「楽市楽座」は、戦国武将がおこなった行政・財政に関する改革だ。とくに織田信長の功績が有名で、関所を廃止したり税金を免除したりするなどした結果、支配地域の政治・経済が好転した。

今日の日本でも行財政改革の流れが進んでいる。2023年10月11日には「第1回デジタル行財政改革会議」が開催された。デジタルを活用した公共サービスの提供、デジタル活用を阻害する規制・制度の改革、予算の見える化による事業・基金の見直しを柱とすることが確認されている。

これらの改革で日本が抱える課題をどのように解決できるか、自由民主党デジタル社会推進本部 事務総長・小林史明衆議院議員と、落合孝文プロトタイプ政策研究所所長の対談をおこなった。

令和の楽市楽座がどのようにおこなわれるのか、二人の会話をお届けする。

プロトタイプ政策研究所がデジタル行財政改革に提言したこと

ーープロトタイプ政策研究所としてデジタル行財政改革について提言されたものはありますか。

落合所長:小林先生に、労働市場についてご相談したことがあります。直近では統計に対する提言をご相談しました。もともと統計に課題があるという話は小林先生からも教えて頂いておりまして、それも踏まえて議論させていただいた経緯がありました。

統計情報としては、たとえば5年に1度くらいの頻度でおこなわれる国勢調査が挙げられます。また省庁ごとに、業界・産業や一定の活動の数字をまとめているものがあり、e-stat総務省統計局のHPなどでも多くのデータも公表されていますが、厚生労働省の雇用動向調査経済産業省の経済センサスー活動調査など様々な統計があります。

 

小林議員:ちなみに「先生」ではなく「さん」と呼んでいただくほうがありがたいです(笑)

 

落合所長:わかりました(笑)

小林さんは自民党でデジタル行財政改革を取りまとめされていて、デジタル庁でも、党としても、行政改革に取り組まれていました。そこではデータを活用したり、政府の中で役割を見直そうという整理をされていたのではないでしょうか。

データ活用の際には、個人情報だけでなく、統計の基礎になる情報なども含めて、政府として適切に使えるようにルールを整備していかないといけません。ただ、政府の方々もどう扱ってよいのかわからずにいることもあるので、データを使うためのルール整備などの提案をしました。

「デジタル行財政改革会議」の注目ポイント・早急に取り組むべきポイント

ーー小林さんにお伺いします。2023年10月から始まった「デジタル行財政改革会議」で注目されているポイント・早急に取り組まないといけないとお考えになるポイントはございますか。

小林議員:背景を少し話します。

自民党のデジタル社会推進本部が毎年提言している「デジタル ニッポン」という提言に、今年はこの行財政改革の要素を入れました。個人的には“デジタル”はつけなくてもよかったのではないかと思っていて、それは、この改革でやるべきことは、国と地方の権限の見直しだからです。

日本の人口がこれから減少していく中で、それでも成長できる国にしたいんです。そしてそこで生きていく私たち国民が、自由に活動してより意欲と能力を発揮できる国にする。そのために、徹底的にテクノロジーを社会実装して、多様でフェアな社会をつくることが、私のミッションだと思って取り組んできました。

多くの国民がそうした社会をつくる意欲や能力を削いでいるのは、規制だと認識しています。ですので、落合さんといろいろな場面で、徹底的に規制改革をやっていきたいんですよ。

そこで持った問題意識の1つは、規制が多くて変革の速度が遅いことでした。

毎年、政府は数十個の規制改革を進めているのですが、それだけでは、テクノロジーの進展や個人のライフスタイルの変化に対して、この国の変革がまったく間に合わないんですね。これをどうやったら10倍、100倍早くできるかというのが1つ目の問題意識です。そこで、この改革のやり方にイノベーションが必要だと思ったわけです。

ーー次のポイントは。

小林議員:2つ目は、規制もそうだけれども、体制や仕組みづくりで直さなければならないものがあるのでは、ということです。

とくに強く感じたのは、新型コロナウイルスのワクチン担当大臣の補佐官をしていたときに、ワクチン接種事業をいかに早く進めるか考えていたときのことです。

コロナ禍で、保健所からの感染者の数が正確にわからない問題が起こりました。市町村、都道府県、それぞれの権限が入り組んで、情報が集まらないんです。

データが共有できない、必要な業務を執行しきれていないなどのケースがあることが明確にわかりました。さまざまな事業に携わる人々が活動する土台となるインフラや制度、そして国と地方のガバナンス、さらに組織や人材のアセットの3点が古くなっていて、時代に合わないんですね。

