「経済情報の力で、誰もがビジネスを楽しめる世界をつくる」をパーパス(企業の存在意義)に掲げるユーザベース。そのパーパスを実現するためには、色とりどりの個性と異能(才能)が集まる「多様なチーム」が必要であり、その多様なチームが互いを尊重し合いながら共存するためには、「多様な働き方」が必要となる。
一緒に働く仲間が最大のパフォーマンスを上げられる環境を提供し、一人ひとりの成長をサポートすることが何より重要と考えているユーザベース経営陣の仕事の流儀とは。
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株式会社ユーザベース 代表取締役 Co-CEO/CTO。
大学卒業後、アビームコンサルティング株式会社に入社。プロジェクト責任者として全社システム戦略の立案、金融機関の大規模データベースの設計、構築等に従事。
2008年に新野良介、梅田優祐とともにユーザベースを創業。2022年から現職。
株式会社アルファドライブ 執行役員CTO / 株式会社NewsPicks for Business 取締役
2009年に株式会社ワークスアプリケーションズに入社、ERPパッケージソフトウェアの開発とプロダクトマネジメントに従事。2015年よりシンガポール及びインドにてR&D組織の強化、海外企業向け機能開発をリード。その後、LINE株式会社での新銀行設立プロジェクトを経て2020年5月より株式会社アルファドライブ及び株式会社ニューズピックスに入社、製品開発部門としてIncubation SuiteやNewsPicks Enterprise等、法人向けSaaSの開発に携わる。
2021年1月より株式会社アルファドライブ 執行役員CTO、2023年4月より株式会社NewsPicks for Business 取締役に就任。
目次
育成ではなく成長支援

稲垣氏:われわれが提唱する「The 7 Value」。最初に掲げているバリューが「Be free & own it 自由主義で行こう」です。人は自由でなければ、生きていてもつまらないのではないでしょうか。
わたし自身も、自由になりたくて起業した経緯があります。自分を規律するのであればまだしも、他の人を会社のルールに縛り付けるのは意味のないことです。ユーザベースの評価制度も、可能な限り自由であることをベースにしています。
弊社で推進している「誰もがエンジニアリングを楽しむ世界へ」をコンセプトとしたPlay Engineeringプロジェクトについても強制することは避けています。そして「育成」という言葉も好きではないため、ユーザベースでは「成長支援」というワードを使用しています。
人がどのように成長したいのかは、本人にしか決めることができません。それを踏まえて、「会社として仲間の成長に、どのような形で支援ができるのか」ということを前提にすべてのプログラムを組んでいます。
もちろん企業として、業務の優先度を上げる事柄は生じます。しかしながら、メンバーに強制して取り組ませるのか、報酬やサポートも含めて背中を押すスタイルで取り組んでもらうのかといえば、ユーザベースは後者です。この点は、創業から一貫して一度もブレることはありません。
「自由度」や「個の尊重」をベースにする場合、重要な要素が「ゴールセッティング」です。ゴールを共有することで、メンバーの意思と会社の方向性が一致します。ていねいに会話を重ねてゴールが一致した以上、それは約束と一緒です。ゴールイメージを一致させることで評価される成果物も明確になります。逆にゴールと関係のないアウトプットは評価対象にはなりません。
ユーザベースはチャレンジを推奨している会社ですから、もちろんミスも発生します。その場合、約束したゴールに到達するためにはどうするべきかを明確にします。感情的に「なぜ、このようなことをしたんだ!」と叱責する文化は弊社には存在していません。故意や怠慢の結果である場合は別として、本人が努力して懸命に取り組んだ結果、ゴールに到達できなかったとしてもまず行動を称え、その後に改善点を一緒に探ります。
それができなければ「失敗することが悪」だとみなされかねません。居心地のよいコンフォートゾーンからに出ようとしない、すなわち挑戦する意欲が失われるのです。
「The 7 Value」の一つに「迷ったら挑戦する道を選ぶ」という言葉があります。迷ったら挑戦しろと言っているのにもかかわらず、失敗を責めるのは矛盾しています。
