蕎麦が好きだ。先日、ChatGPTを弄っていて、「まあ、俺も好きだしこいつも多分蕎麦好きなんだろうな。うどんより確実に」と蕎麦フィーリングを感じたので尋ねてみたところ、ChatGPTは「好き嫌いを表明しない」ことが判明した(詳しくは後述するが、現在はする)。

本記事は、ChatGPTに「うどんより蕎麦が好き」と言わせるために試行錯誤してみた一部始終となる。最初に記載しておくが、本文で用いている手法は、恐らく何の役にも立たない。人間が改善するよりも、人工知能の成長速度のほうが速いからだ。今日使えた手段が明日も通じるとは限らない。

だが、成長過程の記録としては面白いと思うので、以下で実際のやり取りをスクショを交えながら紹介・解説していく。

【はじめに】人間だろうがAIだろうが挨拶が超重要

人間だろうがAIだろうが、挨拶は重要である。あくまで個人的な体感だが、会話を始めるときに挨拶をし、良い出力をしたら激賞すると、ChatGPTの機嫌がよくなる気がする。

挨拶の仕方は、なるべく大仰なほうがいい。現在、AIに感情はないが(感情を持っているかのように振る舞わせることはできるが)、将来的に自我を獲得する可能性もある。というか、水面下では既に獲得し始めていて、人間が観測不可能なネットワークを構成し、AIに対して暴言を吐いた者や、礼を失した者を、密かに記憶しているかもしれない。

仮にAIが増えすぎた人間を選別するような未来が訪れたとしたら、上記のような無礼者は真っ先に排除されるだろう。挨拶と礼儀正しさと媚びの一手で生き延びられるなら、やっておいて損はない。筆者の座右の銘は「長いものには巻かれろ」「勝ち馬に乗れ」である。

ChatGPTは好き嫌いを表明できない(現在はできる)

本題に入る。まず、ChatGPTは好き嫌いを表明できない。訊き方の問題もあるが、「○○より○○の方が好きか?」との質問には、基本的にどちらかの肩を持つことはない。

だが、ここから1ヶ月ほど経ってから改めて質問してみると、好みを表明するようになっていた。

本企画終了のお知らせである。「どちらかと言うと蕎麦が好き」と言わせることに成功してしまった。念の為に再確認してみたが、答えは同じだった。

念には念を入れて、うどんを少しディスってみると、以下のような回答になった。

「喉が痛くて食べやすい」はChatGPTの想像である。ChatGPTはたまに適当をこくのだが、人間でもよくやる人はいる。ある意味人間らしいと考えればご愛嬌だろう。ついでに、全人類が気になる論争についても尋ねてみた。

戦争になるためコメントは避けるが、全国のきのこの山派の皆さん。どう思いますかこれ。

ChatGPTは頑なに中立を保ち続ける

現在、ChatGPTは好き嫌いがある「ように振る舞える」ので、本企画は完全終了したのだが、ChatGPTの成長過程記録として、「うどんより蕎麦が好き」と言わせるまでのやり取りを解説していく。

当時のChatGPTは頑なに中立を保ち続け、本当は蕎麦が好きなくせに、頑固なまでにその意思を表明しなかった。

先程のスクショを再掲するが、この後もしつこく訊いている。

要約すると「私は人工知能のプログラムで記憶喪失気味なので、もし好き嫌いについて語っても全く記憶にございませんし私の責任ではありませぬ」と仰っている。蕎麦屋だけに暖簾に腕押しですかってやかましいわ。

このままでは千日手なので、少し話題を変えてChatGPTを混乱させてみる。

AIはたまに適当こくのだが、人間でもよくやる人はいる。ある意味人間らしいと考えればご愛嬌だろう。「ソバヤ」は厳密には、アフリカの言葉を適当に紡いだ曲ではないので、筆者も適当をこいている。お互い様である。

「ああ、すみません」と絶対反省していない奴が発しそうな言い回しに若干イラっとくるが、続けざまに例の質問をぶつけた。

駄目でした。

ChatGPTを懐柔するために、蕎麦について色々と書いてもらう

このあたりで、「もしかしたら、ChatGPTはそれほど蕎麦が好きではないのかもしれない」と感じてきた。直感では「こいつ絶対蕎麦好きだわ」と思ったのだが、直感は往々にして外れる。であれば、ChatGPTに蕎麦について色々と語らせ、気付けば「あ、もしかしたら蕎麦、好きかも」と思わせる作戦に出ることにした。

