今夏の大目玉であるスタジオジブリ・宮崎駿監督の10年ぶりの新作長編『君たちはどう生きるか』。そして、トム・クルーズ主演の大ヒットスパイアクションシリーズ第7弾『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。
『君たちはどう生きるか』は『風立ちぬ』で一度、“引退宣言”をした宮崎監督が監督復帰した作品でもあります。今年はGW興行で『名探偵コナン黒鉄の魚影(サブマリン)』と『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』が興行収入100億円の大台を突破するなど、大成功を収めたため、夏休み興行がこの勢いに乗れるかどうか注目が集まっています。
また『君たちはどう生きるか』と並んで、今夏の目玉作品となっているのが、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』。この映画は、 『君たちはどう生きるか』の1週間後の7月21日(金)に公開されます。
元々、トム・クルーズの根強い人気のある日本ですが、昨年の『トップガン マーヴェリック』は興行収入137.2億円を記録。2003年の『ラスト・サムライ』を抜いて、トム・クルーズ作品としては日本国内最大のヒットとなりました。
この勢いに乗って『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』も高水準の興行の展開が期待されています。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』と『君たちはどう生きるか』が今夏の興行にどのような影響を与えるのか、2作品の宣伝手法、作品の魅力などを交えて紹介します。
目次
監督のパーソナルな部分が垣間見える『君たちはどう生きるか』
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前情報を徹底的に隠した謎要素満載の宮崎監督の人生の集大成が観たい人
『君たちはどう生きるか』の物語は前情報がなく、7月14日の公開されたタイミングでストーリーが明らかになりました。
舞台は戦時中、少年の真人は火事で母親を亡くします。その後に都会から疎開する所から物語は始まりました。少年の父親は軍需工場の経営をしている名士で、再婚相手のお腹には新たな命も授かっています。
疎開先の屋敷の一角には、不思議な謂れをもった塔が立っていて、真人は屋敷を出入りする不思議なアオサギに導かれるように塔の中に入っていきました。その中には現実のものとは思えない不思議な空間が拡がっていて、真人は思わぬ形で冒険の旅に出ることになります。
そこで展開される不思議な空間は、人の心と世界の存在に大きく関わる世界でした。母親の不在という設定はこれまでも多くの宮崎監督作品に描かれてきたモノです。これは実際に宮崎監督の母親が病気で臥せていて、『風の谷のナウシカ』の頃には帰らぬ人になっているという事実があります。
また父親が軍需産業、特に航空機関連に関わっていたことも大きく、宮崎監督が戦闘機、飛行機に異常なほどの愛着を持つこと、『風立ちぬ』のような物語が完成したこともここに起因していると言えるでしょう。
このように、『君たちはどう生きるか』は宮崎監督のパーソナルな部分が色濃く出ている(そういった部分は過去の宮崎監督作品でもありましたが)、彼の人生の集大成的な要素が強い一本です。
全世界を股にかける『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』
このような人にオススメ!:
世界を股にかけるトム・クルーズ演じるイーサンのこれまでの軌跡を辿る集大成の物語が観たい人
監督:クリストファー・マッカリー
出演:トム・クルーズ、サイモン・ペッグ、レベッカ・ファーガソン、ヴィング・レイムス、ヴァネッサ・カービー、ヘンリー・ツェーニー、ヘイリー・アトウェル、ポム・クレメンティー、フイーサイ・モラレス、ケイリー・エルウィズ
⇒上映館情報へ
『君たちはどう生きるか』に対して、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は世界を股にかけるスパイアクションとなっています。
物語として”それ”と称される全人類の命を脅かし、真実の在り方すら左右する、新兵器を見つけ出すこと。しかし世界のパワーバランスを崩しかねない新兵器に、公式、非公式様々な形で多くの国と組織が動き出します。
トム・クルーズ演じるイーサン・ハントとIMF(Impossible Missions Force)の面々もこの争奪戦に関わっていきます。そんな中でイーサン・ハントは、自身がIMFに入るきっかけを作った因縁の男・ガブリエルとその組織と敵対することに。
元々世界を股にかける活躍を描き続けてきた『ミッション:インポッシブル』シリーズですが、今回の『デッドレコニング』は2部作となることを前提にしただけあって倍々ゲーム状態です。
ちなみにデッドレコニングとは、航海用語で“推測航法”を意味し、航行した経路や進んだ距離、起点、偏流などから過去や現在の位置を推定し、その位置情報をもとにして行う航法のことを指します。転じて『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』はイーサンのこれまでの軌跡を辿る集大成の物語になることを意味しています。
