「あなたの仕事における7つの流儀を教えてください」

本稿では、BASE株式会社のエンジニアリングマネージャーを務める植田隼人さんに仕事における7つの流儀について伺った。誰でも簡単にネットショップが作成できるサービス「BASE(ベイス)」や購入者向けショッピングサービス「Pay ID(ペイ アイディー)」を運営するBASE株式会社。植田さんは、自分の信条がBASEのステートメントである『We are All Owners』とつながる部分があると話す。

エンジニアとして、あらゆるキャリアを積んできた植田さんの7rulesからは「今の環境への向き合い方」についてのヒントが得られるだろう。それでは早速、植田さんの7rulesを見ていこう。

植田 隼人さん

最初の10年間はBtoB開発に専念し、その過程でBtoC分野への転向を決断。キャリアの中で、開発リーダー、プロジェクトマネージャー、スクラムマスターとしての経験を積み、現在はBASE株式会社のBASE Product エンジニアリングマネージャーを務める。

植田さんのProfessional 7rules

1.やってみないとわからない、とにかくやってみる

やってみないと、事実は分からない。プロダクトの仮説検証だけでなく、社内の問題解決にも通じる部分だと思います。アクションを起こしてみないと、成功するかどうか、わかりません。失敗を最小限に抑えようとする姿勢は大切ですが、予測には限界があります。

僕の信条は仮説を立てたら、とにかく行動することです。仮に成功しなかったとしても、それは「失敗だった」という結果も含めて価値ある経験だから。何も行動せずに考えるだけよりも、まずは手を動かしてみる方がはるかに有益だと思います。

2.何歳になってもチャレンジを忘れない

年齢に関係なく、挑戦の意欲を忘れたくなくて。僕はもういい歳になってしまったのですが、常に新しい目標に挑戦する気持ちを持ち続けています。新しい経験に不安を感じることもあるかもしれませんが、完全な自信を持っている人間は誰もいません。自信を持ってできる居心地の良い仕事だけに固執すると、成長の機会を失う可能性すらあると思っています。

もちろんエンジニアの仕事の中で、「過去に同じようなプロジェクトを経験した」からこそ安定的な成果を出せるパターンもあるはず。それはそれで、全然良いと思います。ただ、なるべく自分のやったことがないパターンに挑戦するマインドは持っていたいです。

3.何を学んできたかよりも今目の前で何をしているか

エンジニアは情報が常にアップデートされる職種のため、新しい技術や情報を常に学び続ける必要があります。僕自身も日々学び続けていますが、学びの内容よりも重要なのは、現在何に取り組んでいるか、どんな成果を出しているか。多くの本を読んだり、勉強会に参加したりしても、それが実践に活かされなければ意味がありません。仕事はインプットとアウトプットの連続だと思いますが、割合としてはアウトプットの方が多くなるように意識しています。

さらに言うなら、今自分がいる場所で信用を得るには、“今”目の前の課題にどう向き合っているかが大事だと思っていて。例えば前の職場でどんなに成果を残したとしても、その結果に付随する社内の人からの信頼は持ち運べないですよね。だから、今の職場で真摯に学びと向き合っていくかが重要だと思います。

4.フォロワーシップ

僕は、フォロワーシップを大切にしています。なぜかと考えると、話し手やリーダーシップの大変さを理解しているからだと思います。開発プロジェクトのリーダーや、会議の司会をする場面を経験してきました。そういう自分の経験もあって、聞き手のリアクションは「話し手も聞き手も心地よい関係」の鍵になると思っています。

BASEでは月に1度、全社員が参加する「All Hands」という定例で業績やリリーストピックを振り返ります。スライドの枚数で言うと、100ページぐらいあるボリューミーな定例です(笑)。その際、Slackで実況チャンネルを作成し、楽しみながら発表に対してリアクションを送る文化が根付いていまして。私も積極的に盛り上げ役を務めています。皆がフォロワーシップの精神を持って仕事に臨んでくれるよう願っています。

5.小さなヒットを重ね信頼貯金を貯め仕事を任せてもらう

僕自身、特別な才能を持つ人間ではありません。エンジニアとして特別な技術力も、世に知られるプロダクトもありません。

つまり、ホームランバッターではないんです。しかし、自分がBASEで管理職を務める理由は、仕事を一つひとつ丁寧に遂行してきた結果だと思っています。仕事上の約束を守る、任せられた仕事を最後までやり遂げる、真摯に人と接する、そういった小さなヒットの積み重ねで信頼貯金を貯めた結果、重要なロールを任せてもらえるんじゃないかと。

