キャリア形成の過程には必ず「学び」がある。ビジネス環境や技術がめまぐるしく変化する現在、すべてのレイヤーでマインドやスキルは常にアップデートを求められているためだ。経営者やリーダーにとっては、チームの中で学びを奨励し、楽しむカルチャーの醸成が、事業の成長にとって重要なファクターになっている。

では、私たちはいかに「学び」と親しむべきか。今回は「学ぶ喜びをすべての人へ」をミッションに掲げ、継続的な学習とモチベーション維持を支援するプロダクト「Studyplus」を提供する、スタディプラス株式会社(以下、スタディプラス)の代表取締役 廣瀬高志さんを取材。ビジネスパーソンとして、そして経営者として心に持つ仕事の流儀を聞いた。

廣瀬 高志氏 スタディプラス代表取締役
1987年生まれ。私立桐朋高校卒業。慶應義塾大学法学部在学中の2010年3 月、ネットプライスドットコム(現BEENOS)主催ビジネスコンテストに優勝。同年5月、スタディプラス株式会社を創業、代表取締役に就任。

学ぶことは変わること、書くことは考えること


そもそもの問いとして、私たちはなぜ「学ぶ」のだろうか。よりよい就職や転職をするため、より高い収入を得るため、アイデアを実現するため。思い浮かべる限り、百人百様の動機がある。学習にフォーカスしたサービスを提供する企業の創業代表である廣瀬さんは、学びをどのように定義しているのか。率直な質問を投げかけた。

「私の座右の銘であり、社内でも伝えているのが『学ぶことは変わること』。なにかを学ぶということは、今ある状態からよりよくしていきたいというマインドが根底にあります。変化を恐れず、柔軟であることで私たちは成長していくと考えています。

そういったマインドは、素直な心から生まれます。歳をとるごとに、私たちは変化を恐れるようになります。しかし、それでは成長もせず、楽しくないと思うんです。だからこそ変化を恐れずに学ぶことを楽しんでいきたい。これは自分自身でも常に心がけていることで、社内のメンバーにも持ち続けてほしいマインドです」

変化を恐れるようになったら、私たちの成長は止まる。しかし、同社が提供するプロダクト「Studyplus」がそうであるように、学習を継続することやモチベーションを維持し続けることは難しい。学習は主体的であるからこそ身につくもの。最後には、本人の意思と行動に帰結する。

「たとえば、ビジネス書を読んだとしても、読んだままで行動に移せていないこともあると思います。やはりインプットしたからには、アウトプットがなければ意味がない。本を読んでいいと思うことがあれば即実践することが重要です」

学んだことや影響を受けたことをすぐに行動に移すことで、自分に取り入れていく。これこそ『変わること』であり、その変化のスピードや変化量の大きさというものが『素直さ』であると廣瀬さんは説明する。インプットはすなわち記憶することであるが、アウトプットはいわば「血肉化」ともいえるだろう。思考のままに留めておけば忘却するが、行動に移せば習慣となる。

一方で、思考を言語化することも行動といえるだろう。そのときどきの影響を受けたことや学んだことを整理し、言葉に落とし込んでいく過程にもまた気づきと学びがある。

「『学ぶことは変わること』だとすれば、『書くことは考えること』だと考えています。たとえば当社では、ミーティングの際には必ず議事録を作成するようにしています。これは社内で共有することだけが目的ではなく、一つのミーティングであっても言語化、資料化をする過程の中で気づきがあることもあります。作成者の学びとしても効果があるんです。

私個人でも、日誌を10年以上書き続けています。定期的に振り返ると、当時とあまり変わらないことで悩んでいたり、今も大事にしている価値観に気づかされたりします。反対に今とはまったく違う自分とも出会うこともある。また、書く過程で自分は今なにが考えられていて、これからなにを考えていくべきなのかということを思いつくことも多いので、思考の深化につながります」

本質を見極めブレない。最初の一歩は自分で踏み出す


学びとアウトプット、そして思考の整理としての書くという行為、それらは「Studyplus」の提供するサービスにも色濃く反映されている。学習記録を残すこともある意味では書く行為であり、自身の学習の進捗を管理し、現状を見定めることにつながる。

また、プロダクト内にあるSNS機能もまた思考の整理と同時にアウトプットである。加えて自身と同じ目標を持つ学習者とつながり、互いにモチベーションを高めることにも役立つ。累計会員登録者が800万人超のプロダクトへと成長したのは、学習者の利便性を第一に考えたサービス設計が所以だ。

「教育とは誰のためにあるのか。この問いの答えは当然、教育者ではなく学習者です。そして、教育は手段であって、本当の目的は一人ひとりの学習が達成されることにあります。

そうであるならば、教育は学習の支援であり、学習者の課題を解決することであるといえます。こういった思考から生まれたのが『Studyplus』であり、私たちが解決するのは学習者にとっての一番の課題である学習の継続です。

『本質を見極める』。私が社内でも口癖のように言っていて、事業の意思決定で大事にしていることです。物事において最も重要なことはなにかを常に意識すると、意思決定を間違えることも少なく、無駄を省けてスピードも上がります」

