子育てをしながら働く女性にとって、仕事と育児の両立は大きな課題となっています。個人の事情や環境に合わせて柔軟な働き方を選択し、バランスを自律的に調整していく「戦略」が必要不可欠です。

大切なのは、ただ時間をコントロールするのではなく、ウェルビーイング(well-being)であること。心身ともに良好な働き方を獲得するために、どのように戦略を立て、戦術を練っていったのか。副業からフリーライターに転身した永見薫(ながみ かおる)さんの例を見ていきたいと思います。

永見薫さん
ショッピングセンター運営会社勤務時代に、マーケティングや広報販促などに携わったことをきっかけに、2014年より地域情報誌にてライター活動を開始。会社員の傍ら、インタビュー記事、コラム、店舗紹介、調査レポートを中心に執筆。現在「東洋経済オンライン」、「文春オンライン」「SUUMOジャーナル」、「さんたつby散歩の達人」、「ダ・ヴィンチWeb」などで執筆。2023年春フリーライターとなり、取材インタビュー記事を中心に活動中。実務経験に基づく徹底したマーケティングリサーチが強み。1児の母。

興味関心のあるテーマを軸に展開する

興味関心のあるテーマとの出会い

――永見さんは、「まちづくり」に関する記事を多く手掛けられていますが、まちづくりというテーマに出会ったきっかけなどはあるのでしょうか?

永見:
大学を卒業後に不動産関係の企業で働いていたので、そのころからまちづくりには興味がありました。具体的には、郊外の大型ショッピングセンターを開発・運営する仕事だったのですが、ショッピングセンター現地では、近隣住民の方と協力してイベントを企画することも多かったんです。人との関わりを通じて場所をつくり上げていく一体感がすごく楽しくて、気づいたらハマっていました。その後、プライベートでもまちづくりやコミュニティスペースづくりに関わり始めます。もう10年ほど地域の人たちと一緒に地域活動をしていますね。

――前職からのつながりがあったのですね。そこからどうやって、まちづくりがライターのお仕事につながっていったのでしょうか。

永見:
ずっと「まちづくりのなかで自分ができることはなんだろう」と考えていたのですが、あるときコミュニティスペースの企画で、まち歩きやインタビューのワークショップに参加することになったんです。そのときに初めてインタビュアーの経験をしたのですが、それがあまりにもおもしろくて、一気にとりこになりまして。自分でいろいろなインタビュー企画を考えるようになっていったんです。

以降、紙媒体のボランティアライターに誘われて、しばらくインタビュー記事を書いていました。その後ボランティアから有償ライターとしての誘いをいただき、副業ライターになったという流れです。

ポータブルスキルを生かす

――最初はインタビューをしたり記事を書いたりした経験もなかった状態から、まちづくりに関するインタビュー記事を企画されていったんですよね。やはりそこでも、前職でのご経験や身につけてこられたスキルが役立ったのでしょうか。

永見:
そうですね。当時、執筆をしていたしていたまち歩き情報誌では、店舗や町の方々と接する機会が多くて。もともと、ショッピングセンターでも出店する店舗の方との調整などで、頻繁にコミュニケーションをとっていたので、その経験はライターを始めてからも役立ちましたね。どんな経験でもポータブルスキルになっていて、一見全然関係なさそうな別の業務でも活かせるというのは、新鮮な気づきでした。

――当時から、ライターとして仕事をする上で心がけていたことなどはありますか?

永見:
相手の立場に立ったコミュニケーションと、相手のニーズを把握することですね。たとえば、メールでのやりとりは、直接顔が見えないぶん、対面の3倍くらいは気を配って書いています。

あとは、自己開示ですね。たとえば、企画を提出するときは、自分はどんな人間で、何に興味があって、何が得意で、あなたたちのメディアのここが好きですとか、自分の人物像や想いまで伝えられたらいいなと考えています。友人には「毎回そこまでやっていたら死んでしまう」と言われるんですけど(笑)。それくらい徹底して相手目線を意識していると、テキストベースのやりとりでも、信頼関係は構築できると思いますよ。

ウェルビーイングであるために

ライフスタイルに合わせて、転職を活用

――そこから、しばらく本業と副業ライターを継続されて、一度転職をされたんですよね。この転職にはどういった経緯があったのでしょうか。

永見:
ずっと本業の会社員と副業ライターを両立してきたのですが、メインで書いていた紙媒体が廃刊になってしまったんですよね。当時は、Webメディアのお仕事が増えてきていたタイミングで、Webに軸を移して「もっと書く仕事を増やしたいな」とも思っていたんです。

そこにプライベートでは出産が重なった時期でもありました。産休・育休を取得して2018年に時短勤務で復帰したのですが、出社が必須の仕事だったため、たとえ時短勤務だとしても、とてもじゃないけどライターまでは手が回らないんです。

どうしてもライターの仕事を継続したい。だから、通勤をなくして時間を捻出し、ライターの仕事に充てたく2020年にリモートワークができる仕事に転職しました。ちなみに、そのあとコロナ禍になって、本業はリモートに加えてフルフレックスが可能になりました。成果さえ出ていれば、勤務時間はどの時間帯でもいいし、子どもの都合で中抜けもできる。まさに1日の時間の中で、公私と本業副業が交錯する日々です。おかげでいつも一日の時間割を考えるようになりました。成果主義で自由度が高い社風が、わたしのライフスタイルに合っていましたね。

仕事と育児のバランスを考え、フリーライターとして独立

――前職での働き方もライフスタイルに合っていたのかなと思いますが、今回独立されたのは、やはり仕事と育児のバランスを考えられてのことだったのでしょうか?

永見:
そうですね、やはり一番の理由はそこです。前職はフルフレックスのリモート勤務で、どうしても続けられないというほどではなかったのですが、社歴が長くなるにつれて、業務の負荷も大きくなっていまして。一方、我が家の子育てで今一番手をかけなくてはいけない時期が到来しているという事情もありました。そこで熟考した結果、一度会社員を辞める選択をしました。

――もともと、いずれはフリーランスになるという目標があったのでしょうか?

永見:
目標としては、本業と副業をバランスよく両立し、生計を立てられる収入を得たいと考えていました。

10年前に副業でライターを始めたときに、フリーライターという選択肢を初めて知ります。出産をした5年前くらいからは、両立させるための計画を立てて、転職をしてバランスを整えました。自分のバランスが取れていると感じていたので、このタイミングで、会社員を辞めて完全にフリーになることは、あまり想定していなかったのですが(笑)。刻々と変わる育児、ライター、会社員としての業務内容の中で優先順位を考えたら、今は会社勤務は手放したほうがいいかなという結論に至った感じですね。

――お話を聞いていると、育児だけでなく、ライターをするための環境整備にかなり注力されているのかなと思いました。最後に、現状の環境は、何割くらい満足がいく状態になっていますか?

永見:
今は8割くらいですかね。やりたいことにかなり注力できる環境になったと思います。まだ独立したてで未知数な部分はありますが、すべて自分で決められるので、仕事もコントロールがしやすいですね。

何より、好きでやりたくてやっている仕事だから楽しいですし、バランスがとりやすくなって、QOL(Quality of life)も向上できたと思います。

(撮影:渡会春加/取材:さつきうみ/文:谷口智香

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