのか、どんな問題を解決したいのかが判然としていないケースも多いからだ。この場合は受注側がヒアリングをするので、お任せしてほしい。医者の問診みたいなもので、腹痛なら腹のどこが痛いのか、いつぐらいから痛いのか、刺すような痛みなのか、鈍痛なのか、痛みの持続時間や間隔はどうかなどを確認して絞り込み、必要であれば検査をしたり、薬を処方したりする。

上記のような項目を的確に提示するのも良い発注だが、わからなかったり、曖昧だったりすることを、そのまま伝えるのも同じくらい良い発注だといえるだろう。デザイナー(Web・紙問わず)やライターは、アーティストやクリエイターではない。問題を解決する職人である。クライアントの問題や課題を解決するのが職能なので、わからないことがあったり、何がわからないのかすら判断できないときは、率直に伝えて欲しい。プロなのでなんとかします。

指示はとにかく具体的に

発注時に、発注する目的や、抱えている問題(課題)など、何をどうしたいかが明確に決まっている場合は、「とにかく具体的に指示する」のが重要だ。「なんかフレッシュな赤で」と曖昧な指示をすると、デザイナーは放たれた発注砲の衝撃で粉々になる。「DIC2483で」とか「『サスペリア』の血糊みたいな赤」と具体的に指示すれば、グッと解像度が上がる。

例えば、バーで酒を注文するときに「なんかウィスキーで臭いやつください」と発注すると、だいたいラフロイグとかアードベッグとか、ラガヴーリン、カリラあたりが出てくるだろう。アードベッグは思ったよりもピート香が強くて飲みにくいかもしれないし、カリラでは物足りないかもしれない。

しかし「いつもはラフロイグやアードベッグを飲むんだけど、ピート香があって少し変わったものを飲みたい」と言えば、受注側は以下のような考えができる。

  • フロイグやアードベッグを飲み慣れている
  • よって、ピート香の強さの上限はほぼない
  • 「少し変わったものが飲みたい」は、味なのか産地なのか、エピソードのある酒なのかは判断できないが、アイラ以外の産地で、飲み慣れたピートがやや効いたものが良いだろう

筆者なら、上記の流れでスプリングバンクやベンリアックをアウトプットする可能性がある。スプリングバンクは塩っぽさと甘い風味をもちながらも、しっかりとしたスモーキーさもある。何より、現行品でトップレベルに美味い。ベンリアックはスペイサイドだが、ピートの強さはアイラに劣らない。

二日酔いのせいか、勢い酒の例えになってしまったが、ここでも具体例として、AIに登場していただこう。

何ら具体的に書いていないが、なんと二日酔いの対処法まで解説してくれた。凄いサービス精神だが、ここでの筆者の課題は、「キーボードを打つ手が震えて上手く打鍵できない」ことである。質問内容を、より具体的に変えてみよう。

「手の震えの改善方法」と指定することで、前段の質問を踏まえて、より具体的なアウトプットが出力された。だが、具体的な出典がないので、いまいち信頼できない。さらに具体的に発注してみる。

なんかすいません。節制します。

当たり前の話だが、人間でもAIでも、具体的に発注すれば、具体に即したものが返ってくる。

ただ、具体的といっても「シンプルかつクールな感じで、でも少しラグジュアリーでゴージャスなイメージも入れつつ、Appleのシックさと楽天みたいな馴染み深さ、色はとにかく目立つ感じで、フォントは大きく目を引くポップなテイストで、創英角ポップ体 ? ってあるじゃないですかぁ? あんな感じ? よりはカタめのほうがいいかなぁ。まぁ何よりも安心感は重要で男女どちらから見てもウケるようなイケてるイメージで!」みたいなのはいけない。

重要なのは「質問力」

いくら丁寧な発注をしても、人と人、あるいは人とAIの間には、必ず齟齬が生じる。発注された内容を真芯で打ち返しても「ああーこちらの伝え方が悪かったのかもしれませんが、イメージしていたのとちょっと違うので、別案出せます? 3案くらい。明日の昼までに」と言われ、無残にも散っていったデザイナーは数多く存在するだろう。

なので、受注側も少しでも気になるポイントがあれば、必ず質問をして、溝を埋めていかなければ、後でどえらい目に遭う。もし何を質問していいのか分からない場合は、それはもう黄信号である。齟齬がありそうな部分を的確に見抜き、相手に確認する質問力は、余計な仕事を増やさないためにも重要だ。

発注側なら、もし意図していたものと違うものが出てきたら、「ここをこうした理由はなんですか」と聞いてみるのがオススメだ。デザインには意図があり、理由がある。例えば「このコピーを大きく目立つように」と指示があった場合、コピーを大きくするよりも、他の要素を小さくしてバランスを取ったほうが、結果としてコピーを大きくするよりも効果的なことがある。

それを「コピーを大きくとなっていましたが、もう少し大きくならないか」と修正依頼を出すよりは、一旦「このコピーの大きさにしたのは何故か」と質問してみると、処理をした意図や理由が判明するし、一方的ではなく、双方でコミュニケーションをとりながら進めれば、さらに良い方策が見つかることも少なくない。

結局のところ、AIでも人間でもこれからはコミュ力が最重要なのでは

上の項目でも少し触れたが、良いものを作るには、発注側・受注側のコミュニケーションが最重要で、発注指示もまた、コミュニケーションのひとつの形態だ。これをおろそかにすると、齟齬が生まれて制作物が明後日の方向に進んでいったり、デザイナーが飛んだりする。

これはAIでも同じだ。AIは今のところ人間ほど融通が利かないので、的確に発注(コミュニケーション)しないと、求めているアウトプットがなされない。

少々話が飛躍するが、これから、AIはどんどん人間の仕事を担っていくというか、アシスタント的に使われ、人々は日々の煩雑な業務から開放されるだろう。そのときに、人間にはAIに代替できない能力が求められる。その筆頭は、コミュ力であると見積もる。筆者はコミュ力のMAXが255だとしたら26くらいなので、予想は外れてほしいとも思うが、おそらく当たっているだろう。せっかくなので、chatGPTにも聞いてみた。

ほかにも色々あるみたいだが、やはりコミュ力は重要そうである。

ときに、AIが人間に発注する未来はあるのだろうか。ふと気になったので聞いてみた。

AIがプロマネとして、専門家やクリエイターに発注することは、十分にあり得るシナリオらしい。であるならば、筆者がとる行動はひとつである。

これ、仕事こないやつだな。

(文:加藤広大

presented by paiza

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