ゴールが明確だからこそ、成果に対する報酬は正当に支払います。わたしも例外ではありませんから、目標に到達しなかった場合はわたし自身の給与ももちろん下がります。この評価ロジックは経営陣やメンバーと常に共有し、適宜よりよい形に改善しています。
挑戦を応援し、成功失敗にかかわらずチャレンジする文化がユーザベースの常識である状態を理想としています。この一貫性が失われると、大企業病になってしまう危険性を常々感じています。
現在、弊社には1,200名ほどが在籍しています。この中には国外のメンバーや業務委託メンバーも含んでいます。
わたしは「正社員」という言葉も好きではありません。実際、ユーザベースのメンバーは雇用形態が多様化しています。とくにエンジニアは、創業当時からフリーランスとして協力してくれているメンバーも多数在籍しています。正規雇用・非正規雇用と区分する必要性を感じないのです。そのため可能な限り同じように仕事をしたいと考えています。もしユーザベースに大きな利益が出たならば、無理やりでも皆にボーナスを出したいと思っています(笑)。
ただし、1,200名規模の企業になっていることは自覚する必要があります。1,200名が在籍していても、チャレンジする社風が失われない土台を構築することが重要です。
「昔の小さい会社だったほうがよかったよね」と言われるようになってしまったら、自分たちの夢は一生実現できません。
会社の拡大と挑戦の両立を実現させることが、現在の大きな課題だと思っています。規模が大きくなってきたからこそできるよさを片手で掴みながら、もう片手ではより高い挑戦をし続けるスピリットを持ち続ける、この両立ができなければ、「昔はよかった」ということになります。
この考えは採用においても同じです。どんなにすごいスキルを保有していても、ユーザベースのバリューと合わない人は窮屈感を覚えるでしょうし、わたしたちも働きづらい雰囲気になってしまいます。「パーパス」と「バリュー」だけが、弊社で一緒に働くための唯一のコンセンサスです。それ以外は小さな違いで、人それぞれ、いろいろなカタチがあっても受け入れることができます。
「できる」より「やりたい」
赤澤氏:会社や組織、プロダクトが向かいたい方向に、メンバー自身が「自分も行きたい!」と思ってもらえるようにすることもリーダーの仕事です。
会社や組織には「何をやっても面白い仕事をしているように映る人」と「何をやってもつまらなそうに見えてしまう人」のパターンがあると私は思っています。わかりやすく花形の仕事かどうか、ではなくその人がやる仕事が花形になる、というイメージです。
たとえば、QA・品質保証は私が大好きな分野です。その仕事を単にテスターとして捉えたとしたら、つまらなそうに見えるでしょう。しかし、プロダクトの品質を自分が戦略を担いながら品質を再現性持って保証していくエンジニアリングと適切に理解すれば、花形の仕事、周りの人もやりたい!と思ってもらえる領域になりえます。。品質保証はエースのエンジニアのする仕事だと思っています。
自由度の高さは維持しつつ、メンバーが同じ方向を向きながら走っていく環境になっていることもユーザベースらしさだと思いますね。
わたしはBtoBのサービスを担当している部門のCTOですが、就職希望者から面接時に「BtoBの経験がありません」と言われることがあります。「経験がないのはまったく気にしなくて大丈夫ですよ!次の領域としてやってみたいと思っていただけることが大事です!」と返答すると「ぜひやってみたいです!」と返答いただけたりします。そこで「経験より意思を重要視したい!やりたい!」と話をします。
そしてなにより、BtoBの経験がないからといって応募者がそれまで何もしていなかったわけでは全くありません。例えば、BtoC、ゲームやメディアなどの経験をお持ちだったりします。BtoBの経験は私自身も豊富にもっていますし、大事なのは私が持っていない経験や考えをもっている方がチームに参画してくれて、お互いが持ち得ない個性が重なって強い組織を作ることがまさにユーザベースの掲げる「異能は才能」の形だと思います。
稲垣氏:現時点のスキルは、それまでに培われたものなのでもちろん軽視することはありません。既存のスキルとユーザベースの評価制度に照らし合わせ、入社時の報酬額やポジションは決まります。
ここで一点伝えたいのは、その人の持つ”スキル”をチームに取り入れたいという理由で採用するわけではありません。重要視しているのは、その人物の期待値やポテンシャル、さらには「未来にはこういう部分を一緒にやりたいよ」という展望です。それを期待して採用はおこなうものです。スキル・経験と期待は分けて考えています。
