筆者が編集者のキャリアを歩み始めたのは、ライターとして文章を執筆していたときに友人から「言葉を大切にしているから編集者に向いてそう」と言われたことがきっかけだ。現在もライターとして文章を執筆する場合もあるが、仕事のほとんどが文章の編集となった。

今回は、筆者がライターさんの原稿を編集する際に、気をつけていることを書いていこうと思う。編集者といっても、個人によって色は違うため、あくまで個人的な意見だと捉えていただけるとありがたい。

1.赤入れはよりよい文章を作るために実施するもの

編集者になる前はライターとして文章を書いていた。筆者が頭を悩ませながらようやくの思いで書けた原稿に編集者さんからの赤入れが入るたびに、とてつもなく責められているような気がしていた。

淡々と続く赤入れに、有無を言わさず修正を加える。書けば書くほどに、赤入れを目にすればするほどに文章自体が嫌いになりそうになった。しかし、筆者が編集者として、原稿に赤入れをするようになって、ようやく編集者さんの気持ちがわかったのだ。

編集者は、原稿をより良いものにするために存在する。編集者の赤入れは、ライターさんを責めているわけではない。ライターが虫の目なら編集者は外から俯瞰してみる鳥の目だ。虫と鳥、両者の目を持ち寄って、より良いものを世に送り出す。ときには言葉が足りない人もいるかもしれないが、それもすべてより良いものを世に出すためだと考えていただけると幸いだ。

2.全体を読んだ所感を伝える

編集者は、ライターさんが書いた原稿の最初の読者だ。ほとんどの編集者が原稿を編集する前にまずひと通り文章を読んでいるはずである。公開した原稿に対して、読者が無反応だった場合はこの世に存在しなかったも同然で、世の中に存在したという証を残すために必ず全体を読んだ所感を伝える。

ライターさんに所感を伝える際は、どのような気持ちになったかを具体的に伝え、原稿が世に出た際に読んだ読者がどのように行動が変化するかを記載する。その後、フィードバックの文言を作成し、ライターさんに共有するという手順だ。

3.相手の良いところを褒める

文章をフィードバックする際に、気を付けていることはいかに相手の良さを見つけるかである。叱責や罵倒で成長する人間はほとんどいない。それよりも褒めてもらえた方が、1人の人間として認められているような気がするし、頑張ろうという気持ちが芽生えるのではないだろうか。

加えて、時間をかけて原稿を執筆した事実に対する感謝の気持ちをセットで伝えることで、相手の努力を無碍にしていないことが伝わるのではないかと考えている。
もちろん改善すべきポイントはきちんと伝えるが、あくまで文章に焦点を合わせて伝えるようにしている。相手の人間性は文章とは関係ないため、一切触れなくていい。

自分がされて嫌なことは相手にもしない。そのため、自分がされて嬉しいことを相手にしたいと思っている。ライターさんの文章を読んだ際に、良いと思ったところは素直に伝える編集者であり続けたいし、改善すべき箇所は妥協せずにきちんと伝えたい。そして、互いに心地よい関係性を築き、ふたりで協力してより良いものを世に送り出していきたい。

4.編集箇所には意図がある

編集者の編集にはすべて意図がある。意図を答えられずにこっちの方が良さそうと雰囲気で編集をしているわけではない。意図なき編集にライターさんが納得できるわけがないし、それは失礼にあたる行為だと筆者は考えている。

もしも編集箇所が納得できない場合は、編集者さんに意図を尋ねると、きちんと理由が返ってくるはずだ。もしも意図がないまま編集をしていたとするならば、伝え方に気を付ける必要はあるが、ライター側が自身の意図を主張すべきだと筆者は考えている。

5.伝えたい言葉を見出しに置く

どの段落の見出しにも、本文のなかで必ず一番伝えたい言葉を載せる。これまでに多くの原稿を読んできて思うのは、見出しで損をしている記事が多いということだ。

見出しの内容と文章が合っていない場合は言うまでもなくアウトなのだが、良い話が書かれているのにもかかわらず、それに見合わない見出しがあった場合は、非常にもったいないと感じる。

かといって見出しは、盛りすぎると文章との差に読者ががっかりしてしまう危険性もある。だからこそ、見出しは本文と一致させる。そして、一番伝えたい言葉を持って来るべきだと考えている。たかが見出し、されど見出し。それが読まれるポイントになるのであれば、あらゆるパターンを吟味する価値は十分にあるはずだ。

6.行間は適度に開ける

行間を詰めすぎていると読みにくいし、行間が空きすぎていても読みにくい。読みやすい文章はここで欲しかったという場所に適切な行間が入れられている。基本的に文字数が4行を超えた段階で改行を入れるようにすれば読みづらさを感じない場合が多い。

例外もあって、文章のリズム的にここは一気に読んでもらいたいと思った際は、あえて改行せずに文章を整える場合もある。なかには文章が4行以上になっても、読みづらさをまったく感じさせないライターさんもいるが、そのレベルに到達するのは割と難易度が高い。

文章の向こうには読者がいる。その意識を忘れずに、適宜改行を入れ、読みやすい文章を書くことを心がけることが大切だ。

7.最後はきちんと締める

物語の途中まではあまり面白くなかった小説や漫画のラストに感動して泣いてしまった覚えはあるだろうか。逆に途中まで面白かったとしても、結末がくだらなければ、それはくだらない作品だと評価される。

「終わりよければすべて良し」という言葉があるように、最後の一文がきちんと締まっていれば、それだけで許される世界があるのかもしれない。なんて甘い言葉を信じているわけではないが、締めの文によって、途中までの良い評価が一気に覆る場合もあるのだ。そう思ってしまうほどに締めの文は大切だ。

長々と書いたが、編集者はライターの敵ではなく、同じ方向に向かって進む同志である。時には厳しい意見を言われる場合もあるかもしれない。でも、それは良いものを作りたいからこそ伝える意見であり、決してライターさんを責めたいわけではないのだ。

文章を書いてくださるライターさんがいるから、編集者としての仕事が成り立つ。逆も然りで、どちらかが欠けてしまった瞬間に、良いものを生み出せる可能性がグンと減るということだ。どの仕事にも通ずるが、チームとして機能するためには、お互いの歩み寄りが何よりも大切なんだと思う。

(文:サトウリョウタ)

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