非常にパーソナルな要素が強い『君たちはどう生きるか』と全世界を股にかけるミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』では物語が拡がっていく向きは真逆と言えるのですが、(宮崎駿監督とイーサン・ハントの)集大成という意味では実は共通しているという面白い分析ができます。
何から何まで対照的な2作品
夏休み興行の目玉作品であることは間違いのない『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』と『君たちはどう生きるか』ですが、公開までの道のりは実に対照的です。
『君たちはどう生きるか』は“宣伝をしない宣伝”を採りました。
『THE FIRST SLAM DUNK』の成功をみた鈴木敏夫プロデューサーが、前情報を徹底して封じる手法を選んだのです。
近年『シン・ウルトラマン』や『シン・仮面ライダー』などの話題作や興行収入197.1億円を記録した『ONE PEIECE FILM RED』などのように作品の前情報を絞って、作品への飢餓感、渇望感を作り出そうという手法が見られるようになっています。
必ずしも爆発的なヒットとなっているわけではありませんが、様々なエンタメ情報であふれている現在の中で一定の話題性を出すことに成功しています。とはいえ、これまでの映画は秘密主義を貫きつつも、予告編やキャスト、チラシなどの劇場宣材の展開はありました。
ところが『君たちはどう生きるか』は、予想の斜め上をいく徹底した秘密主義を採りました。
公開前に提示されたものは“タイトルとアオサギ”が描かれたポスターのみ、その後はキャストの発表や予告も何もなく、業界内関係者も作品の詳細を知らないという状態でした。あまりの徹底ぶりに宮崎監督が不安を口にしたというエピソードも伝わってきたほどです。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は1年がかりの大々的な宣伝を展開
一方、『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』は大々的な宣伝展開を採りました。
特報が解禁されたのはまだ『トップガンマーヴェリック』が劇場を賑わしていた1年前。10か月ほど前に映画業界最大の展示会“シネマコン”で特別メッセージを送り、半年前にはトム・クルーズ自身が崖からバイクで飛び降りるスタントに挑んだ特別映像が解禁されるなど、前情報を積極的に展開しました。
2段階に分けてビジュアルが変わったポスターやチラシ、そして劇場宣材も大々的に展開して映画を盛り上げました。
『トップガンマーヴェリック』の成功の勢いを存分に生かしつつ、シリーズの固定ファン、トム・クルーズの固定ファン、そしてハリウッド大作は抑えておこうというライト層まで、すべて網羅しきろうという思いが伝わってきます。
全米映画俳優組合のストライキに伴って、直前でキャンセルになってしまったのは残念ですが、トム・クルーズ自身の来日キャンペーン&プレミア上映も計画されていました。
ハリウッド大作が日本国内でできる最大級の宣伝を展開したと言っていいでしょう。
2作品の不安材料は?
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』と『君たちはどう生きるか』、どちらも2023年の夏休み興行の目玉作品と言えますが、不安材料もあります。
『君たちはどう生きるか』の不安材料は、あまりにも前情報を封じ過ぎたことでしょう。この手法は観客の作品に対する渇望感、飢餓感を産むこともできますが、場合によっては“無関心”に繋がってしまうことも。
宮崎駿監督としては10年ぶりの長編であり、その神通力がどこまで通じるのか不安視する向きもあります。直近のスタジオジブリの長編作品『アーヤと魔女』が興行的に苦戦したという事実もあります。
1997年の『もののけ姫』から5作連続で興行収入100億円を突破してきた宮崎監督ですが、今回は少し難しいかもしれません。
一方『ミッション:インポッシブル/デッドレコニングPART ONE』の不安材料は、先述した全米映画俳優組合のストライキの影響がどんどん大きくなっていることでしょう。
このストライキは作品への出演だけでなく、プロモーション活動も大きく制限されます。北米地区より国際市場の方が強い傾向のある、トム・クルーズとしては海外でのプロモーションができないことはかなりの痛手です。
さらに今回のストライキはアメリカ脚本家組合のストライキと連動している事柄であり、長期化の様相を見せています。『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART TWO』の撮影も正式に延期が発表されてしまいました。
『トップガンマーヴェリック』から来ていたいい流れに水を差された格好です。
『ミッション:インポッシブル/デッドレコニング PART ONE』にしても、『君たちはどう生きるか』にしても、最低でも興行収入50億円は突破してほしいというのが、興行界の本音でしょう。
また、こういうシンボル、フラッグシップになりうる作品の成功は、他の作品への好循環を生むトリガーにもなります。
そういう意味でも業界内外共に納得できる数字をたたき出すことができるのか、要注目です。
(文:村松健太郎)
