マネジメント、採用、育成、意思決定……エンジニアリング組織を率いるCTOやVPoEの方々は、日頃から大小さまざまな課題に向き合っています。このコーナーでは、エンジニアリング組織のお悩みを読者の皆さまから募集。UUUM株式会社の元CTOで、現在Repro株式会社の執行役員CTOを務める尾藤正人さんがアドバイスします。

CTOを目指すエンジニアは20~30代をどう過ごすべきか

本連載も10回目となりました。今回はひと区切りとして、「将来CTOやVPoEといったエンジニア組織を率いるポジションを目指したい若手エンジニアは、どういうことを心がけて仕事をすればよいか」について尾藤さんにお聞きしました。

尾藤さんからの回答

「円滑な人間関係を築くこと」を軽視しない

「アドバイスを」と言われると難しいのですが、これまでの自分の経験をもとに、いくつかお話をさせていただこうと思います。

まずエンジニア組織といっても、管理職という立場になると、どうしても人(チームメンバーやリーダーはもちろん、経営陣含めて)とどうコミュニケーションを取るかが一番重要になってきます。ただ、この場合のコミュニケーションとは、楽しく会話をするといった意味ではありません。人との関係づくりや接し方についての話です。

わたしが人との関わり方を考えるとき、『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』で述べられている、「HRTの原則」をとても大事にしています。「HRTの原則」とは、簡単に言うと、それぞれ謙虚(Humility)・尊敬(Respect)・信頼(Trust)の頭文字を取ったもので、この3つのいずれかでも欠けていると円滑な人間関係は築けないという考え方です。そのためこの「HRTの原則」に則ったコミュニケーションを心がけています。

そしてもうひとつ大切にしているのが、自分の考えが必ず正しいと思い込まないことです。何が正論かは立場や置かれている状況によって変わってきます。絶対的な正しさは世の中に存在しません。自分の正しさをかたくなに主張する人は、ハレーションを起こすなど周りにネガティブな影響を与える傾向にあるため、管理職や経営者になるのは難しいと思います。

エンジニア組織のトップとしての役割

各社のCTOやそれに準ずるポジションの方が担っている役割はさまざまで一概には言えないものの、エンジニア組織の管理職には違いありません。

エンジニアは専門スキルを持った集団ですので、自身のスキルで仕事をして結果を出すことを求められます。そのため以前お話ししたように(第7回記事参照)CTOは、旧来の日本的なリーダーシップではなくて、いわゆるサーバントリーダーシップといわれる現場のメンバーの成果を最大化させることを第一に考える必要があります。

また、物事を進めていくにあたって、前回お伝えした「戦略を立てる」というのも重要ではあるのですが(第9回記事参照)、さらにそれをみんなに納得感を持って実行してもらわなければいけません。そのため人を動かす説得力のある話し方や、資料作りができるかも問われます。

ときには厳しい意思決定も求められます。決断力はもちろん、決めたことに対してひるまずに突き進む推進力も必要です。場合によっては、周囲から文句を言われたり嫌われたりすることもあるでしょう。それでもやらなければいけないのであれば、しっかりとやりきる。やっぱり責任のあるポジションですし、大変な役割ではありますね。

20代で気づいたリーダーシップの本質

今のわたしは、もし分類するとすれば「優しいリーダー」にあてはまるかもしれませんが、実は若いころは今のような振る舞いはできておらず、失敗も経験しています。

振り返ってみると、20代のわたしはすぐに怒るなど感情的になることもあり、自分の周りから人は離れていき、やりたかったことも実現できず、よい結果が出ませんでした。そういうこともあって「このやり方では駄目なんだな」と気づいて、考え方とやり方をガラッと変えました。これが20代後半くらいですね。自分自身ではちょっと遅かったなという感覚です。

おとなになると丸くなるなんてよく言いますが、実際は30代に入ると人ってなかなか変わるのが難しいんですね。たとえば、他人に攻撃的な言動を取り続ける人に「そういうやり方ではうまくいかないし、周りからのハレーションもあるし、結果あなたも損しますよ」と諭してもやっぱり繰り返してしまう人が多い。人間の性格って思った以上に変えられないので、遅くとも20代後半までに気づいて変わり始めないといけないと感じています。

だから「優しいリーダー」というのは意図的にやっている部分もあります。わたしも人間ですので時には苛立ちもしますが、今はもうそれがよくないことだと分かっているので言い方や振る舞いを調整しています。

そして優しいといっても、手を抜いている人や自分本位に場を乱す人は許容したくないため、そこに対しては厳しい態度を示します。ただし、「怒り方」というものはあると思います。理不尽に怒るのはよくないですし、特に感情的に怒鳴るなんて絶対にやりませんね。感情的なコミュニケーションをとると、相手は「この人は感情で話をする人だ」とインプットしてしまう。その後、こちらにどういう対応をするかというと「あの人を感情的に怒らせないためにはどうすればいいか」と考えるんです。そうなってしまうと、以後は相手から本音を聞くことができなくなります。