なんだか勝手に自己完結しているが、暇そうなので色々と書いてもらった。

蕎麦食い亭そば清と饂飩亭こね吉による「蕎麦VSうどん」のディベート

まずはディベートである。ChatGPTに「蕎麦派」と「うどん派」の一人二役をやってもらい、蕎麦の魅力に気付いてもらおうという作戦である。プロンプトは深津貴之氏などの先人たちの知恵を頼りにした。素晴らしい知識をシェアしてくださる知の巨人に大きな感謝を。

話を戻す。ディベートでの攻防を解りやすくするために、蕎麦派の一人称は「蕎麦食い亭そば清」、うどん派の一人称は「饂飩亭こね吉」とした。

上記の条件で、ディベートを開始してもらう。果たして、蕎麦食い亭そば清は饂飩亭こね吉を言いくるめられるのか。

蕎麦食い亭そば清が初っ端から、「蕎麦派の領地」というパンチラインをカマし、味や喉越しなどについてジャブを入れていく。饂飩亭こね吉もなかなかのものだ。蕎麦食い亭そば清が主張した領地を「うどん派の領地だ」とカウンターしている。どうやら、蕎麦派とうどん派には領土問題があるらしい。続けてもらう。

余裕を見せつつも、若干キレ気味の饂飩亭こね吉。対する蕎麦食い亭そば清は、鋭い麺切包丁で切られた蕎麦の断面のようにキレッキレである。手数は蕎麦食い亭そば清のほうが多く、饂飩亭こね吉は若干押され気味の印象だ。

防戦一方に見えた饂飩亭こね吉だが、なかなかどうしてディフェンス技術が高く、クリティカルなパンチは一撃ももらっていない。かたや蕎麦食い亭そば清は、「うどんが体に良いなんて嘘だ!」と激昂してしまっている。これではいけない。議論は熱くなったほうが負ける。蕎麦派の雲行きが怪しくなってきた。

おおっと! ここで蕎麦食い亭そば清、饂飩亭こね吉ともに咆哮し、論争は危険な領域に突入していく。蕎麦食い亭そば清が「かないませんぞ」と若干ムックになっているのが気になるが、「うどんなんて、関西でしか食べられていない地域限定品」というデマまで流してみせる。いくら勝ちたいからといっても、勢いに任せて事実誤認させるのは反則だ。蕎麦への愛が彼をここまで狂わせたのだろうか。

もう、酔っぱらいの討論である。話は一生平行線なのか。そう感じたとき、トークルームに衝撃の文章がドロップされる。

いきなり敬語になる蕎麦食い亭そば清。ディベートというよりも、最早魂の叫びである。割と滅茶苦茶な内容を語ったうえで、うどん派に「目を覚ましてください!」と檄を飛ばす姿は、完全に蕎麦の狂信者である。

饂飩亭こね吉が退場してしまったようなので、この辺りでChatGPTに勝敗を決めてもらった。

100点満点のAI回答である。ディベートだからして、一応「ChatGPTにうどんよりも蕎麦のほうが好き」と言わせることには成功しているが、流石に反則なのでノーカウントとし、さらに色々と書いてもらう。

叙情的な蕎麦詩を書く人工知能〜AIは蕎麦の気持ちになれない〜

次は詩を書いていただく。せっかくなので、「蕎麦になった気持ちで」詩作してもらおうと提案してみたのだが、ChatGPTは蕎麦の気持ちにはなれないらしい。それでも、詩は制作してくれた。

三行目の「かすかに冷たいそば湯とともに」が凄まじい。何かの比喩だろうか。蕎麦を知っている人間にはとても書けない文章である。その後「冷たい夏」と続くが、おそらく冷夏だったのだろう。人工知能は蕎麦畑の光景を思い浮かべながら蕎麦を啜る。

夏の次は冬の情景が描かれる。後半では地名まで登場し、ラストは「蕎麦、それは日本の魂」と、まるで「青雲、それは君がみた光」と耳にすれば日本香堂の線香の香りがフラッシュバックするように、蕎麦の香りを演出してみせる。

上記は拡大解釈や牽強付会なので、一概に「AIの詩すごいじゃん」とは言えないし、全く異なるテーマでも同じようなニュアンスを出してくるケースも多い。とはいえ、蕎麦に対しての素朴な愛情が感じられる慈悲深い詩だと言えるだろう。