この3つを直さない限り、どんなに上のレイヤーを改善しても、結局皆さんが活動しづらい状況になることを問題意識として持っています。

そこで、実は「デジタル臨時行政調査会」(「デジタル行財政改革会議」に2023年10月に整理集約)という場で、アナログな手段に限定したルールの特定をし、それを解除し始めました。これによって、今年から来年にかけて、この国の4万のルールから1万条項のアナログな手段が指定されたルールのルールがなくなることになります。

これは画期的なことで、歴代の政権でも岸田政権が最も多くの規制改革をやることになります。

規制改革が年間数十から数千に増えるわけですから、まさに100倍のスピードで進むようになりました。

残っている課題はガバナンスです。「デジタル行財政改革会議」では、国と地方でバラバラにやっている業務を、できれば国と地方一体になって、共通で業務をやる。場合によっては、もう自治体が手放したいと思っている仕事を国が引き受けていく。このような改革を進めたいと思っています。

ーーお話を伺ってデジタルと非デジタルの両輪がしっかり進んでいかないといけない、という印象を持ちました。小林さんはどのようにお考えでしょうか。

小林議員:その通りですね。DXという言葉の認識は広がりましたが、肝になるのは前にある「D」ではなく、うしろ側の「X(トランスフォーメーション)」だと思っています。

デジタルは、あくまで変革に便利なツールです。それでは何を変革する必要があるのかというと、それは制度や、組織を縛ってる慣習になります。これを見直さない限り、デジタルを採り入れようとしても、それが阻まれたり、非効率なやり方をデジタル化したりするだけになってしまいます。本質的な生産性向上や組織の変革にはならないのです。

自民党の青年局長を4年前に務めました。そこでは全国約1,300人の地方議員や、20万人の45歳以下の党員とのコミュニケーションにデジタルツールを取り入れ、組織をフラットにしました。それによって、立場に関わらず意見を言うことができるように、また、情報が現場と行き来しやすくなり、それまでの上位下達型の組織からフラットで意思決定、実戦が早い組織に変革しました。

こうした成功体験をメンバーが持つことによって、組織自体が活性化し、さらにアイデアが生まれ、そして組織自体の生産性が高まっていく経験をしました。

その点も含め、DXの本質は組織の変革である、と考えます。そのためには情報をいかにリアルタイムかつフェアに共有していけるか。そのときにデジタルが便利であるという考え方が良いのではないかと思ってます。

「デジタル臨調」から「デジタル行財政改革会議」への移行における進捗やこれからの見込み

ーー政府では「デジタル臨時行政調査会」を廃止し、「デジタル行財政改革会議」が発足しました。これまでの成果と、この進展で何が見込まれるようになるのでしょうか。

小林議員:今回デジタル行財政改革でやろうとしている、国と地方のガバナンスの見直しは、もともと「デジタル臨時行政調査会」の後半戦でやろうと思っていたことだったんですね。それは引き続き「デジタル行財政改革会議」で引き継いでやっていくことになると考えています。

デジタル規制改革のこれまでの取り組みとして最も大きな進捗は、やはりアナログ規制の改革でしょう。今年・来年で約1万条項。そのうち法改正が必要なものは、基本的に2023年春の通常国会で法改正をできました。

残りは規制に関わる通知・通達のガイドラインで示されているものや政省令(政令と省令。法律を補足するために制定される)で、法改正はいらないものになっています。これを今年中に約千数百対応し、残りは来年中にすべて対応が完了する予定です。

ーー対応が終わることでどのような変化が生まれますか。

小林議員:これはぜひ、ビジネスパーソンの皆さんには注目していただきたいと思っています。なぜかというと、ルールが変わるときはビジネスチャンスが訪れるからなんですね。

2020年に取り組んだ押印の廃止をおこなって以来、この3年間で電子契約のマーケットは4倍に成長しています。たった1つのルールが変わることで、マーケットが4倍に成長してるんですよ。

これから1万条項ものルールが変わると、あらゆる分野でビジネスチャンスが訪れるでしょう。とくに目視で点検するようなルールは、4万あるアナログ規制の中に2000条項も見つかっています。

今まで、人が現場に出向いて目で見て確認・判断をしていた仕事が、ドローンやセンサー・遠隔のカメラや衛星画像などで判断できるようになります。新しいテクノロジーをどんどん人手不足の現場に導入できるようになるんです。

