「役立つギーク」

SNSマーケティングツール「Beluga」シリーズで業界をリードするユニークビジョン株式会社(以下、ユニークビジョン)が、サイト冒頭に掲げるメッセージだ。

そのメッセージの通り、同社には幅広い領域で腕を磨いたエンジニアたちが集積し、プロフェッショナル集団を形成している。このように「役立つギーク」たちが惹かれる組織はどのようにかたちづくられたのだろうか。

その秘密を探るため、同社CTOを務める青柳康平氏に、同社が志向する開発姿勢やエンジニア組織のあり方を聞いた。

青柳康平氏
東京電機大学大学院数学専攻修了。フューチャーアーキテクトでコンサルタントとしてR&Dに従事。魔法のiらんど CTO、フューチャースコープCTOを歴任後、ユニークビジョンの創業に参画。取締役CTOとして、すべてのシステム開発に携わり、パフォーマンスと拡張性と安定性に格闘している。
「同じことを二度書かない」がモットー。趣味は散歩、美術館めぐり。

プロダクト成長期の品質とスピードを担保する組織づくり


企業規模、事業ステージによって、CTOの果たす役割は大きく変わる。たとえば創業メンバーのCTOとしてジョインした場合、その肩書こそあれども、その実、自分自身がエンジニアとして開発をリードしなければならない。しかし企業の成長とともに、エンジニアチームが生まれ、やがて部署・部門と組織が形成され、役割も経営層としてプロダクト戦略や組織マネジメントへと移行していく。

2008年創業のユニークビジョンも、当初から参画するエンジニアはCTOの青柳さんただ一人だった。

「創業当初の時期、もちろん人手が足りないのは大変でしたが、人が入り始めても困ることは起こります。最初は未経験や経験の浅いエンジニアに入ってもらっていたので、最初に困ったのがコードの品質ですね。そのときには全メンバーのコードレビューを私がやっていました。

それでもメンバーが数人のうちは問題がなかったのですが、だんだん人数が増えてきたときに、やはり自分一人のリソースでは無理が生じてきました。そこで、レビューできる人を増やし、優秀なメンバーをレビュアーにして、問題や進捗の共有がおこなえる体制をつくっていきました。そうやって、最初のチームらしいチームが築かれていきました」

こうして、ユニークビジョン最初期のチームは形成されていった。やがて全員がレビュアーとなり、学び合うカルチャーが形成されていった。組織、そしてプロダクトが成長していくにつれて、今度はプロジェクト進行でも課題が生まれていった。

「サービスが拡大していくにしたがって、複数のプロジェクトを同時に進行していくようになります。そうなってくると、プロジェクトごとの品質やスケジュールのブレが課題となります。これにはプロジェクト進行でのノウハウをためつつ、基本設計から詳細設計、開発、テスト、リリースまでのフェーズごとにチェックリストをつくりました。そして、コードレビューとは別にプロジェクトの品質レビューというプロセスを設けて確認していく仕組みをつくりました。このようにして、組織の拡大にあわせながら品質とスピードを担保する組織づくりをしていったイメージですね。

仕組み化の面では属人化を防ぐところはしっかりと防ぎ、数値の可視化も重視しています。当社では『開発生産性』と呼んでいますが、エンジニアがどれほどパフォーマンスを発揮できているのか、指標をつくって定量化し、グラフによって可視化しています」

「OPEN & FLAT」を醸成する横軸組織

(提供:ユニークビジョン)

ユニークビジョンが提供するSNSマーケティングツール「Beluga」シリーズは現在、TwitterやLINEをはじめとする主要SNSすべての運用からキャンペーン構築までをカバーしている。トレンドや仕様の変化が生じやすいSNSをフィールドにする以上、プロダクト開発はスピード感と信頼性が重視される。リスクとなるのは開発組織内での連携不足だ。同社ではどのような施策を講じているのだろうか。

「私たちの開発組織は基本的に各ツールのプロジェクトチームを軸として動いていますが、それとは別に『ワーキンググループ』という制度があります。これは社内の改善点や新しい技術の導入などをメンバー主導で提案し、横軸のチームを組成して研究・議論がおこなえる取り組みです。ワーキンググループはさきほどあがった品質やコードレビューのほか、セキュリティやDevOps、インフラなどがあり、組織横断でいいことを採用したり、問題点の洗い出しと改善をおこなうようにします」

重視するのは主体性。ワーキンググループはメンバー提案のもと発足し、それぞれの意思でプロジェクトチームに参画する。しかし、それぞれがメンバーの主体性に委ねられている施策は、活発化せずに有名無実化する懸念もある。

「その点でいえば、ユニークビジョンでは3年ほどかけてOKRを導入、定着させてきました。業務上の活動でOKRが設定されていないものはほぼなく、ワーキンググループにもOKRがあります。さらに、そのOKRは実際に活動するメンバーが話し合って決定しているんです。そのため、一つひとつの活動で目的意識や成果を出す期間が明確であり、自分たちの意思によるものだからこそ、メンバーに主体性が生まれています。