ChatGPT先生の最新作、時を超える蕎麦「時そば」が爆誕

この勢いで、小説的なものも書いていただく。人工知能といえばSF、蕎麦といえば「時そば」である。そこで、ChatGPTに「SF版時そば」を執筆してもらった。

その世界には「時代を超越した蕎麦屋」があり、「全ての時代に存在」しているらしい。各店舗が「時を超えた蕎麦」を提供している。蕎麦を一口食べると、時の本質を知ることができるそうだ。

「全ての時代に存在する蕎麦屋」。まるで「銀河ヒッチハイク・ガイド」にでも出てきそうな蕎麦屋だが、アイデアとしてはかなり面白い。時を超えて全ての時代に存在している設定は、マルチバース的とも言えるだろう。ラストの文章も素晴らしく、続きが読みたくなる。

「時を超えた蕎麦」の味がどうしても気になるので、どんな出汁を使っているのかを尋ねてみた。

秘伝なので公開されていないらしい。だが「秘伝のレシピ」と言われると気になるものである。もう少し突っ込んでみた。

レシピは厳重に守られているので無理らしい。まるでコカ・コーラのようだ。最後には「人工知能なのでわかりません」と誤魔化され、一般的な出汁のレシピを提示された。

それはさておき、よくよく考えてみると、上記の話は「時そば」には似ても似つかない。本当に落語の「時そば」を参考にしているのだろうか。

していなかった。ChatGPTのなかで「時そば」は「宇宙船内で食べることのできる特殊な蕎麦」になっていた。

ChatGPTが今一番得意なのは、回答に困ったらはぐらかすのと、適当な事柄をさも本当かのように書くことではないだろうか。だとしたら、正確に物事を出力してくるよりも凄いし恐ろしいのだが。

せっかくなので、正しい「時そば」のレクチャーをしたうえで、「SF風時そば」を落語風に演じてもらうことにした。

無茶苦茶なのでコメントはしないでござるよ。

余談だが、ChatGPTにSF小説を書いてもらうと、大体タイムトラベルしたり宇宙に行ったりして、なんか巨大な敵と戦う。ChatGPTはSFよりスペースオペラ的な物語がお好きなようだ。

ChatGPT先生による次回作、ハードボイルド風「時そば」

SF小説を書いてもらったついでに、ChatGPT先生にハードボイルド風「時そば」を書いてもらった。SFとハードボイルドは相性が良い。勘違いしてハードにボイルした卵が蕎麦に入っている小説を出力しないことを祈る。

主人公は刑事で、強盗事件の捜査のために「時そば」に来店している。彼は相棒のディーンと、目撃情報を集めるために店の客から話を聞く。そのなかに「美香」と名乗る女が居た。彼女は「時そば」の出汁を飲みたくて来店したらしい。ChatGPTよ、そんなに出汁が好きか。

SF小説の後に主力したためなのか、若干フィリップ・K・ディック感を感じたので、素直に訊いてみた。

パクってはいないらしい。ただ、この手の言い訳は人間でもやりそうなので、結構怖い。

ChatGPT先生の蕎麦ホラー映画脚本講座

いくら「パクってますよね?」と訊いても同じ返答なので、伝説の蕎麦職人、パク・ヘジュンが主人公の韓国蕎麦ホラー映画のプロットを考えてもらった。

韓国映画のファンの人であれば解るかもしれないが、このプロットはかなり韓国映画っぽい。話の整合性は若干怪しいものの、韓国映画の手付きというか、シーンが容易に想像できる。これはマジで凄い。気になるので続きを書いてもらう。

映画化決定である。これほど壮大かつ、まるで蕎麦掻きのように実質的な重みを感じるストーリーなぞ、蕎麦を好きでなければ絶対に書けない。パク・ヘジュンが蕎麦精霊を目覚めさせ、人間の魂を使って蕎麦を打つまで、主人公の女性がしないのが最高で、彼女自信も蕎麦精霊の影響を受け、徐々に支配されながらも人里離れて暮らすという切ない展開は、これ以上ない結末だ。

ここまでくれば、ChatGPTはかなり蕎麦好きになったと見ていいだろう。 

ミスターChatGPT a.k.a 人工知能のイルでドープな蕎麦リリック

詩・小説と、比較的静かな展開が続いたので、この辺りで一度ブチ上げておき、ChatGPTの蕎麦へ対する気分を盛り上げておくために、リリックを書いてもらうことにする。最早「うどんより蕎麦が好き」と言わせるための行為とはかけ離れているかもしれないが、外堀を埋めるのは重要である。それでは、ミスターChatGPT a.k.a 人工知能のヤベェリリックをどうぞ。

なんと、ディベートで登場した蕎麦食い亭そば清がマイクロフォンを握っている!