ホームランなんか打てなくても、コツコツと目の前の仕事を終わらせていけば道が開くと思っています。

6.最後は自分の考えを大事にする

現代は情報が簡単に手に入ります。Googleで検索すればほとんどの答えを得られますし、AIやChatGPTを活用すれば多くの情報を取得できる時代になりました。しかし、その精度についてはまだまだ懐疑的な部分もありますよね。

エンジニアの世界でも、コーディングをする上で、AIがアドバイスをしてくれる仕組みもあったりするんです。でもやはりそのまま使うのは良しとされていなくて、使うのであれば「なぜそのコードをAIがいいと思ったのか」を考える必要があるんです。または、AIのアウトプットを参考に自分で実際に書いてみるか。まだ開発の現場でも、完全なAI主導になる未来はすぐには来ないと思います。

本質的な課題や抽象的な問題に直面した際、GoogleやChatGPTが役立つかどうかはわかりません。これからの時代、これらのツールを上手に使いこなすのは重要ですが、それ以上に「どれだけ自分の考えを持っているのか」が求められます。自分の独自の視点や考え方が、解決策を見つける上で鍵となるのではないでしょうか。

7.明かりは誰にでもつけられる

「暗いと不平を言うよりも、自ら進んで明かりをつけましょう」という言葉です。僕はこれまで4つの異なる会社で働いてきましたが、どの環境でも完璧な状況ではありませんでした。ですがミスマッチはどんな環境でも常に存在するもの。それを自分の力で解決できれば、自己成長の機会にもなります。何かが改善されるのを待つのではなく、自分で変えてしまった方が早いですし、理想的な状態を実現できます。

よく誤解されるのは、「自分には権限がないからできない」という考え方です。会社の中で約9割の仕事は権限がなくても遂行できる仕事であり、権限が必要なのは約1割程度です。マネージャーの仕事と、一般のメンバーの仕事でも本当に異なる部分は「評価権限の有無」くらいではないでしょうか。

BASEでは、「We are All Owners」というステートメントが根本の価値観として存在しています。僕も、この価値観に大いに共感する部分がありますね。他人任せにするのではなく、オーナーの精神を持てるか否かで、自身の行動も変わります。だから、ついていない明かりを見つけたなら、「自分で明かりをつけよう」と思ってほしいです。

BASEのプロダクトや開発組織のマネジメント論については、CTOを務める川口将貴氏のインタビュー記事を参照いただきたい。

→マネジメントとエンジニアリングの意外な共通点|BASE株式会社・CTO川口将貴氏

「変革を起こす力」が身につくようになった原点

キャリアのターニングポイントとして、最初の職場を辞める際に経験した出来事があります。約10年間勤務した会社を去る決断をした際、社長から引きとめられた一方で、厳しく叱責されたんです。

その理由は、職場に対する要望を述べたからでした。社長からは「要望があるなら自分から変えるべきだ」と言われまして。当時の会社は比較的年齢層が高かったため、「もっと若い仲間と一緒に働きたい」という希望を伝えたら、「それなら自分から若い仲間を採用すればいい」と言われてしまい(笑)。当時の私には少し厳しい意見に感じましたが、後に振り返ってみると、自分から変革を起こす力を養う重要な教訓となりました。この経験が、今の私の考え方に影響を与えていると感じています。

先程の7ルールにも重なりますが、完璧な環境ってそもそもないんですよね。だから、ミスマッチを感じる度に転職をしていたら、キリがないかなと。反対に確かな課題があるのなら、足りない部分をきちんと定義して、理想の状態を目指していけます。その上で課題を周囲に伝えたり、賛同者を作っていく部分も大切だと思います。

植田さんの考える「優秀なエンジニア」とは?

私が考える優秀なエンジニアは、目的や要求に対して最も効率的かつ低コストで技術的な解決策を提案できる人です。この「優秀なエンジニア」になるには、2つの要素が重要だと思っています。

1つ目は、「相手の立場や背景、要望を理解する」。まず、目的や要求を徹底的に理解する能力が不可欠です。相手の立場や背景、解決しようとしている課題を把握する能力は、優れたエンジニアにとって基本的なスキルです。

2つ目は、「最短距離かつ低コストな提案を可能にできるほどの技術力と知識を身につける」ですね。理解を深めた上で、きちんとそれに対応できる手札を揃えておく必要があるでしょう。エンジニアは理解に基づいて、最も効率的で、コスト効果の高いアプローチの提案を求められます。時間や予算は限られているため、最短距離で問題を解決する方法を提示できるエンジニアは、非常に価値がある存在になれるはずです。

BASE株式会社
https://binc.jp/

(取材・文:すなくじら、撮影:渡会春加

presented by paiza

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