赤澤氏:多くの場合、「あなたのキャリアが100%活きるポジションを用意します!」という言葉を無意識に伝えてしまうケースがあるのではないでしょうか。わたしはこの言葉は非常に不誠実だと思います。
「あなたが経験してきたことを、弊社でもう一度再現してください」というのは失礼な話です。新しく仲間に加わってくれたメンバーの経験がわれわれの業務内で融合され、反面そのメンバーが未経験の業務でわたしたちが一緒にサポートできるものが存在する。相互にギブしあえてこそ円満な採用だと思います。
わたしは変に心配性なところがあって。一緒に働きたいと思った人にオファーを受託していただいた際、一緒にやりたい仕事がたくさんあると希望を膨らませると同時に、いつかその人がいなくなることまで考えて寂しい気持ちになってしまいます。この人といつまで一緒に働けるのかと考えてしまうのです。「考えすぎだ」と言われますが、わたしの本心です。
そのメンバーがずっとチームにいてくれることを望むとともに、旅立つ際には「ユーザベースでのキャリアは凄くよかった!」と思ってもらうことが、組織としての誠実さだと思います。
入社前と入社後のイメージギャップ
赤澤氏:ユーザベースの場合、「カジュアル面談の最初で感じた印象と入社後のギャップがないことがいいですね」と入社後に言ってもらえることが多く、嬉しい限りです。とくに新卒入社の方や若手ののメンバーにその感想を伝えられることが多いです。
例でいうと、「採用説明会で稲垣さんや他のCTOと話しているときと、チームメンバーと話しているときと、学生の自分に話しているときとまったく変わりませんね。本当に一緒なんですね」と言われたこともあります。可能な限り社会的なイメージと実態が乖離しないよう、継続的に情報を発信している結果だと感じています。
稲垣氏:ユーザベースは基本的に採用も現場主導で、権限を委譲しています。これが何よりも大事だと思っています。
弊社は「Quartz事業」という大きなチャレンジをして、残念ながら失敗をしてしまいました。これは、ユーザベースのみならず日本のメディア業界にとっても難しい挑戦ではありました。
現在のユーザベースについても、常にもがき続けている状態ではありますが、そのような状況の中でも、しっかりと売り上げは伸び続けています。株価が苦しくなった時期もありましたが、このたびTOBをおこない非上場化し、すべてを仕切り直して事業を再構築したことで再上場も目指しています。
このように弊社が順風満帆に成長し続けた企業かといえば、そうではありません。
先日、内定者と話す機会がありました。その内定者は「企業に属していても新しい挑戦をして、自分がユーザベースの価値を作りたい」と話してくれてはいるものの、実際に気にしていたのは「ユーザベースの安定性」や、「企業としての成長の伸び代がどこまで見えているのか」という点でした。
いろいろと話した後、わたしはふと「勝ち馬に乗りたいの?」と問いかけました。本来であればパーパスやバリューに惹かれて、さまざまなチャレンジをすることで、一緒にユーザベースを拡げていきたいということであったはずなのに、聞こえてくる言葉からは「安定性」をとても重視しているように思えてきたのです。
その問いかけで、彼はハッとしたようでした。
ユーザベースは今まで日本にできなかった大きな挑戦をして、ひとつのロールモデルになりたいと考えているので、当然のことながらリスクも含んでいます。ひたすらスタートアップ的なことだけをやりたいのであれば、もっと安定した場所や、勝ち馬のような企業にいくという選択肢もあるかもしれません。
スタートアップである感覚を維持しつつ、規模の大きな仕事を行なう環境。この点を理解していただかないと、どちらに進んでも間違うことになりかねません。だからこそ「しっかり考えて決めてほしい」と伝えました。
その内定者は一週間程悩んだ結果、ありがたいことに入社を決めてくれました。
自分が無意識に安定性を求めていたことに気付き、その気持ちを理解した上で、チャレンジがしたくてユーザベースに入社を決めたのですから、強い決意になっていると思います。この気付きのないまま入社していたら、ギャップを抱え続けていたかもしれません。
もちろん、安定した企業に行く選択肢もある中で、今回最終的に自分で入社を決めてくれたことはとても嬉しく、将来、頼もしいメンバーになってくれると期待しています。