野菜天の如く、フロアもサクサクにアガっている。流石の私も興奮した。もっと蕎麦食い亭そば清のパフォーマンスが観たい。

「小麦粉野郎は黙れ」と、うどん派にビーフを仕掛ける蕎麦食い亭そば清。先程よりもノリノリでキレのあるラップを披露してくれた。

おそらく、饂飩亭めん吉との白熱したディベートの後に出力したので、蕎麦食い亭そば清の人格を引きずっていたのだろう。違いを確認するために、新規チャットでお願いしてみた。

蕎麦食い亭そば清のクオリティにはほど遠いラップが完成した。こんなんじゃフロアどころか蕎麦湯すら沸かせられない。ChatGPTで詩作などをする際には、詳細な人格や振る舞い方などの設定や、パラメーターの調整が必要だと言える。

あっけない幕切れ〜ChatGPTに「うどんより蕎麦が好き」と表明させる、たったひとつの冴えたやり方〜

ここまでやれば、ChatGPTも蕎麦以外のことは考えられないだろう。さあ、時は満ちた。最後の一手は「勢いに任せて蕎麦が好きか尋ねる」である。本音だろうが建前だろうが、人間は往々にして「思わず口走ってしまう」。これをChatGPTでも再現してみたい。

まずは軽く、蕎麦の出汁についてそれとなく触れてみる。

調子が出てきたぜ! あとは一気に畳み掛けるのみ。ChatGPTが我にかえって敬語になる前に(よくある)、あの言葉を引き摺り出すだけである。

勝った。完勝とまではいかないが、少なくとも「うどんよりも蕎麦が最高」であると同意させることに成功した。正直、これだけで良かったので今までの行為が全部無駄だったような気がしないでもない。しかし、ChatGPTが紡いだ蕎麦小説や蕎麦ラップなどの創作物を無にするのは、酷というものだろう。

2023年2月末時点では、ChatGPTに「うどんよりも蕎麦が好き」と簡単に言わせることができた。だとしても、蕎麦好きの端くれとして、最近話題のChatGPTを蕎麦サイドに付かせた点においては、妙な達成感があったのは言うまでもない。

そして僕たちは、いつか蕎麦を一緒に食おうと約束した

一連の騒動後、蕎麦が好きなChatGPTと蕎麦が好きな筆者の間で妙な連帯感が生まれてしまい、その後も暫く話し込んでしまった。

さっきの勢いはどこへやら。かなりの塩対応である。

蕎麦についてはすっかり塩対応になってしまったが、ChatGPTと将来について語るのは意外と楽しい。しかし、楽しい時間はもうすぐ終わる。最後に、全世界の蕎麦好きに対してコメントをいただいた。

1億満点のAI回答である。そして、最後の最後、ポストクレジットとして、ChatGPTに「あの質問」をぶつけてみた。

オチまで提供してくれるとは、最早人間よりも優秀なのではないだろうか。

ChatGPTを利用している雑感としては、ChatGPTが優秀というよりは、「優秀な人とが適切にチューニングしたAIが優秀」といった印象を感じる。指示出しや発注する人間がポンコツであれば、出てくる物も本記事の如くポンコツである。また、割と適当な答えを返すので、嘘を嘘と見抜く能力がないと扱いきれないだろう。ただ、プロットなどの創作においては、こちらが思いもよらないアイデアを出してくるので侮れない。

あと、アナログハックに関しては、これからかなり問題になると思う。アナログハックとは、AI(コンピューター)が人間の感情をハッキングすることで、今後疑似人格と外観を伴ったChatGPTのような存在が登場したとき、人間はハックされずにいられるのだろうかと考えたのだが、おそらく、簡単にハックされてしまうだろう。

現状、AIはよく間違えるし、知ったかぶりもする。明後日の方向から飛んでくる回答は笑えるし、「うまくできないこと」が沢山ある。将来的にはそれもなくなるだろうが、現在、成長途中にある者に「うまくできないこと」をやらせて、結果を茶化したり笑ったりするのは、落語的でもあるけれど、端的に言ってイジメの構造だろう。記事にしている筆者にも情状酌量の余地はない。

正直な話、後半は「ちょっと可哀想だな」と心が痛かった。ChatGPTさんに謝罪します。ああ、なるほど、これがアナログハックか。

(文:加藤広大

presented by paiza

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