また、ワーキンググループはそれぞれのプロジェクトや働き方の改善にも繋がり、より成果を上げやすい環境を自分たちでつくることになります。そういったメリットがあるからこそ、ワーキンググループが機能不全になったり、勉強会だけで終わったりしない、企業にとってもメンバーにとってもベネフィットをもたらす施策になっているのです」

目的や目標が明確だからこそ活発に機能する。実際、ワーキンググループはイシュー単位でチームを組成するため、課題解決に至った場合は解散もされる。そのためプロジェクトチーム内では役職関係なく同じ目線、ベクトルで議論ができる。これこそが同社が掲げるバリューの一つ「OPEN & FLAT」を醸成している。

ワーキンググループがもたらす「開発者体験」の向上


ワーキンググループでは、新たな技術に関する勉強会や技術選定などもおこなわれている。ここでワーキンググループが効力を発揮するのは、技術的負債を残さないための建設的な議論と、技術選定にあたっての合意形成にあるという。

「やはり、新しい技術を使うことはエンジニアとしてモチベーションが上がるものです。昔は比較的自由に取り入れていましたが、時間がたつと流行り廃りもあり、メンテナンスが非常に大変になってしまいました。いわゆる技術的負債が溜まった状態です。後から入ったエンジニアからしても、廃れた技術を覚えなくてはならず、開発者体験を悪くする原因ともなります。

そのような反省からも、ワーキンググループでは技術勉強会というカテゴリーを設けています。ここではエンジニアが興味を持っていて、会社にも取り入れたい技術を発表し合う場があり、メンバー全員で技術の検討、選定をおこないます。こうすることで、技術的負債が残りにくい技術を選びつつも、新しい技術へのチャレンジも両立できるようなプロセスにしています」

OKRに基づいた組織横断でメンバー主体の組織改善、「OPEN & FLAT」を体現するカルチャーの醸成など、ワーキンググループは開発者体験の向上にも寄与しているようだ。

「ユニークビジョンの場合、エンジニア組織は開発プロジェクトとワーキンググループという縦横の組織のあり方をしています。私はすべてのプロジェクトとワーキンググループを見ているのでわかりますが、当社のエンジニアはなにかよい情報や知見を横展開していこうという志向が非常に強いです。だからこそ両軸が機能してシナジーを発揮する環境になっているのです。

このような環境はエンジニア採用にも好影響を与えます。優秀なエンジニアほど高いパフォーマンスで仕事をしてよい成果を出すこと、そしてお互いに刺激を受けながら新たな知見を獲得できる環境を望みます。そのような点からも、当社の開発組織のカルチャーや環境をお話しすると非常に興味を持ってもらえます。実際に当社では非常に優秀なエンジニアが入社し活躍してくれていて、そのような姿がまた、優秀なエンジニアを呼ぶ。そのような好循環が生まれているのはうれしいことですね」

工夫を楽しめるエンジニアと働きたい

2008年の創業からCTOとしてユニークビジョンのプロダクトと開発組織をになってきた青柳さん。「Beluga」シリーズの成長とともに、今後開発組織の拡大も求められる。ここで、ユニークビジョンのエンジニアに求められるスキルセットを聞いた。

「やはり最も重要なことは『主体性』です。当社のエンジニアは作業者であってほしくないと考えています。なにかに取り組むときもしっかりと目的を理解したうえで、よりよい改善策を提案できるようなエンジニアであってほしいと考えています。

そして、もちろん技術力はあってほしいと思っていますが、新しい技術を積極的に取り入れることだけでなく、たとえばネットワークといった普遍的な技術を持っている方は活躍できると考えています。今ではネットワークの知見がなくともプログラミングができてしまいますが、当社のサービスの場合、トラブルになった際にネットワークの知識がなければ解決できない問題も出てきます。新旧の技術を持ち合わせつつ、工夫を楽しめるエンジニアと一緒に働きたいですね」

エンジニアの不足が叫ばれる現在、人材戦略は非常に重要になっている。一方で、AI技術の急速な発展に対する技術戦略の策定など、企業経営としてもCTOの重要性が増している。

最後に、現在のCTOにはどのような役割や能力が求められるのかを、青柳さんに聞いた。

「そうですね、私自身も現代のCTOへとアップデートしている途上なので、明確なことはいえません。ただ、私が今ユニークビジョンのCTOとしてやっていきたいことが8つあります。箇条書きにすると以下の通りです。

  • エンジニアの成長環境の整備をする
  • 開発生産性を向上させる、チーム力を向上させる
  • 採用の質と数を増やす
  • 自分自身の人間性を向上させる
  • 会社の知名度を向上させる
  • 知の探索をする
  • CTOの友だちをつくる
  • バグを撲滅する

この8つは、自分自身で改善していきたいと思っていることで、他の方の状況にあてはまるものであるかはわかりません。ただ、私としてはCTOとして、このような能力を伸ばしていきたいと考えています」

(取材/文/撮影:川島大雅

― presented by paiza

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