実際、本質を見定めているからこそ素早い方向転換をおこなってきた。同社は2011年3月に「Studyplus」の前進となる「studylog」をリリースしたが、数ヶ月後にはすでに「Studyplus」へのピボットに動き出していた。ユーザーの声を聞き、より本質的な課題解決ができるサービスの方向性が見えてきたからこそ、迷わずプロダクトをつくり直すことを決断した。

「私たちは決してスマートフォンやSNSがブームだから事業を始めたわけではありません。そもそもの問いと、そもそものソリューションが正しいからこそ、私たちの『Studyplus』は受験生の約50%にご活用いただけるプロダクトに成長したと思っています。事業の軸ともなる本質を見定め、そこにブレを生じさせない思考は現在も重視しています」

事業の軸を見極めて、ブレない経営を貫く。同社のサービス群は学習者を支援する「Studyplus」、学習塾や教育機関による学習支援をサポートする「Studyplus for School」で構成される。

しかし中心にあるのは「Studyplus」であり、事業としての広がりを見せながらも、最終的な利便性は学習者に還元される仕組みになっているのが特徴だ。

「スタディプラスは2010年に起業していますが、そのきっかけになったのが同年に出場したビジネスコンテストでした。そこで出したプランは、学習を継続できるソフトウェアを持った家庭教師会社というものでした。起業から13年が経った現在も『学習の継続』という一つのコンセプトを貫いているので、スタートアップとしては珍しいかもしれません。

ただ、このように『一貫性を大切にする』ことはとても重要だと考えています。私たちは学習の継続という、教育にとって一丁目一番地の課題に取り組み続けてきた。この一貫性が信頼につながり、私たちの競合優位性になっているとも思います」

一つの課題に誠実に取り組み続けてきたからこそ、ユーザーに支持される。そして、信頼が生まれたことが、教育機関や学習塾、出版社との連携を生む。しかし、事業として一貫性を持つということは、経営者自身の姿勢の表れでもある。

「とくに新しい事業や取り組みを始めるときは一番不確実性が高く、リーダーシップが求められると思います。スタート時に踏み出す向きを誤れば、その後も間違った方向に進んでいってしまう。だからこそ、私は経営者として、あるいは起業家としても『最初の一歩は自分で踏み出す』ことを意識しています。誰だって最初の一歩目は怖いんです。ならば自分が責任を持って踏み出して、進むべき方向を示していく。最初の一歩目をクリアしてしまえば、あとは自然な流れで歩み出してくれますから」

創業経営者として「Whyを語り、体現する」


2010年の創業以来、「学習の継続」にフォーカスして事業をおこなってきたスタディプラス。その一貫性は学習者から大きな支持を集め、現在は他の追随を許さないサービスへと成長している。

ただ、同社の創業期にはまだ、日本においてEdTechという言葉に馴染みが薄く、競合するサービスもない状態だった。その過程には多くの困難があっただろう。未開へと挑戦する経営者としてのマインドを、廣瀬さんはいかに培ったのか。

「本当に経営者としてのマインドが培われたのは、やはり起業したあとではないかと思っています。起業当時、私はまだ23歳で大学生でした。そこから事業をはじめてみると、本当にいろいろなことが起こります。『自分自身が成長していかないと、会社も大きくならない』と日々思いながら試行錯誤する中で、ある程度身についた部分があると思います。

起業当時から大事にしているのは『独自性の高さを追求する』ことです。ただ、目指しているのは単に人と違うことをすることではなくて、本質を求めた上で辿り着いた事業が、結果として独自性が高いものになること。そのためには外的な要因に目や耳を傾けることも重要ですが、私たちとしてのスタンスを貫くことも必要だと考えています」

廣瀬さんが語る言葉には、スタートアップにおけるプロダクト開発のあり方のヒントがあるように感じた。事業の独自性、競合優位性は重要なファクターだが、それは事業の目的にはならない。先行すべきは「本質への問いの深さ」であり、研ぎ澄まされた答えから導き出されるのが独自性であり、それが競合優位性の源泉となる。それを体現するのが「Studyplus」および同社だ。

サービス、会社ともに規模が拡大する現在、廣瀬さんは経営者としてどのようなことを重視しているのだろうか。率直な思いを聞いた。

『Whyを語り、体現する』ことですね。これは経営者であり、創業者である私だからこそできることであり、一番やるべきことだと思っています。『なぜこの会社やプロダクトをつくったのか』は私がしっかりと社内外で語っていく必要があると思っています。しかし、口だけではなくて、私自身が当社のミッション『学ぶ喜びをすべての人へ』を体現することが信頼につながり、説得力も上がります。

当然、会社として売上や利益を求めていくことも重要です。しかしサービスの規模が大きくなるごとに思考が方法論に寄ってしまう傾向にあります。そういった際に私がしっかりとWhyを語っていき、自分自身でも会社があるべき姿を体現していく。そうすることで、企業として、サービスとしてのバランスが取れていくと思っています」

(取材/文/撮影:川島大雅

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