これはビジネスチャンスになります。今から先取りして、準備して新しいソリューションを生み出していただきたいなと思ってますね。

ルールメイキング研究会のこれから

ーープロトタイプ政策研究所の声がけで、日本の規制改革を進める研究会「ルールメイキング研究会」を2022年末に発足させました。ここまでの振り返りと、これからどうなっていくかの見通しを教えてください。

落合所長:「規制改革推進会議」での議論をしている中で、小林さんや政治家の方からも助けていただいたことがありました。一方で、規制改革の議論をしていると、どうしても政治のプロセスで議論が止まってしまうことがあります。

内容を詰めていても、どういうことを議論しているのか十分に理解してもらえないケースがあります。そうすると、なかなか進めていいというコンセンサスが得られにくくなることがあります。

原因としては、民間側と政治家の方々とのコミュニケーションが十分にされていないことがあると思っていました。互いに協力できるように持って行けていなかったのです。

規制改革の議論の内容を共有することや、政治家の先生方と民間の規制改革を進めたいと思う人たちが対話をしたり、お互いに協力し合えるような場をつくっていきたいと感じました。これは新しく何か規制に関する議論を進めるときに、必要なインフラになるのでは、と思っています。

 

小林議員:「ルールメイキング研究会」は、この国の法改正や法制度設計のプロセスを真に民主化するプロジェクトとして、私から立ち上げを提案させてもらいました。

あるルールをつくる際に、そのルールで生きる当事者たちが本当に関われているだろうか。そのルールは本当にその人たちのためになっているだろうか。という点について強い問題意識を持っています。

社会の問題が多様化しているのに、政治行政という限られた分野の人たちだけでルールをつくっていくのは、ちょっと無理があると思うんです。もっと多様な人たちの目線やアイデアを取り込んでつくったほうが、誰にとってもフェアなルールになるはずではないでしょうか。

まず、そのプロセスをわかりやすく共有していく必要があるので、この研究会をつくって、

  • そもそも規制改革はどういうプロセスでおこなわれているのか
  • 規制改革のタイミングは
  • どのようにアイデアを出すと受け入れられやすいのか

ということを多くの皆さんに共有し、企業の皆さんにはそこに関心を持っていただけたら、と思っています。

小林議員:自分が関わる特定の分野の規制改革に関心が高い人は多いのですが、別の分野での規制改革には関心がない、というケースは多いんです。

それでは、規制改革全体としての大きなエネルギーにならないんですね。幅広く関心を持っていただくことで、さきほど落合さんが言った規制改革を推進するエネルギーもつくっていくことになると思って、この「ルールメイキング研究会」を幅広い方に参加いただけるようにやっています。

さきほどの「デジタル臨時行政調査会」の取り組みもここの考え方につながってまして、アナログ規制改革とともに、RegTechコンソーシアムを立ち上げています。

まず、アナログ規制の改革をやる上で新しい技術が必要になります。そこで、課題解決の技術を持っている事業者を幅広く募集するんです。

こんなアイデアがあるのだ。こんな新しい技術が使えるのだということをどんどん提案していただいて、この規制改革を技術のアイデアによって広げていく活動をしているんですね。

あとは、法律そのものをデジタル化できないか、と検討しています。

法律は、Aという行為をしたらBという判定を下す、というプログラミングに近い構造で書かれています。ですから、法律そのものをプログラム言語のように扱えるようになってくると、AIが一般の人にもわかりやすい言葉で法律を解説してくれるとか、特定の業界に特化した問い合わせが可能になるんですね。

一見、専門用語で特化しすぎててわかりづらいものを、デジタルを使って多くの皆さんが理解しやすいようにできるんです。そうすれば、やっぱりここがおかしいんじゃないかと問題意識を持てますし、こう変えたほうがいいんじゃないかと提案ができるようになります。

そういう理想があって、ルールメイキング研究会などを通して、みんなで制度を考えられる「民主化」に私たちは進んでいます。

行財政のDXで民間の活性化を目指す

官の立場である小林議員と民の立場である落合所長の対談で、民間の活性化を促す規制撤廃の動きが盛んになる予感を感じられた。これを受けて、民間企業や民間人としての私たちはどのようなアクションを採ればよいか、考えたいところだ。

後編に続きます)

(取材・文:奥野大児 / 撮影:つるたま

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