起業家にどんなイメージがありますか?遠隔作業支援システム SynchroAZを製品化した武井 理さんは「街のでんきやさん」の二代目としてキャリアをスタート。その後参入した再生エネルギー発電事業の経験から太陽光発電監視システム ひだまりeyesを開発、さらには本システムのリリースと、現場密着型ソリューションを次々に生み出すIT起業家です。

そんな武井さんご自身にはプログラミングスキルがありません。社長はコードが書けず社員は数名。このコンパクトな体制でいかにして利益を生み出しユーザーに喜ばれるシステムを開発・維持しているのか?そのビジネスの流儀に迫りました。

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Rule1:やらないことを決めて意思決定にリソースを集中

いちばん時間を使っていることは意思決定です。意思決定にリソースを集中しています。とはいえ時間で評価してどれだけ長く時間を使ったのかを競うのも意味がないことで、どれだけ多くの価値を提供するかにコミットしています。意思決定はハードで大変ですから、脳のリソースを消費しますよね。でも私は意思決定が楽しいです。ゼロイチが好きなのです。

 

自分が好きでやりたいことにリソースを集中するため、やらないことを決めています。たとえば、物理的な移動を伴う営業活動はしません。相手に「来て欲しい」と言われても断ります。時間を奪うものはすべて、遠ざけるようにしているんです。

 

また目先の利益の追求もしないと決めています。下請けもやりません。取引時にどちらかの立場が上といった意識は持ちません。商取引は条件が一致したから成立するもので、双方の立場は対等です。それはどんな会社でも同じです。自分も相手もどちらも上にも下にもなりません。 

Rule2:人に頼る

自分が持っていないスキルや、得意でないものは人に頼ります。どれだけ頼れるかが肝心です。

私が得意なことは、解決すればお金を払ってもらえる課題を見つけて、その解決策を上手に仕組み化することです。それをエンジニアリングで作りたい。ですが私にはエンジニアリング能力がありません。

 

だから私以外の得意な人がエンジニアリングをやればいいと思っています。私は得意でないからやりません。不得意なエンジニアリングの習得に時間を使うより、できる人に「こういう仕組み作ってね」「作ったものにお金を払ってくれる人を見つけるからね」と。それで「じゃあ作ります」と言ってくれる人を見つけて、その人に頼む。そういう関係性、そういう役割分担の方がいいと思っています。

 

一人工(いちにんく。一人の専門職が一日で完了できる作業量のこと)はどれだけがんばっても一人工分の成果しか出せません。めちゃくちゃ優秀な人だったとしてもせいぜい二人工でしょう。ひょっとしたら三人工くらいまで実現可能かもしれませんが、そこまでです。

だったら一人工の人 ✕ 10人と関われば、十人工です。その間に、私は自分しかできないことをやったり次のビジネスを考えたりできます。

Rule3:ストレス要素になりそうなものは手放す

ストレス要素になりそうなものは、手放します。たとえ大きく利益が出そうな話であっても断ります。優先したいのは、時間・ノーストレス・健康です。自由な時間があり、ストレスなく健康であることが何より重要。これらを犠牲にして売上を上げるのは不健全で、何かしら後で無理がたたってきます。お金や売上に優先順位が偏りすぎることは避けなければなりません。

 

率直に言うと、お金で解決できることはあります。そうでないものは、どれだけお金があっても、どうにもなりません。時間・ノーストレス・健康が揃った状態はお金で買えません。ビジネス面では「主導権が自分にある」「自由に自分で意思決定できる」がお金で買えない大事なことです。優先順位はそこにあります。

 

人に対しても、自分がストレス源にならないよう心がけています。関わってくれるすべての人に対してストレスを与えたくないですね。

Rule4:不便、不満、不都合。世の中の「不」を見つける

ユーザーが抱える課題である「不」を見つけて、解決することが私の目的です。「不」、すなわちユーザーがお金を払ってでも解決したい課題や苦痛。それを見つけて言語化し、解決する方法を日本語で組み立てれば、要件定義が完了します。その先はエンジニアリングの世界です。

 

しかし「不」を見つけることが、本当に大変です。往々にして課題と思っていたことが課題ではなかったり、いざ商品を作って売り出しても、まったく売れなかったり。それは本当に相手がお金を払ってでも解決したい課題なのか?そこを見極めるのが大事ですが、一発必中とはいきません。

Rule5:信頼できるエンジニアを見極める

私が思う信頼できるエンジニアは、レスポンスが早く確実に返事を返してくれる人です。また自分に厳しく他人にも厳しいです。スキルがある方は、人格的にも優れている方が多い気もします。

 

とはいえ初回は、こちらも見極めるほどの経験値がないので成果物で判断していました。たとえば、納期までに言ったとおりのものができあがるかどうか、成果物が上がってくる過程でのコミュニケーションはどうだったかなどを見ます。人間同士なので、理屈を超えた合う・合わないといった相性的なものも大事です。

 

信頼できるエンジニアと巡り合うために必要なのは、自分にとっての当たりを引くまでガチャを引き続けることではないかと思います。でも私はそんな側面も楽しみで、毎回新しい人とやりとりすることを心待ちにしています。「次はどんな子かな?」とワクワクするのです。

 

一旦できたつながりが長く続くこともあります。「この人は信頼できる」と思ったら、対価のネゴシエーションもしません。その方が請求する言い値で支払います。なぜなら「ボッてる」か「ボッてない」かは、わかるからです。この人は信用できる、という人を見つけたら値段のことはいっさい言いません。

Rule6:Webのみでサービスを完結させない

Webのみで完結するサービスは、すぐに模倣される心配があります。資本力のある大手がその気になれば、すぐに真似できてしまうものです。真似されて先発の自分が廃業といった事態に陥らないよう、参入障壁になるのが実機ハードの存在です。

Webにハードを組み合わせたシステムは模倣のハードルが一段あがるので、真似されにくくなります。だから弊社のシステムはWeb ✕ 実機が鉄則です。もう一つ、消耗戦にならないよう、なるべくニッチな業界にいるようにしています。私たちのような小規模の法人が長くビジネスを続けるには必要なことです。

Rule7:楽しい仕事しか依頼しない

エンジニアも経営者も、最終的な判断基準はお金じゃないと思っています。もちろんお金は大事ですが、もっと大事なことは、いかにストレスフリーで気持ちよく仕事ができるかです。

 

だから、チームメンバーには、何より楽しいと思える仕事を与えないといけないと思っています。自分自身も楽しく感じる事業しかやりません。自由と楽しさが大事なので、下請けもやらないと決めています。

 

手伝ってくれているエンジニアたちは、機械ではなく、感情のある人間です。だから彼らに、いかに「やりがいのある仕事」を与えられるか、いかに「価値を提供していると実感できる仕事」を割り振れるか。いかに「あなたのやっていることはこんなにも人々に受け入れられていますよ」と伝えられるか。彼らに気持ちよく働いてもらうために不可欠なことです。

 

弊社をサポートするエンジニアには、他に本業があり副業でやっている人もいます。そういった人に楽しく仕事してもらうには、お金だけではない価値をこちらから提供しなくてはいけません。「とにかく稼ぎたい」ではなく「何か面白いことをしたい」でつながっているわけですから。面白そうなサービスやってる! 僕も関わりたい、と思ってくれる人と一緒にやっていきたいですね。

(取材・文:ちゃんまり)

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