それって全然本質的な解決になっていないですよね。「心理的安全性」もこういったところから失われてしまうので、感情的に話をしないのは絶対です。

自分自身へのフィードバックが気づきにつながる

前述のような気づきをどうやって得るかですが、これは1on1についてお話しした際にも出てきた「経験学習」が非常に大切になってきます。

わたしも20代のころはまだ経験学習についての知識はなく、ずいぶんあとになってから知りましたが、自分がなにかをやって起こった結果に対して、自分自身にフィードバックをして修正をするということが成果を出す上では必要不可欠です。これをやらないと成果の出ないやり方や思考をずっと繰り返すことになります。リーダーというのは、改善を続けていく姿勢がないと務まりません。

あとは改善するための知識を得る方法ですが、わたしの場合は本で学んで行動するよりも、やったことをあとで振り返ってみると「この本に書いてあることと似ているから合っているんだな」と答え合わせをするケースが多いかもしれません。たとえば、さきほども挙げた『Team Geek ―Googleのギークたちはいかにしてチームを作るのか』、あとは『エンジニアのためのマネジメントキャリアパス』といった本を読んでみると、書いてあることにおおむね同意というか、実感としても分かるなという感じなんです。

もちろんWebメディアや個人の技術ブログなどから手に入れた知識をベースにしていることも多くあります。われわれがいる業界は情報の鮮度が大事なので、やっぱりインターネットにある情報を追いかけることが多いですね。そういったものを見て、考え方ややり方を知って、実際試してみての繰り返しです。正直なところ体系的に学んだことはないのですが、断片的な知識と自分の経験から得られたことのフィードバックの繰り返しで今にたどり着いていると思います。

一方で勉強をすることで得られる知識も大切です。現在CTOを務めているReproはマーケティングの会社ということもあって、最近は行動経済学について書かれた『予想通りに不合理』を読んでいるのですが、新たに学ばなければいけないことも多くあります。

ただ、意識的にというよりは、わたしの場合もともと好奇心が強いので「知りたい」「興味があるから調べてみよう」という自然の行動です。学生のころと違い、社会人は勉強を強制されることはほとんどありません。その中で勉強をした人だけが相対的に評価されたりするわけです。

わたしたちがやろうとしていることは大抵、世の中にもう存在しているものばかりです。勉強して身につくものや本から得られる情報もそうで、あとは実践するだけ……といってもその実践が難しいのは皆さんもご存知ですよね。それでも理論を理解するだけではなかなか人を動かすことはできませんので実践あるのみです。

自分の得意分野で活躍するということ

過去にはCTOという肩書きでもマネジメントはほぼやっておらず、テックリード的な役割をしていたこともあります。そこでは多少尖った発言や行動もしていたため、周りからの信頼があまり得られず反省点も多くありました。そのときに「人との関係をていねいに構築しよう」と思って、以降は心がけるようにしました。

もし理想のCTO像が100点だとすると、少し前までは70点くらいだったかなと思います。理由としては、組織づくりに関してはそれなりだったけれども、経営陣との関係があまり理想的ではありませんでした。

そのときの経験があったので、今は80点くらいですかね。まだジョインしたばかりで取り掛かり始めではありますが、理想に一歩近づけたとは感じています。

もちろん、ある程度CTOとして経験を積んできたとはいっても、すべての領域のカバーができているわけではありません。わたしの今までの話は、すべてスタートアップでの経験ですから、たとえばいまさら大企業へ行って調整役や社内政治に躍進してくれと言われてもきっとうまくはいかないでしょう。ただ、今のところ大企業というフィールドでやっていきたい気持ちもないので、そこは問題とは考えていません。自分の経験が生きる領域でパフォーマンスを発揮できればいいと思っています。

チャレンジしてみないことには何も始まらない

立場的にはキャリアについて人に聞く側なので、こんなことを言うと怒られてしまうかもしれませんが、実のところ自分自身は将来のキャリアについて考え抜いて今にたどり着いたかと言われるとそうではなく、なるようになった結果とも言えます。

わたしの行動原理は、「自分が興味があって、楽しいことをやりたい」「できればチャレンジングなことをしたい」なんです。興味があった分野がたまたま仕事に直結したのは運がよかったですし、生存バイアス的なところはあるかもしれません。

周りを見てみても今はまだ、そういった過程を経て気づいたらCTOというポジションにいたという方が多いように思います。ただ、今後は需要の高さから見ても偶然たどり着いたというよりは意図して目指すというケースも増えてくると思います。

それでも若い皆さんにアドバイスをするとしたら「チャレンジをして欲しい」に尽きます。とにかく挑戦しないことにはなにも始まりません。口だけでやらない人は思っているよりずっと多いんです。たとえば、起業をしたいとずっと言ってる人や、転職して年収を上げるぞと言っている人……それらは実際に行動しないと絶対に結果は出ません。

以前お話しした内容とも重なりますが、エンジニアは専門職で、今の市場の状況を見てみても転職難易度もそこまで高くなく、行動に伴うリスクが比較的少ない仕事です。「年収が下がったら嫌だなぁ」という気持ちも分かりますが、もしそれ以上に得られるものがあるなら必ずやったほうがいいと思います。

とにかくうまくいってもいかなくても手を動かす、逃げずにチャレンジしてみる。これを忘れずにいてほしいですね。

エンジニアの採用ならpaiza転職

尾藤さんに聞きたいお悩みを募集しています!

「TTJお悩み相談室」では、エンジニアリング組織のさまざまなお悩みについて、尾藤正人さんに相談したい内容を募集中です。

こちらのフォームより必要事項をご記入ください。

皆さまからのご質問をお待ちしております!


Share